1 国外調査 1.6.2

1.6 ノルウェーにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.6.2 ノルウェーの包括的な最初の報告の国連審査状況

(1)審査プロセスの現状

1)障害者権利条約の批准

ノルウェーは、2013年に障害者権利条約を批准し2015年7月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。

2)障害者権利条約に基づく報告

ノルウェー政府の包括的な最初の報告の編纂にあたっては、児童・平等・社会統合省が全体の調整を行っている。執筆にあたって関係省庁や障害者団体からの意見の収集、サーミ議会での聴取に加え、ノルウェー障害者団体連盟に30万ノルウェークローナを助成し、市民社会組織によるシャドーレポート執筆の調整を依頼した。その後、2015年7月2日に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。
 障害者権利委員会では、2018年9月に開催された第10回事前作業部会で検討された事前質問事項が2018年10月30日に提示され、これに対する政府回答は、2019年1月14日に提出された。この内容を踏まえて、2019年3月に開催される第21会期においてノルウェーの包括的な最初の報告の検討が行われる予定となっている。

3)市民社会、オンブズマン、国家人権機関からの情報

ノルウェーでは委員会第10回事前作業部会に向けたレポートが、オンブズマンから2本、国家人権機関から1本出されている。また、市民社会組織からは事前質問事項の提案が2本出された。1つ目はノルウェー障害者団体連盟が傘下の市民社会組織からまとめたもので、2つ目は心理社会的障害者を代表する組織「我々は乗り越える」(We Shall Overcome;WSO)によるものとなっている。障害者権利委員会第21会期に向けたパラレルレポートは、ノルウェー障害者団体連盟とWSOから提出されたほか、国家人権機関が1本のレポートを提出している。

(2)主な論点

第1-4条 一般的義務

第1-4条に関しては、1つのパラレルレポートで指摘がなされている。その内容は、ノルウェーの12条、14条、25条に対する解釈宣言に反対し、取り下げのための姿勢を問う質問、地方ごとの差異の解消に関する質問、障害者権利条約の国全体への認知に関する質問を提案するものだった。
 一方、事前質問事項では a) 法と政策を審査し、障害者権利条約を遵守させるためにとられている措置 b) 民族的、宗教的、言語的な少数派、及び性的少数派を含んだ障害者団体と、障害者権利条約実施のための有意義な協議を行うために作られた仕組みや人的、経済的資源について c) 地方裁判所、県知事、あるいは最高裁判所において条約を行使した障害者に対する差別の事例 d) 条約の選択議定書を批准するためにとられた措置と、その批准のための期間について質問がなされた。
 これに対し、事前質問事項に対する政府回答では a) 2018年に施行された平等・差別禁止法をはじめとする、障害者権利条約に則った近年の立法や政策上の取組について、そして2013年に施行された後見法は障害者権利条約の法的要件を満たすことを目指しており、法的能力を制限する規定も障害者権利条約に適合する考えであることb) 障害者団体のために毎年資金提供を行っていること、サービス提供における障害者への意思確認や、行政への関与の仕組みがあること、法の改正案等は障害者団体等の回覧に付される仕組みがあること c) 障害者本人の申立てにより後見人が外された事例、本人の意思決定が経済的破滅をもたらすとの理由で経済面に対する法的能力を制限した事例、及びインクルーシブ教育実現のために高校での2つの外国語が必修である件を考慮した事例について d) 選択議定書に対する政府の理解と委員会の解釈が一致しない部分があるため、選択議定書を批准する措置をとらないことなどが述べられた。
 第21会期に向けたパラレルレポートでは、ノルウェー政府が12条、14条、25条に対して解釈宣言を行っている問題、そして選択議定書が批准されていない問題がすべてのレポートで指摘され、最終見解において、解釈宣言の撤回と選択議定書の批准を勧告することが提案された。

