1 国外調査 1.9.2

1.9 ニジェールにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.9.2 ニジェールの包括的な最初の報告の国連審査状況

(1)審査プロセスの現状

ニジェールは、2008年6月に障害者権利条約を批准し、本来は2010年5月が包括的な最初の報告の提出期限であったが提出できなかった。そこで、ニジェール政府は国連カントリーチームの協力を得て「障害者権利条約報告書作成のための省庁間委員会」を設置し、報告の作成に取り組んだ。省庁間委員会は2010年5月から作業を開始し、2015年8月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。
これを受けて障害者権利委員会は、2018年9月の第10回事前作業部会でニジェールへの事前質問事項を検討し、同年11月に事前質問事項を提示した。ニジェール政府は2019年2月に事前質問事項に対する政府回答を障害者権利委員会に提出した。
 なお、この間、ニジェールに関して5本のパラレルレポートが障害者権利委員会に提出されたが、ニジェール国内の団体からのものは3本であった。うち2本はニジェール障害者連盟によるもの、1本はニジェール国家人権委員会によるものである。
 これらの情報提供を受けて、障害者権利委員会は2019年3月の第21回会期でニジェールの包括的な最初の報告の審査を行っているところである。

(2)主な論点

第1~4条 目的と一般的義務

第1条~第4条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 2010年に障害者社会保障規則(行政命令)が改正されたが、障害の定義は機能障害によるもので、社会モデルに基づく定義になっていない。
  • 「ニジェール2035持続的開発と包括的成長戦略」などの重要な国家計画では障害者に言及していない。
  • ハンセン病患者の登校禁止を定めた1960年行政命令がある。

障害者権利委員会は事前質問事項で、指摘のあったハンセン病患者の学校除籍を定めた法律を含め、法制度・政策・実践を条約並びに障害の人権モデルに整合させるための措置について情報提供を求めた。また、障害者向け社会保障制度等で行われる障害評価が条約と障害の人権モデルに沿って実施されることを保障するための措置、障害者が法的措置や政策の立案・実施に参加している程度、知的障害者団体の設立や運営を支援するための措置について情報提供を求めた。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 住民省が既存の法律と条約の整合をとるための研究を行い、2015年に障害者の機会均等化に関する法案が提出された。これは既存の行政命令の不備を修正するものである。
  • 2010年に障害者の地位向上に関する全国委員会、2014年に州委員会を設立した。
  • ニジェール障害者連盟は、関係する委員会に積極的に参加している。最高国民会議(国会)は議席の1つを障害者の代表に割り当てた。
  • 知的障害者は独自に協会を設立し、その団体がニジェール障害者連盟に加盟した。

ニジェール政府の回答から、障害者の権利の保障や政策決定への参加について一定の取組がなされていることがうかがえるが、障害評価の在り方やハンセン病患者の学校からの除籍等の具体的質問への回答はなされていない。

第5条 平等及び無差別

第5条に関しては、パラレルレポートで次のような指摘がなされた。

  • 障害に基づく差別は広く残っている。都市部では後退しつつあるが、農村部では非常によくみられ、障害者の80%が農村部に暮らしている。
  • 様々な偏見があり、差別の監視や制裁の仕組みもない。
  • 障害者自身が障害者の権利を認める法令の存在を知らないため、実施に困難がある。

障害者権委員会は事前質問事項で、合理的配慮の否定が差別として認識されているかどうかの情報提供を求めた。また、国家人権委員会が障害者による苦情を受け付け、障害者、特に障害のある女性及び女児等、複合的・交差的な差別の事案について調査する仕組みがあるか質問した。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 合理的配慮17の否定は、明らかに差別の一形態と認められる。しかし、資金不足のため合理的配慮は進んでいない。
  • 国家人権委員会は、人権侵害に関するあらゆる問題について、提訴と告発を受け付ける。また、人権委員会は女性、児童、障害者等に対し法的支援を提供し、便宜を図る。

ニジェール政府は、合理的配慮については差別であると明確に回答しているが、複合的・交差的差別については言及しておらず、事前質問事項の趣旨とかみ合わない内容となっている。

