6-3 主要レポートの記述内容のポイント

 ここでは、スペインの包括的な最初の報告の検討プロセスでやりとりされた主なレポート、文書について、記述内容のポイントを比較・検討し、国連障害者権利委員会の最終見解に至る意見・情報の流れの概略を整理・分析する。なお、図表6-2 に示したレポート、文書類のうち、太字で示したものを整理・分析の対象とする。また、整理・分析の対象とする条項は、第4章、第5章と同じく第5条、第6条、第9条、第12条、第19条、第24条の6条項とする。

(1) 第5条 平等及び無差別

 スペインの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第5条に関する記述のポイントを図表6-3に整理した。

 スペイン政府は包括的な最初の報告で、第5条に関しては「障害者の機会平等・無差別・普遍的アクセスに関する法律(LIONDAU)」の考え方や内容、関連する取組について説明した。一方、スペイン障害者代表委員会は、LINDAUに定められている障害者差別に対する処罰が実際には効力を発揮していないこと、差別に関する裁判に長期間を要することが深刻な被害の発生につながっていることを指摘した。

 国連障害者権利委員会の事前質問事項では、障害による差別に対する法的行為を行う際の手続(障害の証明書の提示)について質問しており、スペイン障害者代表委員会のパラレルレポートの指摘内容との直接の関連性は見られない。

 スペイン政府は事前質問事項への政府回答で、法律が定める裁判手続の規定を紹介した。これに対し最終見解で国連障害者権利委員会は、前述のLIONDAUを評価し、また、事前質問事項で確認した裁判手続の問題が法改正によって解消したことを歓迎した。スペイン障害者代表委員会のパラレルレポートが指摘した裁判の遅さや処罰の効力については最終見解には盛り込まれなかった。

図表6-3 第5条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スペイン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告55
2010年7月
  • 「障害者の機会平等・無差別・普遍的アクセスに関する法律(LIONDAU)」が障害分野でのこの条項を完全に実現している。具体的には・・・差別に対抗するための施策と積極的な行動のための施策という、2つのタイプの施策を制定している。(15)
  • LIONDAUとその施行規則と制度の調整は、平等と無差別を可能にし保証する基礎である。・・・各分野における行動計画及びプログラムの具体的な調整と作り込みにはそれぞれの関係省庁が対応するが、いずれにせよこれらの規則に合わせることとなる。(16)
パラレルレポート5657
(CERMI)
2010年12月
2011年5月
  • 行政の無為が原因で処罰の規定が効力を失っているとCERMIは主張している。このことをオンブズマンに表明し、オンブズマンが一般国会に送る年次報告書でも言及された。
  • 裁判の遅さが修復不能な被害の原因となることがある。行政訴訟の裁判の平均継続期間は、一審で15か月、二審で10か月、最高裁に上告されると18.8か月である。
  • 司法後見制度について、行政訴訟や民事分野では裁判の進行を早めるか、即時的な保護施策を定める必要がある。
  • LIONDAUの違反・処罰の仕組みの自律的な進展と実効的な始動を保証すること。
  • LIONDAUに規定されている仲裁裁判の仕組みを促進すること。
  • 障害を理由に基本的権利が侵害された時、適用を制限する経済的条件なしに裁判が無料になるよう適用範囲を広げること。
事前質問事項58 2011年4月
  • 差別に対する法的行動を取るために障害証明書を提示の提示が必要とされることが現在はなくなったかどうかを、詳しい情報と共に示してください。(5)
事前質問事項への政府回答59 2011年7月
  • 2003年12月2日に可決された第51/2003法「障害者の機会平等・無差別・普遍的アクセスに関する法律(LIONDAU)」は、権利保護のための方策として、広範な権限を通じた、裁判所の下での訴訟について規定している。法に沿った共同の権利と利益を守るために法的な権限を与えられた法人は、被害を受けた人の個別の権限を損なうことなしに、権限を与えた人の名と利益の下、機会平等の権利を守る目的で、個別の権利を守りその行動の恩恵がその人のものになるよう、手続を執行することができる。」(以降省略)(20)
最終見解60 2011年9月
  • 障害者の機会平等・無差別・普遍的アクセスに関する法律Act/2003に満足を示す。(5)
  • Act26/2011により導入された、差別の申立てをする際、障害者認定を不要とする改正を歓迎する。しかし、差別に関する判例情報の欠如を残念に思う。さらに合理的配慮に関する情報の欠如を懸念する。障害と認識されることや障害者と関わることによって差別された場合、障害を理由とする差別に対する法的保護の対象とならないことも懸念する。(19)
  • 保護の対象を複合障害、認識された障害、障害者関係者へ広げ、障害のレベルにかかわらず差別の位置携帯として合理的配慮の拒否に対して保護するよう締約国に促す。(20)

