2 国内調査

2.d. 障害者差別解消に関する総合的・部門横断的職員研修

 障害者差別解消法は、日常生活及び社会生活全般に係る分野が広く対象とするものであることが、その基本方針において示されており、福祉領域特有のテーマではなく、社会のあらゆる部門・分野が取り組むべき課題と位置付けられている。
 また、障害者差別解消法において、地方公共団体の合理的配慮提供は義務であり、従来の障害福祉主管部署のみならず、組織全体での対応が求められる。条例で事業者への合理的配慮の提供を義務付けている地方公共団体においては、各部署が合理的配慮や環境整備に関する理解を有し、事業者に対し情報提供することも期待される。
このような観点で障害者差別解消の取組を実践するためには、所属部署に関係なく、すべての行政職員を対象とした総合的・横断的な職員研修の実施が行われていることが想定される。
平成28年度調査報告書では、兵庫県が、3年サイクルで職員へ職員対応要領に関する意識調査を実施し、評価検証する仕組みを導入していることや、茨城県那珂市が全職員を対象とした「障がい者差別解消研修会」を11回にわたり開催したことが紹介された。
 平成29年度調査報告書では、群馬県と明石市の取組について、紹介する。

(1)群馬県における総合的・部門横断的職員研修

 群馬県では、障害を理由とする差別の解消を推進していくための職員研修として、平成28年度と平成29年度に、NPO法人障害平等研修フォーラムの「障害平等研修(Disability Equality Training、以下DET研修)」を活用して研修を実施している。
 DET研修は、障害のある人がファシリテーターとなって進めるワークショップ型の研修である。視覚教材やグループワークを活用し、障害のあるファシリテーターとの対話を通じた「発見」を積み重ねていくなかで、差別や排除など、社会のなかにある様々な障害を見抜く力を養い、それらを解決していくための行動を形成することを狙いとしている。
 平成28年度は、NPO法人障害平等研修フォーラムに依頼して実施したが、平成28年11月に群馬県の車椅子ユーザーがDETファシリテーター養成講座を修了し、ファシリテーターとして活動できるようになったため、平成29年度は「DET群馬」に依頼して研修を行った。
 DET研修は20人程度で行うのが効果的であるため、県の職員全体から毎年度20人程度の希望者を募って実施している。参加者の所属は、保健福祉や労働政策、特別支援学校など、日頃障害のある人にかかわる機会が多い部署の他、人権、観光、土木、教育事務所、県立高校など多岐にわたる。
 さらに平成29年度は、県と市町村の職員を対象に、DET研修を紹介する講座を開催した。この講座は、県職員37人、市町村職員23人、合計60人が受講した。
 その後、教育事務所が社会教育関係者を対象とした研修会でDET研修を取り上げた他、各地域での社会教育の1つとしてDET研修を実施したり、県立高校で生徒を対象に実施したりしている。また、市町村でも住民あるいは小学校や中学校の児童・生徒を対象に実施しているところがあり、DET研修が広がってきていると感じている。

(2)明石市における総合的・部門横断的職員研修

 明石市では、職員研修を重視する意識が強く、平成26年から取り組んできた。図表2-8に明石市が平成28年度以後実施した研修の一覧を示す。
 研修の材料としては、職員が個人的に受講し、入門的・普遍的な内容で、土木課や情報担当課など、様々な部署の職員が受けて入りやすいと感じたユニバーサルマナー検定を、まずは選定した。
 その他にも、福祉課とかかわりのある方から教えてもらった研修を導入している。知的障害者の疑似体験は、知的障害者にとってのコミュニケーションの難しさを知る体験をするもの。例えば、「りんごの絵を書いてください」「きちんとしたものを書いてください」となったときに、「きちんと」が人によって違うというような内容である。
 市職員への研修は、市全体に声をかけて、手を挙げてもらって参加者を募っている。福祉以外の部署からも参加があり、全体の意識は少しずつ上がってきていると感じている。他人事の人もまだたくさんいるが、継続して取り組んでいきたい。

(3)事業者への研修

 なお、明石市では、図表2-8に見られるように事業者に対する研修も積極的に行っている。過去に車椅子利用者とトラブルになったバス会社から相談を受けたことがきっかけになり、事業者向けの研修をするようになった。この時は、地域の社会福祉協議会が行っていた研修を紹介したが、その後、合理的配慮の提供支援に係る公的助成制度を利用した事業者へのアンケートにおいても、研修会の要望が寄せられた。これを受け、平成28年度から、ユニバーサルマナー検定を事業者向けにも展開することになった。
 受講料は市が負担し、市の商工会議所が年2回出す会報に案内を同封したり、合理的配慮の提供支援に係る公的助成制度を利用した事業者に直接案内したりして呼びかけている。受講者は、平成27年度は57人、平成28年度は38人である。参加者は個人事業主から、大企業課長級の人まで様々であり、職責も多様である。

