1 国外調査 1.7.2
1.7 トルコにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況
1.7.2 トルコの包括的な最初の報告の国連審査状況
(1)審査プロセスの現状
1)障害者権利条約の批准
トルコは、2009年に障害者権利条約を批准し、2015年8月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。
2)障害者権利条約に基づく報告
トルコ政府の最初の包括的な報告の編纂にあたっては、障害者及び高齢者総局が障害者団体、大学の人権センター、障害者関連の政策を担当したり、サービスを提供する機関と協力し、約200の機関から情報を収集した。市民社会が審査できるよう、報告は草稿の段階でウェブ上に公開され、公開から2週間後に市民社会グループとの会合を行い、草稿についての意見を集めた。その後、2015年8月3日に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。
障害者権利委員会では、2018年9月に開催された第10回事前作業部会で検討された事前質問事項が2018年11月9日に提示され、これに対する政府回答は、2019年1月14日に提出された。この内容を踏まえて、2019年3月に開催される第21会期においてトルコの包括的な最初の報告の検討が行われる予定となっている。
3)市民社会及びオンブズマンからの情報
トルコでは質問事項の提案が4本出されている。1つ目は平等権利監視協会(the Association for Monitoring Equal Rights;AMER)、この団体は国内の市民社会組織と連携しながら差別に対する監視と報告を行っている。2つ目は複数の市民社会や草の根組織の連合体であるトルコ障害者連合(the Confederation of the Disabled of Turkey)、3つ目は障害者団体の連合体である障害者権利監視グループ(the Disability Rights Monitoring Group;PSWG)によるものとなっている。4つ目は障害のある児童の権利のためのネットワーク(the Network for the Rights of Children with Disabilities;ECHA)で、障害者にかかわる活動を行う56の非政府組織で構成された、障害のある児童の権利の保護と可視化に取り組む団体である。この団体による質問事項の提案内容は第24条及び学校における建物、設備、教材のアクセシビリティ、学生に対する情報のアクセシビリティに特化している。
障害者権利委員会第21会期に向けては、最終見解における勧告の提案を含む6本のパラレルレポートが提出された。そのうち4本は前述の平等権利監視協会、トルコ障害者連合、及び障害のある児童の権利のためのネットワークの3団体によるものであった。5本目は11の非政府組織で構成される、国連の公認を受けた障害者団体である「社会の権利及び調査協会」(Social Rights and Research Society;TOHAD)によるもので、6本目は国際的な人権基準と法の支配の奨励と保護に取り組む、ボランティアによって成り立っている非政府組織である「人権擁護者」(the Advocates for Human Rights;TAHR)からのものとなっている。
(2)主な論点
第1-4条 一般的義務
第1-4条に関しては2つのパラレルレポートで指摘がなされた。その内容はa)これまでトルコが行ってきた国家戦略の有効性や、司法部門に障害者権利条約の内容が浸透していないことも含め、障害者権利条約を反映した法律の立法や、障害者の権利保障そのものが不十分であるという指摘、b)障害者の認定が医学的アプローチに準じて行われているという報告などである。
そして、事前質問事項ではa)立法行為を審査するための措置をはじめとした、公共政策における条約の適用状況について b) 障害の人権モデルに従って障害を評価するための方法と、障害評価にあたっての障害者団体の関与の程度について、c) 包括的な最初の報告提出後の、障害者団体との協議の状況とそれらの団体の関与のためにとられた措置について d)法律の条文から軽蔑的な用語を取り消すための措置についての質問がなされた。
