4-5 韓国の検討プロセスに関する考察

 現地調査で明らかになった各主体の検討プロセスへの対応や、各主体から提出された主要レポートなどの内容をまとめると、韓国の包括的な最初の報告の検討プロセスについて、以下のような特徴を挙げることができる。

  • 中央連絡先だけでなく、独立した仕組みや中核障害者団体、その他のNGOからも多数のレポートが提出されており、検討のための情報が他国に比べ豊富に提供された。
  • 特に、市民社会の取組が極めて活発であり、提出されたパラレルレポートの記述や指摘内容も詳細かつ具体的なものが多かった。
  • 市民社会はまた、国連障害者権利委員会に対するロビー活動にも熱心に取り組み、現地調査で明らかになったように、会合の際には委員への積極的な情報提供を行った。
  • 独立した仕組みである国家人権委員会は、国連人権高等弁務官からの要請を受け独自のレポートを提出した他、国連障害者権利委員会の会合の際には非公式なものも含め国連側と活発な意見交換を行った。また、限定的ではあるが、国連障害者権利委員会からの助言を中央連絡先に伝え、非公式な連絡窓口としての役割も果たした。

 一連のプロセスを概観すると、国連障害者権利委員会が韓国に関する情報収集や確認の窓口として、独立した仕組みである国家人権委員会を重視していた様子がうかがえる。国家人権委員会の担当者によれば、国連障害者権利委員会と国家人権委員会は、会合の際だけでなくレポート作成の過程でも密接に意見交換を行い、主な論点について国家人権委員会が意見や情報を提供する一方、国連障害者権利委員会からは様々なフィードバックや助言が提供された。これは、中央連絡先が国連障害者権利委員会との意見交換を意識的に避けたのとは対照的であり、国連障害者権利委員会から国家人権委員会に提供された助言の中には、中央連絡先に向けた助言も含まれていた。

 こうしたプロセスを経てまとめられた国連障害者権利委員会の最終見解は、市民社会や国家人権委員会のレポートの指摘・主張が大幅に取り入れられたものとなった。

 韓国では障害者政策総合計画に基づいて広範な障害者政策が取り組まれていることから、最終見解の視点も実施体制や施策実施そのものの有無ではなく、実施されている施策の方向性や実効性に主眼を置いたものになっている。ただしその内容は、後見制度に対する見解に見られるように、施策の方向性の見直しを求めた項目も多く、韓国政府にとって厳しい内容になっている。これは検討プロセスにおける市民社会の熱心な取組の成果といえるが、主な論点については、国連障害者権利委員会は国家人権委員会を通じて確認のための意見交換や情報収集を行った上で評価・判断を行ったと考えられる。

韓国政府は障害者権利条約の批准以前から、5年ごとに策定する総合計画に沿って障害者政策を進めてきた。中央連絡先の担当者がインタビューで述べているように、条約に合わせるために政策を大きく変えることは行っていない22。そのため、国連障害者権利委員会が求める障害者政策の方向性と韓国政府が進めてきた政策の方針には一致しない部分があり、そうしたことが厳しい内容の最終見解につながったものと考えられる。


22 保健福祉部 キム・ウンニョン氏、チェ・スンチョル氏インタビュー

前のページへ次のページへ