(2) 第6条 障害のある女子

 スペインの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第6条に関する記述のポイントを図表6-4に整理した。

 スペイン政府は包括的な最初の報告で、第6条に関しスペイン政府が制定した「障害女性のための行動計画」、「障害者のための行動計画」や「男女の平等実現のための基本法(男女平等法、LOIEMH)」について説明した。一方、スペイン障害者代表委員会のパラレルレポートでは、主に障害のある女性に対する虐待や暴力の存在や、それへの対処の阻害要因を指摘した。事前質問事項は、スペイン政府とスペイン障害者代表委員会がそれぞれ挙げた論点について、その詳細な内容やデータの提供を求める内容となっている。

 事前質問事項への政府回答でスペイン政府は、事前質問事項に挙げられた質問に対する具体的な情報、データを提供した。その結果、最終見解で国連障害者権利委員会は、「障害者のための行動計画」を評価する一方、女性への暴力防止のプログラムに障害への配慮がないこと、雇用政策にはジェンダーの視点が欠けていることを懸念し、政策やプログラムの整備・見直しを勧告した。

図表6-4 第6条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スペイン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2010年7月
  • 2006年、政府は「障害のある女性のための行動計画I」を承認した。これは、障害者男女間にある不平等な状況を是正するため、戦略と方法論を与える。(17)
  • 障害を性別分析を伴った扱いとすることを目的として、「障害者のための行動計画III」が以前の計画の原則や施策を取り込んでいる。
  • 労働、社会保障及び労働環境や家庭環境での調停に関する分野で多くの重要な権利を認めた、「男女の平等実現のための基本法」の承認は大変重要である。(20)
パラレルレポート
(CERMI)
2010年12月 2011年5月
  • 欧州議会障害グループ間会議に提出した報告書では、以下の阻害要因を取り上げている。
  • コミュニケーション障壁を原因とする、虐待を伝える際の困難。
  • 情報拠点などの利用の困難さ。
  • 性的虐待を告発することによって・・・介助が提供されなくなることへの恐怖。
  • 障害のある女性が暴力が当たり前の環境にしばしば暮らしていること。
  • (障害のある女性に対する暴力に対する改善提案多数を列挙)
事前質問事項 2011年4月
  • 「障害のある女性のための行動計画」の実施状況について情報を提供してください。また、取られた施策、採用された政策、及び、期日までに得られた結果を詳述してください。(33)
  • 男女の平等実現のための基本法についての情報をください。また、雇用、社会保障、及び、職場や家庭の生活での調停の分野において、障害のある女性の状況を改善するためにこの法律がとった方法について情報をください。(34)
  • 障害のある女性に対する暴力に関連するデータを提供してください。また、障害のある女性に対するすべての形の暴力に関するデータが、系統的に高い頻度で集められ、分析されているかを説明してください。同様に、暴力の被害者である障害のある女性を援助するために、どのような施策が採用されたのかを示してください。(35)
事前質問事項への政府回答 2011年7月
  • 2006年12月1日の閣議は、彼女らの状況を明確にし、不利益な立場から正しく均衡を取り戻すための目標及び目的、手続を定める「障害のある女性のための行動計画」を採択した。その大きな成果は、このテーマを政治的なアジェンダに持ち込んだことであり、古くから「障害者」という名の下に1つにくくられていた状況を目に見えるものにし、より重要な行動につながった。・・・以降、個々の状況説明。(166)
  • 2007年3月22日に可決された男女の平等実現のための基本法について(168)
  • 男女間の平等の原則に従った「障害者のための行動計画III」(以下「計画III」)が進行中(169)
  • LOIEMH法第14条について(170.171)
  • 「障害者の雇用のため国際行動戦略2008-2012」について(173)
  • 1999年、2002年、2006年に女性研究所によって行われた大規模アンケート紹介(175.176)
  • 社会学研究センターとの協力で最近実現された大規模アンケート紹介(177)
  • 2009年から始まった「性的暴力のための政府支局」のアンケート(178)
  • 暴力の被害者となった障害のある女性を助けるために締約国が行う施策に関して(179.180)
  • 「性的暴力のための政府支局」の行動(詳細な説明あり)(181)
最終見解 2011年9月
  • 性別分析の基準に沿った障害を扱う障害者のための第3次行動計画の採択を歓迎する。(7)
  • 性別に基づく暴力を防止する公的プログラムや政策が障害のある女性に特有な状況を考慮しないことを懸念する。(21)
  • 障害のある女性をより包括的に考慮し、障害のある女性が効率的で統合された対策制度を利用できるようにすることを勧告する。(22a)
  • 雇用政策が包括的な性別の視点を含まず、失業や無活動、訓練に男女格差があることを懸念する。(21)
  • 雇用政策、特に障害のある女性のための特別措置に性別の視点を含めることを勧告する。(22b)
  • 教育、雇用、保健、社会保障の分野において障害のある女性や女児の自立した完全な社会参加を促進し、彼女たいへの暴力に対抗する戦略や政策、プログラムを考案・開発することを勧告する。(22c)