第5条 平等及び無差別

第5条に関しては、2つのパラレルレポートから指摘がなされた。その内容は、差別禁止裁定委員会の効力の弱さと移民に対する差別について、そして心理社会的障害者、知的障害者の自己決定権が法律により制限され、本人の意思を尊重しない現場対応がなされていることについて指摘するものであった。
 事前質問事項では、a) 平等・差別禁止オンブッド及び差別禁止裁定委員会の権限強化のための施策 b) 持続可能な開発目標の目標10.2と10.3に準じて複合的横断的差別を防止し取り払うための措置について質問がなされた。
 これに対し、政府回答では a) 差別禁止裁定委員会は既にあらゆる分野における差別に対応でき、平等・差別禁止オンブッドの役割はアドボカシーと助言であること b) 平等・差別禁止法が複合差別を禁止しており、児童・平等省では差別防止のための報告義務と活動強化の提案をしていることが報告された。
 第21会期に向けたパラレルレポートでは、心理社会的障害者、及び知的障害者の自己決定権が法律により制限されていること、差別禁止裁定委員会の被害の補償に関する権限が不十分であることが指摘され、最終見解において、差別的な法律の見直しや差別禁止裁定委員会及び平等・差別禁止オンブッドの権限の制限が平等と無差別のための活動を妨げないことを勧告することが提案された。

第6条 障害のある女子

第6条については、2つのパラレルレポートから指摘がなされた。その内容は、複合差別に対する調査、研究の不足と、研究におけるジェンダーの視点の不足について、そして特に心理社会的障害のある女性が強制的な医療や監禁、暴力といった深刻な性差別にさらされている点について指摘するものであった。
 一方、事前質問事項では a) 障害のある女性及び女児に関する委員会の一般的意見第3号(2016)を考慮した戦略について b) 障害のある女性及び女児に関するエンパワメントのためにとられている措置についての質問が挙がった。
 これに対し、政府回答はa)ノルウェーは世界で最もジェンターの平等な国の一つと国際的に認知されており、制度の充実度に関しては包括的な最初の報告の第6条を参照して欲しい b) 政府回答の第1-4条を参照して欲しいという内容にとどまり、明確な回答はなされなかった。
 第21会期に向けたパラレルレポートでは、障害のある女性に対する複合差別についての調査、研究が欠如しており、統計も不十分な点、障害のある女性に対する強制的な不妊治療や人工妊娠中絶が後見人の同意によって可能な点が指摘され、最終見解において、障害のある女性を女性の地位向上に関する政策や取組に包容すること、調査、研究、統計において障害のある女性に関する問題に特に注意を払うこと、人工妊娠中絶や不妊治療を本人への説明と同意なしに実施することを可能とする法律を撤廃することなどを勧告することが提案された。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

第9条に関しては、2つのパラレルレポートで指摘がなされた。その内容は、ユニバーサルデザインに関する法律と行動計画における明確な期限の欠如、及びウェブアクセシビリティ規則の範囲が公共のウェブサイトに限られている点、学校の設備が物理的に障害者に利用可能なものではなく、障害のある児童の地域での就学機会を奪っている点、そして平等・差別禁止法が物品、サービスへのアクセシビリティを規定していない点を指摘するものであった。
 事前質問事項では、a) ユニバーサルデザインを促進するプログラムの最新情報と、アクセシビリティ基準の遵守と罰則の実施を監視する仕組みについて b) 公共部門の組織のウェブサイト及びモバイルアプリケーションのアクセシビリティに関する2016年10月26日のEU指令第2016/2012 号にある国内の差別禁止法を調和させるための措置、公共及び民間部門でのアクセシビリティ促進のための取組と成果についての質問がなされた。
 政府回答では、a) ノルウェー国営住宅銀行によるアクセシビリティ促進のための資金援助と、「県と自治体におけるユニバーサルデザインのための国家開発プログラム(2009-2013)」の成果と現在も継続中の取組について、また、アクセシビリティ基準違反に対する罰則はないものの、差別禁止裁定委員会への申立てが可能であること b) EU指令をいかにノルウェーの法律に置き換えるかについて検討中であることが報告された。
 第21会期に向けたパラレルレポートでは、ユニバーサルデザインに関する規則及び義務、国家行動計画の拘束力などが近年になって緩和されている点、情報、通信、又はデジタルサービスの一般的なアクセシビリティを管理する法律が存在していない点が指摘され、最終見解において、2025年までに適用される、明確な期限を伴ったユニバーサルデザインのための行動計画を策定すること、既存の建物へのユニバーサルデザインに関する規制に明確な期限を設けることなどを勧告することが提案された。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

