2 国内調査

2.a. 条例における分野ごとの記述

(1)分野ごとの記述の類型・考え方

 総務省によると2017年12月時点で、市町村は全国に1,718(市:791、町:744、村:183)存在する。しかし、本調査期間に、47都道府県を加えた1,765か所の地方公共団体のウェブサイトを確認することが困難であったため、中核市以上の地方公共団体を対象に、条例の有無を調査した。その結果、障害者の差別解消に関する条例を制定している地方公共団体34か所(23都道府県、政令市5、中核市6)を把握し、これらの状況について確認した。
 図表2-1に障害者差別解消に関する条例を制定している地方公共団体一覧を示す。また、本節の主題である、条文に分野ごとの記述がある22の条例について網かけし、その記述形式を示した。

図表2-1 障害者差別解消に関する条例を制定している地方公共団体(中核市以上)
自治体名 条例名 記述形式 施行日
千葉県 障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例 差別定義としての例示 2007年7月1日
北海道 北海道障がい者及び障がい児の権利擁護並びに 障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例 推進する施策分野 2009年3月31日
埼玉県さいたま市 誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例 差別定義としての例示 2011年4月1日
岩手県 障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例   2011年7月1日
熊本県 障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例 禁止事項の例示 2012年4月1日
東京都八王子市 障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子づくり条例 合理的配慮 の対象分野 2012年4月1日
長崎県 障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例 禁止事項の例示 2014年4月1日
沖縄県 沖縄県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例 禁止事項の例示 2014年4月1日
鹿児島県 障害のある人もない人も共に生きる鹿児島づくり条例 禁止事項の例示 2014年10月1日
京都府 京都府障害のある人もない人も共に安心していきいきと暮らしやすい社会づくり条例 禁止事項の例示 2015年4月1日
茨城県 障害のある人もない人も共に歩み幸せに暮らすための茨城県づくり条例   2015年4月1日
奈良県 奈良県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例 禁止事項の例示 2015年10月1日
愛知県 愛知県障害者差別解消推進条例   2015年12月22日
埼玉県 埼玉県障害のある人もない人も全ての人が安心して暮らしていける共生社会づくり条例 禁止事項の例示 2016年3月29日
宮城県仙台市 仙台市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちをつくる条例 禁止事項の例示 2016年4月1日
山形県 山形県障がいのある人もない人も共に生きる社会づくり条例 禁止事項の例示 2016年4月1日
栃木県 栃木県障害者差別解消推進条例 禁止事項の例示 2016年4月1日
新潟県新潟市 新潟市障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例 差別定義としての例示 2016年4月1日
富山県 障害のある人の人権を尊重し県民皆が共にいきいきと輝く富山県づくり条例   2016年4月1日
山梨県 山梨県障害者幸住条例 禁止事項の例示 2016年4月1日
横浜市 横浜市障害を理由とする差別に関する相談対応等に関する条例   2016年4月1日
岐阜県 岐阜県障害のある人もない人も共に生きる清流の国づくり条例   2016年4月1日
大阪府 大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例   2016年4月1日
兵庫県明石市 明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例   2016年4月1日
和歌山県和歌山市 和歌山市障害者差別解消推進条例   2016年4月1日
徳島県 障がいのある人もない人も暮らしやすい徳島づくり条例   2016年4月1日
愛媛県 愛媛県障がいを理由とする差別の解消の推進に関する条例   2016年4月1日
大分県 障がいのある人もない人も心豊かに暮らせる大分県づくり条例 禁止事項の例示 2016年4月1日
島根県松江市 松江市障がいのある人もない人も共に住みよいまちづくり条例 合理的配慮の対象分野 2016年10月1日
青森市 青森市障がいのある人もない人も共に生きる社会づくり条例 合理的配慮の対象分野 2017年3月24日
静岡県 静岡県障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例   2017年4月1日
福岡県 福岡県障がいを理由とする差別の解消の推進に関する条例 合理的配慮の対象分野 2017年10月1日
北九州市 障害を理由とする差別をなくし誰もが共に生き北九州市づくりに関する条例 禁止事項の例示 2017年12月20日
秋田市 秋田市障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例 推進する施策分野 2018年4月1日

 個別分野に関する記述の形式としては、禁止事項の例示として示すもの、合理的配慮の対象分野として示すもの、差別定義の例示として示すもの、推進する施策分野として示すものが、この記載順に多くみられた。なお、条例が制定された順に時系列に並べてみると、2016年4月の障害者差別解消法施行より前に作られた条例には、個別分野の記載があるものが比較的多く、それ以後に作られた条例には個別分野の記載が少ないのが特徴である。
 また、個別に記述されることが多い分野は、情報(含む意思表示、意思疎通)、交通・建物(含む生活環境)、雇用(含む就労、労働、募集採用)、福祉(含む生活支援、社会福祉法の定める分野、総合支援法の定める分野)、医療、教育、商品サービス、不動産が、記載の順に多くみられた。記述される分野について、障害者差別解消法施行前後といった時間的変化は見られない。

