事例3:新総合福祉・ボランティア・NPO会館(仮称)等整備事業(事業概要)
(岡山県 人口 1,957,269人(平成16年))
「新総合福祉・ボランティア・NPO会館(仮称)等整備事業」は、県民の皆様との協働による地域福祉を推進するとともに、ボランティア・NPOの活動を一層促進し、パートナーシップ社会を構築していくための総合拠点施設として、旧国立岡山病院跡地に存する建物をリニューアルし、新たに「総合福祉・ボランティア・NPO会館」を整備、維持管理・運営を行う事業です。また、県民の記録資料を保存利用する拠点施設として「岡山県立記録資料館」も一体的に整備されます。本施設は、地上7階、地下1階で延床面積約19,000m2、平成16年8月に工事着手し、現在、平成17年9月の開館に向けて建設工事が進行中です。
1.事業化までの検討経緯・庁内体制の流れ
- 平成9年、岡山県行財政改革大綱の策定。県財政健全化へ向け、大規模事業を見直し、契約済事業以外の大規模建設事業を縮小、廃止、または凍結。
- 平成12年3月、おかやま21世紀戦略会議(県内有識者による)のテーマとしてPFIの推進が議論される。
- 平成12年4月、庁内に行政改革・PFI推進室(現行政改革推進室)を設置。
- 平成12年4月、国立病院跡地利用検討プロジェクトチームにて、病院建物の利用計画を議論。
- 平成12年12月、本事業の凍結を解除(下記)。
→施設の機能・内容を十分吟味し、費用対効果に留意しながら、事業計画の策定を推進し、事業化を図る。
- 平成13年5月、大規模施設建設事業評価要綱の改正。
→普通会計において県負担額が10億円以上となる、県が事業主体の大規模施設建設事業については、PFI手法等の最も効果的な事業手法について十分検討し、検討経緯を県民に公表する旨決定。
- 平成14年1月、耐震耐久診断調査の結果、建物全て再利用可能と判明。
- 平成14年4月、保健福祉課に本PFI事業専任4名(事務職3名、建築職1名)の整備推進班(事務局)を設置。(平成16年度から2名体制へ変更)
- 検討過程では、行政改革・PFI推進室が、整備推進班を支援。
- 同年5月、本会館整備に係る基本計画を公表。
- 同年6月、PFI導入に係るアドバイザーとして、(財)日本経済研究所のグループを選定。(外部委託)
- 平成14年9月、大規模事業調整会議(県庁幹部にて構成)において、本事業へのPFIの導入を決定。
2.本事業における特色や課題とその解決策
岡山県ではPFI事業に係る行政内の事務の流れを正式に定めています
岡山県では、大規模施設建設事業評価要綱(平成13年5月改正)において、事業の検討フローを策定し事業実施の可否判断を行っています。PFI事業を担当する事業部局は、関係各部署と適宜連携を取りながら事業を推進し、各段階で必要なアドバイス等の支援を行政改革推進室(旧行政改革・PFI推進室)から受ける体制となっています。概要を下記のフロー図に示します。
前施工業者の優位性を排除し公平な競争を行うため既存施設について事業者への情報開示に努めました
本事業は既存建物の改修工事(耐震補強)の比重が高かったため、もともと既存建物を建設した建設業者(前施工業者)と今回新たに本事業に入札しようとする民間事業者の間の情報格差を是正することが、事業者選定における公平性の確保の点で非常に重要視されました。したがって、(a)旧国立岡山病院建物に関する資料、(b)耐震診断・耐震設計に関する資料、(c)建物解体工事に関する資料の3点について、下表の通り、閲覧の機会を設け、また、あわせて施設公開を実施し、全ての民間事業者ができる限り同レベルの情報の下で本事業の入札に臨むことが可能となるように配慮しました。
資料の閲覧 | 実施方針の公表時 | 平成14年10月18日(金)~11月1日(金)まで(ただし、土日及び祝日を除く。) 閲覧時間:午前9時から正午まで及び午後1時から午後5時まで |
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入札公告時 | 平成15年1月7日(火)~1月17日(金)まで(ただし、土日及び祝日を除く。) 平成15年2月12日(水)~3月10日(月)まで(ただし、土日及び祝日を除く。) 閲覧時間:午前9時から正午まで及び午後1時から午後5時まで |
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施設の公開 | 実施方針の公表時 | 平成14年10月28日(月)午後1時から午後3時まで 平成14年10月29日(火)午前9時から午後3時まで 平成14年10月30日(水)午前9時から午後3時まで |
入札公告時 | 第1回:平成15年1月17日(金) 第2回:平成15年2月14日(金) 第3回:平成15年3月10日(月) 各公開日とも午後1時から午後3時まで |
- 事業スキーム図
代表企業 | ダイヤモンドリース(株) |
