3-2 パナマの包括的な最初の報告の国連審査状況

(1) 審査プロセスの現状

 パナマ政府は2007年3月30日に障害者権利条約と選択議定書に署名し、2007年7月10日に法令第25号により批准した。これは、全締約国の中でもハンガリーに次いで2番目に早い批准であった。しかし、包括的な最初の報告の提出は2014年6月26日と遅く、その影響で障害者権利委員会での審査プロセスも大幅に遅れている。2017年3月の第17会期で事前質問事項の検討が行われる予定となっている。

図表3-2 パナマの報告書提出状況(図表3-2のテキスト版

(出所:障害者権利委員会サイト及び各資料より作成)

(2) パナマの審査プロセスにおける主な論点

 ここでは、パナマ政府が提出した包括的な最初の報告及び2017年2月に提出されたパナマ全国障害者ネットワークほかによるパラレルレポートについて、主要条項に関する論点のポイントを示す。

第5条 平等及び無差別

 包括的な最初の報告では、障害者機会均等化法と政令第88号による規則が、障害者差別禁止に関する法制度の中核であると述べている。また、これらの法律の主文は点字化されているものの、同国では手話通訳を職業とする人はいないと述べている。
 パラレルレポートでは、これらの法律があるにもかかわらず、障害者差別禁止は不十分だと指摘する一方、2016年法令第15号で障害の定義が再構成されたと述べている。パラレルレポートが言及した2016年法令第15号は、包括的な最初の報告の提出後に制定された法律で、障害者権利条約を反映した内容となっている。

第6条 障害のある女子

 包括的な最初の報告では、パナマは女性差別禁止条約を批准し、女性差別を禁止する多くの法令を制定したと述べている。また、国家障害政策の策定は障害女性とともに行ったと述べている。社会開発省によるヘルプラインの提供、国立女性研究所による暴力被害女性の避難所運営にも言及している。
 一方、パラレルレポートは、障害女性に対する暴力行為に関する統計がないことを指摘するとともに、包括的な最初の報告が言及した避難所は、移動やコミュニケーションに制限のある障害者のアクセシビリティを満たしていないと指摘している。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 第9条について包括的な最初の報告は、政府施設や公共施設のアクセシビリティ改善、障害者が利用可能な住宅供給プロジェクト、障害者用ソフトウェアを導入したインフォプラザの開設など、それまでに実施した具体的な施策を列挙している。
 一方パラレルレポートは、公共の場がバリアフリー化されていないこと、視覚障害者や知的障害者の情報アクセシビリティが不十分なことなど、政府の取組が不十分または有効ではないと指摘している。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 パナマの包括的な最初の報告では、障害者権利条約第12条に関しては何らの言及もなされていない。
 パラレルレポートでは、「障害者の法的行為能力は、認められていないため。そのような法的、行為能力の行使がも認められておらず、いない。彼らが尊重され、証人として務めることを許可しない裁判所では苦奮闘することになるため、自律的に様々な法律業務を実行するための正当な権利を行使する手続を導入すべきである。」と述べており、パナマの現状が、障害者権利条約第12条にまったくそぐわないものであると指摘している。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 包括的な最初の報告では、国家障害事務局や国民振興参与局を通じて障害者自立生活の訓練プログラムを実施していると述べる一方、自立生活に必要な個別支援のプログラムやサービスは存在しないと述べている。具体的な取組についても言及しているが、それによると、パナマでは第19条の実施は地方自治体の役割とされており、パナマ政府は自治体向けの研修会やセミナーを開催するにとどまっている。
 パラレルレポートは、障害者の自立生活促進について、取組の資源が不十分なことからほとんど成功しておらず、政府による取組はわずかな成果しか挙げていないと指摘している。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 包括的な最初の報告は、手話通訳者の未整備、テレビ番組での手話通訳提供の少なさ、ウェブアクセシビリティの対応の遅れなどを政府自身が報告する内容となっている。
 パラレルレポートは特に手話通訳にフォーカスし、手話通訳の提供元が限定的であること、国家諸機関が自分たちのインタビューや公的発表の場で、手話通訳者を利用していないことなどを指摘している。