これに対し、政府回答ではa) 2014年にトルコ障害法の関連規定を障害者権利条約に沿って修正したこと、b)障害を認定するために行われている「医療報告」の具体的な内容と意味について、c) トルコ障害者法第5738号でサービスの提供や意思決定にあたって障害者あるいは障害者団体の意見を考慮することを定められており、実際に障害者団体が意思決定、計画、実施、家族・労働・社会サービス省の活動の監視に参加していること、d) 2013年にトルコの法律を審査し、87箇所で差別的な表現が改められたことが報告された。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、公的機関における意識向上に課題がある点、そして独立した仕組みが整備されていない問題が指摘された。また、委員会による審査において、重度障害者の働く権利や、障害者権利条約をより有効にするための裁判所での取組等を論点とすることが提案された。
第5条 平等及び無差別
第5条についても、2つのパラレルレポートで指摘がなされた。そこでは、a)トルコ障害法の教育と雇用における差別禁止規定について、明確な罰則規定がないこと b) 2014年の刑法の改正で、障害に基づく差別の定義として憎悪に基づくものであることが必須条件として加えられたため、罰則の適用範囲が狭まったこと c) 生活上の多くの領域における、障害者に対する法的保護の欠如 d) 視覚障害者に対する制度上の差別、及び障害のある胎児に対する人工妊娠中絶の推奨について報告がなされた。
一方、事前質問事項ではa) 公的及び私的なあらゆる分野における、障害を理由とした差別を防止するための措置について b) 合理的配慮の否定をはじめとする、障害と関連する差別及び複合的、横断的差別など、あらゆる形態の差別を法的枠組みによって確実に認識させるための措置について c) 障害のある少数民族や、農村、東部、南東部に住む障害者、及び障害のある高齢者の状況について d) 差別の報告及び救済に関する統計情報についての質問がなされた。
これに対し、政府回答の内容は a) 現在策定中の障害者の権利に関する国家行動計画及び戦略文書等で、障害に関する差別との戦いのための規定がある点、 b) トルコ人権平等機関が2016年に設立され、その設立法が差別を定義し、あらゆる形態の差別の禁止や公共空間及び建物でのアクセスと合理的配慮の提供義務を規定していること、そしてトルコ人権平等機関がこれらの規定に違反した者に罰金を科す権限があること c) トルコ政府によって居住許可を得た障害のある外国人にトルコ人と同等の介護を提供することを規定した外国人国際保護法についてd) 障害で分類した統計の提出の拒否というものだった。また、c)に関しては、国内の少数民族、農村地域、東部・南東部地域居住者、高齢者などの事例については回答がなされなかった。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、障害者・高齢者サービス総局が複合差別に対応するための政策を用意していない点、障害者は検事、判事、知事、外交官等になることができない点が指摘され、最終見解において、市民社会の参画する独立した監視の仕組みの設立、オンブズマン機関とトルコ人権平等機関をパリ原則に準拠させるための法改正、複合差別の解消に取り組むための政策文書の策定等を勧告することが提案された。
第6条 障害のある女子
第6条に関しては、3つのパラレルレポートで指摘がなされた。その内容は、a) 障害のある女性に特化した調査や行動計画が存在しないこと b) 障害のある女性及び女児が横断的差別の対象となっていることが研究によって示されていること c) 2011年の人口、居住調査によれば、女性の57.2%にあたる、約300万人の女性が何らかの障害を持っているとされていること d) 障害のある女性がシェルターを利用できない問題を報告するものであった。
これに対し、事前質問事項ではa) 機能障害の種別にかかわらず、障害のある女性のために平等の権利を促進する締約国の法律、公共政策、戦略及びプログラムについての情報提供、及び最初の報告書が提出されてからの障害のある女性及び女児の状況の改善状況が質問された。
質問に対して、政府回答では女性のエンパワメントに関する国家行動計画及び戦略文書(2018-2023年)の中で、障害のある女性のための支援付きの雇用モデルの開発が規定されている点、女性に対する暴力との戦いに関する国家行動計画(2016-2020年)で、障害のある女性の脆弱さや公共サービスや支援へのアクセスの必要性が訴えられている点、オンブズマン機関が女性団体の参加の下で開催した、女性の権利及びオンブズマンに関するワークショップで障害のある女性の問題も取り扱われたことが述べられた。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、障害のある女性又は女児に対する複合差別が広く存在している問題、裁判所が性犯罪被害を受けた女性に一方的に堕胎を命じることができ、この際にかかわる医師に障害者権利条約に関する知識がないため、状況を悪化させている問題に関する指摘がなされた。また、委員会による審査において、公的サービスの設計における男女平等とその指標や、障害のある女性を権利侵害から守るための措置等を論点とすることが提案された。