第6条 障害のある女子

ニジェールでは障害ある女性が極めて弱い立場にあることは包括的な最初の報告、2つのパラレルレポートのいずれもが指摘している。
 第6条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • ニジェールの法制と政策は、障害のある女性の二重の脆弱性をほとんど考慮していない。
  • ジェンダー政策が作られたが、障害者団体はその作成に関与せず、この政策は障害のある女性についてインフラへのアクセスしか考慮していない。女性の地位向上のための施策によって恩恵を得た障害のある女性はほとんどいない。
  • 精神障害や知的障害のある女性は一層見捨てられており、虐待や暴力の対象となっている。
  • 障害のある女性や女児の多くに識字能力がなく、家庭内でも差別や虐待の対象となる。

このように、ニジェールではジェンダー平等政策が策定されたが、障害のある女性への考慮はほとんどなされていないこと、特に精神障害・知的障害のある女性が深刻な差別と暴力に直面していること等が指摘された。
 障害者権利委員会は事前質問事項で、一般的意見第3号(2016))及びSDGの目標5.1、5.2、5.5に言及し、障害のある女性及び女児の権利をジェンダー平等政策や戦略で主流化させるために講じられている措置、教育や職業訓練、雇用といった公的生活を送っている障害のある女性及び女児の割合、障害のある女性及び女児を代表する組織との協働、障害のある女性ある及び女児が経験している家庭内暴力やジェンダーに基づく暴力を含むすべての差別に戦うための行動計画について情報提供を求めた。
 これに対し、ニジェール政府は以下のように回答した。

  • 障害のある女性たちは二重の差別に苦しんでおり、非常に脆弱である。
  • 新しい障害者機会均等化法案の第2章は障害のある女性に関する措置について定める。
  • ジェンダー国家政策では、障害のある女性たちを女性たちのデモやイベントに招待している。
  • 国家公務員法に関する政令では、障害者の採用試験免除、地位の割り当てを定めた。
  • すべての雇用主は、5%以上の地位を障害者に割り当てるよう義務付けた。
  • 障害のある女性や女児を包容するインクルーシブ教育に向けて、師範学校での教育プログラムにインクルーシブ教育に向けたモジュールを導入する。
  • ジェンダー国家政策の行動計画、ジェンダーに基づく暴力に対する行動計画を準備している。

ニジェール政府も障害のある女性の現状の厳しさは認識しているものの、回答の多くは、障害のある女性に特化していない障害者施策やジェンダー平等政策に関する内容となっている。また、最高国民会議で審議中の新たな障害者機会均等化法案が、障害のある女性に関する施策の基盤になるとしている。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

包括的な最初の報告では、公共交通サービスのアクセシビリティ改善に関する行政命令(第93-012号第29条、第2010-028号第30条)や、公共の職場のアクセシビリティ確保を定めた行政命令(第93-012号第25条)が定められたものの、アクセシビリティに関する技術的な基準や指針が定められていないことが述べられている。
 第9条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 政府は措置を表明しているが、圧倒的多数の施設で構造上の変更はなされなかった。新たなインフラでもアクセシビリティは確保されていない。学校、銀行、交通手段をはじめ、障害の担当省、地域組織も例外ではない。
  • アクセシビリティ基準はあるが、それを守らなかった場合の罰則がない。アクセシビリティに関する行動計画もない。

障害者権利委員会は事前質問事項で、交通機関、情報コミュニケーション技術システム、公共施設やサービスのアクセシビリティに関して、現行法が条約第9条にどの程度準拠しているか、公共調達規則(public procurement code)にアクセシビリティを改善するための技術基準を含めるための措置が進んでいるか、2010年8月26日発令の行政命令第2010-637号の第41条から第45条の実施の監視の仕組み等について情報提供を求めた。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 新しい機会均等化法案は、施設、インフラ、交通とコミュニケーション手段を国際基準に従って障害者が利用できるようにするよう定める。
  • また、機会均等カードを障害者に発行し、施設やサービスを無料又は割引料金で利用できるようにすることを定めている。
  • 障害者に情報コミュニケーションの新技術を利用可能にする設備を計画中である。
  • 2010年行政命令の採択から2年後に、実施により得られた結果の報告を行うことを定めた。

政府回答からも、これまでのところニジェールでは施設や情報通信サービスのアクセシビリティについて、一部を除いて実効ある施策が実施できていないことがうかがえる。また、最高国民会議で審議中の新たな機会均等化法案が今後の施策の基盤になるとしている。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

第12条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。なお、これらはニジェール障害者連盟、国家人権委員会の報告の両方で、ほぼ同様の指摘がなされている。

