1 国際調査
1.1 目的
我が国は国連障害者の権利に関する委員会(以下、障害者権利委員会)に平成28年6月に政府報告を提出し、審査を待つ段階にある。審査への対応の参考とするため、平成25年度以降、障害者権利委員会における主要国の審査プロセスの資料調査を行い、審査のポイントなどを分析してきた。本調査はそれらの先行調査の成果を踏まえ、我が国の障害者権利委員会による審査への適切な対応に資するため、近く国連による審査が行われる諸外国における障害者差別禁止法制の施行状況と、委員会における審査の動向を把握する。
これまでの調査結果などから、各国の市民社会などから提出されるパラレルレポートの内容の総合性、的確性などによって、委員会が発表する最終見解の精度、品質が左右されることが推定される。国内の主要な障害者団体が共同でパラレルレポート作成に取り組み、十分な準備の上でパラレルレポートを提出した場合には委員会における建設的対話や最終見解の内容が充実し、各国の状況を正確に踏まえた質の高い最終見解が作成されるものと考えられる。しかし、個々の障害者団体が個別にパラレルレポートを作成し、レポート内容に客観性・総合性が乏しい場合には、障害者権利委員会が各国の状況を十分に把握できず、定型的な内容のみの最終見解となったり、個別の指摘や意見に偏った最終見解となったりする可能性がある。
そこで本調査では、それぞれの国に関して市民社会などから提出されたパラレルレポートの内容を軸として、現在進行中の審査プロセスにおける論点を整理・分析し、パラレルレポートが最終見解などに与える影響について明らかにする。
また、障害者権利条約への今後の対応を検討する上で、障害者権利委員会の最終見解が出された後、各国がそれぞれの法制度や施策においてどのような対応をとっているかを把握することも極めて重要である。そこで、既に第1サイクルの審査が終了し、最終見解が出ている国の中から、我が国と社会・経済の状況が比較的近いと考えられる国を選び、最終見解の内容と、その後の各国の施策などの変化との関係を調査・分析する。