2 国内調査

2.1 目的

 我が国では、障害者権利条約の批准に向けて国内法制度の整備をはじめとする準備が進められ、平成28年4月には障害者差別解消法が施行された。障害者差別解消法の附則第7条では、政府は、同法の施行後3年を経過した場合において、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の在り方、その他この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとされた。これを受け、平成30年度は法施行3年目の見直しを視野に入れた議論が想定されるところである。
 そこで、この検討に資するよう、さらには今後の障害者権利条約に係る国連の審査への対応検討にも資することを目的として、障害者差別解消法に係る国内の取組の動向について調査分析を行った。

2.2 内容

 平成29年度国内調査では、次の項目a~dについて、障害者差別解消法の施行状況についての取組の現状、運用実績、効果、課題、考えられる対応方策などの調査分析を行った。

a.条例などで個別分野の記述がある地方公共団体における分野の分け方及びその考え方、制度の運用実態・工夫、具体的効果、今後の課題など
b.条例などで事業者の合理的配慮を義務付けた地方公共団体における制度の運用実態・工夫、事業者側の見解・取組、具体的効果、今後の課題など
c.差別に関する相談・事案解決の実績を何らかの形で把握している地方公共団体がある場合、その具体的な把握・分類方法、対象範囲及びそれらの基礎となる考え方
d.障害者差別解消に関する総合的・部門横断的な職員研修を積極的に行っている地方公共団体、民間事業者などがある場合、取組の内容、実績、具体的効果、今後の課題など

2.3 方法

 障害者差別解消法の施行状況に関する地方公共団体、事業者の取組の現状、運用実績、効果、課題、考えられる対応方策などの分析を行うため、上記調査項目a~dの観点を中心に、文献資料や報道、各種団体のウェブサイトなどを通読して情報収集し、分析を行った。また、先進的な取組を行っていると思われる組織を対象に、現地を訪問し、聞き取り調査を行った。
 なお、上記調査項目a~dにおける対象地域選定に当たっては、地方公共団体のウェブサイトを閲覧して取組状況について文献調査を行い、確認した。対象とした地方公共団体は、都道府県、政令市、条例のある中核市以上の地方公共団体までである。地方公共団体ごとにウェブサイトの構成が異なっているため、対象地域選定において公表記事を見落としている可能性がある点と、取組は行っていても情報をウェブサイトに掲載していない地方公共団体なども存在する点に御留意いただきたい。

a. 分野毎の記述の分け方及びその考え方、制度の運用実態の調査

 調査項目aについては、条例で個別分野の記述がある地方公共団について、文献調査を通し、分野の分け方を整理・分析した。
 訪問調査は、差別の定義が分野分けされている千葉県と、推進する合理的配慮の内容が分野分けされている松江市にて行い、文献調査の結果を踏まえ、当該定義や分類の考え方、制度の運用実態・工夫、具体的効果、今後の課題などに関する聞き取りを行った。

b. 事業者の合理的配慮を義務付けた地方公共団体における制度の運用実態の調査

 調査項目bについては、条例などで事業者の合理的配慮を義務付けたり、支援策を準備したりしている地方公共団体を対象に調査を実施した。また、これら地方公共団体のうち、千葉県、明石市を訪問し、運用実態や工夫、見解・取組、具体的効果、今後の課題などに関する聞き取り調査を行った。千葉県及び明石市は条例にて事業者の合理的配慮が義務付けられており、中でも明石市は支援制度を設けている。聞き取り調査においては、こういった点についても注目して聞き取りを行った。
 加えて、自主的にガイドラインや事例集を作成している事業者団体についても、文献資料や各種報道、団体のウェブサイトを閲覧して把握した。

c. 相談・紛争解決の仕組みや実績把握の実態調査

 調査項目cについては、条例で紛争解決機能を定めている地方公共団体を対象に調査を実施した。そのうえで、千葉県、名古屋市について、現地を訪問し、差別に関する相談・事案解決の具体的な機能や方法、課題などについて聞き取り調査を実施した。
 なお、調査項目cに関しては、基本的には法第14条が求める体制や仕組みについて調査することを目的としているが、議論の軸は、差別に関する相談・紛争解決の仕組みにある点にご留意いただきたい。障害者差別解消法第14条においては、障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制を整備することが求められている。しかし、障害者差別解消法以前に条例が成立している地方公共団体の中には、差別と思われる事案の解決のための体制を整えている団体もあるからである。

d. 障害者差別解消に関する総合的研修・人材育成の実態調査

 調査項目dについては、地方公共団体や事業者に対し、障害者差別解消に関する研修を提供している団体について、文献資料や各種報道、団体のウェブサイトを閲覧して情報収集した。また、組織全体を対象に研修や人材育成を実施したことを公表していたり、報道されていたりする地方公共団体である、群馬県、明石市を訪問し、研修内容、具体的効果、今後の課題などに関する聞き取り調査を行った。

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