2 国内調査

2.c. 相談・紛争解決に関する地方公共団体の取組

(1)差別に関する相談・事案解決の全体像

 本章のタイトルは「相談・紛争に関する地方公共団体の取組」とあるが、報告書の冒頭に述べたように、条例の中には「差別と思われる事案の解決」のための体制を整えている組織もある。このため、本章においては、差別に関する相談・紛争解決の仕組みに焦点を当てて、報告する。
 差別に関する相談・事案解決に関する地方公共団体の取組については、中核市以上の地方公共団体のウェブサイトを訪問し、障害者差別解消法や条例、障害者差別解消推進地域協議会などのページを閲覧して調査した。本調査期間において把握することができた、差別に関する相談・事案解決の実績について何らかの形で調査結果を公表している地方公共団体と、これら地方公共団体が公表している内容の一覧を図表2-3に記載する。
 図表2-3に見られるように、地方公共団体ごとに相談実績の公表方法や内容は異なる。8割以上の地方公共団体が公表している要素としては、相談受付件数、事案にかかわる障害者の障害種別、相談への対応があげられる。事案の概要、事案が発生した分野を集約している地方公共団体も7割近くある。案件が発生した分野の分類として比較的共通して見られる項目は、「交通」「教育」「医療」「雇用(含む就労、労働)」「福祉」「商品」「不動産(含む住居)」「その他」であった。(相談件数の多寡ではない点にご留意いただきたい。)
 数は多くはないが、相談者や相談経路を集約している地方公共団体も存在する。中でも千葉県と北九州市は事業者からの相談件数を集約しており、相談窓口が差別解消の役割を担う事業者に対しても開かれているものであり、その活用状況が見て取れる内容となっていた。

図表2-3 相談・紛争解決実績に関する公表状況
北海道 相談件数、障害種別、分野、地域
茨城県 障害種別、分野、概要、対応
千葉県 相談件数、障害種別、相談者、相談方法、経路、分野、地域、概要、対応、連携先
山梨県 相談件数、障害種別、相談者、分野
三重県 相談件数、種別、障害種別、経路、地域、概要、対応
京都府 相談件数、種別、障害種別、相談者、分野、地域、概要、対応
大阪府 相談件数、種別、障害種別、相談者、相談方法、分野、概要、対応、受付票
奈良県 相談件数、種別、障害種別、相談方法、分野、概要、対応
岡山県 概要、対応、連携先
広島県 相談件数、種別、障害種別、相談方法、場所、地域
長崎県 相談件数、種別、障害種別、相談者、相談方法、分野、地域、概要、対応、連携先
鹿児島県 相談件数、種別、概要、対応
名古屋市 相談件数、場所(公的機関のみ)
広島市 障害種別、相談方法、経路、分野、場所、概要、対応
北九州市 相談件数、障害種別、相談者、分野、調整実施件数
兵庫県 明石市 相談件数、経路、分野、対応

 また、同様に数は多くないが、相談の対応における連携先を集約している地方公共団体も存在する。連携先としては、都道府県担当課、市町村担当課、障害者団体、相談支援事業所、条例で設置されている相談員などがあげられている。
 なお、差別に関する相談・事案解決の実績を公表している地方公共団体の中では、千葉県の対応している相談件数が多かった。この点について担当者に尋ねたところ、考えられる理由として、次の3つを挙げていた。1 千葉県の条例成立以後10年が経過し、上手く解決できた人が再び相談をしてきている。2 千葉県の条例の認識が広まり、地域の人から教えてもらう機会が増えている。3 障害者手帳に、県の条例相談窓口17か所の相談専用電話の番号が記載されている。
 一方で、相談件数を数えたり分類したりすることについては、複数の地方公共団体の担当者から懸念が示された。

  • 不当な差別的対応と合理的配慮は分けづらい。実際の事態は混合している。受付時は不当な差別の要素からチェックしているが不可分。法的にも義務と努力義務の違いがあるが、実際には分けられない。内閣府の照会内容に応じて分類して報告しているが、実際は数値どおりではない。
  • 都道府県になると、差別専用の相談窓口として看板を掲げて相談を受けられるが、市町村の場合は、相談支援事業所に委託する場合が多い。そうなると生活相談に流れるので、件数が少なくなる。報告している件数は差別相談のみで、生活相談は入ってない。したがって、相談件数の大小に真理はないと考えている。

