3.パナマにおける障害者差別禁止法と国連審査の状況
3-1 パナマの障害者差別禁止法と国内実施体制
(1) パナマの障害者関連法制
パナマの法制度は、1972年に制定されたパナマ憲法に基づいている。憲法第4条に国際法・条約の遵守が謳われており、第17条に個人の基本的権利と尊厳について定めている。パナマ憲法は2004年に改正され、第19条で障害に基づく差別の禁止が謳われた。
障害者差別禁止法として、1999年に障害者機会均等化法(1999年の法令第42号)が定められた。障害者機会均等化法第3条では、「障害」について「一時的または持続的、完全または部分的、精神的、身体的あるいは感覚的な機能障害によって人間が通常行える活動能力が制限されている状態」と定義している。また「機会均等化」については「物理的環境、知的環境、住宅と輸送、社会・医療サービス、教育と雇用機会、情報、通信、文化・社交生活、スポーツ・娯楽施設などを含めた一般社会の構造をすべての人が利用できるように改善するプロセス」と定義している。パナマ政府は、最初の報告の中で、障害者機会均等化法は障害者権利条約が求める合理的配慮も提供するものだと述べている。
パナマ政府は2007年3月30日に障害者権利条約と選択議定書に署名し、2007年7月10日に法令第25号により批准した。この法令第25号で障害者は「様々な障壁との相互作用により、他者と平等に社会に十分かつ効果的に参加することを妨げる、長期的な身体的・精神的・知的または感覚的障害を有する個人」と定義されている。
(2) 障害政策の枠組み
パナマ政府は障害者機会均等化法に基づき、2005年に国家障害計画(「障害者の社会的包容のための国家計画」)を策定した。また、2006年に全国的な障害者調査を実施した。これらの結果を踏まえて2009年に「国家障害政策」を新たに策定した。この国家障害政策は、障害者権利条約を踏まえて国レベルの政策指針と目標を定めたものである。さらに、2011年にはそれまでの障害者施策の進展を踏まえて第2次国家計画(「障害者とその家族の社会的包容のための第2次国家戦略計画(2011-2014)」を策定した。
(3) 国内の実施体制
パナマの障害者政策実施の中核となっているのが、2004年に設置された国家障害諮問会議(CONADIS)と国家障害事務局(SENADIS)である。
国家障害諮問会議は大統領が議長を務める会議体で、政府・公的機関の幹部、障害者及び家族団体の代表などで構成されている。国家障害諮問会議は、国の障害政策全般の策定と実施のための協議・支援機関であり、2005年と2011年の国家計画の策定、2009年の国家障害政策の策定主体でもある。
国家障害事務局は大統領府内に設置された障害政策専門部署で、国家障害諮問会議の事務局を務めるほか、障害者団体をはじめとする外部との連絡・調整、障害者調査の実施などを担当している。また、最初の報告によれば、障害者権利条約の実施の監視も国家障害事務局が担っている。
各政府機関には、障害者機会均等化法により、機会均等化事務局が設けられている。また、国家障害諮問会議には政府各府省の幹部が参加する。
政府機関の中で特に重要なのが社会開発省と国立女性研究所である。社会開発省は障害者機会均等化法を策定したほか、国家青少年政策、国家高齢者政策といった障害者政策とクロスする国家政策を策定している。また、国立女性研究所は、国家女性政策を策定しており、障害のある女性の政策がここに含まれている。
政府機関以外で障害者政策にかかわる組織として、オンブズマン事務所と障害者団体(DPOs)を挙げることができる。
オンブズマン事務所は、憲法や国際人権条約で義務付けられている基本的人権や自由の保護のための組織である。障害者政策に関する苦情や告発を受け、必要な調査を行って、是正措置などを政府に勧告する。
パナマの障害者団体は、パナマ特別研修所の設立運動を機に組織化が進んだ。障害者権利条約に関しては、パナマ全国障害者ネットワーク、全国障害者連盟、障害者家族協会全国連盟、障害者政策分析会議の4団体が共同でパラレルレポートを障害者権利委員会に提出している。
なお、障害者権利条約が求めている、中央連絡先、調整のための仕組み、独立した仕組みについて、どの組織が該当するかがパナマ政府の最初の報告には記載されていない。独立した仕組みについては「指定されていない」との記述がある。各組織の役割から推測すると、国家障害事務局が中央連絡先、国家障害諮問会議が調整のための仕組みに該当すると考えられるが、明確な記述はない。
図表3-1 パナマの国内実施体制(図表3-1のテキスト版)