第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ
第9条については、3つのパラレルレポートで指摘がなされた。内容としては、 a) 障害のある児童に必要な研修プログラムを決定するカウンセリング・研究センター(RAM)やモスクを含め、あらゆる場所で物理的なアクセシビリティの確保が遅れている点、b) アクセシビリティ監視・監査委員会(Accessibility Monitoring and Audit Commissions)による監視及び制裁が積極的に行われていない点、 c) 2013年に制定されたアクセシビリティ監視・監督規制(the Accessibility Monitoring and Supervision Regulation)に情報へのアクセスが含まれていない点、 d) カウンセリング・研究センターで、手話通訳者をはじめ特定の障害の専門家が配置されていない点等が報告された。
事前質問事項では a) アクセシビリティと追加の措置及び達成結果に関する法律第6353号の実施の成果と、物理的環境、移動、情報及び通信へのアクセス提供にあたっての格差に取り組むための措置 b) 締約国の最初の報告書の提出以降に、アクセシビリティ要件を遵守しなかった事例に対する罰則及び罰金の適用状況c) 一般的意見第2号(2014)に従って、印刷物や電子情報のわかりやすい版を提供するための措置 d) 条約の第9条(2)(e)に沿って、ガイド、朗読者及び専門の手話通訳者を含む、生活支援を手頃に提供するための措置についての質問がなされた
これに対し、政府回答ではa)公共交通機関に対するアクセシビリティ確保の義務づけやEU基金を使った広報活動等の取組、大学におけるアクセシビリティに関する意識向上のためのセミナー開催、IPAプロジェクト「トルコの旅客輸送のアクセシビリティ(2017-2018年)」を通しての国内での取組について、 b) 監査の結果、2018年6月までに、58件の過料が科されたこと、 c) 国家電子政府戦略行動計画(2016‐2019年)の中に不利な立場にあるすべてのグループのニーズを考慮したサービス改革が含まれていること、 d) 2014年に保健施設で配布されている印刷物の点字版を配布したことが報告された。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、建物へのアクセシビリティの確保が進んでおらず、政府がアクセシビリティ規定の実施期限を2度延長するなど、事前質問事項への回答で述べられた措置が効果的に実装されていない点が指摘され、最終見解において、アクセシビリティに関する法制度のよどみない実施の徹底と意識向上のための措置の実施を勧告することが提案された。
第12条 法律の前にひとしく認められる権利
第12条については、3つのパラレルレポートで指摘がなされた。その内容は、a) 精神疾患等を理由に本人の同意なしに法的能力を制限したり、結婚の権利を制限する制度について b) 後見制度の下にある障害者があらゆる手続にかかわることができず、選挙権も剥奪されている問題に関するものであった。
一方、事前質問事項ではa) 他者との平等を基礎として、障害者の法的能力を完全に認識し、知的又は心理社会的障害者及び聴覚機能障害者の法的能力を奪うトルコ民法の規定を廃止するためにとられた措置 b) 条約第12条第4項に基づき、支援付き意思決定制度及びその中での保護を確立するための措置 c) 指導教員や後見人の庇護下となっている障害者の数及び完全な法的能力を再確立するための手続の対象となっている人の数に関する質問が挙げられた。
これに対し、政府回答では a) b) 第12条に関する優れた取組(グッドプラクティス)をまとめ、議論を深めるための様々な取組について、c) 後見の下にある障害者の数と、家族・労働・社会サービス省が監督あるいは同省と提携関係にある介護施設に入所する精神/心理社会的障害者の人数について報告された。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、トルコ民法が医学モデルを前提に障害を定義づけているという指摘がなされ、条約に準拠するために改正が必要であるとの主張がなされた。
第13条 司法手続の利用の機会
第13条については、1つのパラレルレポートで指摘がなされた。内容は2012年11月に市民社会協会(Civil Society Association;CISST)によって行われた調査で、障害者の定義に問題があったことと、刑務所が平屋であることを理由に、法務省が刑務所にアクセシビリティの課題があることを認めなかった問題に対する指摘であった。
