ここでは、オーストラリアの包括的な最初の報告の検討プロセスでやりとりされた主なレポート、文書について、記述内容のポイントを比較・検討し、国連障害者権利委員会の最終見解に至る意見・情報の流れの概略を整理・分析する。図表7-2に示したレポート、文書類のうち、太字で示したものを整理・分析の対象とする。また、整理・分析の対象とする条項は、第6章までと同じく第5条、第6条、第9条、第12条、第19条、第24条の6条項とする。
(1) 第5条 平等及び無差別
オーストラリアの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第5条に関する記述のポイントを図表7-3に整理した。
オーストラリア政府は、包括的な最初の報告の中で第5条に関して、オーストラリアの差別禁止法の枠組み、オーストラリア人権委員会の権限などについて説明した。これに対し市民社会報告グループのパラレルレポートは、オーストラリア国内法で保護される権利の範囲などが人権条約よりも狭いことなどを指摘し、障害者の権利が制限されているとする具体的な6つの領域を挙げた。
一方、オーストラリア人権委員会のレポートでは、障害者差別禁止法(DDA)制定によって明確な成果が得られた領域、進展が少ない領域、ほとんど改善がない領域があると指摘した。また、英語を母語としない少数民族への対応が遅れていることを指摘した。
事前質問事項は、市民社会報告グループとオーストラリア人権委員会のレポートで指摘された幾つかの問題について、政府の対応や措置を確認する質問で構成された。
オーストラリア政府は事前質問事項への回答で、移民保健要件のより柔軟な対応や女性及びその子供への暴力を削減するための国家計画などについて説明した。また、要素横断的な差別を受けている人々への政策については、各州政府の取組を紹介した。一方、事前質問事項に対する市民社会報告グループ回答では、障害者差別禁止法の差別禁止の規定には重大な限界があり、差別を受けた障害者の申立てや救済の獲得、平等の達成を制約していると指摘した。
これらを受けて採択された、国連障害者権利委員会の最終見解は、市民社会報告グループのパラレルレポートが指摘した問題点を確認し懸念を表明する内容となった。
図表7-3 第5条に関する主要レポートなどの記述のポイント(オーストラリア)
文書名 |
提出・採択時期 |
記述のポイント |
包括的な
最初の報告67 |
2010年12月 |
- オーストラリアの差別禁止法は、人権委員会や機会平等委員会の支援の下、各管轄区域においてその区域の差別禁止法の範囲で機能する。
- オーストラリア人権委員会(AHRC)は障害者差別禁止法(DDA)の下での申立てを調査し、必要な場合には調停することができる。
- AHRCは連邦法の見直しや政府に対する政策の勧告、ガイドラインの提供、裁判手続への介入許可の要求をすることができる。
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パラレルレポート68
(Disability Representative, Advocacy,
Legal and Human Rights Organizations) |
2012年8月 |
- 保護される権利の範囲や差別理由の範囲は、オーストラリアでは国際人権条約よりもはるかに狭い。
- 障害者権利条約の義務の一部のみが国内法に取り入れられており、総合的で平等な人権保護の枠組みを提供できていない。
- 障害者の無差別への権利は、次の6つの主要な領域で制限されている。
- 領域横断的な差別への対処の欠如
- 苦情処理プロセスの有効性の欠如
- 複合的な差別からの保護の欠如
- 中傷に対する保護の欠如
- 移民、保険、年金、兵役などでの障害を理由とする差別につながる免除条項
- 障害者の権利と保護に関する社会教育の欠如、特にアボリジニとトレス海峡諸島の人々への普及の欠如
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オーストラリアとCRPDに関する情報69
(AHRC) |
2013年3月 |
- 障害者差別禁止法の結果、成果が明白な領域があった。ただし委員会は、施設における障害者への暴力や司法アクセス・・・といった領域において、進展が少ないことに留意する。(56)
- 障害者の雇用の分野でほとんど改善がなかったことを指摘する。(57)
- 委員会は、認知障害のあるアボリジニとトレス海峡諸島の人々の司法へのアクセスについて、特に懸念している。(67)
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事前質問事項70 |
2013年4月 |
- 移民法及び移民政策において、障害者に対する差別に対処するためにオーストラリアが取った措置に関する、さらなる情報を提供してください。(6)
- 障害のある女性及び先住民に対する部門を超えた差別に対処するためにいかなる措置が計画されているかに関する、さらなる情報を提供してください。(7)