第12条に関しては、3つのパラレルレポートで指摘がなされた。そこでは、代理意思決定、障害者に対する拘禁、拘束、強制的な治療等が法的に認められ、かつ本人を介さない一方的な運用が見られる点、後見人に一律に研修を受けさせる又は後見人を監督する仕組みを導入する予定がない点、そして第12条に対し解釈的批准を行い、後見制度が維持されている点が指摘され、障害者の希望や選好の尊重という点において、実際の運用面において障害者権利条約に合致した対応がとられているか、法制化に先立って注意深く観察するべきとする意見も出された。

 事前質問事項では、a) 第12条の解釈宣言撤回のための措置と、障害者の法的能力の権利に対する意識を向上させるためにとられた措置について b) 代理意思決定制度を支援付き意思決定制度に置き換えるためにとられている取組 c) 後見制度が適用されている人と本条約の批准後に法的能力が完全に復活した人についての統計 d) 後見法の施行後に障害者団体の協力の下で作成された、後見人に対する障害者の権利教育のための施策の有無 e) 違反時の制裁を監視する手続、後見人による決定に反対する障害者、その近親者に対する有効な救済について情報提供が求められた。
 これに対し、政府回答では a) 第12条の解釈宣言は、法的能力の制限が最終手段として厳密に必要であるという前提の下で、条約はこうした制限を行う限定的な権威を考慮に入れているという多くの国で共有されている見解であり、撤回のための措置は講じていないこと b) ノルウェーの後見制度では後見人が被後見人の意思と望みを尊重しなければならず、それが支援付き意思決定となっていること、そして法的能力の制限は裁判所を通して、極めて限定的な形で行われること c) 障害の種類別の統計は定かでなく、性別、年齢別の統計の提示d) 後見制度の利用者組織と中央後見機関が定期的に会合していること、2019年には県知事の主導で各地の後見人の研修制度が立ち上げられる予定で、利用者組織もそれにかかわっていること、後見人に研修科目や障害者の権利の情報を提供するウェブサイトがあり、県知事室でもウェブを通じた情報提供をしている場合があること e) 被後見人の法的能力が剥奪されていても、後見人は被後見人の意見を考慮に入れて決定を下さなければならないこと、そして、被後見人が後見人の決定に賛成できない場合は県知事に問題を提起できること、県知事は後見人を監督し、中央後見機関が県知事を監督しており、後見人が規定に従わない場合、県知事は助言や指導を提供するか、解任することができることなどが述べられた。

第21会期に向けたパラレルレポートでは、後見法で代理意思決定が指示されており、条約第12条に違反している点、後見制度の中に障害者の法的能力を奪う手段が残されていることが指摘され、最終見解において、すべての人が法的能力を行使するための支援を保障する法律を制定すること、法的能力を奪う法律を廃止すること、支援付き意思決定の仕組みを政府が策定することなどを勧告することが提案された。

第13条 司法手続の利用の機会

第13条については、2つのパラレルレポートから指摘がなされている。その内容は、医療行為の名の下に合法的に行われる人権侵害への指摘及び批判、裁判所が物理的に障害者にとって利用可能でない点や、法的扶助法が介護サービスや差別を対象としていない点を指摘するものであった。
 事前質問事項では、a) 障害者、特に心理社会的障害者、知的障害者に持続可能な開発目標の目標16.3に準じた司法制度へのアクセスを保障するための措置 b)教育へのアクセス、保健サービスを含むあらゆる事案に対する無料の法的扶助の提供のために講じられている措置について質問がなされた。
 これに対し、政府回答では a) 暴力や性的虐待の被害者に対する追跡調査について、そして裁判所が多くの身体障害者に対して適合条件を満たしていない一方で、発話、聴覚障害を持つ証言者の通訳は自治体から支出されること、b) 2018年10月に法的扶助計画見直しのための公的委員会が設置され、検討を行っていることが報告された。
 第21会期に向けたパラレルレポートでは、法的扶助法が教育、保健サービス、無差別といった障害者にとって重要な領域を対象としていない点、裁判所での物理的なアクセシビリティが確保されていない点、障害のある児童が司法を利用できるかどうか、整理された情報がない点などが指摘され、最終見解において、精神保健施設に入所する個人が自分の意思で退所を選択するための効果的な仕組みの利用手段を提供すること、裁判所へのアクセシビリティに関する調査を行うこと、法的扶助法を改正し、障害者にとって重要な分野をその範囲に入れることなどを勧告することが提案された。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