(3) 第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 スペインの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第9条に関する記述のポイントを図表6-5に整理した。

 スペイン政府は、包括的な最初の報告では第9条に関して、2007年に整備したアクセシビリティ関連の一連の標準と国内計画を紹介した。これに対しスペイン障害者代表委員会のパラレルレポートは、アクセシビリティは障害者にとって最も差別的な問題点の1つだと指摘し、行政機関の取組姿勢が不十分なことを指摘した。

 事前質問事項で国連障害者権利委員会は、スペイン政府が実施した調査の結果やその結果を踏まえた取組の状況について情報提供を求めた。

 スペイン政府は、事前質問事項への政府回答の中で、最近の取組を紹介するとともに、政府機関のアクセシビリティに関するデータを提示した。その結果、最終見解で国連障害者権利委員会は、スペイン政府のアクセシビリティ標準整備の動きや関連する法改正を評価する一方、地方自治体や民間部門での取組の遅れに懸念を表明し、アクセシビリティに関するコンプライアンスをさらに促進するよう勧告した。

図表6-5 第9条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スペイン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2010年7月
  • 国王令No.366/2007により、国の一般行政に関して、障害者の施設及びサービスなどへのアクセシビリティと無差別の基準が制定された。
  • 国王令No.505/2007により、都市の公共空間や建造物への到達と利用のための障害者のアクセシビリティに関する基本的な基準が承認された。
  • 国王令No.1494/2007により、・・・情報社会と通信媒体に関連するサービスを障害者が利用する機会を確保するため、基本的な標準に関する法律が承認された。
  • 国王令No.1544/2007により、障害者の輸送手段へのアクセスと利用に関して・・・基本的な基準が調整された。
  • 国王令No.1612/2007により、視覚障害者が選挙権の行使の容易さを確保する投票手続が整えられた。
  • 中長期的な観点で施設及びサービスなどの利用の容易さの促進に向けて行動するため、「施設及びサービスのアクセシビリティのための国内計画I」が開始された。
パラレルレポート
(CERMI)
2010年12月 2011年5月 【違反】
  • 公共の建物に生じているアクセシビリティの問題を解消するための、行政機関の確固たる約束が欠けている。アクセシビリティは、障害者が自分のまわりで出会う、最も差別的な問題点の1つであり続けている。
【肯定的な行動】
  • 交通局は、スペイン聾者連盟 (CNSE) と協力し、聾者が運転免許証を取得するのを容易にする目的で、交通マニュアルと特有の用語の用語集を「スペイン手話」化することを約束した。
【改善提案】
  • このような残念な事実を受け、51/2003法6番目の最終規程に従って2005年に承認されるべきであった、公的に利用される財産とサービスへのアクセスと利用のための、障害者のアクセシビリティと無差別の基本的状況に関する法規の承認を要求する。
事前質問事項 2011年4月
  • 締約国の最初の報告の第46項に引用されているが、各省庁の建物のアクセシビリティに関する2006年の調査に含まれる、結論や勧告の実行状況について、情報を提供してください。(6)
事前質問事項への政府回答 2011年7月
  • 市民への対応のためのオフィスとはみなされない建物やその一部に関しては、国王令第505/2007号がアクセシビリティの基本的な基準を規定している。(24)
  • アクセシビリティに関する遂行の程度に関するレポートを「国家障害評議会」総会に毎年提出する。(25)
  • 各省に関する幾つかの具体的なデータに言及(27-36)
    「司法省」「大統領省」「地方政策省」「行政局」「経済・財政省」「産業・観光・商業省」「教育省」「セルバンテス研究所」「外務省」
最終見解 2011年9月
  • Act/2003及び権限を与える規則、アクセシビリティに関する基本的な基準を与える国王令に満足を示す。(7)
  • アクセシビリティ要件を満たす期間を短縮し公的施設・サービスを優先する規則改正Act26/2011に注目する。(27)
  • 地方、プライベートセクター、既存施設ではコンプライアンスのレベルが低いことを懸念する。(27)
  • 障害者が航空機の搭乗拒否などの差別に直面している状況を認識している。(27)
  • 条約第9条は、締約国に情報・コミュニケーションへのアクセスの保証を要求していることを再確認する。(27)
  • 法案又は国際協力を通じて、アクセシビリティ法案の遵守を実施・促進・監視するために、十分な財政・人的資源をできるだけ早く割り当てることを勧告する。(28)

