1 国外調査 1.6.1

1.6 ノルウェーにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.6.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

ノルウェーは、2007年に障害者権利条約に署名し、2013年に批准している。2015年7月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。なお、選択議定書には署名しておらず、第12条、第14条、第25条に対して解釈宣言を行っている。

(1)障害者関連法制

障害の定義

ノルウェーは、障害に関して法律上の定義の有無を報告していないものの、包括的な最初の報告では、 “今日のノルウェーでは、通常、障害とは個人の能力と社会の要請の隔たりであるとみなされる。”(第7項)と記述されている。この表現はノルウェー政府公文書St.meld. nr. 40 (2002-2003) Nedbygging av funksjons-hemmende barrierer(障害となる障壁の緩和) の8ページ目にある同様の記述を踏襲したものと思われる。ノルウェー語では障害を意味する表現は主としてnedsatt funksjonsevne (低下した機能的能力)、funksjonsnedsettelse (機能低下)、 funksjonshemming (機能の阻害) の3つがあるが、前者2つは医学的に身体機能に問題のある状態を指す。9St.meld. nr. 40 (2002-2003) における定義は、funksjons-hemming に対するものである。一方、障害者権利条約はノルウェー語でFN-konvensjonen om rettighetene til mennesker med nedsatt funksjonsevneと訳され、医療モデルに基づく表現が用いられていることが分かる。このように、英語の報告書ではdisabilityの語で統一されていながら、政府内の文書などでは社会モデルにおける障害者を意味する語と、医療モデルにおける障害者を意味する語が文脈によって使い分けられている点には注意が必要である。

差別禁止及びアクセシビリティ法

ノルウェーでは障害者による完全な社会参加と平等を達成するため、2018年の1月から包括的な差別禁止法である、差別禁止及びアクセシビリティ法(Anti-Discrimination and Accessibility Act)が施行された。
 差別禁止及びアクセシビリティ法では、障害に基づく差別や嫌がらせが禁止されている。この法律における障害には、肉体的、精神的及び認知におけるものが含まれている。この法律では障害者各個人に対して個別の配慮の提供を規定しており、規定の違反は差別とみなしている。公的機関及び雇用者には、活動並びに報告の義務が課されている。

アクセシビリティの確保を明記している法律

差別禁止及びアクセシビリティ法をはじめとした各法律に、ユニバーサルデザインについての規定が含まれている。
 ユニバーサルデザインは一般的な建設とその計画について規定する計画と建築法(Planning and Building Act)でも目的の1つとして言及されている。
 ICTのアクセシビリティについては、差別禁止及びアクセシビリティ法を根拠に作成された情報コミュニケーション技術ソリューションのユニバーサルデザインのための規則(Regulations for Universal Design of Information and Communication Technology Solutions)で規定されている。

保健及び生活支援に関する法律

各地域における住民に対する保健の提供を規定する、保健サービス法(Health and Care Services Act)では、利用者が管理できるパーソナルアシスタンス(user-controlled personal assistance;UPA)の制度を規定している。
 歯科衛生サービス法(Dental Health Services Act)では知的障害者、及び長期的な疾病、障害のある人に対して、定期的かつ積極的な歯科医療を無料で提供することが定められている。

経済支援に関する法律

障害にかかわる一連の給付金、補助金などについては、国民保険法(The National Insurance Act)で規定されている。

その他

ノルウェーでは2014年5月に人権保護の強化を目的とした大幅な憲法改正が行われた。経済的・社会的・文化的権利に加えて、最も基本的な市民権・政治的権利を含む人権を網羅しているとされており、すべての人に対してそれらの権利を保障している。これに加え、第98条には平等の原則と差別の禁止が明記された。

(2)障害者政策の枠組み

2020-2030年期間の障害者の平等のための戦略

児童・平等省(the Ministry of Children and Equality)は、2020-2030年期間の障害者の平等のための戦略文書、「みんなのための社会」(Et samfunn for alle)を公開している。この政府戦略は、1. 普遍的な解決と特別な対策の策定 2. 自己決定、関与、参加、包容のために取り組む 3. あらゆる水準における調整の改善 4. 教育、仕事、健康と介護、文化と余暇の4領域の重視の4点を柱にした、2020-2030年の間に実施される障害者の平等政策が紹介されている。10

住宅及び援助サービスのための国家戦略「福祉のための住宅」(2014-2020)

この国家戦略では6つの省が担当し、6つの部局でその実施作業に協力している。利用者のニーズに適合する住宅を手に入れるための支援がこの戦略の実施における焦点となっており、不利な立場にある人のための、質の高い多様な住宅供給方法が複数の自治体で策定されるといった成果が既に出ているとされている。

(3)国内の実施体制

1)中央連絡先

ノルウェーによる包括的な最初の報告、及び事前質問事項に対する回答には、中央連絡先について明記されていない。

2)調整のための仕組み

包括的な最初の報告では、児童・平等・社会統合省(the Ministry of Children, Equality and Social Inclusion)が国内における障害者権利条約実施の調整を担当しており、これには締約国の報告の執筆、公開も含まれているとされている。児童・平等・社会統合省は、2016年4月に児童・平等省に名称が変更された。

3)独立した仕組み

独立した仕組みとしては、平等・差別禁止オンブッド(the Equal Opportunities and Anti-Discrimination Ombud)と差別禁止裁定委員会(the Anti-Discrimination Tribunal)を挙げることができる。いずれも平等・差別禁止オンブッド及び差別禁止裁定委員会に関する法(the Act on the Equality and Anti-Discrimination Ombud and the Anti-Discrimination Tribunal)によって独立した機関として定められており、オンブッド差別禁止規定遵守の監視、及び苦情の受け付けを行い、当事者による自発的な遵守が確保できない場合は裁定委員会に申立てを行う。審判の内容次第で、裁定委員会は違反者に対し、損害賠償や補償などを命じることができる。また、パリ原則に則った独立した人権機関として、ノルウェー国家人権機関(Norwegian National Human Rights Institution11があるが、この機関の障害者権利条約の第33条と関連する役割に関してノルウェー政府は一切の言及を行っていない。

4)その他

政府は障害者団体に対し、運営補助金やピアサポート補助金の名目で資源を分配している。これらの補助金によって、団体は各地域で障害者に対する訪問サービスやセミナー、ヘルプライン等を提供している。各省庁は、ノルウェー障害者団体連盟(FFO)とノルウェー障害者フォーラム(SAFO)という2つの傘下の組織と定期的な会合を行っている。
 各個人のニーズに応じたサービスや補助金の給付は、ノルウェー労働福祉局(the Norwegian Labour and Welfare Administration;NAV)が行っている。

5) 関係主体の全体像

ノルウェーの包括的な最初の報告、事前質問事項への回答などの情報を基に、ノルウェーにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図1.6-1にまとめる。

図1.6-1 ノルウェーにおける関係主体の全体像 (図1.6-1のテキスト版


9 Norges offentlige utredninger 2005: 8 “Likeverd og tilgjengelighet” p. 37

10 Et samfunn for alle. Barne- og likestillingsdepartementet. P. 8. ( https://www.regjeringen.no/contentassets/bc8396c163f148dc8d4dc8707482e2be/et-samfunn-for-alle---regjeringens-strategi-for-likestilling-av-mennesker-med-funksjonsnedsettelse-for-perioden-2020203.pdf )

11 https://www.nhri.no

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