|
事前質問事項への政府回答71 |
2013年7月 |
- 連邦議会移民合同常任委員会の報告書で、移民申請における保健要件につき、より柔軟なアプローチを採用することが勧告された。オーストラリア政府はその勧告の広義の目的に同意し、現在、移民保健要件の新たなアプローチを開発している。(15,17)
- 連邦政府は女性及びその子供に対する暴力を削減するための国家計画を開始した。国家計画の4つの成果目標は、サービスが暴力を受けた女性やその子供のニーズに合うことを保証する。(21)
- 横断的な差別に遭う人々のニーズを考慮して、幅広い政策が設計されている。例えば、ニューサウスウェールズ州は、・・・以下に取り組んでいる。
アボリジニ文化包容基本法案の実施。タスマニアの助成計画及び家族暴力や性的暴力を削減するためのタスマニア第1次予防戦略。(25)
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事前質問事項への回答72
(Civil Society Parallel Report Group) |
2013年9月 |
- 1992年の障害者差別禁止法(DDA)は、公共生活における特定のエリアでの直接又は間接の障害に基づく差別を違法とするが、それには重大な限界が残されている。現行の差別禁止諸法は多くの側面において、障害者が差別に関する異議の申立て、自身の権利の侵害に対する有効な救済の獲得、実質的平等の達成をすることを制約する。
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最終見解73 |
2013年9月 |
- 障害者差別禁止法において保護される権利の範囲や差別の根拠が条約におけるそれよりも狭く、すべての障害者に対して同等のレベルで法的保護を与えていないことを懸念する。(14)
- 締約国が横断的な差別に対処し、障害を理由とする差別からの保護を保障するために、子ども、先住民、女性、聴覚障害者、精神障害者を含むすべての障害者を明示的にカバーするよう差別禁止法を強化することを勧告する。(15)
|
(2) 第6条 障害のある女子
オーストラリアの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第6条に関する記述のポイントを図表7-4に整理した。
包括的な最初の報告の中でオーストラリア政府は、性差別禁止法での規定と国家障害戦略(NDS)での障害のある女子に対する暴力への対応を記述した。一方、市民社会報告グループのパラレルレポートは、障害のある女子は二重の差別に直面していること、非治療的な不妊措置や暴力の対象になりやすいことなどを問題として指摘した。これらの論点については、オーストラリア人権委員会のレポートでも同様の指摘がなされた。
これらを受けて、事前質問事項は障害のある女子が受けている差別に関するデータの提供、NDSでの具体的な取組の情報提供をオーストラリア政府に求めた。
オーストラリア政府は事前質問事項への回答で、国家障害戦略と関連した「女性及びその子供に対する暴力を削減するための国家計画」に触れ、優先的に行動すると表明した。また、障害のある女性が受けている差別や暴力に関する統計データや、ニューサウスウェールズ州が取り組む法律・サービスの改革を紹介した。一方、市民社会報告グループの回答では、NDSは障害者に対する暴力の問題を認識はしているが、対処の仕組みとしては限界があると指摘した。
これらを受けて、国連障害者権利委員会の最終見解では、特に障害ある女性への暴力に注目し、市民社会報告グループの指摘を確認した上で、障害のある女性への暴力を防止する新しい政策をとることをオーストラリア政府に求めた。
図表7-4 第6条に関する主要レポートなどの記述のポイント(オーストラリア)
文書名 |
提出・採択時期 |
記述のポイント |
包括的な
最初の報告 |
2010年12月 |
- 性差別禁止法は、性別に基づく差別を禁止しており、障害者を含め適用される。
- 国家障害戦略(NDS)報告書で障害のある女性に対する暴力の問題が繰り返し取り上げられた。NDSはこの重要な問題に取り組む。
- WWDAは障害のある女性を代表する最大組織であり、政府はWWDAに資金を提供する。
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パラレルレポート
(Disability Representative, Advocacy,
Legal and Human Rights Organizations) |
2012年8月 |
- 障害のある女性は、性別による差別と障害による差別の二重の差別に直面している。(105)
- 非治療的不妊処置は、障害のある女性への影響が特に深刻な人権侵害の1つである。(109)
- 障害のある女性は、あらゆる形態の暴力を受ける可能性が障害のない女性や男性の障害者よりも高い。(110)
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オーストラリアとCRPDに関する情報