  • 民法と刑法では不具、無能力等、差別的表現が用いられている。
  • 民法の精神的無能力(禁治産)の規定は条約の原則に適合しない。特に、錯乱・狂気の状態にある成人は、間歇的な正気を示す時にも治産を禁じられるべきとの定めがある。
  • 書字ができない場合は保佐人が贈与受領等を代理するなど、聴覚・言語障害者も精神的無能力者(禁治産者)と同列に置かれている。

障害者権利委員会は事前質問事項で、一般的意見 第1号(2014)に言及し、知的障害者及び心理社会的障害者の法的能力を制限している民法の改正あるいは無効化の措置について質問した。また、代理意思決定を支援された意思決定に置き換えるために講じられている措置について説明を求めた。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 法人格は障害者にも認められるが、知的障害者、錯乱状態・狂乱状態にある者には法人格は認められない。民法はこれについて改正していない。

このようにニジェール政府の回答は、知的・心理社会的障害者の法的能力の見直しが進んでいないことを認める内容であった。また、支援付き意思決定への移行に関する回答はなされなかった。

第13条 司法手続の利用の機会

包括的な最初の報告では、ユニセフやEUの支援により、2009年から4年間の行動計画が作成され、「司法・法治国家支援プログラム(PAJED)」がザンデール州とマラディ州で障害者を含む社会的弱者の法的支援と司法補助の実験プログラムを実施したことが述べられている。この実験プログラムの結果を基に、ニジェール政府は法的支援と司法補助の適格基準を定め、また法的支援・司法補助事務所(ANAJJ)が行政命令第2011-42号により創設された。
 パラレルレポートでは、第13条に関し、次のような指摘がなされた。

  • 一般的な措置(規定)はあるが、実際に障害者が法的サービス、司法サービスを利用することを保障する措置はほとんど存在しない。
  • 裁判所の業務で、専門の手話通訳者はいない。職員の教育や情報提供も不十分である。
  • 法的支援、司法補助に関する意識向上、情報提供、職員養成が法的支援・司法補助事務所の行動計画で計画されている。

障害者権利委員会は事前質問事項で、前述の行政命令第 2011-42号によって創設された法的支援・司法補助事務所が司法制度へのアクセスを障害者に与えるためにどのような措置を講じているか、障害者の権利に関して裁判官、弁護士、裁判所や法執行職員、警察や他の公務員に対する研修の措置が講じられているかなどについて質問した。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 司法へのアクセスを保障するため、法的支援と司法的補助の規則を定め、法的支援・司法補助事務所を設置するための法律が2011年に可決された。EUの支援を受け、10か所の大審裁判所(地方裁判所)内に同事務所を建設した。
  • 司法官、弁護士、裁判所職員等は、定期的に一般的人権、障害者の人権の尊重について研修を受ける。各組織の研修に加え、国もセミナーやワークショップを実施する。

このように、ニジェールの司法アクセスについては一定の基盤整備が進んだことが認められるが、政府回答では、法的支援・司法補助事務所の具体的な活動内容や活動状況についての説明はなされなかった。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

包括的な最初の報告では、障害者は社会に統合され、誰とどこに住むかを選ぶ権利を有するが、実際には社会の偏見があり、これを改善するためのキャンペーンが行われていることが報告された。
 パラレルレポートでは、第19条に関して次のような指摘がなされた。

  • 農村部では、自立した生活をするための社会的サービスの情報がほとんど得られず、障害者がサービスを利用できない。
  • 障害のある児童は、しばしば親から離れて祖父母、高齢の親戚と暮らしている。彼らは児童の十分な保護ができず、女児の場合しばしばレイプや事件に巻き込まれる。

障害者権利委員会は事前質問事項で、一般的意見第5号(2017)に言及し、自立した生活と地域への包容の権利が法律に明確に認識されているか、パーソナルアシスタンスサービスの提供をはじめ権利の効果的な実施を保障する措置の政府予算額について質問した。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 新しい機会均等化法の第41条で、すべての公的場所で障害者がサービスや座席の優先権を持つことを想定している。
  • 機会均等カードを持つ障害者には、駐車スペースの優先権が与えられる。
  • ニジェール政府は、障害者の自立生活の包容の保障のため、方策を日々追求している。

他の項でも見られるように、ニジェール政府は新しい機会均等化法によって法的基盤が整備されると回答しているが、事前質問事項に十分回答する内容とはなっていない。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