第19条に関しては一つのパラレルレポートから指摘がなされている。その内容は、利用者が管理できるパーソナルアシスタンスの制度があるものの、すべての障害者が利用できるわけではない点、知的障害者は、業務時間外には通訳等のサービスを受けられない点を指摘するものであった。

 一方、事前質問事項では、以下の5項目に関する情報が尋ねられた: a) 自立した生活及び地域社会への包容に関する一般的意見第5号(2017)を考慮に入れ、脱施設化を保障するためにとられている措置 b) 施設に住んでいる高齢者に対する強制的な保健と薬物リハビリテーションの使用を終わらせるために取られている法的措置 c) 各個人に最適化された住宅供給の設立のために利用できる公的あるいは民間の財源 d)住宅供給と支援サービスのための国家戦略(2014-2020)の現在の状態と、障害者に利用できる支援についての情報提供を保障するためにとられている行動、そしてこの戦略の実施における障害者団体の関わりについて e) 知的障害者の基本的権利に関する公共委員会の成果と、それに付随してとられた措置。
 これに対し、政府回答では a) 自立生活の促進のために複数の措置を提供しており、利用者は増加傾向にあること b) 保健部門における強制措置に関する法制度について見直しを行っていること c) 各個人に合った住宅供給支援に使われる政府の金融商品をHusbanken(ノルウェー国営住宅銀行)が管理していること d) 自立生活に関して、保健サービス省が複数の取組を行っていること、利用者が管理できるパーソナルアシスタンス制度について、そして住宅供給と支援サービスのための国家戦略(2014-2020)の成果に関しては、一定の成果は出ているものの障害者団体はこの国家戦略にかかわっていないこと、手話通訳者の供給に関して政府と聴覚障害者団体が対話中であること e) ルウェー政府による公式な報告で、8つの行動が提案されており、国会に提出する白書でこの報告に言及する予定であることについて報告がなされた。

 第21会期に向けたパラレルレポートでは、障害者が適切な住居を取得するにあたっての自治体の支援義務が不十分であること、住居の選択及び生活の上での障害者の自己決定権が十分に守られていない点、UPA制度の課題点などが改めて指摘され、最終見解において、障害者が自分の生活を手配する機会を実際に設けること、障害者の住んでいる場所や生活形態にかかわらず、各個人に特化されたサービスへのアクセスを保障すること、平等、自己決定、社会参加に寄与する利用者が管理できるパーソナルアシスタンスを提供すること、手話通訳サービスの提供可能な時間の拡大、コミュニケーション、支援機器に対する専門知識のある聴覚障害者向け施設の設置などを勧告することが提案された。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

第21条については、1つのパラレルレポートから指摘がなされている。その内容は、情報、コミュニケーション分野においてはユニバーサルデザインが要件になっていない点、放送の吹き替えは義務ではないため、視覚障害者や認知上の障害者にニュースやノルウェー語以外のテレビ番組が利用できない点、公共の催しの際に通訳サービスが提供されていない点についての指摘をなすものだった。
 事前質問事項では、公共の催しや公共の情報に対して、視覚障害者、ろう、及び盲ろう者が完全に利用可能な状態を保障するための政策とプログラムについての情報を問う質問がなされた。
 これに対し、政府回答ではノルウェー国営録音図書館と点字図書館の取組、ノルウェー労働福祉局における障害のある利用者が関与したユニバーサルデザイン導入、国営放送であるノルウェー放送協会(NRK)の体制とアクセシビリティ向上の取組に関して報告がなされた。
 第21会期に向けたパラレルレポートでは、ICTのユニバーサルデザイン基準が遵守されておらず、公共、民間いずれもスクリーンリーダーで読めないウェブサイトや書類がある問題、自治体が利用者のニーズに応じた形式でやり取りを行う義務を必ずしも履行していない問題、放送法におけるテレビに字幕をつける義務の規定が不十分な点などが指摘され、最終見解において、情報サービスにユニバーサルデザインを導入する義務を取り入れること、手話番組の放送時間拡大や、テレビ番組への字幕の徹底、生放送番組への吹き替えの徹底などを勧告することが提案された。

