事例13:市川市立第七中学校校舎・給食室・公会堂整備並びに保育所整備PFI事業(事業概要)
(千葉県市川市 人口 451,940人(平成16年))
「市川市立第七中学校校舎・給食室・公会堂整備等並びに保育所整備PFI事業」は、老朽化した中学校校舎と給食室の建て替えに際して、公会堂、保育園といった地域ニーズの高い施設を併設した複合施設を整備し、維持管理を行う事業です。また、本複合施設は、別のPFI事業として実施されるケアハウス、デイサービスセンターも同じ建物の中に整備され、2つのPFI事業で構成されています。
本施設は、延床面積約23,700m2(既存校舎含む)、地上5階、地下1階の鉄筋コンクリート造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)、平成15年9月の本体工事着工を経て平成16年9月から施設の供用を開始しています。
1.事業化までの検討経緯・庁内体制の流れ
- 平成6年度、中学校校舎の耐力度調査を実施。
- 市教育委員会にて、改築基本計画の検討を開始。
- 平成11年3月、文部省(文部科学省)から校舎が危険建物として認定される。
- 平成11年7月、PFI法公布、同年9月施行。
- 教育委員会に「第七中学校建設検討委員会」を設置。事業担当部署、財務、企画各部署の部長級職員により構成。PFI導入が議論にあがる。
- 平成12年4月から、複合施設内容及びPFI導入可能性について、市内部で検討を実施。
- 同年11月、PFI導入メリットありと最終的に判断。PFI導入可能性調査の実施(外部委託)を決定。
- 平成13年4月、教育委員会教育総務部に「七中建設担当室」(事務局)設置。
- 4名のPFI専任体制。(室長、建築職1名、土木職1名、事務(財務)1名)
- 平成13年4月、導入可能性調査のコンサルタントを公募。
- 同年8月、日本経営システム(株)を公募型プロポーザルにより選定。
- 事務局の検討内容を「第七中学校建設検討委員会」に諮る形で検討進捗。
- 平成14年3月、導入可能性調査結果を市長へ報告。
- 平成14年4月、検討体制拡充のため、企画部企画政策課にPFI担当2名を配置。事務局(4名から3名へ七中建設担当に変更)と共同で事業実施に当たる。
- 民間事業者選定委員会(外部委員5名で構成)を設置。
議会への説明、合意形成について
行政にとって議会での事業説明は重要な過程の一つです。PFI事業においては、債務負担行為の設定や契約議案が議会での議決事項となりますが、これら以外にも本会議や常任委員会等において事業計画に関する説明、質疑応答を行うことが求められます。本事業において、市が議会で説明した主な内容を以下に示します。
- 従来型手法に比べてどの程度の財政支出の削減(VFM)が実現されるのかという点
- 施設整備から維持管理・運営を民間事業者が包括的に管理することの合理性とサービス品質面での利点
- 官民のリスク分担の合理性と、これによる将来の維持管理・運営段階での効果
本事業では、性能発注の形式により民間事業者に長期一括発注をすれば、コストダウンにつながるだろうという基本的な理解があったので、議会での合意形成は比較的スムーズに進みました。また、施設の供用開始の期限として、平成16年9月と決定されていたため、全体として前向きな対応をいただくことができました。
議会への説明に際しては、財政面での利点のみにPFIの有効性を求めるのではなく、費用対効果を勘案した民間事業者の創意工夫を反映した事業提案が得られること、行政目的としての事業の基本コンセプトが実現できることについて、理解を求めることが重要と考えます。
2.本事業の特徴、課題とその解決策
一つの施設の中で、2つのPFI事業を実施しています
本複合施設は、ケアハウス事業固有の認可基準や補助金制度の制約があったこと、また、各事業の特性に対応した実績やノウハウを有する民間事業者を選定した方がより効果的な事業実施につながると考えたために、(1)中学校校舎・給食室・公会堂・保育所、(2)ケアハウス・デイサービスセンターの2つのPFI事業に分離して整備・運営することになりました。
ただし、事業者選定に当たっては、2つのPFI事業が密接、不可分であり応募段階からの事業者間の連携が必須であることから、2つのPFI事業の応募者が1つのコンソーシアム(民間事業者グループ)を組成して応募することを市から要求しました。また提案評価の段階では、2つのPFI事業ごとに評価を行い、その合計評価点により最終的な事業者の選定を行いました。
アドバイザー(コンサルタント)、庁内、住民の皆さんとの議論を施設内容に反映しました
PFI導入可能性調査を委託するコンサルタントを募集・選定するに当たり、それまでに庁内で検討されてきた施設を含め「地域とのふれあいをキーポイントとしつつ、学校としての機能を損なわずに教育環境上での相乗効果」を期待できる施設の提案をコンサルタントに求め、コンサルタントからは、文化情報センター、交流プラザ、地域スポーツセンター、世代間交流施設といった地域活動拠点となる施設が提案されました。
その後、PFI導入可能性調査の過程で、コンサルタントの提案をベースに、地元住民を対象とした説明会(計4回開催。小規模なものを含めると10回開催)や庁内の検討委員会での議論を踏まえて、最終的に中学校校舎、給食室、公会堂、保育所(PFI事業範囲外)、ケアハウス、デイサービスセンターを一体的に整備することとなりました。
3.事業開始後の状況
(1)設計・建設モニタリングの方法