包括的な最初の報告では、表現の自由、情報アクセスの自由が法律で保障されていること、国営テレビが手話による時事番組を放映していることを報告している。一方で、図書館での点字資料の取扱いがない こと、情報提供が都市部に偏っており、農村部の障害者の情報アクセスが困難であることも指摘している。
 パラレルレポートでは、第21条に関して次のような指摘がなされた。

  • 情報へのアクセスは多くの法律で保障されているが、実際には障害者が入手できる情報は非常に乏しい。国営テレビ放送の手話放送は週に2回のみである。
  • 公的ウェブサイトもごく一部しか障害者が利用できない。
  • プロの手話通訳者が全くいない。
  • 知的障害者の情報アクセスのための措置は全く取られていない。

障害者権利委員会は事前質問事項で、手話が公式言語として認知されるための措置、点字や各種の補助的代替的なコミュニケーション手段での情報アクセスを改善するための措置など障害者のコミュニケーションと情報アクセスの保障につながる措置について情報提供を求めた。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • テレビではニュース番組を手話通訳している。
  • 非政府組織と障害者団体は、手話と点字についての教育指導計画において協調関係を築いている。

事前質問事項に対するニジェール政府の回答は、条約第21条に関する取組が進んでいないことをうかがわせるものといえる。

第24条 教育

包括的な最初の報告では、ニジェール国内で特別教育、統合教育、インクルーシブ教育の3つのアプローチがあり、ニアメ州、ザンデール州、マラディ州の特別支援学校への支援が行われていることが報告された。また、各州で統合学級の設置が進んでいること、教育制度進路法(LOSEN)により中等・高等教育への視覚障害者の就学の道が開けたこと、政府の中等高等教育省とニジェール視覚障害者連盟の協力により、教科書の点字翻訳を目指していること等が報告された。一方、研修・職業訓練から障害者や障害のある児童が排除されていることや、特別学校や統合学級の専門教員不足、教育制度進路法の施行規則が採択されていないこと等の課題を指摘している。
 パラレルレポートでは、ニジェール国内の普通教育の整備の進展、インクルーシブ教育の進展の取組を評価した上で、第24条について次のような指摘がなされた。

  • 教育制度進路法等で障害者の教育の権利が確認されているが、2010年の行政命令では特別教育の考え方が示され、条約の目標と矛盾している(ニジェール障害者連盟の意見)。
  • 教育制度進路法は特別教育を認めるものであり、あらゆる差別から障害のある児童を守るものである(国家人権委員会:ニジェール障害者連盟とは異なる意見)。
  • 教育・職業訓練に関する部門国家計画では、運動障害のみが考慮され、視聴覚障害、知的障害、アルビノ等は考慮されていない。この計画策定や活用には障害者団体は参加していない。
  • 知的障害のある児童は疎外されており、中等教育を受けている知的障害のある児童はいない。
  • 初等・中等教育では進歩が認められるが、多くの障害者は職業研修、職業訓練に就くことができない。
  • インクルーシブ教育は教育施設、通学手段、専門教員の不足等の問題に直面している。

障害者権利委員会は事前質問事項で、インクルーシブ教育政策とプログラムを開発するために講じられている措置及び人的資源・財源について尋ね、併せて以下のデータを示すよう求めた。
 (a) インクルーシブ教育での障害のある児童の比率(年齢、性、機能障害種別、障壁別)
 (b) 特別学校に通う障害のある児童の比率(年齢、性、機能障害種別、障壁別)
 (c) 合理的配慮の下で教育への権利を行使している障害のある児童の数が、特に農村部の幼稚園、初等教育学校、中等教育学校で増加しているかどうか。

これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 利用可能な統計データのいくつかは州庁所在地のみで、正確な状況を示していない。(特別学校、職業訓練センターに通う障害のある児童の数を示しているが、数十人から数百人の単位)
  • 就学前教育局は、障害のある児童に関する統計を一切持っていない。
  • 財源不足、親の関心不足、教員養成や学校インフラの非適合の結果、障害のある児童の教育の状況把握は困難である。

パラレルレポートも評価しているように、ニジェールでは障害のある児童のインクルーシブ教育への取組等、一定の進展が認められるものの、その状況を客観的に把握できる統計の未整備が課題となっている。

