6-4 スペインの検討プロセスに関する考察

 前述のとおり、本調査では、スペイン障害者代表委員会からのレポート以外の市民社会からのパラレルレポートを発見できなかった。そのため、本章でのスペインの検討プロセスの分析では、国連障害者権利委員会の事前質問事項や最終見解に影響を与えた、重要なレポートや情報を把握できていない可能性があることに注意する必要がある。

 事前質問事項の内容を見ると、スペイン障害者代表委員会のパラレルレポートの指摘事項を確認するための現状データや説明を求める項目に加え、パラレルレポートの内容とは無関係に、包括的な最初の報告で紹介された取組や、その他の事項についてデータ提供や詳細説明を求める項目が散見される。例えば、第6条に関しては包括的な最初の報告で挙げられた行動計画のフォローアップ情報や基本法の詳細情報の提供が求められた。また第9条に関しても、スペイン政府が包括的な最初の報告で引用した調査のフォローアップ情報の提供が求められた。このように、スペインの検討プロセスでは、国連障害者権利委員会はスペイン障害者代表委員会のパラレルレポートを重視しつつも、パラレルレポートがカバーしていない論点を自ら提出して確認する作業にも重点を置いていたものと思われる。ただし、これらは本調査で発見できなかった別のパラレルレポートの指摘を踏まえたものである可能性もある。

 また、最終見解の特徴として、他の調査対象国に比べ「スペイン政府の取組を賞賛する」という表現が多く含まれていることが挙げられる。包括的な最初の報告や事前質問事項への政府回答から分かるように、スペイン政府は近年、各分野での関連法制度の整備を進めており、それらの法整備や基本計画の策定などに対し、最終見解で肯定的な評価が示されたケースが多い。ただし、第24条の最終見解に見られるように、それらの法律の実施については懸念が示されたものも多い。また、第12条の後見制度については、スペイン障害者代表委員会の指摘にあるように法制度の見直しが遅れており、厳しい内容の最終見解となっている。

 最終見解で賞賛や肯定的評価が多く見られる点については、スペインの包括的な最初の報告の審査がチュニジアに次いで全締約国の中で2番目に実施され、国連障害者権利委員会側の審査体制が始動したばかりだったという事情が影響している可能性もある。

前のページへ次のページへ