(AHRC) |
2013年3月 |
- 調査によると、障害のある女性が長期にわたり暴力を経験する可能性がある。しかし、この暴力の発生率や性質について、国のデータは存在しない。(60)
- 障害のある女性に対する非治療的不妊化が起こり続けており、またそのような不妊化率が増加しているかもしれないことに懸念する。(71)
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事前質問事項 |
2013年4月 |
- 障害のある女性や女児に対する、暴力と複合的な差別に関するデータを提供してください。
- 国家障害戦略が、家庭内暴力から逃れている障害のある女性や女児の特殊なニーズにどのように対処するかについて説明してください。(49)
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事前質問事項への政府回答 |
2013年7月 |
- 「女性及びその子供に対する暴力を削減するための国家計画」で障害のある女性の安全と健康を改善する行動を優先的に行う。(211)
- 障害のある女性は、より高い確率で、より長期にわたって家庭内暴力、家族暴力を受けている。ビクトリア州の調査では、警察に性的暴力を通報した女性の25%は障害があった。(212)オーストラリアは、障害のある女性を守るための行動の重要性を認識している。ニューサウスウェールズ州政府は現在、家庭内暴力・家族暴力に関する法律及びサービスを改革している。(213)
|
事前質問事項への回答
(Civil Society Parallel Report Group) |
2013年9月 |
- オーストラリアでは、障害者は障害のない人よりも著しく高いレベルで、暴力、搾取、虐待、ネグレクトを経験している。
- 国立障害戦略(NDS)は、障害者が暴力、搾取とネグレクトに対してより脆弱であることを認識している。とりわけ障害のある女性は直面するリスクが増加し、犯罪の被害者になりやすく、彼女らの生きる制度的環境はその他の人々よりも悪い。
- しかし、障害者、特に障害のある女性や女児に対して高いレベルで犯される暴力を予防し、対処するための仕組みとして、NDSには著しい限界がある。
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最終見解 |
2013年9月 |
- 報告にある、障害のある女性に対する暴力、性的虐待の高い発生率を懸念する。(16)
- 締約国が障害のある女性が効果的で統合された対策制度を利用できるよう、性別に基づく暴力を防止する公的プログラムや政策に、障害のある女性に対するより包括的な考慮を盛り込むことを勧告する。(17)
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(3) 第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ
オーストラリアの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第9条に関する記述のポイントを図表7-5に整理した。
第9条に関して、オーストラリア政府は包括的な最初の報告の中で障害者差別禁止法(DDA)の下で策定された各種の「障害基準」の整備について説明した。これに対し市民社会報告グループのパラレルレポートは、これらの障害基準は障害者権利条約批准前に策定され、カバーする範囲が狭いと指摘した。しかし、オーストラリア人権委員会のレポートは、障害基準が対象とする各分野でのアクセス改善は障害者差別禁止法の成果が明白な領域であると主張した。さらに、5年ごとの基準改訂や指針作成など、具体的な運用状況についても説明している。
これらを受けて、事前質問事項で国連障害者権利委員会は、成果があったとされる公共交通のための障害基準の実施結果の情報提供を求めた。
オーストラリア政府は事前質問事項への回答で、「公共交通のための障害基準」の実施成果の検証評価を紹介するとともに、検証結果への対応の進展について、順調に進んでいる領域と遅れている領域があると報告した。
国連障害者権利委員会の最終見解は、これらの障害基準の策定に注目しつつも、それらの遵守状況には懸念を示し、その実施と監視の強化のための財源確保を勧告した。
図表7-5 第9条に関する主要レポートなどの記述のポイント(オーストラリア)
文書名 |
提出・採択時期 |
記述のポイント |
包括的な
最初の報告 |
2010年12月 |
- 2002年に発効した「交通基準」は、公共輸送機関及びインフラ、建物を提供・運用する者が満たすべき最低限のアクセシビリティ要件を規定する。
- 施設基準は、障害者が尊厳をもって施設を利用することを保証するための、最低限のアクセシビリティ基準を提供する。
政府は航空アクセス作業部会を設置した。
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パラレルレポート