(2)差別に関する相談・事案解決の実際

 平成29年5月に内閣府が公表した「障害者差別解消支援地域協議会の設置・運営等に関するガイドライン」によると、障害者に対する差別案件への対応に当たっては、障害福祉担当部署や問題発生部署が課題解決のすべてを背負うのではなく、相談の一次的な受け皿となり、自ら対応できない事案については、地域内の他の適切な機関につないでいくことが重要であると指摘されている。こうした面から、障害者差別解消法第17条に記載されている障害者差別解消支援地域協議会を設置することに、メリットがあると考えられる。
 一方で、内閣府の調査によると、平成29年4月時点で地域協議会を設置している自治体は、全体の41.4%である。では、実際のところ、どのような会議体が実際の差別に関する事案解決において相談窓口と多く連携し、機能しているのだろうか。
 ここで、障害者差別解消に関する条例を制定している中核市以上の地方公共団体において、どのような差別に関する相談・事案解決のための体制が条例に記述されているのかを確認し、その一覧を図表2-4に示した。

図表2-4 障害者差別解消に関する条例における相談・事案解決のための体制
  条例名 施行日 主体 機能
千葉県 障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例 2007/7/1 地域相談員 調整
紹介
あっせん
通告
通報
知事の指示の下、広域専門指導員 調査
知事の指示の下、調整委員会 助言及びあっせん
知事 勧告など
北海道 北海道障がい者及び障がい児の権利擁護並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例 2009/3/31 知事
地域づくり推進員
調査
地域づくり推進員 指導
知事 勧告
埼玉県さいたま市 誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例 2011/4/1 市長 調査
助言及びあっせん
勧告
公表
岩手県 障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例 2011/7/1 助言
調整
熊本県 障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例 2012/4/1 知事の指示の下、調整委員会 助言またはあっせん
勧告
東京都八王子市 障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子づくり条例 2012/4/1 市長の指示の下、調整委員会 助言またはあっせん
長崎県 障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例 2014/4/1 知事の指示の下、地域相談員・広域専門相談員 調査
知事の指示の下、調整委員会 調査
助言又はあっせん
勧告
公表
沖縄県 沖縄県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例 2014/4/1 知事の指示の下、調整委員会 助言又はあっせん
知事 勧告
鹿児島県 障害のある人もない人も共に生きる鹿児島づくり条例 2014/10/1 相談への対応(助言、調整)
知事の指示の下、障害者差別解消支援協議会 あっせん
勧告及び公表
京都府 京都府障害のある人もない人も共に安心していきいきと暮らしやすい社会づくり条例 2015/4/1 知事 特定相談(助言、調整)
勧告
公表
調整委員会 助言又はあっせん
茨城県 障害のある人もない人も共に歩み幸せに暮らすための茨城県づくり条例 2015/4/1 知事 調査
助言又はあっせん
勧告
公表
奈良県 奈良県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例 2015/10/1 相談及び支援
知事の指示の下、調整委員会 助言又はあっせん
知事 勧告
公表
愛知県 愛知県障害者差別解消推進条例 2015/12/22 情報提供
知事 あっせん
勧告
公表
埼玉県 埼玉県障害のある人もない人も全ての人が安心して暮らしていける共生社会づくり条例 2016/3/29 知事 調査
助言又はあっせん
勧告
公表
宮城県仙台市 仙台市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちをつくる条例 2016/4/1 相談(助言、情報提供、調整)
調整委員会 助言又はあっせん
市長 勧告
公表
山形県 山形県障がいのある人もない人も共に生きる社会づくり条例 2016/4/1 情報提供
調整
栃木県 栃木県障害者差別解消推進条例 2016/4/1 相談(情報提供、助言、調整)
知事の指示の下、調整委員会 あっせん
知事 勧告
公表
新潟県新潟市 新潟市障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例 2016/4/1 相談(調整)
市長 助言又はあっせん
勧告
公表
富山県 障害のある人の人権を尊重し県民皆が共にいきいきと輝く富山県づくり条例 2016/4/1 特定相談(助言及び情報提供、調整)
知事の指示の下、地域相談員、広域専門相談員 調査
知事の指示の下、調整委員会 助言又はあっせん
知事 勧告
公表
山梨県 山梨県障害者幸住条例 2016/4/1 知事 特定相談(助言、情報提供、調整)
横浜市 横浜市障害を理由とする差別に関する相談対応等に関する条例 2016/4/1 相談対応(調査、調整)
調整委員会 あっせん
岐阜県 岐阜県障害のある人もない人も共に生きる清流の国づくり条例 2016/4/1    
大阪府 大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例 2016/4/1 広域支援相談員 助言、調査、調整
知事の指示の下、合議体 あっせん
知事 勧告
公表
兵庫県明石市 明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例 2016/4/1 市又は相談機関 相談及び助言など(事情聴取、説明、助言)
市長 調査
勧告
公表
地域協議会 あっせん
和歌山県和歌山市 和歌山市障害者差別解消推進条例 2016/4/1 市長 調査
助言又はあっせん
勧告
公表
徳島県 障がいのある人もない人も暮らしやすい徳島づくり条例 2016/4/1    
愛媛県 愛媛県障がいを理由とする差別の解消の推進に関する条例 2016/4/1 広域専門相談員 調整
事実の調査
調整委員会 助言又はあっせん
知事 勧告
公表
大分県 障がいのある人もない人も心豊かに暮らせる大分県づくり条例 2016/4/1 特定相談(助言、情報提供、調整)
障害者施策推進協議会 あっせん
知事 勧告
公表
島根県松江市 松江市障がいのある人もない人も共に住みよいまちづくり条例 2016/10/1 市長 調査
勧告
公表
障がい者差別解消推進委員会 助言又はあっせん
青森市 青森市障がいのある人もない人も共に生きる社会づくり条例 2017/3/24 相談(確認及び調査、説明及び助言)
市長
(調整委員会に諮問)
助言又はあっせん
勧告
公表
静岡県 静岡県障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例 2017/4/1 相談への対応(助言、情報提供、調整)
障害者差別解消支援協議会 あっせん
知事 勧告
公表
福岡県 福岡県障がいを理由とする差別の解消の推進に関する条例 2017/10/1 障がい者差別解消委員会 調査及び審議
助言又はあっせん
知事 勧告
公表
北九州市 障害を理由とする差別をなくし誰もが共に生き北九州市づくりに関する条例 2017/12/20 個別相談(情報提供、調整)
市長 調査
勧告
公表
障害者差別消委員会 助言及びあっせん
秋田市 秋田市障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例 2018/4/1 相談(確認、支援、連絡調整)
市長(調整委員会の審議) 助言又はあっせん
勧告
公表