(4) 第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 スペインの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第12条に関する記述のポイントを図表6-6に整理した。

 スペイン政府は包括的な最初の報告の中で、第12条に関して無能力者に対する後見制度を紹介し、これによる個人と財産の保護と管理によって義務が達成されているとした。一方、スペイン障害者代表委員会のパラレルレポートでは、これらの制度は障害者権利条約第12条に沿わないとして、その改革の必要性を指摘した。

 事前質問事項で国連障害者権利委員会は、スペインの後見制度の詳細、特に後見人による不当な影響の排除や障害者自身による法的行為の支援について情報提供を求めた。

 事前質問事項への政府回答でスペイン政府は、各質問事項に対し具体的なデータや説明を返している。それらは、その時点でのスペインの現状や制度の詳細、根拠法を説明するものであった。

 それらの情報を検討した結果、国連障害者権利委員会は最終見解で「代理意思決定に代わる支援された意思決定を導入する措置がとられていない」と危惧し、法律や政策の見直しを勧告した。これは、パラレルレポートでのスペイン障害者代表委員会の主張に沿った内容といえる。

図表6-6 第12条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スペイン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2010年7月
  • 第12条3項は・・・個人と財産、特に無能力者(禁治産者)の個人と財産の保護と管理の制度によって、義務はすでに達成されている。
  • 整備されているのは「無能力」「後見」、「法的保護者」及び「行為の保護」である。
  • 民法では利益相反が起こらないような仕組みを用意している。・・・法的資格のない者との重大な利益相反が存在する場合には、世話人となる資格を持つことができない。また、・・・世話人が問題を起こした場合、世話人の解任を規定している。どちらも、後見人や法的保護者にも拡張して適用される。
  • 不当な影響の排除。この保護措置については、民法268条に暗黙的に考慮されており、216条では・・・効力のある調整にはっきりとは取り入れられていない。
パラレルレポート
(CERMI)
2010年12月 2011年5月
  • すでに以前の報告書で述べたように、スペイン民法の他の規則に規定されている、障害者の法的能力と行為能力の保護のための改革に着手する必要がある。改革は障害者の権利を保証するものでなければならない。
  • スペインは、条約第12条の指示を効果のあるものにし、判断の際の援助に関する規程に基づく、代理人を介した行為能力の代行に関する現行の仕組みを廃止するための、国内での権利に関する適切な規則の変更を完成できないままでいる。
事前質問事項 2011年4月
  • 法的行為能力を行使できるようにするため後見の下に置かれた障害者の数、及びその中で、行為能力を変更した判決の数に関するデータを提供してください。(9)
  • 不当な影響や利益相反に対する保護を現行法が明示的に規定していないのであれば、後見の職務が被後見人の利益の下に行使されていることが、どのようにして監視されるのかを説明してください。(10)
