事例8:八雲村学校給食センター施設整備事業(事業概要)

(島根県 八雲村 人口7,214人(平成16年))

八雲村学校給食センターのイメージ画像

「八雲村学校給食センター施設整備事業」は、島根県八束郡八雲村(人口約7000人)において、県道拡幅に伴い移転する旧学校給食センターを建て替え、衛生的かつ安全で働きやすいHACCP(衛生上の危害の予防を達成するための基準。危害分析重要管理点(監視)方式)対応の施設を整備し、その後30年にわたり施設の維持管理を行うPFI事業です。なお、献立作成や調理等の給食センターの運営業務については、PFI事業の範囲から除き、村の直営により、行っています。
約3,000m2の敷地に、鉄骨造一部鉄筋コンクリート造、平屋建て延べ914m2の規模で、給食供給能力は一日約1,000食、年間稼動日数は約200日の施設を整備し、平成14年9月から供用を開始しています。

1.事業化までの検討経緯・庁内体制の流れ

八雲村学校給食センターの事業化までの検討経緯・庁内体制の流れを現した図
  • 平成11年、PFI法の施行について、定例の課長会にて村長から紹介。
  • 村長の発意により、村役場全職員を対象とした自由参加形式のPFI勉強会を数回開催。
  • 県道の拡幅に伴い、旧給食センターの移転・建て替えが決定。
  • これを契機に村長から教育委員会へ給食センター建て替えPFI事業に関する検討の指示。
  • 教育委員会のPFI担当(1名、兼務)にて、内部検討を実施。定量的評価(VFM試算等)は未実施だが、PFIの定性的なメリットを把握・整理。
  • 上記PFI担当で独自に検討を進めたが、内部検討の限界を早期に村長が判断。PFI導入可能性調査について外部委託を決定。村議会、財政部局もこれを支持。
  • コンサルタント(富士総合研究所、山陰経済研究所)を公募プロポーザル方式で選定。選定審査は、助役、総務課長、教育長による審査会方式で実施。
  • PFI導入可能性調査の開始に際し、教育委員会のPFI担当1名と旧給食センター所長1名の計2名の事務局体制へ変更。事務局主導で検討を行い、必要に応じ村三役、財政部局と協議を行った。
  • PFI導入可能性調査の結果、PFI事業の実施が議会で承認された。

事業化の過程における議会や住民への対応

初期の内部検討から事業者選定段階を通じ、村議会に対しては、幾度となく当PFI事業について説明を重ね一定の理解を得てきました。特に議員の中でも自ら事業を行っている方は、比較的すんなりと、PFI方式では民間の創意工夫やノウハウを取り込むことが可能なため、より効果的、効率的な事業実施が図られる点を理解していただけました。また、一部、サービスの品質への漠然とした不安をもつ議員もおられましたが、総じて、事業はスムーズに進捗しました。
地域の住民に対しては、通常の公共事業と同様に村の広報誌を通じて事業概要の説明を行い、特段の説明会の開催を行ったりはしていません。調理等の給食センターの運営については、PFIの事業範囲ではなく従来どおり村の給食センター職員により行うため、住民から特段の不安や反対意見が出ることはありませんでした。

2.本事業における課題とその解決策

給食センターの運営は、従来どおり『公共の直営』により行われています

地産地消や食育といった本村の重要方針を維持継続していくため、給食センターの運営については、PFIの事業範囲から除き、従来どおり村が直接実施することとしました。こうしたことにより、給食センターが中核となり、学校や地域が連携して地元の新鮮で安心な食材を使った給食の提供を実現しています。
現在、本給食センターは、所長1名、栄養士1名、調理員4名に臨時調理員数名を加えた体制で施設の運営を行っています。

将来、技術が陳腐化した場合は、村と民間事業者で協議して対策を講じます

給食センターに納入される野菜の写真

地元の給食用野菜生産者により
納入される新鮮な野菜

本事業は事業期間が30年と長期にわたるため、その間に、新技術を用いた設備機器が開発され、それを新たに整備して用いる方が、事業期間全体のコストが低減される可能性があります。こうした施設陳腐化リスクが発生した際には、官民で協議して柔軟に適切な対応をとることができるように、事業契約書には、技術革新による施設の陳腐化が発生した際には官民で協議して対策を講じる旨、記載することになりました。

食中毒が発生した場合の村とPFI事業者の責任分担を事前に契約書で規定しています

食中毒が発生した場合の責任は、食中毒発生の原因者が負うこととなります。ただし、食中毒の原因を特定することができなかった場合には、村が損害賠償等を行うリスク分担とすることで、民間事業者に過度の負担を与えず、より多くの民間事業者が本事業へ応募可能となるように配慮しました。

