1 国外調査 1.10.1

1.10 スペインにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.10.1 スペインの第2・第3連結定期報告の国連審査状況21

(1)審査プロセスの現状

第2・第3連結定期報告に先立つ事前質問事項

スペインは、2007年3月に障害者権利条約及び選択議定書を批准し、2010年7月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。翌2011年10月には障害者権利委員会による最終見解が示された。現在は第2サイクルの審査プロセスの途中にあり、2017年4月に障害者権利委員会より第2・第3連結定期報告に先立つ事前質問事項が示された。これに対しスペイン政府は、2018年5月に事前質問事項に基づく報告書を提出した。この報告書は2019年春に行われる第21会期の間に各国の委員によって審査され、その後最終見解がまとめられることになっている。

市民社会及びオンブズマンからの情報

2019年2月の時点で、スペインに関しては質問事項の提案が4本、利害関係組織からのオルタナティブレポートが9本、第21会期セッションに向けたパラレルレポートが7本提出されている。
 事前質問事項の提案は、機能的多様性を擁護する団体である平和、人権、自立生活研究所(IPADEVI)、精神医療サービスの利用者団体であるヨーロッパ精神医療(元)ユーザー・サバイバーネットワーク(ENUSP)、自閉症のある人の団体であるAutistic minority international、そしてパリ原則に準拠し、スペインの人権機関とされているオンブズマンの4組織から提出されている。利害関係組織からの報告書9本はすべて中核障害者団体として組織されているスペイン障害者代表委員会(CERMI)がとりまとめたものとなっている。セッションに向けたパラレルレポートについては、知的障害者の団体であるInclusiva Si, Especial TAMBIEN、軟骨無形成症をはじめとする小人症の症状のある人の団体ALPE FOUNDATION、心理社会的障害者の団体ActivaMent Catalunya Associacio、身体障害者団体のCOCEMFE、自立生活支援団体のENILFEVI、及び前述のIPADEVIという、多様な団体が提供している。

(2)主な論点

第1~4条 一般的義務

第1~4条に関しては、多数の指摘がなされている。その一部を以下に紹介する。

  • 調停制度に関する促進の欠如、実施に関する情報と報告の欠如があり、調停制度が効果を挙げているか疑問。
  • 地方レベルでの政策の設計、実施、評価の過程に障害者や障害者団体が参加しているかの情報が欠如している。
  • 障害者一般法(Ley General de la Discapacidad;LGD)の改訂文書では、個別法の改正がまだ一部しかなされていない。
  • 合理的配慮については障害者一般法に含まれているが、その実施を保障する国の取組がなく、過度な負担を理由とした合理的配慮の否定の例がいまだにある。
  • 横断的差別の観点はいまだに制度に組み込まれていない。
  • 中絶に関する法律は2010年に改正されたが、いまだに障害を理由とする差別的な中絶の規定がある。
  • 商品、サービスのアクセシビリティに関する法律は承認されないまま期限切れとなっている。
  • スペイン障害者代表委員会は独立した仕組みに指定されているが、その活動のための十分な資金が提供されていない。

一方、事前質問事項ではa) 障害者の権利に関する国際条約の規範的法律である第26/2011法についての締約国の解釈や、実施のための措置について b) 障害に基づく差別の防止と合理的配慮に関する、意識向上のための取組について c) 障害のある女性や児童、またその代表団体を含む障害者の権利と参加を完全かつ効果的に保護するための措置についての質問がなされた。
 これに対し、政府報告では a) 2013年に障害者一般法の改訂文書が承認され、法律の関係規則の改正もあって意味が明確化したこと b) 関係規則に合理的配慮について定義されているほか、リハビリテーション、都市再生・建築物改装等の新しい法律や基準で合理的配慮の提供が定められたこと、改訂規則には直接的差別、間接的差別、関係者差別、複合差別といった新しい概念が含まれていること、障害者が政治活動・選挙手続に参加するための基本条件、公共調達、雇用、教育の質の向上等に関する法律や規則が定められ、地方自治体でも並行して整備が進んだこと、障害者に影響を与えるプロジェクトについて、障害者に関する影響評価が事前に行われるようになったこと c) 障害者団体の関与の元で、障害に関する戦略的行動計画2014-2020をはじめ、多くの分野別計画、各州の行動計画が策定されたこと、調整のための仕組みである国家障害者評議会(CND)の構成員の半数が障害者であることが述べられた。

