1 国外調査 1.7.1

1.7 トルコにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

トルコは、2007年に障害者権利条約に署名し、2009年に批准している。2015年8月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。

1.7.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

(1) 障害者関連法制

差別の防止と保護に関する法律

2005年のトルコ障害法(TDA)第5378号では、障害者について「出生時又はその後の何らかの理由による様々なレベルの身体的、精神的、心理的、感覚的及び社会的能力の欠如のために社会生活に適応すること及び日々のニーズを満たすことが困難な者のこと。またそれによって、保護、介護、リハビリテーション、相談及び支援サービスを必要とする者のこと」という定義がなされており、これに加えて重度障害者を「医学的に50%の障害率があり、他者の助けなしに日常活動を行うことが困難又は不可能であると評価された者」としている。また、2014年の法改正では権利に基づくアプローチによる目的と原則の再構築、障害の定義の医学モデルから社会モデルへの移行、障害者権利条約に従う形で「障害に基づく差別、差別の種類、合理的配慮とアクセシビリティ」をはじめとする用語の定義、差別禁止及び合理的配慮の提供義務の規定等が行われたとしている。社会モデルへ移行されたとされる障害者に関する定義の具体的な内容については、トルコ政府は事前質問事項への回答の中では提示していない。しかしながら、TDA第5378号自体はトルコ政府のウェブサイトで公開されており、その第3条c)に、以下の定義がなされている。

c) Engelli: Fiziksel, zihinsel, ruhsal ve duyusal yetilerinde ç;eşitli düzeyde kayıplarından dolayı topluma diğer bireyler ile birlikte eşit koşullarda tam ve etkin katılımını kısıtlayan tutum ve ç;evre koşullarından etkilenen bireyi,12

c) 障害者:様々なレベルでの身体的、精神的、心理社会的、感覚的能力の喪失により、他者との平等を基礎として、完全かつ効果的な参加を制限する態度と環境条件の影響を受ける個人。

アクセシビリティに関する法律

1997年の建設法第3194号の改正によって、建物等の建設計画におけるアクセシビリティの計画に関するトルコ規格協会(TSE)の関連規格を遵守する義務が定められている。さらに、アクセシビリティを確保するために必要な措置を講じるために、1999年9月2日に関連する改正が法律により実施された。この際の公共空間の既存の建物の対応期限は7年であったが、結果的には満足な成果が上がらなかったと評価されている。2012年の法改正により再びアクセシビリティの対応期限が設けられ、2015年7月7日までに対応義務を果たさない場合の罰則規定が設けられた。この改訂に基づいて、アクセシビリティのレベルの評価や監視インフラの確立、罰金の適用を目的としたアクセシビリティ調整の監視及び監査に関する規則が制定され、2013年7月20日に公開された。

その他

トルコ刑法第5237号(TCK)の2005年の改正では、障害による差別に対する罰則規定が加えられた。この規定は2014年に改訂され、罰則の対象が憎悪による差別に限定されている。国民教育基本法(第4条)及び労働法(第5条)では、教育及び雇用部門での障害に基づく差別が禁止されている。

(2) 障害者政策の枠組み

トルコでは、障害者・高齢者サービス総局(General Directorate of Services for Persons with Disabilities and the Elderly (EYHGM))が中心となって、障害者政策を展開している。政策の枠組みとして、多数の戦略や行動計画、プログラムが立案、実施されている。

条約の実行や障害者の権利、差別禁止に関する枠組み

「トルコにおける障害者差別との闘い」プロジェクトが2010年にEUPROGRESSプログラムの下で実施され、国家戦略の策定支援を目的に障害者差別に関する実態調査が行われた。2013年からは障害者権利条約の監視と実施を促進することを目的とした「条約の実施及び監視能力を支援するプロジェクト(2013-2016年)」が始まり、様々な関係部署の意識向上の取組や、労働、保健、教育をはじめとする各分野における権利行使のレベルを明確にするための指標セットの開発が行われた。2017年からは、「障害者の権利に関する国家行動計画及び戦略文書」の準備作業が始められている。この取組では市民社会団体を含むあらゆる関連組織がかかわっており、比較可能で信頼性のある障害に関する統計の実現や、障害者の職業訓練と就労の機会拡大が期待されている。

教育に関する枠組み

国家教育省(MEB)は、2015年から2019年が期間の「MEB戦略計画」を公開している。この計画は、主に社会のあらゆる分野、特に特別教育に携わっていない教員に対して、特別教育に関する知識を浸透させることを目的としており、2016年以降、2週間にわたる研修を継続的に提供している。また、国の教育制度計画の改革によるサービスの向上を目的とした「教育サービスのためのビジョン文書2023」が作成されている。この文書では、調整の仕組みの設立、地方政府への働きかけ、教室、学科の教員向け職業研修の提供、市民社会や公的機関等との協力を通じた、失読症や自閉症等に関する新しい包容モデルの開発などが計画されている。

