事例10:(仮称)松森工場関連市民利用施設整備事業(事業概要)

(宮城県仙台市 人口 994,232人(平成16年))

松森工場関連市民利用施設のイメージ画像

(仮称)松森工場関連市民利用施設事業は、松森工場のごみの焼却に伴って発生する余熱を有効利用した施設を整備するとともに、スポーツ等を通じて健康を増進させる活動ができる施設や、ビオトープ等の緑地空間の整備を行うことにより、市民に健康増進と交流機能の場を提供するものです。PFI事業(BOT方式)として実施し、地元企業で構成されたグループが落札しました。施設の内容は、温水プールや温浴施設、フットサルコート等といったもので、スポーツ利用及び健康増進を目的とした機能で構成されています。敷地面積は約50,000m2で、施設規模は屋内施設約4,600m2の他、屋外にテニスコート等や約280台の駐車場を整備することとなります。事業期間は17年間です。

1.事業化までの検討経緯・庁内体制の流れ

松森工場関連市民利用施設の事業化までの検討経緯・庁内体制の流れを現した図
  • 市内の他の既存の工場付近にも既に余熱利用施設があり、松森工場建設に際しても余熱利用施設の整備は前提であったことから、当該余熱利用施設分の用地も事前に取得。
  • 平成13年度に施設内容に関係して、スポーツ課や地域振興課、財政課による打合せを実施した際に財政課からPFI手法の検討も必要という話が出され、PFI導入可能性調査の実施が決定。
  • 庁内の関係課長で組織する検討会を設け、コンサルタントの選定方法等を検討。
  • 平成14年度に公募プロポーザル方式によりコンサルタントを選定し、パシフィックコンサルタンツ(株)にPFI導入可能性調査を委託。
  • 平成14年度にはPFI検討の部署として財政局に「事業手法調整室※(3名)」が設けられ、以降、当該部署も検討会に参加。
  • 当時の事務局は松森工場の建設のため増員された環境局施設部施設課の2名(兼務)で構成。
  • 平成14年度には事務局に2名が増員され、平成14、15年度はPFI専属。
  • 先行して東京事務所のPFI事業に関する検討が行われており、適宜参考とした。関係部署は検討会を構成する庁内関係部署9課そして事業手法調整室。

2.本事業における課題とその解決策

民間のノウハウを積極的に活用するための工夫を行いました

本事業は集客的機能の高い施設であり、施設の運営について最大限に民間のノウハウを発揮させ、提供する公共サービスの質の向上を図るため、公租公課の負担等を認識した上で、民間事業者が施設を所有するBOT方式という事業方式で実施することとしました。また、本施設を「公の施設」とは位置付けず、利用料収入を民間事業者が自らの収入とすることで、民間事業者が自発的に事業をより良くしていこうと努力する動機付けを行いました。

民間事業者の意見が反映された募集要項等を作成するため、意見交換を行いました

当初は、施設内容を詳細に規定していましたが、より民間のノウハウの発揮を促すために、民間事業者との意見交換を行いました。その結果、要求水準においても「必須施設1」「必須施設2」及び「事業者提案施設」という施設区分を行い、要求する施設機能に重みを付ける形としました。
また、運営プログラムや民間収益施設などに関しても民間事業者が提案する形をとりましたが、その中でも市が提案に対してどのようなことを期待しているのか、どのような提案は受け入れ難いのか等の点について、民間事業者と内容の確認を行い、中身を明確化した上で、提案を受けることができました。

単純な価格競争とならないよう、類似施設の利用状況を公表しました

本事業では、民間事業者の需要予測に基づく利用料収入を提案させており、需要予測の根拠資料も提出させた上で、評価を行いました。入札説明書等を審議する過程では、審査委員の方々からも、単なる価格競争とならないようにという指摘を受け、事前に既存の類似施設の利用状況を公表しました。その結果、過大な需要予測に基づく提案は見られず、評価の結果を左右するようなことはありませんでした。