第5条 平等及び無差別

第5条に関しては、以下のような指摘がなされた。

  • 調停制度の有効性が知られていないため、その適用に関するデータがほとんどない。法律では、地域議会の分類に基づくとしているが、地域議会による分類が行われず、仲裁制度が無効になる。
  • 苦情処理機関としては(国の)障害支援室があるが、違反行為を単に通知するだけなので効果がない。障害問題について専門的研修を受けた有資格者を職員とすべき。
  • 障害の程度にかかわらず、合理的配慮の否定の防止のため、すべての関係者が理解できるよう合理的配慮と差別防止に関する指導、意識向上、研修を行うべき。

一方、事前質問事項では、2007年12月26日発効の法第49/2007号(CRPD/ESP/CO/1、第14項参照)にある、障害者差別に関する調停制度に対する意識の向上について、委員会の勧告による実施に関する情報提供が問われた。
 これに対し、政府報告では調停制度は失敗で、参加を申請した企業がこの10年間で1件しかなかったこと、障害者の包容を想定した無料法律相談に関する法改正を行ったことが述べられた。

第6条 障害のある女子

第6条については、パラレルレポートでは以下に紹介するとおり多くの指摘がなされた。

  • 緊急性の高い問題として、障害のある女性に対する暴力と強制不妊手術がある。
  • スペイン障害者代表委員会女性財団の推計によれば、心理社会的障害も含めた障害のある女性への暴力は事件総数の20%に達する可能性がある。障害のある女性は、ジェンダー暴力の被害者となるリスクが10%よりも高い。
  • これらの問題に関し、障害のある女性の司法へのアクセス、法的能力にも大きな問題や障壁があり改善が必要。(例えば、保護者や後見人が暴力の加害者である場合等)
  • 障害のある女性・女児の基本的権利の侵害には、いまだにジェンダー格差がある。
  • 労働市場で、障害のある女性は障害男性よりも困難に直面している。雇用された障害者の多くが男性(61%)で、フルタイム契約では70%が男性、一方パートタイム契約は52%が女性。
  • 障害のある女性・女児の権利行使について、自治州間で大きな差異がある。ジェンダー平等政策には、障害のある女性が受けている複合的・横断的差別に向けた措置が含まれていない。
  • スペイン政府は国連女性差別撤廃委員会の委員への障害のある女性の選出を支援した。これは重要な措置である。

事前質問事項では、a) ジェンダー平等、雇用、医療と社会福祉に関する法律や政策に、障害のある女性を含めるための措置と、こうした法律や政策にジェンダーアプローチを取り入れるための措置について b) 障害のある女性がその権利を享受することを阻むような法律、政策と実践を廃止するための取組について c) 障害のある女性の発達、前進、保護を保障するための措置についての質問がなされた。
 これに対し、政府報告では a) 障害者一般法には男女の平等が含まれており、複合差別を受ける障害のある女性を対象とした特別な保護策が設けられたこと、そして2011年以降に、この特別措置を導入した多くの計画が作成され承認されたこと b) マドリード市の第3次行動計画における、重度障害のある女性の医療支援、専門職を対象とした活動、障害者団体との協力推進など、障害のある女性を対象とした行動27件を含む活動例 c) 2014年にCERMI女性基金が財団登録し、障害のある女性のエンパワメントを支援していることが述べられた。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