一方、事前質問事項では a)包括的な最初の報告の第96、98、99項にある、法務省による各プロジェクトの成果についてb) 障害のある女性と児童が司法制度に効果的に参加できるようにするための手続上の年齢に応じた配慮 c) 障害者の原則及び権利に関する、裁判官及び警察を含む法執行機関の職員への研修についての情報提供が求められた。
これに対し、政府回答では a) 安全保障総局(General Directorate of Security Affairs;EGM)によって実施されている、事件現場において申立人、被害者、通報者の要求に応じてより効果的に必要な措置を講じることを目的とした「現場サービス提供プロジェクト」に含まれている研修の参加者に一定数の障害者が含まれていること b) 障害者は、手続や訴訟手続において優先されることc) 聴覚障害者が安全保障サービスにアクセスできるよう保障するために、2017年の安全保障総局による在職研修プログラム内のトルコ語手話研修に安全保障担当職員が参加したことが報告された。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、障害者の権利保護のための行政上及び法的な苦情申立ての仕組みについて、障害者はほとんど認識しておらず、啓発活動も不十分である点、障害者支援団体が本人に代わってトルコ人権平等機関に苦情を申し立てることが許されていない点などが指摘され、最終見解において、障害者団体が障害者の代理として訴訟を起こせるように法改正を行うこと、司法にかかわるあらゆる職員に対し、障害者の権利に関する研修を受けさせることなどを勧告することが提案された。
第19条 自立した生活及び地域社会への包容
第19条については、1つのパラレルレポートで指摘がなされている。内容は、パーソナルアシスタンスサービスの開発や自立生活のニーズに応える政策の不足や、車いすをはじめとした支援機器及び障害者支援制度が高額で利用できない人が多い点、 障害者は性、生殖にかかわる医療及び情報から遠ざけられており、それが性的虐待に対する脆弱性を高めている点などを報告するものであった。
一方、事前質問事項では、a) どこでどのように誰と暮らすかなどを選ぶ権利を確保する措置と、あらゆる種類の施設に住んでいる障害者を脱施設化する措置、さらにその期間や人的、技術的及び財政的資源に関する具体的な情報について b) 地域社会のサービス、特に教育、健康、雇用、銀行業務、レジャー、文化的活動及び普通(教育と同様の)のスポーツ活動へのアクセシビリティを改善するために割り当てられた戦略及び予算 c) 脱施設化戦略及び障害者のための包容的コミュニティの開発に関して、障害者団体との間でとられた措置及び協議 の3項目について情報提供が求められた。
これに対し、政府回答では a) 障害者の在宅支援サービスや施設による一時的な介護サービス、地域社会に基づく精神保健サービスを提供し脱施設化を促進している点と、「ASDのある個人のための国家行動計画」(2016-2019年)において、デイケアやリハビリテーションサービスの全国化と介護サービスの改善が計画されている点 b) 観光分野で優れた取組(グッドプラクティス)の事例に対してアクセシビリティ証明書を授与する計画があること、マラケシュ条約批准の取組が現在進行中であること、青少年プロジェクト支援プログラムを通じて、スポーツ、文化、芸術、社会生活への障害者の参加促進を目的としたプロジェクトが優先的に支援されている点など c) 脱施設化のための地域社会に基づく精神保健サービスの開発及び普及に関する措置が、「精神保健についての国家行動計画」 (National Plan of Action on Mental Health, URSEP)に含まれていることが報告された。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、大半の公共の建物が障害者にとって利用できない状態である点が指摘された。また、委員会による審査において、障害者を個人として認め、家族の収入に関係なく収入の補填を行うこと、障害者が自分の意思で住居を選ぶことを支援すること、パーソナルアシスタンスの提供について、支援機器の提供による自立支援などを論点とすることが提案された。
第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
