7-4 オーストラリアの検討プロセスに関する考察

 オーストラリアの包括的な最初の報告の検討プロセスで特徴的なのは、国連障害者権利委員会の事前質問事項、最終見解の内容が、市民社会報告グループのパラレルレポートや事前質問事項への回答の内容・主張を大幅に取り入れたものになっていることである。特に第5条、第12条、第19条、第24条の最終見解は、市民社会報告グループの主張・意見にほぼ沿った内容となっている。

 こうした厳しい最終見解となった原因の一端は、オーストラリア政府の姿勢にあると考えられる。1つは、障害者政策に関する国連障害者権利委員会とオーストラリア政府との考えの相違であり、代表的な例として第12条に関するオーストラリアの解釈宣言が挙げられる。事前質問事項で国連障害者権利委員会は解釈宣言の撤回の計画について質問したが、オーストラリア政府はその再検討は行っていないと回答し74、国連障害者権利委員会が求める形に政策を改める意思がないことを示した。こうした基本的な方針の相違が、厳しい最終見解につながった一因と考えられる。また、事前質問事項への政府回答の内容を見ると、各州の施策を個別に説明したり、全国統計の整備の遅れを報告している箇所も少なくない。これらは、連邦制をとるオーストラリアではやむを得ない面があるものの、各分野での条約の実施状況についても障害者権利委員会から厳しい評価を受ける一因となった可能性がある。

 また、事前質問事項や最終見解の内容を見ると、韓国などに比べ、独立した仕組みであるオーストラリア人権委員会の主張や意見を国連障害者権利委員会があまり重視しなかったとの印象を受ける。オーストラリア人権委員会の意見が市民社会報告グループの意見と一致する点については事前質問事項や最終見解に反映されているが、両者が異なる論点を挙げた場合や見解が一致しない場合には、市民社会報告グループの論点や主張が主に採用されている。オーストラリア人権委員会のレポートは、第12条に関して代理意思決定の問題に触れないなど、国連障害者権利委員会の立場からすればオーストラリア政府寄りとの印象を与える部分がある。こうしたことが国連障害者権利委員会のオーストラリア人権委員会の信頼性に関する評価や判断に影響した可能性が指摘できる。

 以上の各考察をまとめると、オーストラリアの検討プロセスは、締約国の政府及び独立した仕組みと国連障害者権利委員会との対話があまりうまく機能しなかった例として見ることができよう。


74 事前質問事項へのオーストラリア政府回答、paragraph62

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