(2)条例の策定経緯

 以上のような条例の策定経緯と運用実態について、条例のある自治体である千葉県、明石市、松江市の担当者の話を伺った。

千葉県

 千葉県は、差別の定義の項目に個別分野の記載がある条例「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を、2007年に施行している。
 「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」制定に際しては、事前に当事者を含む県民から約800件の「差別に当たると思われる事例」を、集約した。この集約した事例を整理した際、抽出された分野が、「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」第2条2項の分野(福祉、医療、商品サービス、労働、教育、建物交通、不動産、情報)の記述につながった。障害のある人の日常生活、社会生活の場面に応じて、8つの分野の15の行為を、第2条2項に規定する「不利益取扱い」の具体的内容として明らかにしている。

明石市

 明石市は、2016年4月に「明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例」を施行している。しかし、その条文中に個別分野の記載はない。
 個別分野の記載をしなかった理由は、障害者差別解消法の施行に合わせて条例の準備を進める中で、該当する分野を担う関係者との調整が必要であり、その時間が十分に確保できなかったからである。このため、2016年4月に条例が施行された当時は、3年後の条例見直しの際に差別の定義としての各則を盛り込むことを考えていた。

松江市

 松江市は、2016年10月に「松江市障がいのある人もない人も共に住みよいまちづくり条例」を施行している。特徴的なのが、「第3章合理的配慮の促進の取組」において個別分野の記載をしている点だ。記載されている分野は、情報、保育教育、雇用就労、生活環境、防災、文化スポーツ、観光である。
 松江市も、条例制定に先立ち、障害当事者などへのアンケート調査、ワークショップ、パブリックコメントなどを実施している。このようなプロセスを経て、また、他の地方公共団体の条例などを参照する中で、具体的な内容を示した方が配慮すべき内容についてより理解がしやすくなるのではないかと考え、個別分野の記載をした。
 記載分野については、松江市障がい者総合支援協議会(平成30年4月からは、松江市社会福祉審議会障がい者福祉専門分科会)における議論の中で課題が指摘されることの多い分野(情報・コミュニケーション、保育・教育、雇用・就労、生活環境、防災)に加え、松江市が重視している分野(文化・スポーツなど、観光)について、合理的配慮が広がっていくようにとの考えから、整理された。

 このように、条例を制定する過程の様々な取組を経て、意識啓発を目的とした分野ごとの記述が、条例に盛り込まれる様子がうかがわれた。

(3)条例の運用実態・具体的効果

 一方で、条例の運用実態としては、地域ごとに様相の異なる話がうかがわれた。

千葉県(差別の定義の項目に分野ごとの記述)

 千葉県の担当者からは、条例の運用において各則が影響を及ぼすことはないという話が聞かれた。

  • 相談者によっては「この条文に当てはまる」と言ってくることはあるが、実際の相談プロセスにおいて条例に記載されている事項に当てはまるか、当てはまらないかのみでは判断していない。
  • 記載されていない事項であっても、差別にあたる可能性がある場合は調整を行う。

(2018年3月7日のヒアリング議事録より)

明石市(分野ごとの記述なし)

 明石市の担当者からも、条例を運用してみて、施行時には見直しの際に追記することを考えていた差別の定義としての各則について、考えが変わったという話があった。

  • 各則がなくてもそれほど問題にならない。「ここに書いてあるから禁止です」などと説明できることが各則の意義と考えるが、そのような調整が効果的な事例は、今のところあまりない。
  • 各則は、それを作るプロセスでの各方面との調整と合意形成に意味があると理解している。このため、条例の3年後見直しの際に、時間をかけて各則を作ろうと考えていた。しかし、今このタイミングで、合意形成を各則という方法でするのが正しいのか?となると、考えてしまう。各則より、もっとかかわる人たちがピンとくるもの、例えばガイドラインなどの充実など、より実効性のあるものの方が大事なのではないか。

(2018年3月19日ヒアリング議事録より)

松江市(合理的配慮の項目に分野ごとの記述)

 一方、松江市の担当者からは、合理的配慮に関する分野ごとの記述には、条例運用上効果があるという話を伺った。

  • 第8条にこう書いてあるという形で要望を受けることがある。その際、財務担当にも「こういう条文があって、要望も受けているので」という風に説明はしやすい面がある。あるのとないのとでは違う。
  • 第8条(1)手話の普及については、予算要求して公民館で初級の手話講座をやっていこうと考えている。(5)防災についても、来年度モデル地区で行政、団体から呼びかけて障害者も一緒に避難訓練をやる。(7)観光については、来年度、障害者関係の大会がある。市として連携してきちんと対応できるようにしようという話をしている。

(2018年3月16日ヒアリング議事録より)

 このように、差別の定義や禁止事項の例示として個別分野の記述がある場合は、実際の相談業務にあまり影響を及ぼさない。しかし、合理的配慮など、推進事項としての分野ごとの記述は、担当者の対応をバックアップし、その幅を広めるといった影響がある様子がうかがわれた。

前のページへ次のページへ