1 国外調査 1.8.2

1.8 サウジアラビアにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.8.2 サウジアラビアの包括的な最初の報告の国連審査状況

(1)審査プロセスの現状

サウジアラビアは、障害者権利条約と選択議定書を2008年6月に批准した。包括的な最初の報告の提出期限は2010年であったが、提出は大幅に遅れ、2015年7月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。障害者権利委員会は、2018年10月にサウジアラビアへの事前質問事項を公開し、サウジアラビアは2019年1月に事前質問事項に対する政府回答を障害者権利委員会に提出した。
 この間、サウジアラビアに関するパラレルレポートは、2つの国際非政府組織(Autistic Minority International、Global Initiative to End All Corporal Punishment of Children)から提出されたが、サウジアラビア国内からのパラレルレポートは障害者権利委員会のサイトで公開されておらず、提出があったかは不明である。
 これらの情報提供を受けて、障害者権利委員会は2019年3月の第21会期でサウジアラビアの包括的な最初の報告の審査を行っているところである。

(2)主な論点

以下に、主要な条項に関する論点を整理するが、前述のとおりサウジアラビアに関しては国内の団体からのパラレルレポートが公開されていない。そのため、ここではサウジアラビア政府による包括的な最初の報告と事前質問事項、事前質問事項に対する政府回答の内容から論点をまとめる。

第1-4条 一般的義務

第1条-第4条に関して、包括的な最初の報告では、障害者福祉法における障害の定義、「障害者が利用可能な都市環境創出とアクセスの向上に関する法」における合理的配慮の定義、条約が定めるすべての権利を保障すべく努めているサウジアラビア政府の基本的な姿勢等について説明する内容となっている。
 障害者権利委員会は、事前質問事項で、包括的な最初の報告の提出時点以降の条約実施状況、条約を国内法に最大限組み込むための取組、障害者団体に対する支援と、政策や施策の計画・実施・評価及び監視に障害者団体がどのように関与しているかについての情報提供を求めた。
 これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 関係閣僚会議決定第266号により、障害者の介護、権利行使、サービスを強化する。またこのための方針・戦略・プログラム・計画及びツール開発と追跡調査を実施する。
  • 2018年12月に、障害労働者のための労働環境手配及び円滑化サービス実施規則を公布した。
  • 全国各地への障害者リハビリテーションセンターの設置と予算配分。
  • 嫌がらせ防止法を2018年5月に公布。
  • 障害者の権利を扱う団体を含む非政府組織等への政府補助金は2017年に7億サウジリヤルに達した。

また、障害者権利委員会は、障害者や障害者団体が差別に関する事案を裁判所に提訴することが可能か、また可能な場合にはその法的規定や手続について情報提供を求めた。
 これに対し、サウジアラビア政府は、統治基本法第47条及び刑事訴訟法第16条が、被害者又はその後見人が刑事訴訟を提起する権利について規定していると回答した。
 事前質問事項に対するサウジアラビア政府の回答から、条約の実施に関連する法令整備や施策が進められていることがうかがえるが、差別に対する訴訟手続等については具体的な回答はなされず、枠組み的な回答にとどまっている。

第5条 平等及び無差別

第5条に関して、包括的な最初の報告では、サウジアラビアの法令は、平等と障害者に対する無差別の原則が適用されていることを示す多数の措置を講じていること、政府は、障害者が健常者と対等な条件で権利を行使できるよう、障害者の利益となる肯定的差別の推進のため数多くの措置を講じたことを述べている。
 障害者権利委員会は、事前質問事項で、障害に基づく差別(合理的配慮の否定を含む)を禁止するために講じられている措置、人権委員会に報告された障害者への差別に関する事案、実施された調査及びその後の制裁措置、障害者差別に関する法令遵守違反に対する制裁に関する措置等について報告を求めた。
 これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 人権委員会と人権高等弁務官事務所との覚書に基づき、人権委員会は2018年1月に関係する政府機関、非政府組織のワークショップを開催した。
  • 期間中に受けた障害者差別の苦情申立てについて人権委員会からは報告がなかった。
  • 合理的配慮を提供するために講じられた措置、それらの違反に対する救済及び罰則については、2019年3月の委員会においてこれに関するさらなる情報を提供する。