第24条 教育

 包括的な最初の報告では、教育法の改正、インクルーシブ教育を提供する手続の制定、インクルーシブ教育を国家教育計画に含め具体的目標や行動の方針を定めたことなど、制度面での成果を挙げる一方、手話で学べる高等教育機関がないことや、高等教育のアクセシビリティ対応の遅れを報告している。
 一方、パラレルレポートでは、障害のある学生のうちかなり多くが、記載漏れや未登録のために公式な報告書に含まれていないと述べ、障害のある学生の教育の全体状況がそもそも不明だと指摘している。

第33条 国内における実施及び監視

 包括的な最初の報告では、国家障害事務局が監視の役割を担うとする一方、独立した仕組みは指定されていないと述べている。
 パラレルレポートは、国立障害ネットワーク(REDIS)からの依頼により、国家障害事務局が2016年に国家戦略計画の遵守に関して、92の公共機関の調査を行ったと指摘し、その調査結果として80%の機関が職員の意識向上の計画が不足していると報告している。また、障害者の参画については、国家障害事務局以外では政府機関における意思決定の場への障害者の参加に関する情報はないと指摘している。

図表3-3 パナマの審査プロセスにおける主要論点
項目 包括的な最初の報告のポイント パラレルレポートでの指摘
基本事項  
  • 国家障害事務局(SENADIS)は3次の戦略計画を立案。
  • 国家障害諮問会議(CONADIS)の会議は2009年までに6回、2016年に1回開催された。
第5条
平等及び無差別
  • 米州障害者差別撤廃条約を採択。
  • 障害者機会均等化法(1999年の法令第42号)、政令第88号による規則(2002年)が法制度の中核となっている。
  • 公共施設の物理的アクセシビリティを漸進的に達成する予定。
  • 法律の主文は点字化。手話通訳者は雇用されていないが、国家障害事務局(SENADIS)などから派遣。
  • 職業手話通訳者はいない。手話通訳者訓練講座をオンブズマン事務所が実施。
  • 障害者の権利を保護する法律があるにもかかわらず、明らかに差別的である行動や活動を招いている。
  • 障害の概念変化のため障害の定義を再構成し、2016年法令第15号で修正した。
第6条
障害のある女子
  • 女性差別禁止条約、米州条約などを批准し、女性差別禁止関係の多数の法令を制定。
  • 国家障害政策を障害女性とともに策定し、国家戦略計画に組み込んで実施。
  • 国立女性研究所が女性の機会均等政策実施の調整を行う。
  • 1999年の法律で、障害女性に対する差別的行為の排除を規定。障害女性への就職斡旋、職場配置転換プログラムを提供。
  • 障害女性の人身売買に関する法律(2011年法令79号)で、被害者を国家障害事務局が保護・支援を提供する責任を負うと規定。
  • 社会開発省はヘルプラインの運営を支援。国立女性研究所は障害女性が利用できる暴力被害女性の避難所を運営。
  • 国家統計は、障害女性に対する暴力行為を反映していない。
  • センターや避難所への訪問は、移動やコミュニケーションに制限のある者のアクセシビリティを反映していない。
第9条
施設及びサービス等の利用の容易さ
  • 障害者機会均等化法で障害者のアクセスを保証。
  • 都市設計、建築、公共空間などの物理的環境のアクセシビリティについて、設計や修繕の承認を国家障害事務局が行う。大統領官邸、官公庁、空港、中央郵便局などが設備変更の支援を受けた。
  • 「すべての人のためのアクセシビリティ」プロジェクト実施のため社会投信基金が30万ドルの拠出を要求された。
  • 住宅省は障害者が利用可能な住宅提供プロジェクトを実施。2011年までに1600戸を提供。
  • 関係手続や調査を行うワンストップオフィスとして国家障害事務局を指定した。公共アクセスプロジェクトや初期設計に障害者への配慮を取り入れる。公共アクセス対象の施設計画の調査は、法的要件に従うもののみを承認する。