松森工場関連市民利用施設の事業スキームのイメージ図

3.事業開始後の状況

(1)PFI導入のメリット

性能発注により民間のノウハウが十分に盛り込まれた提案を受けることができましたた

性能発注としたことにより、民間事業者からの提案は、魅力的な景観創出や屋外施設の内部空間の連携等の視点から大変優れた提案内容となりました。特に、落札したグループからは、市民が自然に親しみながら健康増進を行うというコンセプトを持ち、それを敷地全体において表現した提案がなされ、高く評価されました。また、提案を受けた3グループの提案価格は、全て拮抗していました。
実際に提供する公共サービスの質は施設が完成し、利用され始めないと明らかにはなりませんが、要求水準以上であることは十分認識していますし、期待しています。

(2) PFI導入のデメリット

支出負担行為と債務負担行為は同年度という原則からやむを得ないと考えますが、スケジュールに関しては全体的にかなり過密でした。また、本事業はBOT方式で実施していますが、民間事業者が施設所有者となることで公租公課の負担が増大する点が、BTO方式と比較した際の財政負担の面でのデメリットとなります。

4.PFI事業を振り返って

(1) PFI事業の成功のポイント

民間のノウハウの活用を最大限に考慮しました

前述したとおり、本施設は集客的機能を有する公共施設です。その点において、民間のノウハウ活用の効果を単なる財政負担額の抑制のみではなく、提供する公共サービスの質の向上にも大きく期待しています。その実現のために、繰り返しとなりますが、公租公課の負担があることを認識した上で、民間事業者が自ら施設を所有するBOT方式を採用することで、よりノウハウの発揮を促しました。
また、本施設を「公の施設」と位置付けないことで、施設利用者からの料金収入の一部を事業者の収入とし、民間事業者が本事業をより良いものにしていくことを促す形としました。その結果、優れた提案を複数受けることができました。

民間事業者にとって魅力のある事業スキームの構築を心掛けました

市では、本事業に先行して、「仙台市東京事務所」をPFI事業として実施することが試みられていましたが、残念ながら当案件では民間事業者の参画意思を得ることができずに中断することとなってしまいました。本事業ではその教訓を活かし、まずは民間事業者に魅力があり、参画意思を持っていただけるよう、「民間事業者の意見を反映した事業スキームの構築」を心掛けました。その結果、複数の民間事業者からの参画を受けることができました。

(2) PFI導入を目指されている他団体へのアドバイス

PFI事業の検討に際しては専属担当者の配置及び関係部署の支援体制の構築が重要です

確かにコンサルタント(アドバイザー)の意見は参考になりますが、やはりそれだけではPFIの事業化は成り立ちません。行政内部の事業担当者は他の業務との兼務ではなく、PFI専任担当として業務に当たる必要があります。
また、PFIでは総務や財政も含め、多くの課が協働して事業化に取り組むことになります。現場の担当者に過度の負担がかかることのないよう、庁内における支援体制はしっかりと整える必要があります。今回の事業では担当者が技術系であり、事務系の方が担当されている他の自治体からは「うらやましい」という意見も頂きますが、担当者が技術系か事務系かに関わらず、周囲のフォローは大変重要となります。

モニタリング体制の構築は計画的にする必要があります

民間事業者との本契約を締結した後の話となりますが、PFI事業においては、公共サービスが求める水準で確実に提供されているかを自治体側が監視していくための「モニタリング」が重要となります。現在、施設の維持管理及び運営業務に関するモニタリング体制の検討及び内容の具体化に努めていますが、その過程においては、民間事業者との計画的なやり取りが必要となります。よって、あらかじめスケジュールを明確にしておくことが重要です。また、運営期間を通じて、サービス内容の確認と事業者の経営状況等に関する評価、そしてPFI事業全体に対する評価を行うため、庁内の取組体制を検討する必要があると考えられます。

今後の取組方針について

PFIの全体像を理解できるようなマニュアルは必要であると思います。市では事業手法調整室が「仙台市PFI活用指針」を作成済みですが、現在は活用指針とは別に庁内の実務者向けに詳細なPFI事業実施マニュアルの作成を進めているところです。
仙台市では、今後とも、PFIとしての可能性がある案件であると認められる場合には、積極的な導入を進めていくこととしています。

事業担当者

仙台市 環境局施設部施設課
建築第二係 阿部 和夫氏
〒 980-0802 仙台市青葉区二日町1番1号
TEL:022-261-1111

キーワード:余熱利用、健康増進、需要リスク、地元企業の参画、BOT方式、ミックス型(サービス対価+利用者から徴収する使用料金又は費用)、事業期間17年