脱施設化に関する枠組み

精神障害者の脱施設化については「精神保健についての国家行動計画(URSEP)」がある。この行動計画による活動の一部として、再発期の段階にある精神疾患を負った人の介護に関する体制を、精神病院による集中的な治療から地域の一般病院による診察と精神保健センターによる追跡調査へと切り替える政策が進められている。またASDのある個人のための国家行動計画(2016-2019年)では、自閉症、アスペルガー症候群のある個人のためのリハビリテーションや介護サービスの規模拡大と改善を目的とした計画がなされており、リハビリテーションセンターで働く職員に対し、スキル向上のための措置が講じられた。

アクセシビリティに関する枠組み

首相の同意の下、トルコ政府は2010年を「すべての人のためのアクセシビリティのための行動年」として宣言した。この枠組みの中で、「アクセシビリティに関する国家行動計画及び戦略文書(2010-2011)」が市民団体と政府機関の協力の下で作成され、「すべての人のためのアクセシビリティ」の原則を、建築、都市及び地域計画をはじめとする多くの分野に含めることに関する通達が発行された。近年では交通・インフラ省によって「トルコの旅客輸送のアクセシビリティ(2017-2018年)」プロジェクトが実施されている。障害者が利用可能な旅客輸送サービスのためのプラットフォームを設立し、これを通じて交通・インフラ省の技術的、制度的能力を強化することを目的としており、その活動の中にはアクセシビリティに関する国家行動計画及び戦略文書の作成、試験プロジェクトの実施、研修員の研修、コミュニケーションキャンペーン及び意識向上活動が含まれている。

(3) 国内の実施体制

1)中央連絡先

障害者・高齢者サービス総局が中央連絡先となっている。この組織は包括的な最初の報告執筆のための調整も行っている。

2)調整のための仕組み

 1997年に、首相府の直轄の組織として障害者行政管理委員会(OZIDA)が設立された。この機関は障害者に対するサービスの調整と効果的な提供の実現を目的としていた。条約の批准にあたっての調整も行ったが、2011年に障害者・高齢者サービス総局として再編され、家族・社会政策省(Ministry of Family and Social Policy;ASPB)の下に置かれることになった。なお、家族・社会政策省は省庁合併により、2018年から家族・労働・社会サービス省(Ministry of Family, Labor and Social Services;ACSHB)に名称が変わっている。

3)独立した仕組み

オンブズマン機関(Ombudsman Institution)とトルコ人権平等機関(Human Rights and Equality Institution of Turkey;TİHEK)が独立した仕組みとして機能している。

 後者は2016年に法務省の下部組織として設立され、それまでこの立場にあった人権機関(the Human Rights Institution)を引き継いだ。人権機関は既に解体されている。オンブズマン機関はトルコ大国民議会(TBMM)議長事務局の下で経済的、構造的に独立した機関として2012年に設立され、人権に関する申立ての調査や問題解決の措置を担当しており、その過程で市民社会と公的機関が協力することを促している。しかし市民社会組織であるAMERによると、障害者の権利に特化された部署を持っていない。また、オンブズマン機関と人権機関は、パリ原則による独立した仕組みとしての要件を満たしていない。また、国家人権機関の欧州ネットワーク(ENNHRI)ウェブサイトによると、2017年12月時点で、トルコ人権平等機関をパリ原則に沿った組織に強化させるための法案がトルコ大国民議会に提出されている。13

条約の実施及び監視を促進するために、障害者の権利に関する監視及び評価委員会が2013年に設置された。この委員会は、戦略や行動計画の起草や承認、機関同士の調整をはじめ障害者政策にかかわる多様な実務を担当しているとされる。委員は公的機関、市民社会、人権機関等からの代表者によって構成されているとしているが、トルコ障害者連合によるシャドーレポート14では、参加するNGOは家族・社会政策省が選定する旨が法律に明記されていることが指摘されている。一方、同年にはアクセシビリティ評価監視委員会という組織も設立されている。この委員会はアクセシビリティの適用を支援、普及するためのもので、地方レベルでの実施、監視手続における障害者の参加を実現しているとされている。

4)その他

 保護者へのカウンセリングや研修、専門家の育成、及びリハビリテーションについては、社会サービス・児童保護協会総局(the Directorate General of Social Services and Child Protection Institute)が提供している。また、障害に関係する業務を行っている政府機関、市民社会組織の連合体、その他の関連組織から代表者が集まり、障害に関する実行委員会(Executive Committee on Disability)が組織された。この委員会は行政が指定するプロジェクトに優先順位を付け、それらプロジェクトの内容に対して提言や意見を提供する役割を負っており、2011年までに29回の会合を行った。

5) 関係主体の全体像

トルコの包括的な最初の報告、事前質問事項への回答などの情報を基に、トルコにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図1.7-1にまとめる。

図1.7-1 トルコにおける関係主体の全体像 (図1.7-1のテキスト版


12 http://www.mevzuat.gov.tr/MevzuatMetin/1.5.5378.pdf
13 http://ennhri.org/Human-Rights-and-Equality-Institution-of-Turkey
14 http://www.turkiyeengellimeclisi.org/FileUpload/as909689/File/golge_raporu-e-web.pdf

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