図表2-8 明石市で実施した研修(平成28年度~)
平成28年度
6/20 民生児童委員障害福祉部会研修
7/7・8 職員対応要領研修
7/20・28 手話基本研修(市職員)
7/22 ユニバーサルマナー検定(市職員・3級)
8/8・10・19 相談員研修 1
9/26 ユニバーサルマナー検定(事業者・3級)
10/1 ユニバーサルマナー検定(高校生・3級)
10/19 相談員研修 2
11/18 ユニバーサルマナー検定(市職員・2級)
1/23 ユニバーサルマナー検定(事業者・3級)
2/1 相談員研修 3
2/17 ユニバーサルマナー検定(市職員・3級)
2/20 民生児童委員・障害者相談員合同研修
2/22 新人職員研修(障害理解)
平成29年度
5/1・23・31 相談員研修 1
5/25 視覚障害理解研修(市職員)
7/5 相談員研修 1
7/6 ユニバーサルマナー検定(市職員・3級)
7/14・26 手話基本研修(市職員)
7/31 教員向け研修(障害者差別解消)
9/25 ユニバーサルマナー検定(事業者・3級)
9/27・28 視覚障害理解研修(タクシー協会)
10/12 知的障害理解研修(市職員)
10/21 ユニバーサルマナー検定(高校生・3級)
10/27 相談員研修 2
11/9 手話入門研修(事業者)
11/17 ユニバーサルマナー検定(市職員・2級)
1/27 市民後見人養成講座(障害者差別解消)
1/30 ユニバーサルマナー検定(事業者・3級)
2/5/13 ユニバーサルマナー検定(市幹部職員、市議会議員・3級と2級)
2/15 市管理職研修(テーマ:共生社会の実現)
2/15 新人職員研修(障害理解)
2/16 ユニバーサルマナー検定(市職員・3級)
3/11 相談員研修 4
3/23 精神障害理解研修(市職員)
(参考)公的機関や事業者に対し障害者差別解消に関する研修を実施している団体
団体名 研修名 URL
株式会社富士通ラーニングメディア 障害者と共に働く職場づくり ~合理的配慮への対応~ www.fujitsu.com/jp/group/flm/resources/news/press-releases/2015/0909.html
アビリティーズ・ケアネット株式会社 障害者差別解消法 職員研修  www.abilities.jp/blog/news/1356
株式会社インソース 障害者差別解消法対応研修 www.insource.co.jp/kenshu/disability_discrimination_act-top.html 
公益財団法人日本ケアフィット共育機構 障害者差別解消法勉強会 www.carefit.org/sabekai/
社会福祉法人全国手話研修センター 聴覚障害者関係施設等管理職及び中堅職員研修(2015年度) www.com-sagano.com/archives/3433.html
障害平等研修フォーラム 障害平等研修(Disability Equality Training) detforum.org/
日本ユニバーサルマナー協会 ユニバーサルマナー検定 www.universal-manners.jp/
練馬区障害福祉人材育成・研修センター 障害者差別解消法オープン研修 kensyu.neri-shakyo.com/index.php/lectures/view/399
ミテモ株式会社 障害者差別解消法と配慮ある対応 www.mitemo.co.jp/e-learning/disability-discrimination-act-consideration.html
一般財団法人全国福祉輸送サービス協会 ユニバーサルドライバー研修(UD研修) ud-kensyu.or.jp/category/ud_training
一般財団法人たんぽぽの家 「合理的配慮」について一緒に考える研修プログラム helponhelp.jp/event/「合理的配慮」について一緒に考える研修プログ/
株式会社エデュテイメントプラネット 人権ダイバーシティ研修 all-e-support.jp/news/20160805/
株式会社スタートライン 障がい者差別・虐待と合理的配慮 start-line.jp/enterprise/kigyou/kenshyu/
特定非営利活動法人 全国初等教育研究会 ICTを活用した合理的配慮の研修 jees.jp/about/project/01.html
(参考)障害者団体が取りまとめたガイドライン
日本障害フォーラム(JDF) 障害者差別解消法ってなに? www.normanet.ne.jp/~jdf/pdf/sabetsukaisyohou2.pdf
認定NPO法人DPI日本会議 障害者差別解消 NGO ガイドライン作成プロジェクト
障害者が街を歩けば差別にあたる!?‐当事者が作る差別解消ガイドライン‐
dpi-japan.org/activity/advocacy/NGO-guideline-project/
dpi-japan.org/blog/book-info/【新刊】障害者が街を歩けば差別に当たる当事者/
一般財団法人全日本ろうあ連盟 よくわかる!聴覚障害者への合理的配慮とは? ~『障害者差別解消法』と『改正障害者雇用促進法』から考える~ jfd.shop-pro.jp/?pid=102681944
全国手をつなぐ育成会連合会 わかりやすい情報提供のガイドライン zen-iku.jp/wp-content/uploads/2015/04/3_150130guideline.pdf
発達障害当事者協会 「発達障害への理解促進と職場での合理的配慮」研修用DVD jdda.or.jp/info/dvd_sales2.html

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