事前質問事項に対する政府回答には具体的な内容が乏しく、障害者からの苦情申立てに関する情報がないなど、課題があることをうかがわせる内容となっている。

第6条 障害のある女子

第6条に関して、包括的な最初の報告では、女性への差別は、シャーリア法等で禁止されており、障害にかかわるサウジアラビアの現行法は障害者をジェンダーで区別していないと述べた上で、女性のための評価・診断・早期介入センターを15か所以上開設したこと、キングサウード大学などに設けた障害のある女子学生のためのサービスセンターなどにおいて、障害ある女子学生の支援に関するモデル事業を行っていることなどを取組事例として挙げている。
 障害者権利委員会は、事前質問事項で、障害のある女性と女児の権利を障害関連の法律と政策に組み入れるため、また後見制度を廃止するために講じられている措置について報告を求めた。また、障害のある女性と女児による、公的また政治的活動への参加、適切な教育サービスや私的な移動へのアクセス(自動車を自ら運転する権利を含む)を保障するために講じられている取組について報告を求めた。
 これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 女性は評議会(国会)の評議員となり、少なくとも20%の議席を占める。現在30人の女性評議員がおり、障害のある女性も評議会の構成員となっている。
  • 障害のある女性は選挙の投票過程に参加し、手話通訳等の補助者の参加や、選挙施設の整備等の措置が取られた。
  • 障害のある女児が適切な教育サービスを受けられるよう、また個人の移動を促進するために、障害のある女児のための普通学校統合プログラをはじめいくつかのプログラムや措置が実施された。
  • 2017年9月の国王令第905号により、障害者を含む男女両方の運転免許証の発行を含む交通法及び関連行政規則の改正がなされた。

また、事前質問事項では、障害のある女性と女児による、非政府組織並びに公的また政治的な活動団体、障害者団体に参加する権利の行使を保障するための措置についても情報提供が求められたが、これについてはサウジアラビア政府の回答では言及されていない。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

第9条に関して、包括的な最初の報告は、施設や都市環境、公共輸送のアクセス改善について、次のように報告している。

  • 地方自治省は、自治体が障害者サービスを計画・改善する際に考慮すべき技術的要件と基準、障害者が利用する施設の改築仕様を記載した冊子を発行した。
  • 地方自治省はキングサルマン障害研究センターとの協力により、ユニバーサルアクセス基準の手引きを作成した。
  • 地方自治省は、特別なニーズのある人の移動促進のための仕様を含む、歩道の設計に関する指針を発行した。
  • 交通省発行の多くの規則は、障害者の交通手段へのアクセス促進のための規定を含んでいる。
  • 交通省は、キングサルマン障害研究センターと連携し、道路と輸送手段が障害者のニーズを満たすための基準と仕様を立案した。
  • ユニバーサルなアクセシビリティを保障するための指針を策定する。

このように、包括的な最初の報告は、アクセシビリティ改善のための取組についてテーマ別に具体的な取組を報告する内容となっている。
 障害者権利委員会は、事前質問事項で、交通省が実施したアクセシビリティ評価の結果や、アクセシビリティに関して規定や指針を遵守していない場合に課される制裁措置について情報提供を求めた。これに対して、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 交通省によるアクセシビリティ評価は、省が達成した進捗状況を測定するために定期的に実施されている。(評価結果には言及していない)
  • 障害者福祉法第3条に従って、リハビリテーション、研修、教育、介護、福祉・治療、公共の場所その他の場所における障害者のニーズに対応した建築及び建設の仕様を遵守するものとする。(罰則の内容については言及していない。)

また、事前質問事項では、農村部のインフラのアクセシビリティを保障するために講じられている措置についても情報提供が求められ、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 農村部のアクセシビリティに関しては、都市化のためのユニバーサルアクセスプログラムの指針に従いすべての地域で取組が進められている。
  • キングサルマン障害研究センターはユニバーサルアクセスプログラムを活性化するため、最新のアクセシビリティ基準を含むプロジェクトを準備している。

