1 国外調査 1.9.1

1.9 ニジェールにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

ニジェールは、2008年6月24日に障害者権利条約並びに選択議定書を批准した。その後、予定より大幅に遅れて、2015年8月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。その後、2018年11月の事前質問事項の提示、2019年2月の事前質問事項に対するニジェール政府回答の提出を経て、2019年3月の障害者権利委員会第21会期で包括的な最初の報告の審査が行われているところである。
なお、ニジェールは、一人当たりGDPが400ドル程度と、アフリカ諸国の中でも最貧国の1つである。このため、財源不足、人的資源不足等から実効ある障害者施策が十分に行えていない状況にある。同国政府による包括的な最初の報告では、関連法令の不備や国民の障害者に対する理解不足、財源の不足などにより、必要な施策が実施できていないことを率直に認める記述が多くの箇所でみられる。

1.9.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

ここでは、ニジェール政府の包括的な最初の報告と、事前質問事項へのニジェール政府回答(2019年2月)の記述を基に、関連法制と障害者政策、障害者権利条約の国内実施体制の概要をまとめる。

(1)障害者関連法制

ニジェール共和国基本法(憲法)第26条で、障害者の地位向上・機会均等に国が留意することを定めている。
 ニジェールの障害者法制の中核となっているのは、1993年3月に定められた行政命令(オルドナンス)第93-012号と、それを改良・補完した2010年5月の行政命令第2010-028号である。これらは、障害者の社会保障に関する最低限の規則を定めるものである。また、これらの行政命令の施行規則に当たるものとして2010年8月に定められた政令(デクレ)第2010-637号がある。これと同時に、後述する障害者の地位向上に関する全国委員会(Comite National pour la Promotion des Personnes Handicapees;CNPPH)の設置を定めた政令第2010-638号も採択されている。
 なお、事前質問事項に対する政府回答によると、障害者関連法制については、抜本的な見直しが進められており、2016年に新しい障害者機会均等化法案がニジェールの国会(最高国民会議)に提出された。ただし、この法案は障害者権利委員会での審議時点では可決されていない。

障害の定義

前述の行政命令第2010-028号の第2条で、障害者を次のように定義している。
「先天的あるいは後天的に肉体的・感覚的・精神的欠陥が原因で、全部あるいは部分的に個人的もしくは通常の集団的生活に必要なことを自力で確実に行う能力を欠く状態にある者」
これは医学的な定義となっており、障害者権利条約が求める社会モデルに基づく定義には合致していない。

(2)障害者政策の枠組み

前述したように、ニジェールでは障害者の平等や権利保護について有効な施策が実施できていない分野が多い。その中で、司法アクセスの改善、初等中等教育における統合教育、統計整備等については、EUや国連、国際非政府組織等の支援を受けた取組がなされている。
ただし、これらの取組は各分野別に実施されているもので、同国の障害者政策全体の枠組みを規定する基本計画等は定められていない。また、同国の各種の基本計画においても、障害者に関する内容は盛り込まれていない。

(3)国内の実施体制

ニジェールの障害者関連施策は、テーマ別にそれぞれの分野を所管する政府機関が担当しているが、包括的な最初の報告では、中央連絡先についての記述は見当たらない。事前質問事項への回答では、ニジェール政府は中央連絡先となるのにふさわしい組織として住民省を挙げているが、住民省を中央連絡先として公式に指定したとは述べていない。
 一方、2010年5月の行政命令第2010-028号と、その施行規則に当たる政令第2010-638号により、障害者の地位向上に関する全国委員会が設置された。また、8つある州ごとに州委員会が設置されることになった。全国委員会の役割として以下が挙げられており、その内容から、障害者の地位向上に関する全国委員会は中央連絡先と調整のための仕組みを兼ねる位置づけと考えられる。

  • 条約実施に含まれる様々な活動を推進し調整すること
  • 条約の実施に関する国家計画を作成すること
  • 条約を広く浸透させるため、障害者及び公衆に対する広報・教育活動を行うこと
  • 条約に関する様々な分野についての現状報告書を作成すること
  • 条約第35条に従い、政府及び国連に対する2年ごとの活動報告を提出すること

ただし、包括的な最初の報告では、これらの委員会は財源不足等の理由により、ほとんど機能していないと述べている。
 政府以外の関連組織として、国家人権委員会(Commission nationale des droits humains du Niger)とニジェール障害者連盟(La Federation Nigerienne des Personnes Handicapees)が挙げられる。これらの組織は障害者権利委員会にパラレルレポートを提出している。ニジェール障害者連盟は、政府と協力して地方での障害者権利条約の普及活動を進めている。

ニジェールにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図1.9-1にまとめる。

図1.9-1 ニジェールの国内実施体制の概要 (図1.9-1のテキスト版

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