  • ・障害者が、(後見)判決で採用された代理人に会わずに、条約第12条に従って法的行為能力の行使を決定する際の支援を受けられるよう、採用又は規定されている措置についての情報を提供してください。(11)
事前質問事項への政府回答 2011年7月
  • スペインでは、法的能力にかかる訴訟すべてに検察官が介入することが必要とされ、障害者の保護のために中立的に行動する。2010年における検察庁の統計によると、裁判所によって開始された後見審査(後見と後見人の職務)は11,713件だった。そこに、同じ年に審査結果の出た審査の数40,542件を加えると、合計は52,255件となる。(43)
  • 後見人に被後見人とは反対の利益が存在する場合、職務の遂行と両立できない状況となる。そのような場合には行動を控え、司法当局にそのことを連絡しなければならない。(44)
  • 後見人は、民法第269条に示されている契約事項の下、被後見人を監視する義務がある。その項目4では、被後見人の状況を毎年裁判官に知らせる義務が課されている。(45)
  • 「検察庁」による障害者後見人のコントロールと監視について(予審第4/2008, 30-7-2008号の内容)。(46)
  • 最高裁判所」は、「民法」と「民事訴訟法」は条約第12条に適合しその基準に従っている。(50)
  • 「民法」第210条について。(51)
  • 「検察本部」の指示書第4/2008, 30-7-2008号、障害者の後見に関する「司法省」によるコントロールと監視について。(53)
最終見解 2011年9月
  • 法的能力を行使する上で既存の代理意思決定に代わって支援された意思決定を導入するための措置が取られていないことを懸念する。(33)
  • 締約国が後見人の任務、受託者の任務を与える法律を見直し、代理意思決定に代わり、個人の自立、意思、選好を尊重する支援された意思決定を導入する法律や政策を作るよう勧告する。(34)

(5) 第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 スペインの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第19条に関する記述のポイントを図表6-7に整理した。

 スペイン政府は包括的な最初の報告の中で、障害者の自立を促す取組として関連する法律や国王令、新たに制度化された「保護された贈与61」などについて説明した。一方、スペイン障害者代表委員会はパラレルレポートの中で、住居のアクセシビリティの問題、給付の不平等の問題、公共サービスの包容の視点の欠如など、様々な課題を指摘した。

 国連障害者権利委員会の事前質問事項は、施設で生活する障害者と地域社会への復帰に関する情報提供を求める内容となっている。

 事前質問事項への政府回答でスペイン政府は、障害者の自立に関する調査データなどを紹介するとともに、障害者の地域社会への復帰プロセスなどを説明した。しかし最終見解で国連障害者権利委員会は、障害者の自立や地域社会への包容の手段が欠如していること、特に住居の選択が制限されていることに懸念を表明し、さらに給付の在り方にも懸念を示した。これらは、スペイン障害者代表委員会のパラレルレポートの指摘をおおむね踏まえた内容といえる。

