8-3 主要レポートの記述内容のポイント
ここでは、ニュージーランドの包括的な最初の報告の検討プロセスでやりとりされた主なレポート、文書について、記述内容のポイントを比較・検討し、国連障害者権利委員会の最終見解に至る意見・情報の流れの概略を整理・分析する。図表8-2に示したレポート、文書類のうち、太字で示したものを整理・分析の対象とする。また、整理・分析の対象とする条項は、第6章までと同じく第5条、第6条、第9条、第12条、第19条、第24条の6条項とする。
(1) 第5条 平等及び無差別
ニュージーランドの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第5条に関する記述のポイントを図表8-3に整理した。
包括的な最初の報告の中でニュージーランド政府は、ニュージーランドの権利章典などでの差別禁止規定を説明しつつ、障害者が差別の対象となっている現状に言及した。一方、障害者会議のレポートでは、合理的配慮への理解の不足を指摘するとともに、ニュージーランド政府が2013年に行った「公衆衛生及び障害法」の改正の問題点を指摘した。事前質問事項で国連障害者権利委員会は、障害者差別に関する統計データの提供を求めるとともに、障害者会議が指摘した問題点への政府の対応について質問した。
事前質問への政府回答でニュージーランド政府は、事前質問事項が挙げた公衆衛生及び障害法と人権法の見直しを行う意思がないことを回答した。一方、ニュージーランド人権委員会は回答書の中で、公衆衛生及び障害法改正の撤回を求めていること、合理的配慮への理解の欠如の問題が残っていることを指摘した。
これらを受けて国連障害者権利委員会の最終見解では、事前質問事項で挙げた2つの法律に関する懸念を表明し、これらの見直しを行うよう勧告した。これは、障害者会議及びニュージーランド人権委員会の主張に沿った内容といえる。
文書名 | 提出・採択時期 | 記述のポイント記述のポイント | ||
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包括的な最初の報告79 | 2012年5月 |
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事前質問事項と政府への質問80 (Disabled Persons Assembly, Inc.) |
2014年3月 | - |
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事前質問事項81 | 2014年4月 |
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事前質問事項への政府回答82 | 2014年6月 |
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事前質問事項へのNZHRC回答83 | 2014年8月 |
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最終見解84 | 2014年10月 | - |
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(2) 第6条 障害のある女子
ニュージーランドの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第6条に関する記述のポイントを図表8-4に整理した。
包括的な最初の報告の中でニュージーランド政府は、障害のある女性が障害と性別の二重差別の対象となっており、雇用の分野では労働に適さないという待遇に不当に置かれていると指摘しつつ、政府の包括的な支援があることを述べている。一方、障害者会議のレポートでは、第6条については特に言及がなかった。事前質問事項は、ニュージーランド政府が挙げた障害のある女性に対する政府の様々な支援について、特に障害女性の雇用、暴力への対策などについて具体的な説明を求めた。
事前質問事項への政府回答では、障害者への暴力対策の6つのプロジェクトをはじめ、若者開発省、法務省、マオリ事務省、ニュージーランド警察などの取組を説明した。一方、ニュージーランド人権委員会の回答は、障害女性を対象とするプロジェクトは一部であること、プログラムの有効性に関する評価が行われていないことを指摘した。
これらを受けて、国連障害者権利委員会の最終見解は、ニュージーランド政府(社会開発省)の障害ある女性の援助プロジェクトを挙げ、その取組の継続・強化を勧告した。
文書名 | 提出・採択時期 | 記述のポイント |
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包括的な最初の報告 | 2012年5月 |
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事前質問事項と政府への質問 (Disabled Persons Assembly, Inc.) | 2014年3月 | - |
事前質問事項 | 2014年4月 |
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事前質問事項への政府回答 | 2014年6月 |
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事前質問事項へのNZHRC回答 | 2014年8月 |
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最終見解 | 2014年10月 |
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(3) 第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ
ニュージーランドの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第9条に関する記述のポイントを図表8-5に整理した。
包括的な最初の報告でニュージーランド政府は、建築法のアクセシビリティ規定について説明する一方、交通分野ではアクセシビリティの問題があることを指摘した。また、障害者会議のレポートは、進行中の建築法見直しプロセスに障害者団体の関与が薄いこと、政府のウェブアクセシビリティ基準の遵守率が低いことを指摘した。これらを踏まえて、事前質問事項では建築法のアクセシビリティ規定の適用範囲について質問するとともに、ウェブアクセシビリティ基準のコンプライアンス向上の取組について尋ねた。
事前質問事項への政府回答では、建築法の規定の適用範囲を説明した上で、建築基準を満たす建物が少ないことを認めた。また、ウェブ基準についてはその遵守状況の自己審査について説明した。一方、ニュージーランド人権委員会の回答では、建築法改正の問題点を指摘した。
これらを受けて、国連障害者権利委員会の最終見解では、公的な建物とウェブサイトのアクセシビリティについて障害者のアクセスを保証すること、将来的に個人住宅にも対象を広げることを勧告した。
文書名 | 提出・採択時期 | 記述のポイント記述のポイント | |
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包括的な最初の報告 | 2012年5月 |
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- |
事前質問事項と政府への質問 (Disabled Persons Assembly, Inc.) | 2014年3月 |
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事前質問事項 | 2014年4月 |
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事前質問事項への政府回答 | 2014年6月 |