(Disability Representative, Advocacy,
Legal and Human Rights Organizations) |
2012年8月 |
- オーストラリア国家障害戦略(NDS)が策定された。(140)
- 1992年の障害者差別禁止法(DDA)の下で、障害基準が開発された。これらは障害者権利条約以前に開発され、多くの点で、障害者権利条約がカバーするすべての障壁を扱うものとはなっていない。(141)
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オーストラリアとCRPDに関する情報
(AHRC) |
2013年3月 |
- 障害者差別禁止法(DDA)を通じての成果が明白な領域は、公共交通機関、施設、サービスや教育へのアクセスである。(26)
- 交通基準は5年ごとに見直される。2007年の検証評価で、交通基準の在り方に大きな変更が加えられた。(28)
- 委員会は2011年に施設基準の適用に関する指針を作成した。(32)
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事前質問事項 |
2013年4月 |
- 公共交通のための障害基準の最初の5年間の実施の検討の結果に関する情報を提供してください。(8)
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事前質問事項への政府回答 |
2013年7月 |
- 公共交通のための障害基準の最初の5年間の検証評価によって合意した政府行動を進めている。(28)
- オーストラリア政府は、3つの検討会を通じて、この検証評価への対応を実施した。幾つかの領域では順調に検討が進んだが、その他の問題ではより詳細な調査・分析が求められたため、取組が遅れている。(30)
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事前質問事項への回答
(Civil Society Parallel Report Group) |
2013年9月 |
- 障害者差別禁止法(DDA)は障害基準が全体的な差別に対処し平等を促進するための仕組みとして発展することを支援する。現行では3種類の障害基準が存在する。すなわち、障害者が利用可能な公共交通のための基準、教育のための基準、施設へのアクセスの基準である。これらの基準は権利と責任を明記し、障害者差別禁止法の下での義務を明確にする。もしそれらの基準が満たされていない場合、立証責任は障害者差別禁止法を用いて異議を申し立てる個人に課される。
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最終見解 |
2013年9月 |
- 「公共交通のための障害基準2002」及び「障害(施設、建物へのアクセス)基準2010」が、障害者のアクセシビリティへの障壁に対処するための規制を導入することに注目する。しかし、締約国におけるアクセシビリティの基準や規制の遵守の度合いには懸念が残る。(20)
- 委員会は、確実な監視と障害基準・要求の実現に十分な財源を割り当てることを勧告する。(21)
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(4) 第12条 法律の前にひとしく認められる権利
オーストラリアの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第12条に関する記述のポイントを図表7-6に整理した。
第12条は、オーストラリア政府が条約批准に際し、解釈宣言を行った条項である。すなわち、国連障害者権利委員会は、後見制度などでの代理意思決定を認めない立場をとっているが、オーストラリア政府は一定の条件の下で「十分に支援もしくは代理された意思決定」が認められると解釈した。その上でオーストラリア政府は包括的な最初の報告で、代理意思決定の位置付けや制度、その濫用防止の仕組みなどを説明した。
一方、市民社会報告グループのパラレルレポートは、オーストラリアの法律や政策が、障害者の法的能力行使の権利を損ねていると指摘した。一方、オーストラリア人権委員会のレポートは、代理意思決定の問題には触れず、障害のある人や少数民族の司法へのアクセスに懸念を示した。
事前質問事項は、包括的な最初の報告の内容を受ける形で、オーストラリアの代理意思決定の制度や現状、宣言撤回の計画についてオーストラリア政府に確認する内容となった。また、第12条に関するオーストラリアの解釈宣言の撤回の計画についても質問した。
オーストラリア政府は、事前質問事項への回答で、代理意思決定の制度や手続、代理されている障害者の保護の仕組みなどについて、各州の制度を個別に説明した。一方、解釈宣言の再検討は行っていないと回答した。これに対し市民社会報告グループは、事前質問事項への回答でパラレルレポートの主張を繰り返した。
