事例2:四日市市立小中学校施設整備事業(事業概要)
(三重県 四日市市 人口289,220人(平成16年))
「四日市市立小中学校施設整備事業」は、市立小中学校4校(南中学校・橋北中学校・港中学校・富田小学校)の校舎等の老朽化に伴う更新のため、民間事業者が企画・設計、改築・改修、解体・撤去業務を行い、4校の学校施設全体の維持管理業務を実施する事業です。平成15年2月に実施方針を公表、平成16年1月に優先交渉権者に大成建設グループを選定し、同年6月にSPCのよっかいちスクールサービス(株)と事業契約を締結しました。
PFI事業による公立小中学校施設の整備は、これまでにも千葉県市川市、東京都調布市等でも行われていますが、公立小中学校の複数校一括整備は全国でも初の試みであり、注目を集めています。
1.事業化までの検討経緯・庁内体制の流れ
- 阪神大震災をきっかけとして校舎等の補強工事の必要性が高まり、議会や市民からも、一刻も早く校舎を安全にしたいというニーズが広まった。
- 当初はPFI導入を前提とするものではなく、教育施設課が中心となって事前調査を行いながら慎重に事業手法を模索していった。
- 平成14年度
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- PFI導入可能性調査を特定非営利活動法人(NPO)日本PFI協会に随意契約(単独)により委託。(平成14年6月~平成15年3月)
- PFI導入可能性調査から実施方針策定まで内閣府の調査費補助を活用
- 教育総務課・教育施設課からPFI研究会等研修の機会に職員を派遣。
- PFI担当を教育施設課に配置(専任1名)
- 平成15年2月の実施方針説明会にて多くの事業者の参加が得られ、具体的にPFIで推進することに決定。
- 平成15年度
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- PFIアドバイザリー業務をパシフィックコンサルタンツ(株)に公募プロポーザル方式により選定、委託。(平成15年4月~平成16年6月)
- PFI担当を教育施設課に3名配置(専任1名、兼任2名)
事業化の過程における議会や住民の反応
PFIを推進している地方公共団体の多くは、市の中心政策として企画課や政策課が関わっていることと思いますが、本事業はPFI手法ありきではなく、事前調査をやりながらじっくりと事業手法を固めていったというのが実情です。
当初、議会からPFIに対する反対意見はありましたが、第二次ベビーブーム時代に建設された小中学校の多くが更新時期を迎えており、そのための財源確保が非常に難しい状態で、更新事業を進めるためにはPFIしかないという理由から最終的には議会の賛成を得ました。
一方、住民の皆さんからは、PFIに対して批判されたということは無く、建物を早く良いものにしてほしいという意見がほとんどでした。通常、小中学校の建設では、基本設計が完了した段階で地域住民にも検討に加わってもらいますが、PFIの場合、事前にどのような建物ができるのかイメージしにくく、住民の皆さんから意見を頂くことが難しかったのではないかと思います。このため事業者の決定後、住民の皆さんから様々な御意見が出てきましたが、これらを反映して提案を変更することは難しいという問題がありました。
- 本事業のしくみ(事業スキーム図)
2.本事業における課題とその解決策
複数の小中学校を一度に整備することで事業性が確保できました
小中学校の整備は比較的シンプルな事業であり、全国どこの学校も機能的に大きな違いは無く、民間事業者にとっては創意工夫が難しいと考えられます。また、PFI導入可能性調査の際、シミュレーションした結果、1校単独の事業では事業費10億円~15億円と小規模であり、民間事業者の関心が少ないのではないかという懸念もありました。
そこで、複数の施設をまとめて整備するには財源の問題がありましたが、PFIの導入により初期投資が抑えられれば複数校の一括整備が可能だという考えがありましたし、複数校整備により事業規模が確保できると考えました。
4校同時にスタートしたいという思いはありましたが、最終的には補助金の関係により2校ずつの段階整備となりました。また、4校の建設時期がずれていることによる物価変動リスクは民間に負ってもらうことにしました。
改修事業では既存建物の瑕疵が不明確なため、施設の瑕疵については市の責任分担としました
改修事業は、既存建物の瑕疵がどの程度あるか分からないため、民間から改修業務は事業範囲から外して欲しいという意見もありました。民間事業者としてはリスク分担の問題等で取組みにくかったと思います。元施工業者の瑕疵は最終的には市の責任としましたが、元の施設の過去の図面等を提供しており、想定される部分については民間がリスクを負担するべきとも思います。民間が誠意を持って対応しているのに発見できなかった瑕疵については、民間に負担してもらうのは難しいでしょう。
改修事業では、提案の水準を上げてもらうためにも、元の施設に関する情報をできるだけ提供すべきなので、既存校舎は大いに見学していただきました。また、希望の業者には有償で既存校舎の設計図書等を提供しました。
契約締結の議決時において、全てのグループの提案内容を見ないと審議できないという議論がありました
本契約の議案として上程した時ですが、3グループの提案内容を見ないと審議できないといった意見がありました。著作権は応募者に帰属しており、公表する場合は事業者の了解を得る必要があったため、提案書を議員に見せるかどうかの議論で丸1日かかりました。最終的には傍聴者全員に会場を出てもらうこととし、非公開という条件で議員に見せ審議することになりました。この件については、落選されたグループにも了解を得なければならず、事前に事業者の同意を求めておくことも必要ではなかったかと思います。
構成企業の指名停止はSPCに及ばないこととしました