 まず、最も多く記載が見られる機能は、「あっせん」「助言又はあっせん」「助言及びあっせん」である。あっせんをする主体は、条例の制定時期が早いものになると、首長や、首長の指示の下で調整委員会が行うとする地方公共団体が多い。2016年4月障害者差別解消法施行以後に制定された条例になると、名称にばらつきがあるが、障害者差別解消法第17条が定める障害者差別解消支援地域協議会に該当する組織が、あっせんを担うようになっている。
 次に多く見られる機能は、勧告、公表である。ただし、前節(2)差別に関する相談・事案解決の全体像箇所で集約した公表されている実績の中には、あっせん、勧告、公表を行った地方公共団体の例は見られなかった。

 続いて記述が多いのは、調査であり、次に、調整、助言となる。ちなみに、ここで数えているのは、条項として立てられている項目である。2016年4月以後になると、「相談」「特定相談」「個別相談」といった見出しの条項の中に、窓口の担当者や相談機関、相談員が実施する事柄として助言、情報提供(含む紹介、説明)、調査(含む確認)、調整といった機能を記載する地方公共団体も、増えている。図表2-4では、このような記述がある条例に網かけをして示した。
 差別に関する相談・事案解決に関し地域協議会を設置し活用している地域に関しては、「平成28年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査報告書(以後、平成28年度調査報告書)[ 障害者の社会参加推進等に関する国際比較調査(障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態)http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h28kokusai/index.html]」において、北海道新得町、茨城県那珂市、東京都八王子市、神奈川県湘南西部圏域、長野県、長野県上小圏域、三重県、大阪府、兵庫県、兵庫県明石市、岡山県総社市、山口県、福岡県北九州市の取組が紹介されている。