サウジアラビアではアクセシビリティの改善に向け様々な取組が始まっているものの、それらの基盤となる包括的な法整備や罰則の導入がみられないことから、取組の実効性が課題になる可能性があるといえる。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

第12条に関して、包括的な最初の報告は「障害者の法的能力は、その資格と能力のレベルに照らして評価される。」と述べ、さらに「政府は、未成年や法的能力に欠けた者を保護するため、こうした者の保護委員会を設置し、法的管理人が割り当てられていないこうした者の財産を保護し、後見人や保護者の行動を監視する。」として、後見制度を前提とした取組を進めていることを報告している。
 障害者権利委員会は事前質問事項で、成年後見制度下にある障害者数と、障害者の法的能力を否定又は制限する規定の廃止のために講じられている措置について報告を求めた。また、代理意思決定制度を廃止し、障害者のための支援付き意思決定に置き換えるために講じられている措置について報告を求めた。これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 障害者が個人的、財政的及び家族の問題について支援付き意思決定を受けるためには、障害者が完全に適格(支援が必要)である場合には、後見人は障害者本人と同等に権利を行使する資格を持つ。障害者が自由意思によってそれを許可していない場合や、障害者の適格性が不十分な場合は、適格性について異議を申し立てることができる。
  • 代理意思決定が有害な場合は、例えそれが有益と有害が混在する場合であっても無効となる。権利侵害の場合、障害者は裁判所を含む救済に訴えることができる。

サウジアラビア政府の回答は、同国の代理意思決定制度に関する説明であり、事前質問事項の趣旨とかみ合わない内容となっている。

第13条 司法手続の利用の機会

第13条に関して、包括的な最初の報告は、障害者は、自らの申立てを伝えるために手話通訳その他の支援を求める権利があり、裁判所にそれらの支援を提供するよう要求することができるとし、2013年11月に公布された刑事訴訟法は、当事者又は証人として参加する障害者に適切な手続上の配慮を提供するよう定めたと述べている。そして、上記の手続上の配慮として、発話困難者や聴覚障害者では書面による発言や書面による質問を行えることなどが述べられている。
 障害者権利委員会は事前質問事項で、障害者の法的支援と手続上の配慮へのアクセスの保障、わかりやすい版や点字での司法制度情報の提供、裁判所施設への物理的なアクセシビリティの保障のために講じられている措置について報告を求めた。これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 関連規定には、障害者の訴訟手続における特別の優先権及び障害者への手話通訳任命権、その他あらゆる種類の援助を提供し、それを提供するよう裁判所に要求できることなどが定められている。
  • 2018年2月の国王令第25803号は、障害者を含む貧困者への支援策として、サウジアラビア弁護士協会による司法援助の提供と協力弁護士リストの整備、弁護士に法的扶助及び技術的助言の提供を奨励するよう指示をした。
  • 障害者の裁判所へのアクセスを容易にするために、法務省とキングサルマン障害研究センターの間で協力覚書が調印された。

これらの情報から、サウジアラビアでは障害者の司法アクセス改善について本格的な取組が始まったところと考えられる。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

第19条について、包括的な最初の報告は以下のような内容であった。

  • 障害者福祉法第2条に基づき、国は障害者の保護、介護及び居住サービスに対する権利を保障し、障害者が自立して生活し地域社会に統合されることを確実にするための措置及び配慮を実施する義務を負う。
  • 政府は、障害者に居住型ハビリテーションセンターに住むか、家族と一緒に住むかの選択肢を提供する。後者の場合、保護者は給付金を請求する権利がある。