第29条 政治的及び公的活動への参加

包括的な最初の報告では、障害者の政治的・公的活動の制約はなく、選挙への立候補、投票権とも自由に行使できると報告している。一方、投票所へのアクセスの問題や、点字投票用紙がないこと等の課題があるとも述べている。
 パラレルレポートでは、第29条に関して、次のような指摘がなされた。

  • 公職選挙法では、収容患者(強制入院の対象者)と精神的無能力(禁治産者)を選挙人名簿から除外するよう規定している。
  • 投票所のアクセシビリティ、電子機器への理解、点字投票用紙がないこと等の問題がある。

障害者権利委員会は事前質問事項で、パラレルレポートが指摘した問題点、すなわち知的障害者や心理社会的障害者が政治的・公的生活に参加すること、投票所へのアクセスや障害者が利用可能な形式の選挙資料の利用を保障することについて実施している措置の情報を求めた。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 2016年の国政選挙には2人の障害者(視覚障害、運動障害)が立候補した。
  • 障害者の投票に制約はなく、障害者が投票する際には便宜が図られる。
  • 新しい機会均等化法案第42条、第43条で、障害者の投票権、被選挙権を定める。
  • 投票所のアクセス、投票用具の問題、特に点字投票用紙がないという問題がある。

心理社会的障害者、知的障害者の問題についてニジェール政府は回答をしていない。また投票所のアクセス等については、包括的な最初の報告と同様、問題があることを認めるにとどまっている。

第31条 統計及び資料の収集

包括的な最初の報告では、ニジェールの統計制度が脆弱であること、特に障害者統計は未整備であることを認めている。一方、統計制度の改善のため、国立統計研究所及び各省庁に部局別の統計局を創設したこと、ニジェールユニセフ協会の支援により障害者に関する統計情報の収集や障害者のための社会経済センターの資料提供等を企画したことを報告している。
 パラレルレポートでは第31条に関して、次のような指摘がなされた。

  • 2012年の住居及び人口統計調査(国勢調査)では障害者に関する全数調査が実現した。この調査では、国立統計研究所とニジェール障害者連盟が協力した。
  • ただし、この調査ではワシントングループの質問リストが使われなかった。
  • 障害の分野で利用できる統計データは信頼度が低く、明らかに矛盾したデータもある。

障害者権利委員会は事前質問事項で、次回の国勢調査の調査内容検討の際に、障害者と協議することを保障するために講じられている措置、また、ワシントングループの障害に関する質問リストを国勢調査やその他の統計調査で考慮するかどうかについて尋ねた。
 これに対し、ニジェール政府は、2020年の国勢調査ではワシントングループの障害者に関する質問リストが考慮されるであろうと回答した。
ニジェールでは障害者に関する統計は依然として脆弱だが、パラレルレポートが指摘するように、2012年国勢調査で障害者の全数調査が初めて実現したことは大きな進展といえる。次回の国勢調査ではワシントングループの質問リストが採用される見通しであり、さらなる情報の整備が期待される。

第33条 国内における実施及び監視

包括的な最初の報告では、障害者権利条約の実施を監視する組織として、全国委員会と8つの州委員会を設置したと報告している。また、ニジェール障害者連盟の協力により条約の普及の取組を行っていることを述べている。一方で、財源不足のため、これらの委員会はほとんど機能しておらず、条約の普及も進んでいないことを率直に述べている。
 条約の普及と実施の監視を行う全国委員会と州委員会が機能していないことは、パラレルレポートでも同様の指摘がなされた。
 障害者権利委員会は事前質問事項で、中央連絡先を示すこと、また、その機関の役割として調整のための仕組みが考慮されているかどうかを尋ねた。また、全国委員会と国家人権委員会の業務領域、その両組織の独立性を強化して保障するために講じられている措置、両組織の業務にどのように障害者が関与しているかについて、情報提供を求めた。
 これに対し、ニジェール政府は次のように回答した。

  • 住民省は、特殊な社会集団の保護及び地位向上を担っており、中央連絡先となるのに適任の組織である。
  • 2008年の省令で、障害者権利条約の実施を監視する全国委員会について定めた。
  • 2010年の省令で、障害者の地位向上に関する全国委員会について定めた。
  • 障害者は、障害者団体を介して、条約実施の監視に十分に参加している。

ニジェールでは、条約の普及や実施の監視のため、一応の体制整備は行われたものの、それらが実質的に機能していないという深刻な課題を抱えており、必要な財源の確保が急務となっている。


17 des amenagements raisonnables

前のページへ次のページへ