これらを受けて採択された国連障害者権利委員会の最終見解は、代理意思決定制度が維持されていることを懸念し、直ちに代理意思決定制度を支援された意思決定へ移行させ、条約に適合させることをオーストラリア政府に勧告した。
図表7-6 第12条に関する主要レポートなどの記述のポイント(オーストラリア)
文書名 |
提出・採択時期 |
記述のポイント |
包括的な
最初の報告 |
2010年12月 |
- オーストラリアでは、代理意思決定は当該合意が不可欠とみなされる場合の最後の措置としてのみ用いられる。
- オーストラリアの後見法は、条約第16条に則って、濫用及び搾取、怠惰が起こらないことを保証することを目的とする。
(代理意思決定の制度や濫用防止の仕組みの説明)
|
パラレルレポート
(Disability Representative, Advocacy,
Legal and Human Rights Organizations) |
2012年8月 |
- オーストラリアの多くの法律、政策、慣行が、障害者の法的能力に関する推定を提供していない。(190)
- 数多くの法と政策、慣習は、障害者は法の下の存在であるとの認識を否定もしくは損ね、障害者の法的能力を行使する権利を否定もしくは損ねる。(190)
- 後見、財産管理と精神衛生の法律は、法的能力、財産管理と代理意思決定の範囲を規定する。これらの法は、障害者権利条約が求める義務を満たすことはできない。(191)
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オーストラリアとCRPDに関する情報
(AHRC) |
2013年3月 |
- 委員会はコミュニケーション障害のある人の司法へのアクセスを懸念している。(65)
- 委員会は、認知障害のあるアボリジニとトレス海峡諸島の人々の司法へのアクセスについて、特に懸念している。(67)
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事前質問事項 |
2013年4月 |
- 個人が合理的な判断を下すことが不可能であるか否か、またいかなる場合には不可能であるかについて誰が評価するのか説明してください。(10)
- 条約第12条及び第14条に関する解釈宣言に従って、代理意思決定もしくは強制処置の下に置かれた障害者数に関する統計データを提供してください。(11)
- 障害者の決定、選択及び選好が補助者、後見人によって代理されている場合において、障害者を虐待、搾取及び(もしくは)ネグレクトから保護するためにいかなる仕組みが設けられていますか?(12)
- 12条に関してなされたオーストラリアの宣言の撤回に関する計画の情報を提供してください。(14)
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事前質問事項への政府回答 |
2013年7月 |
- ニューサウスウェールズ州では、現在その人が後見裁判所による後見人を必要としているかの決定は、医師の意見を受けることができる。(44)
- 事前にその人が自身の問題を管理できないと明白である場合、州最高裁判所や後見裁判所によって財産管理命令を執行することができる。(46)
- 第10段落で例示した州について回答を提供する。2012年6月30日までの1年間に、タスマニア州では2060人がそのような命令を受けた。(51)
- ニューサウスウェールズ州では、後見人は後見法の原則に従わねばならない。そこでは個人はネグレクト、虐待、搾取から保護されねばならないと述べられている。(54)
- 条約に対するオーストラリアの解釈宣言を再検討する作業は行われていない。しかし、解釈宣言が言及する権利の実施を考慮するために、幾つかの取組がなされている。(62)
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事前質問事項への回答
(Civil Society Parallel Report Group) |
2013年9月 |
- オーストラリアにおける数多くの法と政策、慣習は、障害者は法の下の存在であるとの認識をを否定もしくは損ね、障害者の法的能力を行使する権利を否定もしくは損ねる。
- CRPDの批准に際してオーストラリアは、一定の場合には「十分に支援もしくは代理された意思決定」を許可するものと条約を理解する旨の解釈宣言をした。調査は解釈宣言によって与えられる12条の解釈の範囲内で進められることになるが、それは改革のための漸進的な勧告を制限する要素になりうる。
|
最終見解 |
2013年9月 |
- 代理意思決定の体制が維持されているおそれがあること、法的能力の行使において意思決定を支える詳細かつ実行可能な枠組みが未だ存在していないように思われることが懸念される。(24)
- 直ちに代理意思決定制度から支援された意思決定に置き換え、様々な領域で人間の自立や意思、行動を尊重する手段を提供し、条約第12条に完全に適合させることを勧告する。(25)
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(5) 第19条 自立した生活及び地域社会への包容