第9条に関しては、パラレルレポートで次のような指摘がなされた。

  • 製品・サービスのアクセシビリティ法は、新しい規則が制定されないまま期限切れとなり、現在、商品・サービスにアクセスする権利は法律の対象となっていない。これについてスペイン障害者代表委員会は最高裁判所に控訴している。
  • 第2次アクセシビリティ計画はスペイン障害者代表委員会が協力して起草中であり、多くの希望が寄せられている。
  • 情報アクセシビリティについては政府、自治体が予算を十分に配分していないため、依然として不安定で不足した状況にある。
  • スペイン障害者代表委員会の年次報告で、2011年以降、最も多く違反を記録したのが第9条である。

一方、事前質問事項では、 a) 施設及びサービス等の利用の容易さに関する法律を執行し、障害者がそれらの利用を差別なく幅広く行うことを保障するために、2017年12月4日を期限として講じられた財政・人的資源についての情報提供について b) 施設及びサービス等の利用の容易さに関する第2次国家計画を承認する予定があるか c) 障害者が容易に住居を利用できなくなるようなあらゆる法律を是正するための取組について d) 行政機関によるすべての公共サービス、インターネット情報通信サービス、公共行政機関の一般行政手続も含む、施設及びサービス等を障害者が容易に利用できるための対策を確実に実施するための措置についての質問がなされた。
 これに対し、政府報告ではa) 多くの分野で進展はあったものの、分野ごとの法律にEU法の規定を反映した修正を行うことはできなかったこと b) 2014年9月 に障害に関する戦略的行動計画2014-2020が承認され、アクセシビリティ促進を戦略目標の1つとしたこと c) 障害者一般法の規定に基づき、国民アクセシビリティ計画Ⅱの準備作業が行われており、その目標として公共政策の計画、実行、評価におけるアクセシビリティの横断的管理をはじめとする施策が掲げられていること d) 2010年にウェブアクセシビリティ監視局を立ち上げ、公共サイトのアクセシビリティ定期調査や自己診断サービスなどを提供しており、参照基準WCAG2.0となっていること、そして、モバイル用ウェブサイトのアクセシビリティに関する2016年EU指令(2016/2102)の、国内法化に取り組んでいることが述べられた。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

第12条に関しては、パラレルレポートで以下のような指摘がなされた。

  • 障害者権利委員会より勧告された、代理意思決定の体制を支援付き意思決定で置き換えるための取組がなされていない。
  • 障害者権利委員会より勧告された、関係するすべての公務員と利害関係者に対する研修が実施されていない。
  • 条約の第12条に従うために国内法の改正を行ったが、その法律の施行開始までに行われた無能力の決定を審査するための日程を提示すべきである。
  • 改正された国内法では、個人の選好や希望の尊重に関する明確な規定がなく、柔軟性に乏しく地域に根付いたアプローチがとれない。また、代理意思決定の可能性が残っている。浪費の定義が幅広く、精神障害者の自立を阻害している。
  • 他者との平等を基礎として、法的能力の行使を保障する支援制度は依然として存在しない。

一方、事前質問事項では、a ) 障害者の完全なる法的能力を認め、代理意思決定から、本人の自立、意思、選好を尊重した意思決定に置き換える法律や政策を講じるための措置について b) 後見の信託統治の決定に対する適切な監視と審査を実施するための仕組みc) 法改正前に下された無能力の決定の再審査を行う日程について問われた。
 これに対し、政府報告では a) 2011年に制定された、「障害者権利条約への法規則の適合に関する法」により10以上の法改正がなされ、公証人の組織及び体制に関する規則が修正された。法務省は民法、不動産担保法、民事訴訟法において、支援付き意思決定への移行を進めるために取り組んでいること、 障害者支援に関する新たな規則では障害者のニーズに可能な限り支援を調整し、障害者の自律性、意思、選好が尊重されることを保障していること、最高裁判所は法的能力や後見人に関する制度に対し、条約に沿った解釈に努めており、その意味でこれらの制度は条約と親和性があることb) 国内の全住民の電子登録システムの設立に関する法律が2018年6月に施行され、これによって法的能力に関する情報も登録可能となり、法務統計としても利用できることが述べられた。c)についての回答はなされなかった。