第21条に関しては、2つのパラレルレポートで指摘がなされた。その内容は主に、ウェブやICTアクセシビリティに関する規則整備の遅れの指摘、放送局における視覚障害者、聴覚障害者、精神障害者等の利用に配慮したサービスの不足、テレビによる障害者の描写が偏見を助長している問題などが挙げられた。
一方、事前質問事項では、メディアを問わず一般向けの情報が障害者に十分利用可能かどうか、手話、点字、わかりやすい版をはじめとする補助的代替的なコミュニケーション方法が整備されているかについての質問がなされ、公共団体のウェブサイトがアクセシビリティを確保しているか監視する措置についての情報提供が求められた。
これに対し、政府回答では2015~2017年の間に行われた研究プロジェクトでトルコ手話の教科書や辞書の執筆が進んだこと、支援機能のあるPCの無償配布やスクリーンリーダー機能のあるスマートフォンを配布するプロジェクトを実施したこと、放送局による手話と音声解説放送の導入がウェブ配信で進んでいること、その他、トルコ手話普及のための規則やアクセシビリティ規則を策定するなどの準備が始まっており、障害者団体に関与させる予定もあることが報告された。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、ウェブアクセシビリティに関する規則が法制化されていない点に対する指摘がなされた。また、委員会による審査において、視覚あるいは聴覚に障害のある人にとって利用可能なテレビ番組の整備、そして公私のあらゆる情報に対する、手話通訳や点字によるアクセシビリティの確保などを論点にすることが提案された。
第24条 教育
第24条については3つのパラレルレポートで指摘がなされている。その内容は、 a) 障害のある児童に関する統計が存在していないこと b) 障害者に義務教育を保障するためのルールが無く、初等・中等教育を受けられる障害のある児童の割合が極めて低いこと c) インクルーシブ教育の実績を報告するにあたって不正が行われている問題、及び障害者権利条約に関する知識をはじめ、学校側に障害のある児童を受け入れるために必要な体制が整っていない問題 d) 教育施設において建物へのアクセシビリティが確保されていないこと、並びに障害者に利用可能な情報、教材等の整備が進んでいないことが報告された。
事前質問事項では、a) 障害のある児童に関する分類された統計データの提供 b) 障害者がインクルーシブ教育を受けるための権利を認識するために講じられた措置と、インクルーシブ教育をあらゆる水準の教育で確立するために講じられた措置について c) 障害者が教育から排除されないように保障するための措置、インクルーシブ教育を受ける権利について、学校で働く教員や教員以外の人の意識を向上し、研修を提供するための措置について d) 普通学校や大学で、障害のある学生に合理的配慮を提供するための措置と動機づけについての質問がなされた。
これに対し、政府回答ではa) 普通学校、特別学校、病院、自宅で教育を受ける特別なニーズのある学生の数 b) 学生のニーズに合致した措置の提供と適切な教科書の提供を学校が行うことを提言した通知が政府内で提出されている点と、難読や自閉症及び同様の問題について、国内外の市民社会グループと協力して新しい包容モデルを開発する計画がある点について c) 特別教育に携わっていない教員を中心とした社会全体への特別教育啓蒙を目的とした戦略計画、現在特別教育にかかわる教員に課せられている研修、及び特別教育に関する各種プロジェクトについて d) 大学をはじめとする高等教育にかかわる各機関が市民社会と協力して、障害のある受験者に配慮した試験環境の創出のための研究を行っており、個人的ニーズに配慮した試験会場の設置が障害のある受験者などの参加人数が増加したこと、高等教育委員会(YOK)の、大学内での合理的配慮提供、アクセシビリティ確保、包容的な教育環境の提供などへの取組について報告がなされた。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、高校に入学する障害のある児童の数がそれまでの課程と比較して激減する点、障害のある男性の方が障害のある女性より高い教育レベルに到達する傾向がある点、教育省が公立学校のアクセシビリティに関して統計をとる仕組みを持っていない点、障害のある児童を教えるための適切な研修を受けた教員が不足している点、高等教育機関での合理的配慮の提供が不十分である点などが指摘され、委員会による審査において、学生選考配置センター(OSYM)による試験で、状況に応じて手話を伴ったコンピューターシステムを試験に使用するための研究に着手すること、寝たきりの児童をインクルーシブ教育に含めるための措置などを論点にすることが提案された。
第29条 政治的及び公的活動への参加