地元の建設業者と地域金融機関が本事業に関係しています

当初、PFI方式では地元企業の受注機会が減るといった反対意見も地元企業から間接的にはありましたが、それ程強い反対ではありませんでした。このような状況のもと、本事業では特段の地元業者の優遇措置はとっていません。
しかしながら、結果として、選定事業者の構成員に県内の大手建設業者が含まれ、また、資金の融資についても、村の指定金融機関である農協が加わることとなりました。

八雲村学校給食センターの事業スキームのイメージ図

本事業は国庫補助金の交付を受けていません

本事業への国庫補助の導入を検討するに当たり、当時の村の一番の懸念事項は、補助金を受ける場合、施設整備費のうち国庫補助を除く部分は村の負担として一般財源を手当てしなければならないということであり、一般財源の負担を軽減したいという事情がありました。村にとっては、一般財源からの支出を減らすというのが一番の優先順位でした。
また、給食施設は食数による面積要件等の補助金交付に際しての制約がある点、そもそも交付を受けられる補助金が少額であった点、またスケジュール的に補助金申請の期間と合わなかったため、最終的に補助金の交付を受けないこととなりました。

3.事業開始後の状況

(1)運営モニタリングの方法

給食センターの運営は村直営であり、センター職員が常駐し日々施設の状況を把握しています。施設の故障があった場合は、センター職員から松江市内にあるPFI事業者に電話をかけて対応してもらっています。また、必要な場合は、30分で給食センターへPFI事業者の職員が駆けつけることが可能な体制になっています。今までのところ、大きな問題が発生したことは無く、給食センターが停止するようなことはありません。
一方で、施設の維持管理については、PFI事業者より、毎年、維持管理年間計画の提出を受け、これに従って維持管理を実施していただいています。また、村は、PFI事業者が提出する業務月報、SPCの年次財務報告書の確認を行っています。加えて、施設の法定点検等には、給食センター職員が全て立ち会って適切な施設の維持管理を行っています。

(2) PFI導入のメリット

多くの民間の創意工夫やノウハウを取り込むことができました

本事業は結果として国庫補助事業となりませんでしたが、逆に、施設面での制約が減り、民間ノウハウをより幅広く活用する自由度が増し、施設整備の面では非常に満足のいく内容となりました。その一例として、見学者の見学通路全面にある大きな窓から調理場が見渡せ、調理場の開放感が増し、労働環境の向上を実現できました。

給食センター内の写真

給食センター内で作業される
職員のみなさん

良質な施設が職員の意欲を高めました

施設については給食センター職員も非常に満足しているようです。また、就労環境の向上に付随して、センター職員の労働意欲も向上したと感じています。例えば、試食スペースや展示スペースがPFI事業者の提案により設置されましたが、センターの村職員から、このスペースを利用した様々なアイデアが出ました。また、給食センターは通常、夏休み等は閉鎖となります。しかしながら、センター職員の提案により、その時期も学童保育施設に給食を提供することとなり、地域へのサービスが向上しています。もちろん、普段の給食自体についても、教員の評判は上々です。良い施設が職員の意欲を高めた結果だと感じています。

事業費の削減を実現しました

事業費の削減に関しては、当初、公共で想定していたものと比べ、特に、維持管理費の減少幅が大きかったです。また、PFI事業では施設整備や物品の調達が民間と民間の間の取引になり、概して、従来型事業における、行政と民間の間の通常の売買取引の場合に比べて、価格が大幅に低下したと感じています。

(3) PFI導入のデメリット

特段のデメリットは、今のところ見当たりません。自動化した調理機械のちょっとした不具合が、これまで数回生じましたが、施設の運営が止まるような大きな問題は発生していません。

4.PFI事業を振り返って

(1) PFI事業の成功のポイント

三好淳さん(左)と石原元雄さん(右)のお写真

事業担当者の
八雲村教育次長の三好淳さん(左)と
給食センター所長の石原元雄さん

組織トップの強いリーダーシップが必要です

本村の場合、大きな組織ではないため、村長とPFI事業の担当職員の距離が非常に近く、他の地方公共団体に比べ、なおさら村長のリーダーシップと支援が、本事業の実現への重要な要素でした。他の地方公共団体においても、首長の確固とした決断とバックアップを得ることが一番大切であると感じます。

(2) PFI導入を目指されている他団体へのアドバイス

PFI導入に際しては、新しい事業方式に不慣れなため、確かに事務負担の増加等、地方公共団体職員にとって、大変な面もあります。そのため、事業担当部の事務局の人員体制の充実や、それを側面支援するPFI担当部署の設置等が強く望まれると考えます。しかし、通常言われているほどの過度の心配をする必要は全くないということも付け加えておきたいと思います。

事業担当者

松江市教育委員会 八雲分室
分室長 三好 淳氏
〒690-2192 島根県松江市八雲町西岩坂316
TEL:0852-54-5770

キーワード:給食センター、村によるPFI事業、BTO方式サービス購入型、事業期間30年