 平成28年度調査報告書からは、地域協議会を一から新たに設置する地方公共団体だけでなく、条例に基づき設置されていた会議体や、障害者基本法に基づく障害者施策推進協議会、総合支援法に基づく自立支援協議会、あいサポート運動に関する会議体など、既存の組織を活用して地域協議会を運営している地方公共団体があることが読み取れる。また、地域協議会が障害者差別解消に関する研修会を主催する茨城県那珂市の事例、地域協議会子会議としての合議体における相談事例の検証に取り組む大阪府の事例などが紹介されている。
 そこで、平成29年度調査報告書では、実際の差別に関する相談・事案解決において、地域協議会ではない会議体が相談窓口と多く連携し、機能している事例を紹介する。

1)千葉県

差別に関する相談・事案解決のための体制

 千葉県の個別事案を解決する仕組みとしては、身近な相談役として委嘱した県内の約580人の地域相談員と、相談活動を総括する16人の広域専門指導員の地域に密着した相談活動及び、知事の附属機関として設置された「千葉県障害のある人の相談に関する調整委員会」(以下「調整委員会」という)による助言・あっせんとの重層的な仕組みとなっている。
 千葉県では平成18年に「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」が成立しており、第20条で地域相談員に調整、第22条で広域専門指導員に助言及びあっせんの申立てに関する調査、第23条で調整委員会に助言・あっせんについて記載されている。こういった権限を基に、地域相談員及び広域専門指導員は、図表2-5に示すとおり、「相談の受付」、「相談体制の確立及び相談者への連絡」、「検討会議の開催(取扱方針の検討)」、「事情の確認」、「検討会議の開催(助言・調整を検討)」、「助言・調整の実施」、「合意(相談活動の終結)」の流れに従い活動している。

図表2-5 相談活動の流れ (図表2-5のテキスト版

会議体の類型・機能

 千葉県では、圏域内で受け付けたすべての相談事案は、一旦、広域専門指導員の下に集約し、優先度や緊急度を個別に判断しながら相談活動を実施している。広域専門指導員は、様々な障害特性を有する人から、福祉関係にとどまらず、雇用や教育、医療など多岐にわたる相談を受けており、相談支援のための知識・技術を深め、条例に基づく相談活動などについて、統一的な対応を行う必要がある。このことから、事務担当者も含めて、相談に関わる職員を対象として、広域専門指導員等連絡調整会議を毎月開催している。
 なお、地域相談員、広域専門指導員などによる助言・調整での解決が困難な場合は、調整委員会による助言・あっせんを申立てることができる。障害者差別解消支援地域協議会においても相談件数と検討事例を提供して意見交換をしているが、調整委員会には助言・あっせんの権限があることもあり、バックアップ機能としての実効性は調整委員会の方が高いとのことであった。

2)名古屋市

差別に関する相談・事案解決のための体制

 名古屋市は、平成28年の障害者差別解消法施行後、全国に先駆けて「障害者差別相談センター」を開設している。障害者差別相談センターは、「障害のある方やその家族、事業者などから、障害者差別に関する相談を受け、関係機関と連携しながら、相談事案に関わる関係者間の調整などを行い事案の解決をはかる専門機関」と同センターウェブサイトで説明されている。したがって、障害者差別相談センターで実施している助言・調査・調整は関係者間の任意の協力に基づく取組ということになる。
 障害者差別相談センターの相談体制を図表2-6に示す。

図表2-6 名古屋市障害者差別相談センターの相談体制(図表2-6のテキスト版

 なお、平成27年度(障害者差別解消法施行前)から、名古屋市障害者施策推進協議会で相談体制に関する検討を開始し、ここでの議論の結果、センターを開設することになった。

会議体の類型・機能

 障害者差別相談センターには、「連絡調整会議」が設置されており、開設以後、毎月の定例会議に加えて臨時的な会議を開催するとともに、急を要する場合には個別の委員への相談も実施している。構成員は、大学教授、弁護士、障害当事者、事業者、相談センターの職員の定例委員6人と、事案に応じて参画を呼び掛ける障害者支援機関や当事者団体などの定例外委員である。
 相談センターの職員による受理会議において障害者差別に関する相談と判断したすべての案件を議題に挙げ、調査内容や手法、対応の方向性や方針、事案の終結などに対して助言を受けている。平成28年度の審議件数を図表2-7に示す。