第13条 司法手続の利用の機会

第13条について、パラレルレポートでは以下のような指摘があった。

  • 第13条に関して、目立った進展はみられない。
  • 裁判所へのアクセスについて、物理的なものから制度上のものまで様々な障壁が依然として存在している。

一方、事前質問事項では、a ) 法的無能力とされている者や施設に居住する者も含め、障害者が、他者との平等を基礎として、法的手続を利用することができるように保障するための措置について b) 障害者が無料で法的手続を受けられるような体制を促進するために講じた措置について質問がなされた。
 これに対し、政府報告では a) 障害者が事件の被害者となった場合、法的手続の中で被害者の不利益とならないよう必要な措置が講じられることが、犯罪の被害者に関する法第4/2015号によって定められていること b) 知的障害者や精神障害者が虐待の被害者となった際に無料の法的扶助を受けられる権利が認められていること、弁護士協会が当番制で無料の法的扶助の提供体制を維持していること、そして研修などを通じて障害者の法的手続に対応できる人材の育成に取り組んでいることが述べられた。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

第19条に関しては、多くのパラレルレポートで様々な指摘がなされた。代表的なものを挙げるならば、以下の通りとなっている。

  • 条約第19条の実施に関して、最初の包括的な政府報告から進捗が見られない。
  • 公共施設をすべての人にとって利用可能なものにするべきである。
  • 選好や希望を尊重する形の自立生活支援はほとんど行われていない。
  • 施設を出た精神障害者に対する公的な自立支援が不足しており、家族が自己負担で面倒を見るため、負担が重く、当事者の自立にも繋がっていない。
  • 居住型施設の入所者が増加しており、施設の数も増え続けている。
  • 施設内で、入所者の意思や尊厳が尊重されていない。
  • 障害者にとって利用できるパーソナルアシスタンスが極めて少ない。

事前質問事項では、a) 個人自立促進法を含めた障害の認識と特定に関する法律や政策によって、障害に対して人権に基づくアプローチで雇用を行うことを保障し、依存度の認定のための要件や評価の仕組みが条約に沿ったものであるか審査するための取組について、居住地や所属する地域社会にかかわらず、資格のある人がすぐに必要な自立生活支援を受けられるようにするために提案されている措置や、実際の資金、資源について、個人による自己負担の仕組みがどのように規定されており、負担の支払いが不可能な場合はどうなるのか、自己負担は廃止するか否か b)障害者の居住場所を選択する権利に対する認識を国内に浸透させ、居住地にかかわらず各個人のニーズに基づいた一連の社会サービスや支援が確実に受けられるようにするための措置、そしてパーソナルアシスタンスを制度化する予定の有無、各制度や受益者による差の有無についての情報提供が求められた。
 これに対し、政府報告では a) 障害程度の評価の調整と監視のための国家委員会が、障害の基準を国際生活機能分類(CIF-OMS/2001)に適合させることに同意したこと、障害者の自立生活、機会均等、普遍的なアクセシビリティを整備するために、パーソナルアシスタント、手話通訳者、通訳ガイド、コミュニケーション手段の提供を通して、国家総合行政機関(AGE)による障害者への援助が制限された予算の中で継続していること、自己負担額は利用するサービスの料金と個人の経済的能力によって決定するが、支払えないために制度からは除外されないこと、一部の自治体は独自の仕組みを運用していることと各自治体の実際の運用例 b) パーソナルアシスタンス制度は個人の自立促進に関する法の第19条で規定されており、パーソナルアシスタントを雇うための給付制度があること、2017年11月、中央政府と自立コミュニティ間の調整と協力のための最高機関は、自立生活のためのパーソナルアシスタントの提供状況を分析するためのワーキンググループを設立することに合意し、このワーキンググループには自立コミュニティや扶養と障害にかかわる団体からの代表者が参加していること、介護施設での滞在、保護付き宿泊施設、在宅支援等、様々なレベルの脱施設化のための選択肢が用意されていること、マドリッドには身体障害者の自立生活支援に特化されたパーソナルアシスタントのネットワークがあるといった事例の紹介をはじめとした、各自治体での取組について述べられている。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