さらに、包括的な最初の報告は上記の第1項に関して、デイケアや在宅介護サービスの提供、福祉機器・補助具等の提供、住宅補助金や住宅支援計画における優遇措置などを措置及び配慮の例として挙げている。
 障害者権利委員会は事前質問事項で、これらの支援サービス等が障害者に提供されている件数及びそれらを必要とする障害者の数の報告を求めた。また、パーソナルアシスタントが与えられるための基準について情報提供を求めた。これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • デイケアセンターは、重度、中程度、二重、複合的な知的障害のある人を受け入れる。現在、191施設あり、1万6,916人の利用者がいる。
  • リハビリテーション施設を拡大して提供し、国の支援により交通と通信を含む費用を負担し、重度、中程度の障害者にサービス(理学療法、作業療法、行動修正プログラム、教育プログラム、介護サービス等)を提供する。
  • 在宅介護サービスは、9763人の障害者がこのサービスを利用している(男性52%、女性48%)。
  • 支援機器に関しては、2017年の間に障害のある受益者(1,528人)のために特定の機器を購入するために1億1,338万リヤルが支出された。
  • 障害者へのパーソナルアシスタントの割当に関しては、障害者の代わりに国が、個人運転手、家事援助者や看護師のビザ、在留許可の取得と更新にかかる費用を負担する。障害者にパーソナルアシスタントを割り当てる基準に関しては、アシスタントの役割は、どのような形であっても本人の自立に影響を及ぼすことのない支援援助の提供に限られている。この基準に違反した場合、その侵害を受けた障害者は、人権委員会などの利用可能な補償手段を訴えることができる。

サウジアラビア政府からは具体的な支援サービスの情報が報告されており、様々な取組が進んでいることがうかがえる。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

第21条に関して、包括的な最初の報告は表現の自由について1982年のサウジメディア政策で「サウジアラビアメディアにおける表現の自由はイスラムと国家目標の枠組みの中で保障される」と規定していることを紹介した上で、障害者の情報アクセシビリティに関する取組として以下を報告している。

  • 内務省パスポート局やいくつかの病院、地方議会、雇用事務所などの政府サービス機関では、障害者がこれら機関からの情報にアクセスするための施設を提供する。また、障害者のための受付を設け、障害者の申請や手続が迅速に処理されることを確実にする。
  • キングサルマン障害研究センターは手話に関する研修講座などを提供している。
  • 教育省は、視覚障害学生のため音声プログラム、点字出版物を含む図書館の整備などによって視覚障害者の情報アクセスを容易にしている。

障害者権利委員会は事前質問事項で、すべての政府サービス機関と公的ウェブサイトの情報への障害者へのアクセシビリティを保障するために講じられている措置について報告を求めた。これについて、サウジアラビア政府は「すべての政府ウェブサイトにW3C標準を適用している。」と回答した。
 また事前質問事項では、障害者が利用可能な情報の提供を促進するため民間団体に助成される支援について情報提供を求めた。これについて、サウジアラビア政府は「障害者の介護分野で市民団体への政府支援提供プログラムを創設した。」と回答した。
 さらに障害者権利委員会は、聴覚障害者の支援に焦点を当て、事前質問事項で聴覚障害のある児童がコミュニケーションの研修を受けることや、家族の手話研修を促進することを保障するために講じられている措置について説明を求めた。また、以下のために講じられている措置について説明を求めた。

  • サウジアラビア手話の公用語としての認定
  • テレビでの通訳を含めた手話通訳者の育成
  • 医療や司法にかかわる状況で守秘義務を通訳者が遵守することの保障

これについて、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 聴覚障害のある児童及びその家族の研修について、保健省はいくつかのプログラムを開始した。ひとつは、人工内耳の問題と解決法についての教員向けの研修、もう1つは聴覚障害者の家族の対話会である。
  • サウジアラビアテレビは、ニュース番組と社会及び障害番組を手話通訳している。
  • キングサルマン障害研究センターは、手話通訳の研修講座を開催している。
  • 司法機関による手話通訳の公認、政府機関での手話通訳の利用に対応して、キングサルマン障害研究センターは手話コミュニケーションに関する継続的な講座を実施している。

サウジアラビア政府の報告から、ウェブアクセシビリティなどの分野では取組が進んでいること、手話については公用語認定などの課題があるものの、取組が進められていることがうかがえる。