設計・建設段階での民間事業者の業務実施状況の監視(設計・建設モニタリング)は、市の直営で行いました。PFI事業では、従来型の仕様発注とは異なる性能発注となりますが、この場合、実施設計段階では、市と事業者の間で、施設設計に関して様々な協議・確認を行うことが必要となり、要求水準書での要求事項や事業者による提案内容を実際の実施設計に反映する作業は想像以上に大変でした。こうした経験を踏まえ、市の次のPFI事業においては、専門のコンサルタントへ外部委託し、設計・建設モニタリングを実施することとしました。
なお、性能発注方式による要求水準書の作成に際しては、細心の注意が必要と考えます。民間の創意工夫・ノウハウを積極的に活用するという観点からは、要求水準書の記述は、あまり細々と行政からの要求事項を規定するべきではないといえますが、要求水準が過度に曖昧になると、発注者として望む事業の要求水準・内容が民間の提案者にうまく伝わらない懸念が生じます。要求水準書の書き込みの加減については、行政内部で十分に議論を尽くし、民間事業者への意思伝達を徹底する必要性を痛感しました。
(2) PFI導入のメリット
施設外観
公会堂
民間事業者の創意工夫やノウハウを事業に反映することができました
当初、市の想定では、各施設は分棟で整備することを想定していましたが、選定事業者の提案は、各施設を積層にして合築することにより一体的に整備するもので性能発注による民間の創意工夫やノウハウの活用の一例であると考えます。また、施設の意匠・デザインには、例えば、吹き抜けの設置や、採光・通気への配慮があり、また施設利用者の動線の直線化により、「ふれあい・交流」という施設のコンセプトも実現されており、性能発注の効果である民間ノウハウの活用が十分達成できたと感じています。
また、施設の維持管理面においても、一般的に学校は色々な物品が頻繁に壊れる性質の施設ですが、施設の修理や物品の補充について、民間事業者から非常に迅速な対応をしていただいています。
大幅なコスト削減(VFM)を実現しました
事業者選定には3つの民間事業者グループからの参加があり、最終的に約26%ものVFM(事業費の削減)が達成されました。これに加えて、施設整備費の事業期間での分割支払(割賦払)により、巨額の初期投資が不要となり市財政支出の平準化のメリットもありました。また、事業契約において事前に官民のリスク分担を設定することにより市としてのリスクが軽減される効果もあると考えます。
(3) PFI導入のデメリット
従来型の事業に比して、より厳格なスケジュール管理が必要になります
デメリットとまではいえませんが、PFI法に定められた公平性、透明性を確保した事業者選定の手続きは想像以上に大変だと実感しています。また、PFI事業は、債務負担行為の設定や契約議案等について、年4回の定例議会の開催スケジュールを考慮して進めていく必要があります。実際、本事業では、民間事業者から平成15年9月から施設整備を行う提案がなされていましたので、市としては平成14年12月定例議会で債務負担行為の議決を、そして平成15年3月定例議会で事業契約議案の議決を予定していました。しかし実際には、平成14年11月下旬の事業者決定の後、付帯事業の内容の調整に手間取ったことで、平成14年12月定例議会で債務負担行為の議決を得ることはできませんでした。結局、平成15年3月定例議会にて、債務負担行為の議決を経た後、追加議案として事業契約の締結について議決を経るといった、厳しい状況のもとで実施されました。
4.PFI事業を振り返って
PFI導入を目指されている他団体へのアドバイス
市川市企画部の千葉貴一さん(左)と
教育委員会教育総務部の野口久夫さん
事業手法の検討以前に、事業そのものの必要性について検討することが重要です
PFI導入の検討段階では、従来型方式で行う予定であった事業をPFI手法の有効性に着目して実施する場合と、まずPFIの有効性に着目して事業が発案される場合があると思われますが、いずれにしても、当該事業が市民にとって本当に長期的に必要なものなのか、行政で策定する総合計画や諸施策等に則した事業であるのかといった点について、行政としての説明責任が求められることを忘れてはならないと思います。したがって、事業手法の検討以前に、事業そのものの必要性について検討する場(例えば庁内検討委員会等)を設けて十分な議論を尽くすことが必要です。
多くの部署間の連携を重視した検討体制を構築することが必要です
PFI事業では、行政内部の事務手続きが多岐にわたるため、他の通常業務との兼任で担当することは困難であると感じます。本事業のような複合施設の場合には、建築、設備、土木、財務の職種の職員を専任で事務局に配置するのが妥当であると考えます。複合施設の場合、国・県の対応先も多岐にわたり、補助金交付のための補助対象施設の特定等の実務面でも非常に煩雑であり、それぞれ専門の職員が事務局に必要となるためです。その際には長期にわたる検討期間を通して、できるだけ人事異動を避けて同一の担当者が従事することも大切です。
また、複合施設内の様々な種類の施設間相互の干渉・問題の発生を避けるためには、各施設の担当課、建築、財務、法規等の多くの関係部門間の相互理解が不可欠であること、あるいは事業の進捗に応じた民間事業者等との連携体制を維持するために、事業の全体の進捗管理を行う統括セクションの設置も非常に有用であると考えます。
事業担当者
- 市川市 企画部 企画政策課
- PFI推進担当室 主幹 千葉 貴一氏
- 市川市 教育委員会 教育総務部 教育施設課
- 主幹 野口 久夫氏
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市川市立第七中学校校舎・給食室・公会堂整備等並びに保育所整備PFI事業(市川市)