図表2-7 連絡調整会議における審議件数
日程 審議件数 審議レベル
協議 確認 報告
8月5日 3 2 0 1
9月2日 5 1 2 2
10月7日 6 1 5 0
11月4日 13 2 10 1
12月2日 30 1 9 20
1月6日※ 8 2 6 0
※積み残しが発生し臨時開催
1月20日 14 1 5 8
2月3日 14 0 7 7
3月3日 7 0 4 3
合計 100 10 48 42

 相談センターの担当者からは、連絡調整会議は相談センターの長の判断で開催することができるため、より迅速に困難事例に対応することができる。実際の会議においては、障害者団体や専門機関などに確認した情報や事業者から聞き取りした状況などを報告している。これに対して、各委員から関係法令の確認や同業他社の運用状況の把握、組合や協会といった組織の有無やかかわり方への助言を受けることが多い。相談センターが現場レベルでの実際の対応を進める上での後ろ盾として、連絡調整会議が重要な役割を果たしている、という声が聞かれた。
なお、現在名古屋市が検討中の条例では、相談センターの調査調整機能を明記して、差別に関する事案解決の仕組みを充実させることを検討しているとの話だった。

 以上、千葉県と名古屋市の事例を紹介した。なお、差別に関する相談・事案解決のための体制や権限については、担当者ごとに異なる反応があった。
 まず、図表2-4に見られるように、差別に関する相談対応や事案解決に関する新たな体制の整備や権限付与に言及する条例は少なくない。そこには、主務大臣制に基づく分野別の紛争解決のための体制とは別に、軽微な事案[ 障害者政策委員会政策委員会差別禁止部会の意見書(2012年9月14日)において、紛争はその度合いごとに、次の3つに分類されている。
 A)相手方の思い込みや誤解をなくしたり、少し相手方に配慮してもらえれば解決可能な軽微な事案
 B)一定の利害対立が想定され、正しい理解や情報の提供など簡易な調整では納得が得られないような事案であるが、一定の時間をかければ、合意的な解決が望めそうな事案
 C)利害対立が強く合意的な解決では解決が望めない事案
 「軽微な事案」と表記をした内容は、上記のA)に該当するものである。]解決のための仕組みを充実させる必要があるという考え方があり、今回のヒアリングでも「障害者差別解消法第14条に調整権限を書き加える必要があるのでは」と指摘する声が聞かれた。
 ただし、千葉県や名古屋市の事例に見られるように、相談窓口では「福祉関係にとどまらず、雇用や教育、医療など多岐に渡る相談」を受け付けることになる。このため、実効ある対応を進める上での後ろ盾として、分野を横断したバックアップ体制が必要になる。千葉県や名古屋市の事例では、連絡調整会議と呼ばれる会議がその役割を果たしていた。
 一方、既存の相談窓口を活用し、主務大臣制に基づいて既に相談・紛争解決機能を有する関係機関を連携させる形で差別に関する事案を解決するための体制を整備しようとしている地方公共団体も多い。そのような地方公共団体は、「障害者からの相談に応じ又は紛争の防止や解決を図るための体制について、行政肥大化防止などの観点から、新たな機関は設置せず、既存の機関などの活用・充実を図ること」と示している、『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律Q&A集<地方公共団体向け>』の問15-2回答の記述に則っている団体である。
 そのような地方公共団体の担当者からは、「相談窓口に差別解消の権限だけをもらっても実効性のあるものにはならない」と、新たにワン・ストップの相談窓口を設け相談・紛争解決に関する権限を付与することについては消極的な様子がうかがわれた。その背景として、上述した内閣府からの文言の存在に加えて、障害福祉所管部署に委託されている法定業務が多く、人手不足の現状もあり、主務大臣制を後ろ盾に、既存の相談・紛争解決機能を活用する形での対応しか選択肢がない現実があることが推測された。この点については、差別に関する相談・事案解決のための体制を新規に確保した地方公共団体の担当者からも、「既存の窓口だけで賄っている自治体は手が及ばなくなるのではないか」との意見が聞かれた。