第24条 教育

第24条について、包括的な最初の報告はかなり多くのボリュームを割いて報告を行っている。その要点は次のとおりである。

  • 障害者福祉法は、障害者のニーズと能力を満たすあらゆるレベルの教育サービスに対する障害者の権利を保障するよう規定している。
  • 障害者のための専門教育に関して、プリンススルタン特別教育支援センターなどの多数の政府機関が設立されている。
  • 障害のある生徒の主流教育への統合は1990年から始まった。
  • 教育省は、障害者の教育を改善するため数多くの支援サービスを提供している。例えば物理的な障害の除去、点字教科書や音声版教科書の提供、特別教育の専門教員の育成、障害ある生徒への寄宿施設の割当と生活手当の支給、アラブ諸国からの障害者留学生への奨学金提供など。
  • 教育省はまた、知的障害者のためのプログラム、複数の障害のある人のためのプログラムなどを提供している。
  • 高等教育機関は、入学資格のあるすべての障害者を受け入れるよう指示が出ている。また、教育省は障害のある学生を支援するため様々な措置を講じている。
  • 職業技術訓練公社は、障害者に職業訓練を提供している。雇用市場のニーズに合わせて障害者のための訓練を提供するため様々な措置を講じている。

第24条に関する包括的な最初の報告の内容は、各レベルの教育における障害者向けの特別教育や統合教育の状況及び支援措置について具体的に記したものとなっている。
 障害者権利委員会は事前質問事項で、障害のある生徒が普通学校にどの程度統合されているかの全国調査の結果を報告するよう求めた。また、現行制度の分離また統合教育をインクルーシブ教育に移行させるための措置、また教員へのインクルーシブ教育に関する研修の必修化及び障害のある児童教育を大学での教員養成の中核的な一部と位置付けることを保障するための措置について情報提供を求めた。
 これに対して、サウジアラビア政府は以下のように回答した。

  • 障害のある生徒の統合状況を評価する全国調査から、以下の重要な結果が得られた。

普通学校への統合を通じて、障害のある生徒に大きな教育的利益が生まれた。障害のある生徒の成績は、普通学校への統合によって改善され、教育統合のプラスの効果は、マイナスの効果をはるかに上回る。

  • サウジビジョン2030及び国家変容プログラムには、特別教育の開発、障害者の学習プロセスを支援する技術支援センターの創設が含まれている。
  • 分離教育からインクルーシブ教育へ変更するために、教育省は、統合教育の規則と指針、手続マニュアルなどを発行した。また、特別教育における統合解決プログラムが開始された。これは、能力に応じてすべての生徒を受け入れるために学校を再構築しようとするもので、専門のグローバル教育コンサルタント会社と連携してインクルーシブ教育を実施し、モデル校に適用される手続及び委任事項を策定し、学校がインクルーシブ教育モデル環境になるための要件、仕組み、手続などを確立するものである。
  • 教育省は、障害のある生徒の能力やニーズに応じて完全又は部分的な統合を達成するため、最新の教育用設備や支援技術の提供、生徒への無料配布など、多くの方策を講じてきた。
  • 教育省はまた、保健省と協力し、健康部門と支援サービスセンターをつないだ統合サービスを進めている。障害者の事例管理、部門をまたぐサービスの提供、障害に関する調査、各種プログラムにおける看護師との協力など。
  • キングサルマン障害研究センターは教育省と協力して50以上のワークショップを実施し、職員研修、統合教育のための枠組みの作成、聴覚障害、発達障害等に関する研究プロジェクトなどを進めた。
  • キングサルマン障害研究センターは、特別教育専門家や障害者の家族向けの研修講座、高等教育機関の未来に関するワークショップ、障害者の雇用に関するフォーラムなどを開催した。

これらの報告から、サウジアラビアの障害者教育は現状では十分なインクルーシブ教育とはなっていないものの、分離教育・統合教育からインクルーシブ教育の普及に向け体系的に整備が進められていることがうかがえる。

第29条 政治的及び公的活動への参加

第29条に関して、包括的な最初の報告は、障害者を含むすべての市民が差別なく選挙での投票あるいは立候補の手続に参加できることがサウジアラビアの社会開発の基本であるとした上で、次のように述べている。

  • 障害者は投票所に行く必要はなく、投票を行う代理者を指名する権利がある。
  • 障害者は選挙に立候補することによって公的・政治的活動に参加する機会が与えられる。シャーリア諮問評議会等の最高指導機関の構成員には障害者がいたことがあり、いくつかの市議会選挙でも障害者が立候補した。

