8-4 ニュージーランドの検討プロセスに関する考察

 ニュージーランド政府及び関係機関・団体と国連障害者権利委員会の間でやりとりされた文書類の内容を検討すると、次のことが指摘できる。

  • ニュージーランド政府と国連障害者権利委員会とのやりとりを追うと、意見の相違や対立がないわけではないが、お互いに論点について共通の理解を持ち、意味のある意見交換や対話が成立していたという印象を得る。
  • ニュージーランド政府は、多くの領域で自分たちの取組が万全でないことを認め、今後さらに施策の充実やレベルアップを図る前提で、取組の現状について報告している。例えば、第12条で論点となった障害者の法的能力について、ニュージーランド政府は包括的な最初の報告で代理意思決定の制度があることを認め、事前質問事項への政府回答では、支援された意思決定への移行について、まずその学習から取り組むという姿勢を表明している。
  • 一方、国連障害者権利委員会はニュージーランド政府に対し、まったく新しい取組を求めるというよりも、ニュージーランド政府が取り組んでいる、あるいは取り組むことを表明した施策の促進・強化を求めるコメントが多く見られる。

 検討プロセスをレポート、文書の内容で追うと、ニュージーランド政府と国連障害者権利委員会とのやりとりは、全体として建設的対話と呼ぶにふさわしいものになっていたといえる。また、市民社会や独立した仕組みからも独自のレポートが提出され、国連障害者権利委員会の立場からみれば、想定していた各主体からの審査のための情報が揃った状態で建設的対話と審査に臨むことができたケースだったと考えられる。

ただし、個々の論点を見ると、ニュージーランド政府と市民社会、あるいは国連障害者権利委員会との意見の相違がなかったわけではない。例えば、第5条で論点となった公衆衛生及び障害法と人権法第52条の問題については、ニュージーランド政府は検討プロセスの中では新たな対応を表明しなかった85

このような個別の意見の相違や対立はあり、最終見解でも個々に指摘されている。しかし全体としてみれば、関係する各主体からの情報提供や、対話に臨むニュージーランド政府の姿勢が国連障害者権利委員会が期待する形に近く、円滑な検討につながったと考えられる。


85 事前質問事項へのニュージーランド政府回答(文献32)、paragraph24

前のページへ次のページへ