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事前質問事項へのNZHRC回答 | 2014年8月 |
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- |
最終見解 | 2014年10月 |
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(4) 第12条 法律の前にひとしく認められる権利
ニュージーランドの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第12条に関する記述のポイントを図表8-6に整理した。
第12条に関しては、ニュージーランド政府は包括的な最初の報告の中で人格権及び財産権保護法が定める法定管財人制度の確認がでについて説明した。一方、障害者会議のレポートは、ニュージーランドでは代理意思決定が頻繁に用いられていると指摘した。これらを踏まえて事前質問事項では、管財人制度が代理意思決定を含むことを指摘した上で、その見直しの取組について尋ねた。
事前質問事項への政府回答では、障害者の法的能力行使の保証への積極的な姿勢を示す一方、支援された意思決定の考え方についてはまだなじみが薄く、学習し理解を進めることを目標とすることを示した。また、ニュージーランド人権委員会の回答では、政府が新しい行動計画で障害者の法的能力行使の保証に優先的に取り組むと制約したことへの歓迎を示した。
これらを受けて、国連障害者権利委員会の最終見解は、代理意思決定を支援された意思決定へ早急に移行させるよう勧告した。
文書名 | 提出・採択時期 | 記述のポイント |
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包括的な最初の報告 | 2012年5月 |
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事前質問事項と政府への質問 (Disabled Persons Assembly, Inc.) | 2014年3月 |
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事前質問事項 | 2014年4月 |
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事前質問事項への政府回答 | 2014年6月 |
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事前質問事項へのNZHRC回答 | 2014年8月 |
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最終見解 | 2014年10月 |
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(5) 第19条 自立した生活及び地域社会への包容
ニュージーランドの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第19条に関する記述のポイントを図表8-7に整理した。
包括的な最初の報告でニュージーランド政府は、障害者の自立化に関する取組の考え方を示す一方、障害者の居住や生活の選択肢が限定される場合があることを認め、新しい「自立生活モデル」によって問題の解決を目指すことを述べた。一方、障害者会議のレポートは、施設で暮らす障害者が居住や生活形態の自由を制限されている問題を指摘した。これらを踏まえて事前質問事項では、ニュージーランド政府が示した「自立生活モデル」などについて、最新情報の提供を求めた。
事前質問事項への政府回答では、ニュージーランド政府が総合的に取り組んでいる「良い生活を可能に(EGL)プロジェクト」の考え方や実施状況を紹介した。これらを受けて国連障害者権利委員会の最終見解では、障害者の居住の選択肢について懸念を示しつつ、ニュージーランド政府が進める自立生活モデルとEGLプロジェクトの拡張を勧告した。
文書名 | 提出・採択時期 | 記述のポイント |
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包括的な最初の報告 | 2012年5月 |
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事前質問事項と政府への質問 (Disabled Persons Assembly, Inc.) | 2014年3月 |
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事前質問事項 | 2014年4月 |
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事前質問事項への政府回答 | 2014年6月 |
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事前質問事項へのNZHRC回答 | 2014年8月 | - |
最終見解 | 2014年10月 |
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(6) 第24条 教育
ニュージーランドの主要レポート及び文書類の障害者権利条約第24条に関する記述のポイントを図表8-8に整理した。
ニュージーランド政府は包括的な最初の報告で、特別支援教育に関する考え方と、障害者教育の現状について説明した。一方、障害者会議のレポートは、障害のある子供が学校で孤立しいじめの対象となっていることを指摘した。
これらを踏まえて事前質問事項では、障害者の高等教育参加率が低いこと、学校でのいじめの問題を指摘し、それらに対する政府の対応を尋ねた。また、子供の人権委員会の最終見解を取り上げ、幼児教育における障害児への対応について質問した。
事前質問事項への政府回答では、事前質問事項が挙げた3つの論点について、それぞれ具体的な取組の内容や目標について説明した。また、ニュージーランド人権委員会の回答では、いじめ防止の取組に人権委員会も参加している状況を紹介した。
これらを受けて国連障害者権利委員会の最終見解では、障害者の高等教育への参加促進と学校での障害のある生徒へのいじめ防止プログラム、包容教育に対する権利の創設を勧告した。
文書名 | 提出・採択時期 | 記述のポイント | ||
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包括的な最初の報告 | 2012年5月 |
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事前質問事項と政府への質問 (Disabled Persons Assembly, Inc.) | 2014年3月 | - |
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事前質問事項 | 2014年4月 |
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事前質問事項への政府回答 | 2014年6月 |
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事前質問事項へのNZHRC回答 | 2014年8月 | - |
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最終見解 | 2014年10月 |
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79 ニュージーランドの包括的な最初の報告(文献29)
80 障害者会議レポート(文献30)
81 ニュージーランドの包括的な最初の報告に関する事前質問事項(文献31)
82 事前質問事項へのニュージーランド政府回答(文献32)
83 ニュージーランド人権委員会レポート(文献33)
84 ニュージーランドの包括的な最初の報告に関する最終見解(文献34)