オーストラリアの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第19条に関する記述のポイントを図表7-7に整理した。
包括的な最初の報告でオーストラリア政府は、施設で暮らす人の割合が大幅に低下したことを示し、ケアプログラムや公的住宅への財政支援などの施策について説明した。これに対し市民社会報告グループのパラレルレポートは、様々な要因のため、障害者は実質的に自立した生活や地域社会への包容を制限されていると指摘した。一方、オーストラリア人権委員会のレポートは住宅の問題は特に取り上げず、地域社会に対する教育イニシアチブについて肯定的に言及した。
事前質問事項は市民社会報告グループのパラレルレポートの指摘した居住の問題を取り上げ、指摘された問題点に対する政府の取組の説明と、関連するデータの提供をオーストラリア政府に求めた。
オーストラリア政府は事前質問事項への回答で、国家障害協定の原則を紹介し、脱施設化や施設形態の適正化の多くの取組に資金提供したことを説明した。また、施設で暮らす障害者の減少と、代替援助を受け自立した生活を送る障害者の増加に関するデータを示した。一方、市民社会報告グループは、事前質問事項への回答の中で、オーストラリア政府の新たな障害者支援プログラムについて肯定的に紹介した。
これらを受けて採択された国連障害者権利委員会の最終見解は、市民社会報告グループのパラレルレポートの主張に沿う形で、障害者の居住の制約に懸念を表明し、障害者が地域社会で暮らすための支援の強化、障害者の自由な居住選択を実現する取組をオーストラリア政府に勧告した。
図表7-7 第19条に関する主要レポートなどの記述のポイント(オーストラリア)
文書名 |
提出・採択時期 |
記述のポイント |
包括的な
最初の報告 |
2010年12月 |
- 介護施設で生活する人は1981年には10人に1人だったが、2003年には640人に1人となった。
- 家庭・地域介護プログラムは、家庭援助、個人援助、介護サービスなどを提供している。
- 政府は公的住宅の運営のため資金を提供する。加えて、住宅がアクセシブルであることを確保するため、多数の取組がある。
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パラレルレポート
(Disability Representative, Advocacy,
Legal and Human Rights Organizations) |
2012年8月 |
- オーストラリアの障害者は、自立して暮らす権利、誰とどこで暮らすかを自由に選ぶ権利、地域社会に包容される権利を制限されている。
- 公営、民間住宅の設計上のアクセシビリティの欠如や、適切な支援サービスの欠如が重要な障壁となっている。(328)
- 支援入所施設の枠組みは、居住のニーズと支援のニーズを分離せず、多くの障害者が必要とする支援をうけるため入所施設に住むことを強制している。(329)
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オーストラリアとCRPDに関する情報
(AHRC) |
2013年3月 |
- 政府は、共同体全体において人権の理解を促進するため、広範な教育イニシアチブに投資を行ってきた。(14)
- 委員会はこのイニシアチブを歓迎する。しかし、そのような訓練は・・・公共サービスの実践に組み込まれる必要があることに留意する。(15)
|
事前質問事項 |
2013年4月 |
- 障害者が支援を受けるために生活しなければならない「一時的施設」の再開発を禁止するためにどのような措置がとられていますか。
- 政府はどのようにして、自立した生活の権利を確保するという障害者の権利を保障しますか。
- 性別、障害、年齢、先住民の要素で区分された、施設内のケアから自立した生活への移行を示すデータを提供してください。(26)
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事前質問事項への政府回答 |
2013年7月 |
- 国家障害協定の下、政府が約束した3つの重要な成果の1つは、障害者ができる限り、選択、健康、自立した生活をする機会を享受することである。政府は、施設支援についての資金提供の全責任を負っている。その一方、連邦は、脱施設化やより適切な形態の施設という目的を支援するため、多くの追加の取組に資金提供した。(113)
- 2003年以降、制度施設の障害者の数は25%減少した。同時に、代替援助を受ける障害者の数は45%増加した。制度的介護から自立した生活への移行について、性別、障害、年齢、民族ごとに区分したデータはない。(117)
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事前質問事項への回答
(Civil Society Parallel Report Group) |