第24条 教育

第24条については、1つのパラレルレポートで指摘がなされた。その内容は、身体障害のある生徒は通常の生徒より中等教育を卒業できない割合が多く、職業訓練や高等教育への道が閉ざされている点、障害のある児童の教育の質が地理的要因に大きく左右され、法的権利の遵守も徹底されていない点、適応教育のための専門家による措置が教員育成の枠組みに含まれていない点を指摘するものだった。
 事前質問事項では a) 教職員の能力などの維持と保護者たちのインクルーシブ教育に対する意識向上のための措置b) 普通教育機関における、障害のある学生に対する合理的配慮提供のための国単位、地域単位での取り組み c) 普通学校における、ろう、盲ろう、又は難聴を含む障害のある児童、成人に適合した学習環境の提供のために講じられている措置についての情報提供が求められた。

これに対し、政府回答では a) 初等中等学校の教職員教育のための枠組みでは、教員がインクルーシブな教育環境を作ることに重点が置かれているのに加え、特別なニーズ教育のための専門化が2019年秋から開始される予定であること、そして就学前教育及び学校における早期介入とインクルーシブ・フェローシップについての報告を教育省が準備していること b) 評価の結果に沿った最適な作業環境の提供について法律で規定されており、学生福祉団体の斡旋する学生用住居では、ユニバーサルデザインの基準が設けられていること c) ニーズ評価によって認定されれば、手話、点字、補助的代替的コミュニケーションなどを利用した授業を受けることができ、ニーズに適合した学習環境を提供される権利が法律で認められていることについて報告がなされた。

第21会期に向けたパラレルレポートでは、学校のユニバーサルデザインに関する政府からの勧告に拘束力がない点、後期中等教育で知的障害あるいは認知に障害のある生徒に合った教材が用意されておらず、分離教育となっている点、視覚障害のある児童及び聴覚障害のある児童に対するいじめが高い割合で発生している点、視覚障害のある児童、聴覚障害のある児童に対して、多くの場面で支援が不十分である点、インクルーシブ教育の実施について、教員の研修課程に十分に導入されていない点、障害者の45%が初等あるいは前期中等教育が最終学歴となっている点、高等教育を受ける障害者の割合が低く、一部の課程では症状に基づき除外されている点などが指摘され、最終見解において、インクルーシブ教育と職業訓練を受ける法で定められた権利を児童や若者が必ず享受できるようにすること、期限付きの規制を導入し、障害のある生徒が学ぶ上でのあらゆる障壁を除去すること、手話の学習を拡大し、自治体同士の協力の下、聴覚に障害のある生徒や盲ろうの生徒に対応できる環境を整備すること、教職課程にインクルーシブ教育の実施能力に対する要件を設けること、高等教育の入学資格をすべての生徒が得られるようにし、症状に基づく排除を廃止し個人に特化した評価を導入することなどを勧告することが提案された。

第29条 政治的及び公的活動への参加

第29条については、1つのパラレルレポートで指摘がなされた。その内容は、投票に関するユニバーサルデザインの基準が満たされておらず、特に視覚障害者は政党の資料にアクセスできず、投票の秘密も守られないという指摘であった。

事前質問事項では、 a) 障害者にとって完全に利用可能な投票手続の保障を想定した措置について b) 締約国のあらゆる段階における、政治的、及び公的な意思決定を行う立場において、特に女性の障害者による効果的な意見表明が行われることを保障するための取組についての質問がなされた。
 これに対し、政府回答では a) 平等・差別禁止法が、投票所がすべての人に利用できるようにする義務を自治体に課しており、自治体は投票所の外での投票も含めたあらゆる配慮を行う義務があること、その一方で、地方政府・近代化省は様々な利用者グループと協力し、ユニバーサルデザインの投票設備を開発していること b) 女性候補者をリストの上位に掲載し、追加投票の付与にあたっては男女同数を与えることで優先順位を同じにすることの重要性を訴える情報を提供していることについて報告がなされた。