第21条については、パラレルレポートで以下のような指摘がなされた。

  • 法第27/2007号はいまだに承認されていないが、政府は市民社会団体とのワーキンググループを設立した。この法律は、聴覚障害者の口頭でのコミュニケーションを支援する手段を規定しており、口頭でのコミュニケーションと同レベルに手話を置くことは明らかにはなっていない。
  • これまでのところ、教育機関で手話の習得と使用、研修を効果的に行うための措置の展開はない。

一方、事前質問事項では a) スペイン語の手話をひとしく認め、メディアを規制し、聴覚障害者が、他者との平等を基礎として、情報や基本的な社会福祉のサービスに容易にアクセスできることを保障するために、10月23日発効の法第27/2007号による規定を発展させるにあたっての進捗状況について b) 盲ろう者に関する権利に効力を与えるための取組について質問がなされた。
 これに対し、政府報告では a) スペイン語手話を再認識し、ろう者、聴覚障害者、盲ろう者の口頭によるコミュニケーションへの支援措置を規定した法について、2017年8月に草案作成に先駆けた公開協議が行われたこと b) 緊急通報(112番)のアクセス保障、スペイン語手話や音声、文書又はビデオによる公共行政機関の電話対応サービスへのアクセス推進、国会でスペイン語手話と口頭によるコミュニケーションの支援措置導入、刑務所でのコミュニケーション支援措置の提供等の新しい取組があること、そして地方自治体では学校での情報アクセスの支援措置、幼児向けの早期支援ユニットの提供とインクルーシブ教育に向けた教育部門との調整、112番サービスでの障害者団体との協力等が進められていることが述べられた。

第24条 教育

第24条については、パラレルレポートでは以下の指摘がなされた。

  • いまだに障害のある生徒の20%が分離教育に残っている。
  • 行政はしばしば当事者に選択の自由を与えずに特別学校への入学を決める。また児童が受けているカリキュラムについて家族が情報を得られない。生徒の支援は権利に基づくのではなく、学校側の方針によって提供されていると考えられる。
  • 特別教育、統合教育の支出に関するデータがなく、統合の質が評価できない。
  • 最高裁判決をはじめ、近年、裁判所の判決にはインクルーシブ教育に有利なものが増えているが、その中でもインクルーシブ教育の概念が正しく理解されていないことがある。

一方、事前質問事項では、a) 障害を理由とした入学拒否を認めないことを明記し、課外施設や課外活動を含めて、質の高いインクルーシブ教育を保障するための措置について b) 自治体によるものも含め、教育制度を改善するために行っている具体的な取組について c) 特別学校を含め、義務教育とそれ以降の時期の教育における障害のある生徒に関する情報について d) 障害のある生徒の就学に関する決定に対して申立てを迅速かつ効果的に行えることを保障するための措置と、生徒及びその保護者による関与を促進するための措置についての情報提供が求められた。
 これに対し、政府報告ではa) インクルーシブ教育と教育上の平等に関する課題に取り組むため、地方自治体とスペイン障害者代表委員会の代表者との協力で「特別な教育的ニーズのある学生の包容計画2011-2013」を実施し、生徒、教員、その他の教育の専門家のための教育手法をはじめとした多岐にわたる領域で共同提案がなされたこと、現在はこの流れを受け継いだ「特別な教育的ニーズのある生徒の包容計画2018-2020」が実施されていること、b) 2002年に設立された諮問機関である障害のある生徒のインクルーシブ教育に関するフォーラムが、障害のある学生の包容に関する議論や提案の場を提供していること、相続人不在の遺産を障害者教育の改善のためのプログラムに充当する「包容のためのレティシア女王プログラム」が2015年に開始されたこと、d)最高裁判所が2017年の判決で、インクルーシブ教育を受ける権利の基本的原則と内容を確立したことが報告された。c) 特別学校を含め、義務教育とそれ以降の時期の教育における障害のある生徒に関する情報については回答がなされなかった。

