1 国外調査 1.12.3
1.12 デンマークにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況
1.12.3 デンマークにおける合理的配慮・環境整備等の実態状況のまとめ
障害者権利委員会による最終見解の提示を受けた後のデンマークの動きとしては、2018年6月の「障害を背景とした差別の禁止に関する法律」の制定を挙げることができる。ただし、第2・第3連結定期報告に先立つ事前質問事項(LOIPR)の検討に向けて提出されたパラレルレポートによれば、この法律は合理的配慮の提供義務や既存のアクセシビリティ基準遵守義務が含まれていない不十分なものとされている。また、障害者の法的能力に関しては、法的能力の限定的喪失という選択肢を導入するための法改正に関して政府が審議を行ったとされており、一部問題は未解決ではあるものの進展が見込まれる状況になっている。
一方で、パラレルレポートからは、最終見解の勧告の未履行を指摘する多くの報告がなされている。まず、2013年に策定された国家障害者行動計画について、現在の曖昧さを改善し、フェロー諸島とグリーンランドでも行動計画を採択することが最終見解で勧告されたが、いずれも実施されないまま行動計画は終了し、後継の計画は用意されていないという指摘がパラレルレポートでなされた。フェロー諸島とグリーンランドにおける障害者政策は全体としてデンマーク本国よりも遅れており、フェロー諸島では独立した監視の仕組みも依然として設立されていないという報告もなされた。
複合的横断的差別に関しては、障害者権利委員会では最終見解において、差別の予防のための措置を講じることを勧告した。これに対し、パラレルレポートでは65歳以上の障害者が障害者を対象とするパーソナルアシスタント等を利用できない問題が指摘され、政府による複合的差別防止のための措置が不在か、あるいは不十分であることが示唆された。
アクセシビリティに関しては、全体的な対応の不十分さが最終見解で指摘されており、すべての障害者の施設・情報・サービスへのアクセスを保障するための包括的な計画を策定することが勧告されたものの、パラレルレポートではこうした計画が策定されることはなく、積極的な取組がなされていない現状が指摘された。さらに、点字や手話の促進に関する勧告も実施されておらず、障害者の情報アクセシビリティに対する対策が不足している問題が指摘された。
デンマークに対するパラレルレポートでは、状況が以前より悪化したことを指摘する報告もみられた。教育に関しては、障害のある児童が普通教育に通えるようにするための法改正と、週あたりの特別教育時間が9時間以下でも教育支援不足に関する苦情の申立てを行えるようにするための法改正の実施が最終見解で勧告されたものの、改正は実施されていない上に、障害のある児童の教育レベルが以前より低下していることが報告された。また、統計に関して、障害者の生活状況に関する主要なデータソースであるSHILDが財政法の関係で2019年1月に廃止されることが報告された。