2013年9月 |
- 我々は、オーストラリアにおける自己主導型の障害者支援の国家プログラムである、DisabilityCareの導入を歓迎する。DisabilityCareは障害者の権利に基づくアプローチを取り、以前の医療モデルを基礎とした診断による適格性及び評価ではなく、機能的能力のアプローチを採用している。
- しかし、計画を展開するにあたって、国家障害保険制度法(National Disabilty Insurance Scheme Act)の目的と原則を一致させ、それを確実に遂行することが市民社会から求められていることについて、大きな見落としがある。
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最終見解 |
2013年9月 |
- 多くの住宅施設を閉じ、新たな生活準備制度を再生する政策にもかかわらず、障害者の多くは、依然として障害者支援を受けるために、入所施設で生活することを余儀なくされていることを懸念する。(41)
- 締約国が入所施設の閉鎖に向けた国家フレームワークを展開・実施し、障害者が地域社会で暮らせるように必要な支援サービスの財源を割り当てることを奨励する。締約国は直ちに、障害者がどこに誰と暮らすかについては自由に選択し、彼らの住まいがどこにあろうと必要な支援を受けるにふさわしい地位にあることを確保するための行動をとるよう勧告する。(42)
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(6) 第24条 教育
オーストラリアの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第24条に関する記述のポイントを図表7-8に整理した。
オーストラリア政府は包括的な最初の報告の中で、障害者の普通学級への参加率などのデータを示し、合理的配慮の提供や障害者支援プログラムなどの取組について説明した。
前述のとおり、オーストラリアでは教育についても障害基準が定められたが、これについて市民社会報告グループのパラレルレポートは、基準が履行されても障害者の教育アクセスや教育の平等には重大な問題があること、障害者が中等教育を修了する割合が障害のない人に比べ大幅に低いことを指摘した。また、オーストラリア人権委員会のレポートも、教育のための障害基準は公共交通とは異なり、有効でなかったと指摘した。
これらを受けて、事前質問事項で国連障害者権利委員会は、改正された障害者差別禁止法での教育分野の方針を問うとともに、障害者の教育の現状データの提供をオーストラリア政府に求めた。
オーストラリア政府は事前質問事項への回答で、障害者差別禁止法は教育での障害差別を違法としていると述べ、さらに教育のための障害基準の実施後5年間の検証評価を行い、その勧告の実施に取り組んでいることを報告した。また、障害者の教育統計のうち、就学前の障害ある子供については全国統一データがないと報告した。これに対し市民社会報告グループは事前質問への回答で、現行政策の有効性や各州・地域の教育のための障害基準の実施水準に関する調査の実施を提言した。
これらを受けて採択された国連障害者権利委員会の最終見解は、市民社会報告グループが指摘した問題や主張に沿って、障害者の教育の現状に懸念を示し、教育のための障害基準の実施状況の調査、改善目標の設定、包容教育や合理的配慮の強化などを勧告した。
図表7-8 第24条に関する主要レポートなどの記述のポイント(オーストラリア)
文書名 |
提出・採択時期 |
記述のポイント |
包括的な
最初の報告 |
2010年12月 |
- 2003年には、知的障害のある生徒の45%が普通学級に参加する一方、38%が特殊学級、17%が特殊学校に通っている。
- いずれの州も障害のある生徒のニーズに合わせた合理的配慮の提供を行っている。
- 高等教育障害者支援プログラムは、障害のある学生の高等教育へのアクセスと参加を促進するものである。
- 職業教育訓練において不利な立場にある生徒の成果の改善を支援する委員会が設立された。
- NSWは「仕事への移行」プログラムと呼ばれ、学校を離れた障害者にスキル開発を図り、雇用や職業訓練、高等教育への参入を助ける。
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パラレルレポート
(Disability Representative, Advocacy,
Legal and Human Rights Organizations) |
2012年8月 |
- 障害者差別禁止法(DDA)の下で設けられた教育のための障害基準は、障害のある生徒が他の生徒と同等の水準で教育にアクセスし参加することを可能にするための、教育及び訓練を提供する者に対する最小限の要件を規定する。しかし、教育基準の実施にもかかわらず、教育へのアクセス、教育の平等、教育の権利は、障害のある子ども、若者、大人にとって依然として重大な問題であるとの報告がなされている。