図表6-7 第19条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スペイン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2010年7月
  • 自立した生活のモデルはLIONDAUの基本原理の1つである。
  • 「個人の自立促進と依存状態の個人への配慮法」は、法が定める手続やサービスを平等な条件で利用する機会を確保している。
  • 国王令2066/2008は、弱者を保護するための住宅の資金調達の優遇について規定している。
  • 2003年から、障害者のための「保護された贈与」が有効になった。これは、障害者の必要財産を指定し、親は売却や相続を考える必要なく、必要財産を障害者に譲渡することができる。
パラレルレポート
(CERMI)
2010年12月 2011年5月 【違反】
  • CERMIに届く告発の9%が、住居のアクセシビリティ問題についてである。この状況は、地域社会における障害者の自立した生活には重大な困難があることを意味している。
  • 第39/2006法に定められている、個人の自立と依存状況への関心を促進する仕組みは、人権についての真の視点を欠いている。
  • 給付の仕組みは、不平等で多くの問題を伴う。公式データでは、援助タイプの給付は大きく伸びているが、自立促進や包容に向けた給付はわずかしか伸びていない。
  • とりわけ公共サービスが、包容・アクセシビリティ・参加の原則に従うべきである。しかしこの視点がまだ組み込まれておらず、障害者が地域社会のサービスから遠ざけられている状況が数多くある。
【改善提案】
  • 公的サービスは、アクセシビリティの、そしてそれゆえ障害者に配慮する新しい社会モデルに従った包容の、強い牽引役として機能できる。
事前質問事項 2011年4月
  • 何人の障害者が施設で生活しているか、また、その中の何人が自発的でない形で収容されているかに関するデータを提供してください。施設を出る障害者が、どのように地域社会の生活に復帰するかの詳細を述べてください。(17)
事前質問事項への政府回答 2011年7月
  • 経済財務省によって実施された「障害、自立、自立の状況に関するアンケート2008」によれば、施設に住む障害者の数は269,139人である。(90)
  • 自治州が提供するデータによると、行政管理局が運営するそれぞれの施設に永続的に居住する障害者は合計9,042人である。(91)
  • 強制的に監禁されたものはおらず、障害者は入所申請書に署名をしている。(92)
    (93以降は、障害者の住居での状況、生活、復帰を目指すプロセスなど)
最終見解 2011年9月
  • 自立した生活を送る権利を保証し、特に地方において地域社会に含まれることを保証する資源やサービスの欠如を懸念する。(39)
  • 障害のある人々の居住地の選択が制限されており入所施設に住む人が脱施設化する代替案がないと報告されていることを懸念する。(39)
  • 社会サービスの受給資格が特定の障害等級に関連していることを懸念する。(39)
  • 適したレベルの経済支援を利用できるようにし、住む場所を選ぶ権利、個人援助を含む住宅サービス、施設サービス、その他の地域社会サービスのあらゆる領域へアクセスし、より良く地域社会に統合されるよう合理的配慮を享受できることを保証するよう奨励する。(40)
  • 自立を促進する法律が障害等級3以上の障害者のみに、かつ教育や仕事のためだけに、個人援助者を雇用する資源を限定していると懸念する。(41)
  • すべての障害者に対し、彼らの要件に応じた個人援助のための資源を拡充するよう奨励する。(42)

(6) 第24条 教育

スペインの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第24条に関する記述のポイントを図表6-8に整理した。

スペイン政府は包括的な最初の報告で、障害者への特殊教育の法的基盤として「教育に関する基本法(教育基本法)」とそれに関連する国王令を紹介し、基本原理や取組を説明した。これに対しスペイン障害者代表委員会のパラレルレポートでは、特別支援学校での教育に同意しない子供と両親が孤立する状況について多くの実例を挙げ、その背景は包容教育のための資源不足と、国内法と権利条約が規定する権利の不一致だと指摘した。

国連障害者権利委員会の事前質問事項は、包括的な最初の報告の内容を踏まえ、障害のある子供の教育やその費用に関する統計データ、障害のある子供の教育オプションの自由な選択、大学受験などでの特別支援教育の取扱いについて、情報提供を求める内容となっている。

スペイン政府は、事前質問事項への政府回答で、各質問事項に対し具体的な回答・説明を行った。ただし、特殊教育を受ける生徒一人あたりの平均費用は不明として回答していない。これらの説明を受けた国連障害者権利委員会は、最終見解ではスペインの法整備を賞賛する一方、法律の実施状況には懸念を表明し、スペイン障害者代表委員会の指摘を取り入れた形で、普通教育での合理的配慮の提供の徹底を求めた。