(3)課題

 本章では、差別に関する相談・事案解決に関する地方公共団体の取組に焦点を当て、調査結果を報告した。いずれの組織においても、障害者の差別に関する相談・事案解決のための体制整備に取り組む様子がうかがわれた。以下では、この調査において、課題と感じられている点について地方公共団体の担当者からなされた指摘をまとめる。

生活相談と差別相談の関係

 課題の1つ目は、相談・事案解決における基礎となる考え方に関連する内容のものである。例えば、以下の事例について、どのように考え、どのように数えるのだろうか。

 障害者がある物件の賃貸契約を申し込んだところ、障害者であることを理由に断られたという相談が持ち込まれた。相談を受け付けた相談機関は、住居の確保が最優先課題と考え、障害者に理解のある家主を紹介して住居を確保し、問題は解決した。しかし、その背景には障害者差別が潜んでいる。

 相談の受付について質問をした際、いずれの地方公共団体の担当者からも、「相談は広く受け付けるべき」「窓口のハードルは下げなければならない」という考え方が返ってきた。しかし同時に、「差別相談窓口が『嫌な思い』レベルのものも受け付けるとなると、今度は生活相談が沢山入ってくる。人員の限りもある中、パラドクスがある。」という声も聞かれた。
 地方公共団体の障害福祉所管部署は、内閣府の業務だけではなく、多くの省庁からの法定業務を扱っている。時間的・人員的制約が多い中、先に例示したような、生活相談と差別相談が混在するような事案をどのように扱えば、社会的障壁の存在に関する社会全体の理解を深めることに還元することができるのか、論点の整理が必要と思われる。

ガイドラインの充実

 課題の2つ目は、先の生活相談と差別相談に関する論点と重複する部分があるが、ガイドラインの充実を求める声である。

  • 困難事例を共有する場がほしい。相談体制が整っているところと、整っていないところ、同じような共通認識を持ちたい。
  • 小さな町村の担当者の差別に関する感じ方に違いがあるという話を聞く。障害者差別解消法の担当を1人確保することができず、差別を感知しないケースがある。
  • もう少しHow to的なものが欲しい。内閣府が事例の積み重ねをやってくれているが、茨城県のようなガイドラインのようなものを国で作ってほしい。
  • ガイドラインの充実については、事例集ではなく、考慮要素をきちんと示したものを作ってほしい。

 担当者の理解の仕方によって、相談が建設的な展開をしたりそうでなかったりする場合が生じる点を踏まえ、考え方の手引きが必要であると感じられた。2018年に入り障害者権利委員会から公表された無差別平等に関する一般的意見第6号においてあげられている論点も踏まえ、事例の収集から更にふみ込んだ、論点整理の場が期待される。

国、都道府県、市町村の関係

 課題の3つ目は、国、都道府県、市町村の関係の整理である。この点については、ヒアリングに訪れたすべての地方公共団体の担当者から指摘があった。

  • 相談をつないだ先の国の機関に、差別解消法について判断する役割を担っているという自覚がなく、困った経験がある。主務大臣制で関係省庁が所管するのであれば、末端まで周知してほしい。
  • 各府省庁にもう少し頑張ってほしい。各自治体での紛争解決ではおさまらないとき、いざという時のために主務大臣制は必要。
  • 都道府県をまたがる事案をどうしたらいいか。都道府県と市町村の役割分担については、主務大臣制との役割分担も併せて整理が必要。
  • 県と市町村の関係性が、自治体によって異なる。法の中で県と市町村の関係が法に明記されていない中で弊害は生じていないのか。
  • 法・条例に基づく指導、勧告規定の整理が難しい。条例の勧告と一緒に法12条の規定も出してとなると、県の他に所管する主務大臣へも調査などを依頼することになる。

 本章を通し、地方公共団体が個別に、差別に関する相談・事案解決のための体制整備に非常に尽力していることは確認されるものと考える。このような取組に対し、どのように、国、都道府県、市町村が重層的な相談支援体制を整備し、それらの有機的な連携を構築するのか。この点についても検討する機会が必要と思われる。

前のページへ次のページへ