  • 2008年にパナマ大学からの助言・支援を得てアクセスに関するハンドブックを出版。
  • 国家障害事務局は点字プリンターを購入し、各地域の視覚障害者向け情報サービス施設に寄贈。
  • 国家障害諮問会議作業部会にアクセシビリティに関する委員会がある。
  • 全国に設置したインフォプラザに視覚障害者、重度移動障害者用ソフトウェアを導入。
  • 視覚障害者のためのデジタルリソースプログラムにより情報通信へのアクセスツールを提供。
  • 障害者が利用可能な学校プロジェクトで全国24校の改善を扱う。うち7校は計画を策定し契約を許可した。
  • 障害者団体は、観光地のアクセシビリティ改善、公共交通機関での障害者用標識設置などを求めている。
  • パナマでは、公共の場及び公共空間が、移動に制限がある者の移動に適していない。
  • 視覚障害、知的障害、聴覚障害者が個別のニーズに応じた必要な情報を入手するには、標識が不十分で不適切。
第12条
法律の前にひとしく認められる権利
(言及なし)
  • 障害者の法的行為能力は認められていない。
第19条
自立した生活及び地域社会への包容
  • 国家障害事務局、国民振興参与局を通じて障害者自立生活制度での研修プログラムを実施。
  • 各障害別に自立生活に関するセミナーを開催。
  • 自立生活に必要な個別支援のプログラムやサービスはない。
  • 地域の首長などに対する研修会を開催。いまだ障害者が利用可能な地域社会環境でない。
  • 障害者団体からも自立生活は不可能と報告。
  • 自立生活の促進は、資源が限られるためほとんど成功していない。会議やワークショップ、短期研修コースなどはわずかな成果しかあげていない。
第21条
表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
  • 幾つかのチャンネルのテレビニュースに手話通訳がつくが、より多くの番組での提供が必要。
  • 国家障害事務局、オンブズマン事務所などが公務員への手話講座を実施。
  • 視覚障害者のアクセシビリティ改善のため、デジタルリソースセンターはじめNGOや関係機関に読み上げソフト(JAWS)、点字プリンターなどを国が寄贈。
  • WAIの基準を満たしたサイトは国家障害事務局、社会開発省のみで全体の2%。
  • 障害者団体は、テレビ・ラジオ放送で障害者向けのプロジェクト、プログラムに関する情報提供を増やすよう提唱。
  • 障害者にとっては、状況に応じてコミュニケーションの形式を選択することは非常に重要。
  • ほとんどの公共施設、民間施設が、手話通訳サービスを国家障害事務局またはパナマ特別研修所に依頼。
第24条
教育
  • 教育法を改正。特別な教育的ニーズある子供の教育を国家特殊教育局が調整する。
  • 聴覚障害者に対し、手話を含む2言語教育を保証。
  • 行政命令第12000号で、インクルーシブ教育を提供する手続を制定。
  • インクルーシブ教育について国家教育計画に含め、具体的目標や行動の方針を策定。
  • 学校のアクセシビリティ、拡大・代替コミュニケーション、補助具などが改善。
  • 手話で利用可能な高等教育(学位)はない。障害者の9%が大学に進学。
  • 高等教育のアクセシビリティは一般的でない。
  • 障害者団体は、障害のある生徒を扱う専門家育成、学校のアクセシビリティ改善、障害者へのサービス強化を求めている。
  • 障害のある学生のうちかなり多くが、どのような教育を受けているか状況が不明。
第33条
国内における実施及び監視
  • 国家障害諮問会議、国家障害事務局が実施を監視。独立した監視機関は指定されていない。
  • 障害者団体は、政府機関における障害者対応の仕組みの認識を広めること、実施を保証する監視の仕組みを作ることを求めている。
  • 国家障害事務局以外で、政府における意思決定の場に障害者の参加に関する情報はない。

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