障害者権利委員会は事前質問事項で、本人による無記名投票を含む選挙手続における、すべての障害者の参加を保障するために講じられている効果的かつ利用可能な措置の情報提供を求めた。また、障害者が自立的に団体を設立したり団体に参加・運営したりする権利を持っているか、障害者団体の支援、拡大、多様化のために講じられている措置と配分されている資源に関する情報提供を求めた。特に、これらの質問においては「知的障害者と聴覚障害者を含むすべての障害者」との表現を用い、知的障害者や聴覚障害者が回答から除かれないよう配慮している。
 これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 障害者は、地方自治体の選挙や商工会議所の選挙などに参加することで権利を享受できる。
  • 市民活動の組織化、発展及び保護、社会の管理及び発展への市民の貢献の強化を目的とする市民社会組織財団法が2015年12月に公布された。申請書類の完成から60日以内に協会や市民団体を設立する制度や関連規則は、市民社会団体の多様性と独立性を保障する。
  • 市民社会組織は、人権条約の実施の監視並びに条約報告書と定期審査による報告書作成に参加する。
  • 人権委員会は、王国の人権状況について定期的な報告を発行している。

これらの情報から、サウジアラビアでは障害者の政治的・公的活動を保障するための基盤整備が進められていることがうかがえるが、障害者権利委員会が注目した知的障害者、聴覚障害者が対象に含まれるかは明示されていない。

第31条 統計及び資料の収集

第31条に関して、包括的な最初の報告は障害者に関し近年多くの調査が行われていると述べ、以下の具体例を挙げている。

  • 障害者人口統計に関する研究が2003年に実施され、社会福祉省は現在、医学的・社会的な障害登録の確立に取り組んでいる。
  • 2011年の国勢調査に、各世帯の障害者数に関する統計が含まれた。
  • 2008年に教育省は、障害ある生徒が普通学校にどの程度統合されたかを評価するため全国調査を実施した。

障害者権利委員会は事前質問事項で、障害の人権モデルに基づく統計及び資料収集システムの構築状況について情報提供を求めた。さらに、性、年齢、民族性、障害の種類、社会経済的な地位、雇用、及び居住場所で分類されたデータが入手可能かを示すよう求めた。
 これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 2016年の国勢調査から、障害種別とレベル、セルフケアの困難さ、家族関係、経済状況、居住場所等、ワシントングループの質問リスト(短いセット)による障害者データを収集している。
  • 2017年の障害者調査では、ワシントングループの質問リスト(拡張セット)を用いて質問項目を拡張した。

サウジアラビア政府の回答からは、国連が推奨する枠組みを導入した障害者統計の整備が進められていることがうかがえる。

第33条 国内における実施及び監視

第33条に関して、包括的な最初の報告は次のような内容であった。

  • 2014年3月の関係閣議決定で、従来からあった調整委員会の名称を「障害者サービス調整委員会」に変更した。この委員会は社会福祉省の職員が議長を務め、政府機関間の調整に責任を持つ。
  • 人権委員会は2012年に、条約実施の監視の仕組みとして、障害者の権利に関する特別部署を設立した。
  • 市民社会組織である全国人権協会は、障害者及びその家族から違反に関する苦情を受け付け、その解決のため権限のある政府機関と協力する。

前述したように、包括的な最初の報告では、中央連絡先については記述されていない。
 障害者権利委員会は事前質問事項で、2016年の「監視のための独立した枠組みとそこへの参加に関する委員会指針」を踏まえて、人権委員会が独立しており、パリ原則に従って運営されていることを保障するために講じられた措置について情報提供を求めた。
 これに対し、サウジアラビア政府は次のように回答した。

  • 人権委員会は法人格を有し、規定された義務を遂行するにあたり完全に独立している。
  • 人権委員会は、すべての人権問題について政府に助言・提言を行い、人権状況に関する年次報告を作成し、政府機関を監視し、違反を開示する。
  • 人権委員会は、独立した予算を有するものとし、国からの予算のほか、各所からの寄付、自らの活動に伴う収入などの財源を持つ。

サウジアラビア政府の回答は人権委員会が政府からの十分な独立性を有していることを主張する内容となっている。

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