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設計・建設 | (株)竹中工務店 |
維持管理・運営 | 太平ビルサービス(株) |
ファイナンス | ダイヤモンドリース(株) |
3.事業開始後の状況
(1) 設計・建設モニタリングの方法
現在、設計・建設段階における民間事業者の業務状況監視(設計・建設モニタリング)を県により、行っています。モニタリングの体制については、県職員(建築職1名)と設計事務所(事業者選定過程での公共側テクニカルアドバイザーと同じ会社)への外部委託で対応しています。
本事業は既存施設の改修工事であるため、既存の施設図面と実際の現場状況の差異等について調整を要することが多々ありますが、基本的に民間事業者には誠意ある対応をしていただいています。このような、建設段階で生じる想定外の不都合への対応については、従来型の手法より設計施工一括発注であるPFI事業の方が現場での対応の自由度は大きいと感じます。ただし、従来型の仕様発注の場合と比べ、設計・建設段階で協議・決定が必要な事項が多く、一事業としての行政の作業量は増加したと感じています。
(2) PFI導入のメリット
民間事業者の創意工夫・ノウハウにより、優れた施設整備を実現できました
PFIの特徴の一つである性能発注方式によって、民間事業者から施設整備に関して様々な創意工夫の提案を受けることができました。例えば、落札事業者からは、耐震補強工法として建物外部から耐震補強を施す独自工法が提案されました。これにより、建物内部の耐震補強(補強壁等)が不要となり、施設内部の平面計画において大幅に自由度を増すことができました。また、当工法の採用により、施設の延床面積が増加するメリットもありました。従来型の公共事業では実現困難な施設が、PFI導入により整備できたと感じています。
大幅な事業費の削減(VFM)を達成することができました
本事業は、4つの民間事業者グループからの入札がありました。民間事業者が各々の創意工夫を盛り込んだ提案ができるような高い自由度をもつ要求水準書を作成した結果、耐震補強工法等の優れた提案があり、最終的に、県が直接事業を実施する場合の財政負担額に比べて、当初の想定を大きく上回る約37%(約23.5億円)ものVFMが達成される結果となりました。
VFMという指標の導入により、行政内部のコスト意識が向上しました
PFI事業の導入を検討する過程では、VFMという指標を導入し、より低廉で優れた公共事業を実施するために厳密な定量的評価を実施することになります。こうした過程を経ることにより、結果として、行政内部におけるコスト意識の向上がもたらされたと考えます。
(3) PFI導入のデメリット
PFI導入によるデメリットについては、現在まで特に感じていませんが、本事業へPFIを導入したことに対しての評価は、施設が実際に開館し運営が開始され、ある程度時間が経った後になされるべきであると考えます。
ただし、本事業を検討していた当時は、本事業に類似した施設耐震改修を行う先進PFI事例が少なく、他事例を参考とすることも困難であり、その点、苦労が多かったと思います。既存施設の改修事業の先行事例としては東京都の区部ユース・プラザ、多摩地域ユース・プラザ等がありましたが、事業内容が若干異なったため、そのまま参考にはできませんでした。
4.PFI事業を振り返って
PFI導入を目指されている他団体へのアドバイス
既存施設の耐震改修によるPFI事業は十分実施可能です
実際に本事業を実施した感想として、既存施設の耐震補強・リニューアルを主とする事業をPFI方式により実施することは十分可能であると考えます。その際に、行政として注意が必要な点は、既存施設の状況を事前に行政がしっかりと把握することであると考えます。例えば、施設の劣化診断や周辺地盤のボーリング調査等を確実に実施することが必要です。
他の地方公共団体においても、既存施設の改修によるPFI事業について検討の余地は大いにあるのではないかと考えます。
PFI事業を統括管理する専門部署の設置により、組織内のノウハウ蓄積が可能となります
岡山県では、現在まで3件のPFI事業を実施していますが、県のPFI事業を統括管理する専門部署として行政改革推進室を設置しています。他の地方公共団体においても、個別のPFI事業の検討事務局は各事業担当課に設置されることになると考えますが、恒常的にPFI統括部署を設置し、事務局と共同で各PFI事業を実施する体制を構築することは、行政組織としてPFI事業に関するノウハウの蓄積と継承のために非常に有用であると考えます。
事業担当者
- 岡山県 健康福祉部 保健福祉課
- 地域保健福祉班 総括参事 吉松 裕子氏
- 岡山県 健康福祉部 保健福祉課
- 地域保健福祉班 主幹 大平 謙二氏
- 岡山県 健康福祉部 保健福祉課
- 地域保健福祉班 主幹 石井 照彦氏
- 岡山県 総務部 人事課
- 行政改革推進室 主幹 角田 直樹氏
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