第29条 政治的及び公的活動への参加

第29条については、パラレルレポートで次のような指摘がなされた。

  • スペインでは、法的無能力と判断された人は自動的に選挙権を剥奪されていたが、近年は剥奪の前に対象者の状況と能力を再度検討するといった変化が見られる。
  • 市民社会団体からの剥奪撤廃の提案を受けて、2017年11月に国会は選挙法を改正することを認めた。
  • 2012年の調査では、アクセスできない投票所の数はかなり多かった。地方選挙における視覚障害者のアクセシビリティ措置は現時点でも徹底されていない。

一方、事前質問事項では、a) すべての障害者が例外なく、秘密投票によって、必要とされる合理的配慮の下に投票する権利を持つことを保障するための法的、その他の措置について b) 公的な役職に選出されるすべての障害者が、個別の対応等、必要な対応を受けられることを保障する措置の詳細について報告が求められた。
 これに対し、政府報告では a) すべての市民が公的生活に参加する権利を有することが憲法で保障されており、障害者が他の市民との平等を基礎として、政治生活や選挙過程に参加できるよう、行政は障害者が必要とする資源を自由に使えるようにしなければならない、と障害者一般法第53条で定められていること、政府がアクセシビリティと無差別に関する基準を規定していること、370以上の自治体で迅速に点字資料を作成することは難しいという内務省による調査結果を受けて、視覚障害のある有権者の選挙手続へのアクセスを向上させる情報アプリケーションを開発中であること、選挙権の侵害に関する2014年の判決で、最高裁が選挙制度に関する法律に対して障害者権利条約に則った解釈を行い、この判例によって裁判所で個人の自主性を最大限に保護する方法が模索されるようになったことb) 障害者一般法には、選ばれて公職に就いた障害者がパーソナルアシスタントを含む、必要な支援をすべて受けられることが規定されていることが報告された。

第31条 統計及び資料の収集

第31条については、パラレルレポートで以下が述べられた。

  • 障害変数が組み込まれているすべての統計について、最新の情報を求める。
  • 社会福祉省、労働省、スペイン障害者代表委員会、エストレマドゥール大学の共同事業である国立障害観測局(El Observatorio Estatal de la Discapacidad;OED)は毎年、障害者の状況に関する統計報告を発表する。
  • 障害者に対する性暴力等についても集計で考慮にいれるべきである。

事前質問事項では、障害者と障害者代表団体間の協力において、人権に基づいた指標システムと、データ収集と分類された統計を統合的に比較するシステムをどのように開発する予定であるかについての詳細が問われた。
 これに対し、政府報告では。2017~2020年の国家統計計画では複数の障害者団体が集まって検討し、アンケートを設計するためのワーキンググループが召集されることになっていること、障害観測局は、情報の収集、体系化、更新、生成及び普及のための技術的手段の開発を進めていること、委員会の勧告に従って、既存の統計に障害変数が新たに組み込まれるなどの取組があること、内務省が犯罪統計システム(SEC)の修正を実施して、障害者が被害を受けた事件に関連する情報量を増加させたことなどが述べられた。

第33条 国内における実施及び監視

第33条に関しては、パラレルレポートではスペイン障害者代表委員会が独立した仕組みに指定されているにもかかわらず、そのための特別な財源を有していない問題が指摘された。
 一方、事前質問事項ではスペイン障害者代表委員会が国内における実施及び監視を単独に行使できるよう、その資金提供をどのように保障するかについての情報が求められた。
 これに対し政府報告では、スペイン障害者代表委員会に対し、国からの助成金や地方自治体からの補助金が支払われていることが述べられた。


21 スペインの関連法制、国内実施体制については『平成26年度障害者の権利に関する条約の包括的な最初の報告の検討プロセスに関する国際調査報告書』第6章を参照のこと。
URL: https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h26kokusai/h6_06_01.html

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