第21会期に向けたパラレルレポートでは、障害者が政治において重要視されていない点、各政党による集会の会場がユニバーサルデザインの基準を満たしておらず、視覚障害のある政治家に対する文書配布なども配慮がなされない点、国会中継に字幕がない点、選挙管理委員が障害者による投票に関して必要な仕組みを理解していないことがある点、放送や政党のウェブサイトに十分なアクセシビリティが確保されておらず、認知障害者が選挙に参加するのに十分な情報が提供されない点などが指摘され、最終見解において、障害者が政治に参加するにあたってのあらゆる障壁を明らかにすること、情報を利用可能なものにするための措置を講じること、障害者の投票の権利と投票の秘密の保護を目的とした電子投票の導入、情報へのアクセスの不足を差別であると規定すること等を勧告することが提案された。

第31条 統計及び資料の収集

第31条について、2つのパラレルレポートから指摘がなされた。そこでは、統計や調査データの取得状況とワシントングループの質問セットの導入状況について、そして障害者差別に関する統計や書類の欠如、公的機関の差別禁止に関する知識の欠如について指摘がなされた

 事前質問事項では、 a) 本条約の実施のために作られた公共政策の影響を計るための、ワシントングループの障害に関する短縮質問紙セットに案内されている、統計、指針、基準についてb) 障害者に対する差別と戦うために設置されている仕組みについてそれぞれ情報の提供が求められた。
 これに対し、政府回答では a) ノルウェーのサンプリング調査について、EUの基準にはほぼ沿っており、ワシントングループの基準にも多くの部分で準拠しているが、完全ではないこと b) 児童・青年・家族問題総局が障害の分野での調査研究を開始、命令する役目を負っていることが報告された。
 第21会期に向けたパラレルレポートでは、不十分な予算配分によって障害者の差別に関する調査研究がほとんどなされていないこと、体系的なデータ収集がなされておらず、障害者権利条約の実施の効果を計る権利に基づいた指標が開発されていないこと、包括的な最初の報告や事前質問事項の回答の中で政府によって挙げられるデータは恣意的であり、様々な措置がどのように機能し、障害者の状況が一般と比較してどのようになっているか明らかにされていない点が指摘され、最終見解において、政府による報告の質向上と障害者差別に関する調査を開始すること、権利に基づくアプローチで、条約の実施を測る指標を開発することを勧告することが提案された。

第33条 国内における実施及び監視

第33条に関しては、1つのパラレルレポートから最終見解に向けて障害者団体等をどのように関わらせるのかという質問が提案された。
 事前質問事項では、 a) 国、地方、自治体組織において本条約の実施を調整するためにとられている措置 b) 障害者権利条約の実施、監視、報告における障害者代表団体の参加を保障するための、財源の割り当てを含む取組 c) 障害者権利条約の実施及び、代表的な障害者団体との協力についての報告も含めた、本条約第33条(2)に関するノルウェー国家人権機関の役割についての質問がなされた。
 これに対し、政府回答では a) 児童・平等省が国レベルでの条約実施を調整し、家族問題総局が自治体における実施のためのプロジェクト計画の提案を作成していること b) 市民社会に対し、オルタナティブレポートの執筆にあたっての経済支援、及び障害者権利委員会との会合のための交通費が政府が支給されていること c) 平等・差別禁止オンブッドが障害者権利条約実施の監視の役割を負っており、差別禁止裁定委員会への申立てや、障害者権利委員会への報告を提出する役目も負っていることについて報告がなされた。国家人権機関であるノルウェー国家人権機関の役割については回答がなかった。
 第21会期に向けたパラレルレポートでは、障害者権利条約と選択議定書の批准の計画及び手続に、市民社会はほとんど関与していない点が指摘され、最終見解において、障害者権利委員会による最終見解への対応の監視に障害者コミュニティや障害者団体を関与させることを勧告することが提案された。

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