本事業の仮契約締結後、本契約の締結前に、選定グループの代表企業が三重県から指名停止措置を受けました。議会でも議論になりましたが、今回契約を結ぶのはSPCであり、構成企業はあくまで出資者であるという説明をしました。既に仮契約の締結に至っており、指名停止だから失格ということにはしませんでした。契約案件が撤回されたこととなると事業の円滑な進捗に重大な支障をきたすことにもなり兼ねないため、構成企業の指名停止はSPCには及ばないということとしました。
3.事業開始後の状況(平成18年3月及び8月供用開始予定)
(1) PFI導入のメリット
事業費を大幅に削減することができました
長期一括発注の採用により、従来方式よりも大幅にコスト削減につながったと思います。3グループの提案は非常に水準が高かったのですが、価格の差が20億円近くあり非常に大きかったので、提案内容で価格を挽回することはありませんでした。
特定事業選定時には10%であったVFMが、結果として30%という数字になりました。
複数校まとめて整備することによる教育環境の向上や、計画的な保全体制により良好な状態を保持することが可能です
本事業を仮に従来方式で進めていた場合、4校の整備に10年近く必要だったと思われます。PFIでは、まとめて短期に実施することで、教育環境の向上を早期に図ることができました。この点は、数字には表れないVFMだと思います。
また、従来方式では毎年決められた予算の中で維持管理をする必要があるため、どうしても事後対応になってしまいますが、民間事業者は予防保全という発想であらかじめ計画的に維持管理していける体制をとることが可能となります。このことからも、事業期間終了時の20年後、施設を良好な状態で市に引き継がれるという期待があります。
(2) PFI導入のデメリット
現在のところPFIのデメリットは事業者選定に時間が掛かること程度ですが、今後検証が必要と考えています
PFIでは事業者選定までに時間が掛かること程度であり、本事業では実施方針の公表から事業契約の締結までに1年半程度掛かりました。この他には特に大きなデメリットはないと思いますが、施設整備中につきまだ供用開始していないので、今後検証していくことが必要だと考えています。
当然考慮すべき事項まで要求水準書に規定すべきかについて、検討が必要だと考えています
要求水準書にどの程度まで詳細に性能規定するべきなのかが疑問としてあります。学校建築において当然考慮すべき事項であっても、要求水準書に記載が無い場合はどのように扱うべきであるかという問題がありました。市としては特に建設に係る経費は変更したくないという考えがありますが、現在、金額について業者とやり取りを行っています。
また、PFI特有の課題として、選定グループ以外の落選した提案の中で部分的に優れた点があったとしても、その優れた点を採用して、実際の事業内容に反映していくことが困難であるということが挙げられます。
4.PFI事業を振り返って
(1) PFI事業の成功のポイント
客観的に審査する観点から、審査委員には市の職員を含めず、多方面の実務経験者から選定しました
審査委員の選定に当たっては、(a)多方面での専門分野からの選出、(b)PFIに精通した実務経験者、(c)学校建築に精通した実務経験者、(d)近隣地域からの選出、(e)女性の登用といった観点を重視し、6名の有識者に依頼しました。また、庁内委員が誘導していくことは良くないと考えて委員に市の職員は入れず、外部の委員に客観的に判断していただく方がいいと考えました。
審査委員会は全部で5回開催し、合議制ではなく、各委員の採点の合計で審査しました。施設設計の配点が60点中40点あり、全く建築の専門でない委員はどうすれば良いのかという議論もありましたが、結果として専門の委員と専門外の委員とで大きく評価が分かれるようなことはありませんでした。
民間事業者が参画しやすい環境をつくりました
本事業は事業者選定後に条件を整備していく観点から、事業者選定方式として公募型プロポーザル方式を採用するとともに、二段階選抜を実施しました。また、民間事業者の提案書作成の労力を軽減する観点や、数多くのグループの参画を喚起して提案の質を高める観点から、第二次募集により落選した企業に対して、報奨金として1グループにつき200万円を支払うこととしました。
報奨金については予算措置の問題もあり、第一次募集段階では報奨金を支払うことのみ明示して金額を明示することはできませんでした。具体の金額については、予算措置を踏まえて第二次募集要項に明示しました。
また、民間事業者が本事業に参画するための判断材料はできるだけ提供することが望ましいと考え、実施方針公表と同時に要求水準書案を公表したり、特定事業選定時の債務負担行為の設定額や財務指標を開示したりする等の工夫をしました。
地域経済活性化のねらいから、地元企業が参入しやすい仕組みをつくりました
PFI先行事例を見ると、資金調達能力が求められる点や、多くの業種をまとめる管理能力の点で、地元企業が代表企業となるのは難しいと思います。しかしながら、審査基準を工夫すること等により、構成員や協力企業としての事業への参画、地元に密着した提案等、地元企業が参入できないことは無いと分かりました。
実際には、審査基準に「地域社会への貢献」の項目を入れることによって地元企業が参入しやすい仕組みづくりを行い、すべての応募グループにおいて地元企業に参画していただきました。
(2) PFI導入を目指されている他団体へのアドバイス
事業推進にあたられた
教育施設課 近藤課長
PFIを政策的に推進していく体制づくりが必要です
PFI導入に際しては、庁内の体制づくりをしっかりやっておかないと苦労することになります。また、トップ自らがPFIを力説されているところはうまくいっているのではないでしょうか。学校の政策のみではなく、市全体の政策に影響を及ぼすため、基本的な市の政策にPFIが位置付けられており、検討を踏めるような体系があればスムーズにいくのではないかと思います。
事業担当
- 四日市市教育委員会事務局 教育施設課
- 〒510-8601 三重県四日市市諏訪町1-5
TEL:0593-54-8243
PFIによる四日市市立小中学校施設整備事業(四日市市)
キーワード:小中学校、複数校一括整備、改修事業を含む、多段階選抜、BTO方式、サービス購入型、事業期間23年