図表6-8 第24条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スペイン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2010年7月
  • 「教育に関する基本法(教育基本法)」は、次の基本原理による。機会の平等・教育への包容・無差別を保証し、障害に由来する事柄に特別な注意を払いながら・・・社会的不平等を補正する役割を果たす。
  • 障害により特殊教育を必要とする生徒の就学は、教育に携わる行政機関によって保証される。それは標準化と包容の原理によって導かれる。
  • 教育基本法を進展させる中で発せられた国王令により、異なった段階の教育における、最低限の教育課程が制定された。この国王令では、特殊教育を必要とする生徒のカリキュラムの適合、評価、・・・などに注目している。それを基礎にして、各行政機関は規則を制定した。
  • 改正大学基本法は、障害に関する以下の観点を整えた。・・・自立していない障害者には、大学教育を利用する機会を有し継続することが保証されるよう、特別な注意が払われる。
パラレルレポート
(CERMI)
2010年12月 2011年5月
  • 概略としては、CERMIが教育の分野で受け取る苦情は増え続けている。2010年の1年間に受けたのは30件、そのうち20件の相談は、包容教育への権利が保障されていないという状況に関する相談だった。
  • 子供を特別支援学校に通わせるよう強制する管理者の決定に同意しない場合、生徒と両親の孤立状態が生まれ、その対立は子供に重大な結果を引き起こす。
  • ほぼすべての状況に、普通教育の普及を支援するための管理資源の不足、教育に関する法律と条約が認める権利とが一致していないことが影響している。
    (その他、各自治州や個別の学校などに状況について多数列挙)
事前質問事項 2011年4月
  • 最近2年間の、一人一人に合わせた個別教育を必要とする生徒1人あたりの平均費用について、特殊教育センターでの場合と普通教育制度での場合の情報を提供してください。また、障害のある生徒の何人が特殊教育センターで教育を受け、何人が普通学校で教育を受けているかを示してください。(20)
  • 障害のある子供とその両親の両方あるいはどちらかが、妥当な価格での包容教育の選択肢を自由に選択することができるかどうかについて、情報をください。(21)
  • 特殊教育制度における卒業資格や学位は、高等教育に進む際に、普通学校での取得者と同じ有効性を持つと考えられているかどうか、明らかにしてください。特殊教育と普通教育がすべての観点で同じであることを保証するために、国がどのような施策を採用しているか説明してください。普通学校の教師が、障害に関して何らかの体系的な訓練を受けているかどうかを示してください。(22)
事前質問事項への政府回答 2011年7月
  • 個別に異なった対応が必要な生徒1人あたりの費用の見積りは提供されていない。(103)
  • 大学を除く教育において、2009年から2010年までの課程では、(障害のある生徒は141,638人が就学しており、そのうち110,963人(78.35 %)が普通教育学校に、30,675人 (21.65 %)がと特殊教育の学校に通っていた。(104)
  • 教育基本法第84条に従い、教育行政事務所は、差別が生じることのないよう取り決められている、公立・私立学校での生徒の入学許可を統制している。それによって、教育の権利、及び、平等な条件でのアクセス、両親や後見人による学校の選択の自由が保障されよう。(105)
  • 中等義務教育を修了する際に法律に規定された要件を満たしており、普通学校に就学していた生徒はすべて「中等義務教育修了」の資格を得る。それにより高等教育に進むことができる。(106)
  • 特殊教育学校に就学する生徒は就学証明書を得るが、それによって高等教育に進むことはできない。(107)
  • 普通学校の教員に関しては、初期の教育訓練と、その後の継続的な教育訓練において、障害の分野の職業訓練を受けている。(109)
最終見解 2011年9月
  • 障害児の普通教育制度への高い就学率を賞賛する。(9)
  • 障害のある子供のためにカリキュラムの修正や多様化を義務付ける教育基本法2/2006を賞賛する。(43)
  • これらの法律の実施について懸念する。障害のある子供の特殊教育への就学に反対する親が抗議できる可能性がなく、自費で教育するか普通教育での合理的配慮を自費で支払うかしか代替案がないことを懸念する。(43)
  • 合理的配慮の否定は差別をの構成要素であり、合理的配慮を提供する義務は漸進的実現を前提とせず、ただちに適用されるということを再確認する。(44)

55 スペインの包括的な最初の報告(文献15)
56 スペイン障害者代表委員会オルタナティブレポート(文献17)
57 スペイン障害者代表委員会レポート(文献18)
58 スペインの包括的な最初の報告に関する事前質問事項(文献19)
59 事前質問事項へのスペイン政府回答(文献20)
60 スペインの包括的な最初の報告に関する最終見解(文献21)
61 障害者の親が、障害者の生活維持に必要な財産を特別に譲渡できる制度で、2003年に制度化された。

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