2-5 自己評価及び移行計画

 アメリカでは、ADA第2部で、公共団体による移行計画及び自己評価の策定を義務付けている。これは、我が国の障害者差別解消法における事前環境整備で指摘されるような建築物の障壁除去などについて、公共団体が公共施設などを自ら評価し、その変更点を明らかにして、変更の計画を示すものである。前述のとおり、この移行計画及び自己評価の策定は、各公共団体のADAコーディネーターの職務に含まれている。

 合理的配慮の観点からは、障害者個人に対する個別の配慮ではなく、あくまで事前の環境整備に関する措置であるが、アメリカにおいても基礎的な事前の環境整備が重視されていること、さらにこれに障害者の意見が取り入れられていることを踏まえ、本節で取り上げることとした。

1)公共団体における移行計画及び自己評価の策定

 公共団体は、ADAを遵守し、合理的配慮を提供するため、法律の施行後に移行計画及び自己評価を策定することが求められている。1991年のADA施行規則では、規模にかかわらず、すべての公共団体に対して、サービス、政策、取組を評価し、ADAの要件に会わない場合には変更(modify)することを求めている。そして、50人以上の職員がいる公共団体は、プログラムを達成するための構造変化を詳述し、完了のための時間枠を特定する移行計画(transition plan)を策定する必要がある43、としている。

 注目すべき点として、公共団体は、関心のある個人が意見を提案することによって、自己評価及び移行計画のプロセスに参加する機会を与える必要がある、ということである44
 自己評価とは、すべてのサービス、プログラム、活動について、物理的障壁又は障害者の参加を制限・排除する政策、取組、手続を確認(identify)するためのレビューである。自己評価によって、問題が見つかった政策、取組、手続については、合理的な変更をしなければならない。
 2010年の施行規則では、とりわけ公共団体に、新たな自己評価の実施や新移行計画を策定することを求めていないが、それを奨励されている。小規模な公共団体向けのガイドラインでは、自己評価の定期的なレビューは、ADAの遵守を維持するために行われるが、一度、自己評価を行った公共団体は別途行う必要はない45、としている。したがって、一度、移行計画及び自己評価を策定した場合、その後、新たに自己評価を行う義務はないが、司法省は、定期的な自己評価を奨励している。

 移行計画及び自己評価の事例として、インディアナ州ジョンソン郡が2015年に発行した(パブリックレビューのためのドラフト版)報告書を挙げる(参考資料2-5を参照のこと)。
 ジョンソン郡の報告書では、郡のプログラムなどが行われる施設に対して、自己評価をしている。自己評価の結果、郡の施設における建築上の障壁の数を確認し、これを修正するための費用を816,140ドルと見積もっている。これらの障壁について、アクセシビリティの制限度合い及び是正の優先度によって、高、中、低に分類し、30年間のプログラムとして分割して改修を実施する、としている(ただし、実施スケジュール、予算、優先度は、苦情や新たな規則、資金調達によって影響を受ける可能性があるとされている)。
 なお、移行計画及び自己評価を2度実施している公共団体の事例として、カリフォルニア州サンタローザ市を挙げておく(参考資料2-6を参照のこと)。サンタローザ市は、1993年に移行計画及び自己評価を完成しているが、2006年に更新版を発行している。

2)司法省のProject Civic Access46

 アメリカにおいては、公共団体の移行計画及び自己評価の策定に加えて、司法省が、公共団体の環境整備の取組を促すプログラムを行っている。これは、Project Civic Accessとして、司法省が、公共団体が物理的なコミュニケーション障壁を取り除くことでADAに従うことを保障するよう実施するものである。
 1999年8月に、司法省は、オハイオ州トレド市と公共施設などの障壁を取り除く合意をした。この合意を契機に、地域がただちにADA第2部の要件を順守できるよう、他の地方及び州政府について同様のレビューを行った。Project Civic Accessとは、このような取組を指している。
 Project Civic Accessの一環として、公共団と合意協定を結び、現在、全50州(プエルトリコ、コロンビア特別地区を含む)の203地域218件の合意をしている。さらに多くのコミュニティが参加するよう、協定の情報を公表している。

 合意協定に当たり、司法省は、各州でコンプライアンスレビューを行っている。コンプライアンスレビューの調査対象の場所は、司法省の訪問の要望に基づき選定され、多くの場合、地方及び州政府の最も一般的な形態である小規模都市が選ばれている。その後、コンプライアンスレビューによって指摘された未解決の問題を解決するため、合意協定が締結される。
 また、司法省は、Project Civic Accessを通じて、公共団体に共通の問題を発見し、それを整理した「Cities and Counties: First Steps Toward Solving Common ADA Problems」47という報告書を公表している。


43 U.S. Department of Justice Civil Rights Division Disability Rights Section,ADA Update:A Primer for State and Local Governments,1996,p.15
44 U.S. Department of Justice Civil Rights Division Disability Rights Section,ADA Update:A Primer for State and Local Governments,1996,p.15
45 Civil Rights Division of the U.S. Department of Justice,ADA Guide for Small Towns,2000,p.9
46 ADA.gov http://www.ada.gov/civicac.htm
47 U.S. Department of Justice Civil Rights Division Disability Rights Section http://www.ada.gov/civiccommonprobs.htm

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