6.総括所見以降の国連審査プロセス(ハンガリーを例として)
6-1 「簡略化された報告手続」について

 2017年第17会期締約国会議から「簡略化された報告手続(SRP: Simplified Reporting Procedure)」が採用された。ここでは簡略化された報告手続について、第16会期締約国会議において示された文書(CRPD/C/3)に基づいて、その概要を報告する。
 ただし、本報告書作成時点で公開されている文書は、「検討中の未編集バージョン(2016年9月2日)」とされており、今後変更が加わる可能性がある点にご注意いただきたい。

(1) 背景

 現在共有されているガイドライン(CRPD/C/2/3140は、2009年に採択された。それ以降、持続可能な開発のための2030アジェンダや、持続可能な開発目標(SDG)の採択にみられるような、条約の履行状況を測る基準、ベンチマーク、指標に関する、国際的な取組が示された。一方、2006年に障害者権利条約が成立して以後、批准国は150か国を超え、1つの会期で7か国程度を審査するのが限界であることから、政府報告を提出した後に3~4年経った後にその報告が審査される状況にある。このような状況において、第10会期締約国会議以後、審査手続を簡略化する方法が模索され始めた。

(2) 議論の経緯

 以下に、障害者権利委員会における簡略化された報告手続をめぐる議論の経緯をまとめた。

図表6-1 議論の経緯
2013年9月 第10会期締約国会議 障害者権利委員会は、締約国会議による第2回、第3回政府報告を1つにまとめることを求め、また、第5~8回締約国会議で審査を受けた締約国に対し、この可能性を提示することを決定した。また、締約国の(2回目以後の)定期政府報告に関し、簡略化された報告手続を採択することを決定した。この手続において委員会は、締約国が報告書を提出するのに先立って事前質問事項を準備する。また、事前質問事項に対する締約国の回答が、次の定期報告を構成する。141
2014年4月~ 事前作業部会が開催されるようになる。
2016年3月 第15会期締約国会議 「簡略化された報告手続」草稿を採択し、関係者の意見を求めることを決定。142
2016年8月 第16会期締約国会議 「簡略化された報告手続」を含む、障害者権利委員会への定期報告に関するガイドライン」を採択。143

(3) 簡略化された報告手続を含む障害者権利委員会への定期報告に関するガイドライン(抜粋)

 改訂されたガイドラインには、締約国に加え、市民社会、障害者団体、独立した監視の仕組み、国内人権機関、その他関係者が委員会に関与することを支援する目的がある。
 このガイドラインは、持続可能な開発目標の履行に向けた、締約国の取組と一体化させることで、締約国を支援することを目的とする。
 簡略化された報告手続に基づく定期報告は、次の事項について報告することを求める。

  • 前回提示された総括所見に含まれる勧告への対応状況と、締約国における新たな前進に関する内容。
  • 前回の勧告以後の履行状況を評価する場合、締約国や関係者は、(格差を埋めるための)義務を負う者がその責務を果たし、権利保持者がその権利を行使するのを妨げる、その2つの間にある格差について、情報を提供することが推奨される。
  • 簡略化された報告手続の下で報告する段階にない締約国についても、このガイドラインを等しく参照するよう推奨する。
  • 簡略化された報告手続の下での報告に関与する、市民社会団体、障害者団体、独立した監視の仕組み、国内人権機関、その他関係者団体は、上記2項の内容に注意する必要がある。
  • 国連総会決議68/268(2014)(特に第1項と第16項144)に基づき、委員会は、簡略化された報告手続の下で、定期政府報告に先立って示される事前質問事項の質問数の上限を設定する。
  • 最初の政府報告を準備する締約国は、2009年のガイドライン(CRPD/C/2/3)を参照すべきである。
  • 委員会に報告を提出する際、締約国は、法律と政策の枠組み、進行中の計画、そういった計画の結果や成果に関する施策について、等しく検討するよう求められる。
  • 可能な範囲で、性別、年代、障害、民族、都市・農村別人口、その他の適切なカテゴリーに分類された情報を提供してほしい。

 以上の手続に基づき、第17会期締約国会議(2017年3月)ではエルサルバドル、ハンガリー、ペルー、スペインに対し、次回政府報告に対する事前質問事項が示される。
 公表されているスケジュールによると、第17会期締約国会議(2017年3月)で示される事前質問事項をふまえ、エルサルバドルは2017年12月、ハンガリーは2017年8月、ペルーとスペインは2017年5月までに次回政府報告を提出する。


140 障害者権利条約第35条第1項に基づき締約国によって提出される、条約が指定する文書に関する指針 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/rightafter/G0946379jp.html
141 10回締約国会議報告(CRPD/C/10/2)
142 15回締約国会議報告(CRPD/C/15/2)
143 10回締約国会議報告(CRPD/C/16/2)
144 該当箇所の訳は次のとおり。
1. 締約国に対し審査のための簡略化された報告する手続を提供し、質問数の上限を設定することを条約体に奨励した。
16. 条約体に提出されるすべての締約国からの文書について単語数の上限を設定することを決定した。最初の報告については31,800単語、それに続く定期報告は21,200単語、共通コア文書は42,400単語が条約体によって推奨される。また条約体に対し、質問数の上限を設定し、優先課題と思われるエリアに焦点をしぼることも要求された。それは、締約国が前述の単語数で報告することを可能にするためである。

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