第29条に関しては2つのパラレルレポートから報告が上がっている。そこでは、a) 障害者のための代理人による投票では投票の秘密が十分に守られない問題や、投票に参加できた障害者の割合が投票権のある障害者の全体数に対して極めて少ないこと b) 非政府組織よって提案された視覚障害者が独立して投票するための分割チケットの導入が進まない問題 c) 障害者運動に由来する障害のある国会議員がいないことなどが指摘された。
事前質問事項では、 a) 障害者の投票する権利がどのように保障されているか b) 視覚障害者の投票の秘密を守るために市民社会組織が作成したひな型(分割チケット)を締約国が使用するつもりがあるかどうかの2点が尋ねられた。
これに対し、政府回答では a) ウェブサイト上での申請を通じた親族による援助の許可、選挙サイトのウェブアクセシビリティの向上、外出の困難な投票者のための移動式投票箱の導入について b) 分割チケットの利用が既に可決されていることが報告された。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、選挙管理局(YSK)のウェブサイトのアクセシビリティが不十分である点、近年の選挙で、選挙管理局が農村部に居住する寝たきりの有権者に対し、法的根拠のないまま移動式投票箱による投票を許可しなかった問題、トルコ政府が事前質問事項に対する政府回答で提出した障害者の投票率のデータが、障害者団体に対して事前に開示されなかったこと等が指摘され、最終見解において、障害者のための代替的な投票手段を認めるために法改正を行うこと、障害者や字の読めない人でも理解できるよう、投票に関する資料の代替的補助的な形式を開発すること、すべての投票所に手話通訳者を配置すること、障害のある候補者を擁立するよう政党に動機づけを与えられるように法改正すること等を勧告することが提案された。
第31条 統計及び資料の収集
第31条については3つのパラレルレポートから報告が上がっている。そこでは、国家障害データベースの内容や家族・社会政策省(2019年3月現在の家族・労働・社会サービス省に相当)による障害者雇用問題の調査結果が公表されていない点、締約国による包括的な最初の報告で言及された2002年と2011年に実施された調査が本来比較不可能なものであることが指摘された。
一方、事前質問事項では、ワシントングループの質問セットの適用について、持続可能な開発目標の目標第17、目標17.18、目標17.19に従った障害平等指標の策定と利用について、統計及びデータ収集に関する障害者団体との協議についての質問がなされた。
これに対し、政府回答では2011年の国勢調査でワシントングループの質問セットが使用されたこと、障害データの収集と統計に関する複数の取組が市民社会の参加の下で行われていることが報告された。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、2011年の国勢調査からあまりにも時間が経ち、政策の根拠にするには障害に関するデータが古すぎる問題、障害者に関する統計について、人権に基づいたアプローチによるデータの収集の仕組みが存在しないこと、障害のあるマイノリティ(少数派)に関する統計が取得されていないことなどが指摘され、最終見解において障害者・高齢者サービス総局が条約に沿った統計データ収集の指針を文書化し、その過程に障害者と市民社会組織を関与させること、あらゆる状況の障害者に関する統計を網羅的に取得するため、明確なスケジュールを伴う行動計画を策定し予算を割り当てること、統計データの収集に障害者やその団体、市民社会組織などを積極的に関与させることなどを勧告することが提案された。
第33条 国内における実施及び監視
第33条については、2つのパラレルレポートで指摘がなされた。その内容は、オンブズマン機関がパリ原則に基づく独立した組織ではない点、監視活動に参加する非政府組織を国が選定しているが基準が不明な点、条約の実施を監視するオンブズマン機関の見解が政策に反映されていない点が指摘された。
事前質問事項では、条約実施の監視体制及び監視機関のパリ原則への準拠について、そして障害者団体の監視活動への参加について質問がなされた。
これに対し、政府回答ではトルコ人権平等機関とオンブズマン機関の役割について、そして委員会やセミナーに障害者団体が参加できるよう手配していることについて述べられた。
第21会期に向けたパラレルレポートでは、障害者・高齢者サービス総局の下で、市民社会の参画する効果的な活動が行われていない問題などが指摘され、委員会による審査において非政府組織の関与する参加の仕組みの確立、オンブズマン機関による勧告に強制力を持たせるための法改正、監視活動に参加する非政府組織の選定基準などを論点にすることが提案された。