- 統計によると、中等教育を修了する障害者は29.6%であり、障害のない人では49.3%である。(432)
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オーストラリアとCRPDに関する情報
(AHRC) |
2013年3月 |
- 教育のための障害基準2005は、障害のある生徒がアクセスし、教育に参加することができることと、差別のない研修を受け、他の生徒と同じ基準であることを保証するために適用される原則について定めている。(37)
- 教育分野における差別の苦情のレベル(平均年率9%)が、教育基準は交通基準と同様の有益な効果を持っていなかったことを示している。(38)
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事前質問事項 |
2013年4月 |
- 2009年に改正された障害者差別禁止法(1992)が、どのように障害者に対する差別を禁止し、すべての教育において完全に障害者が利用可能で、包容的で、質の高い教育を提供するのか示してください。(31)
- 幼児期、初等、中等及び高等教育/研修に参加している、知的、物理的、聴覚、視覚的、心理社会的障害者の現在の人数と、障害に基づく理由のために教育/研修を利用することのできない人の人数に関する情報を提供してください。(32)
- 高等教育課程に在籍する障害のある学生の割合を提供してください。(33)
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事前質問事項への政府回答 |
2013年7月 |
- 障害者差別禁止法は、教育を含め、定められた公共生活の領域において、障害に基づく差別を違法とする。
- さらに教育のための障害基準は、障害者差別禁止法に含まれる教育に関する法的義務を明確化し詳述する。
- この基準の最初の5年の検証評価が発表され、効果を改善するための14の勧告がなされた。政府は、州などと協力して、学校に関する勧告に取り組んでいる。(137)
- オーストラリア政府は、就学前の障害のある子供に関する全国統一のデータを収集していない。この領域のデータ改善に向けた取組を行っている。州レベルのデータは利用可能である。(138)
- 2007年にオーストラリアの高等教育に在籍する障害のある学生の数は30244人で、全体の4.1%となっている。2011年では、42111人、5.1%である。(139)
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事前質問事項への回答
(Civil Society Parallel Report Group) |
2013年9月 |
- 障害者差別禁止法(DDA)の下で設けられた教育のための障害基準(教育基準)は、障害のある生徒が他の学生と同等の水準で教育にアクセスし参加することを可能にするための、教育及び訓練を提供する者に対する最小限の要件を規定する。しかし、教育のための障害基準の実施にもかかわらず、教育へのアクセス、教育の平等、教育の権利は、障害のある子ども、若者、大人にとって依然として重大な問題であるとの報告がなされている。
【改善提案】
- オーストラリアが現行の包容政策の有効性及び、各州及び地域における教育のための障害基準の実施の程度について、主要な調査を行うこと。
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最終見解 |
2013年9月 |
- 教育のための障害基準が作成されているにもかかわらず、障害のある学生が特殊学校に置かれ続け、普通学校にいる障害のある生徒の大部分は特殊学級に閉じ込められていることを懸念する。さらに、普通学校に入学した障害のある生徒は合理的配慮の不足のために、標準以下の教育を受けていることを懸念する。(45)
- 障害のある生徒の中等教育修了率が障害のない生徒のおよそ半分であることも懸念される。(45)
- 教育において必要とされる質の合理的配慮を提供する努力を向上すること。(46a)
- 現在の包容教育政策の有効性や、各州や領域において教育のための障害基準がどの程度実施されているか調査すること。(46b)
- すべての教育・訓練レベルにおける障害のある生徒の参加・修了率を高める目標を設定すること。(46c)
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67 オーストラリアの包括的な最初の報告(文献22)
68 市民社会報告グループパラレルレポート(文献23)
69 オーストラリア人権委員会レポート(文献24)
70 オーストラリアの包括的な最初の報告に関する事前質問事項(文献25)
71 事前質問事項へのオーストラリア政府回答(文献26)
72 事前質問事項への市民社会報告グループ回答(文献27)
73 オーストラリアの包括的な最初の報告に関する最終見解(文献28)
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