2 国内調査 2.4.1
2.4 調査結果
2.4.1 差別の定義について
(1) 差別の定義に関する現状
条例で「差別」の定義を定めている地方公共団体における「差別」の定義一覧を表2.4-1に示した。表2.4-1からは、「差別」に関する記述方法の類型として、不利益な取扱い、不均等待遇、不当な差別的取扱い、不当な取扱いといった記述、そして合理的配慮の不提供を記述する条例があることがわかる。合理的配慮の不提供は、調査したすべての条例において「差別」と位置付けられている。
また、初期の条例は、差別の定義に関する記述ぶりにある程度ばらつきがあるのに対し、徐々に、障害者差別解消法の条文に類似した表現の条例が増える傾向が見られる。
千葉県 | 障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例 | 2007年 7月1日 |
第二条2 この条例において「差別」とは、次の各号に掲げる行為(以下「不利益取扱い」という。)をすること及び障害のある人が障害のない人と実質的に同等の日常生活又は社会生活を営むために必要な合理的な配慮に基づく措置(以下「合理的な配慮に基づく措置」という。)を行わないことをいう。 |
埼玉県さいたま市 | 誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例 | 2011年 4月1日 |
第2条 (8) 差別 次に掲げる行為をいう。 ア 障害者の氏名その他の当該障害者の身上に関する事項をみだりに用いて、当該障害者の日常生活等を不当に妨げること。(中略) ク アからキまでに掲げるもののほか、正当な理由なく、障害者の持つ障害を理由として、障害者でない者の取扱いと比べて不利益な取扱いをし、又は取扱いをしようとすること。 |
2013年6月 障害者差別解消法成立 | |||
長崎県 | 障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例 | 2014年 4月1日 |
第2条3 この条例において「差別」とは、客観的に正当かつやむを得ないと認められる特別な事情なしに、不均等待遇を行うこと又は合理的配慮を怠ることをいう。 4 この条例において「不均等待遇」とは、障害又は障害に関連する事由を理由として、区別、排除若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他の異なる取扱いをすることをいう。 |
大分県別府市 | 別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例 | 2014年 4月1日 |
第2条(2) 差別 障害を理由として不利益な取扱いをすること及び合理的配慮を怠ることをいう。 |
鹿児島県 | 障害のある人もない人も共に生きる鹿児島づくり条例 | 2014年 10月1日 |
第2条(3)障害を理由とする差別 障害のある人に対し,正当な理由なく障害を理由とする不利益な取扱いをすること又は社会的障壁の除去を必要としている障害のある人が現に存し,かつ,その実施に伴う負担が過重でないときに,障害のある人の権利利益を侵害することとならないよう,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮がなされないことをいう。 |
茨城県 | 障害のある人もない人も共に歩み幸せに暮らすための茨城県づくり条例 | 2015年 4月1日 |
第2条3 この条例において「差別」とは,障害を理由として障害のない人と不当な差別的取扱いをすることにより,障害のある人の権利利益を侵害すること又は社会的障壁の除去の実施について合理的配慮をしないことをいう。 |
2016年4月1日 障害者差別解消法施行 | |||
山形県 | 山形県障がいのある人もない人も共に生きる社会づくり条例 | 2016年 4月1日 |
第2条(3) 障がいを理由とする差別 障がいを理由として障がい者でない者と不当な差別的取扱いをすること又は社会的障壁の除去の実施について合理的な配慮をしないことをいう。 |
富山県 | 障害のある人の人権を尊重し県民皆が共にいきいきと輝く富山県づくり条例 | 2016年 4月1日 |
第2条3 この条例において「障害を理由とする差別」とは、障害のある人に対し、正当な理由なく障害を理由とする不利益な取扱いをすること又は社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしないことをいう。 |
宮崎県 | 障がいのある人もない人も共に暮らしやすい宮崎県づくり条例 | 2016年 4月1日 |
第2条(3)障がいを理由とする差別 障がいのある人に対し、正当な理由なく障がい又は障がいに関連する事由を理由として不利益な取扱いをすること又は社会的障壁の除去の実施について、それに伴う負担が過重でない場合に、必要かつ合理的な配慮をしないことをいう。 |
宮城県仙台市 | 仙台市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちをつくる条例 | 2016年 4月1日 |
第二条 四 不当な差別的取扱い 正当な理由なく、障害を理由として、障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすることをいう。 |
新潟県新潟市 | 新潟市障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例 | 2016年 4月1日 |
第2条(3)差別 障がいのある人に対し,次に掲げる行為を行うことをいいます。 (作業者注:ア~コまで分野ごとの記述) |
兵庫県明石市 | 明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例 | 2016年 4月1日 |
第3条(3)障害を理由とする差別 不当な差別的取扱いをすることにより障害者の権利利益を侵害すること又は合理的配慮の提供をしないことをいう。 |
和歌山県和歌山市 | 和歌山市障害者差別解消推進条例 | 2016年 4月1日 |
第2条(4)障害を理由とする差別 障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。 |
島根県松江市 | 松江市障がいのある人もない人も共に住みよいまちづくり条例 | 2016年 10月1日 |
第2条(2)差別 障がいを理由として障がいのない人と不当な取扱いをすることにより、障がいのある人の権利利益を侵害すること又は社会的障壁の除去の実施について合理的配慮を怠ることをいう。 |
兵庫県宝塚市 | 宝塚市障害者差別解消に関する条例 | 2017年 1月1日 |
第2条(3)障害を理由とする差別 障害を理由とする不当な差別的取扱いを行うこと又は合理的配慮の提供をしないことをいう。 |
青森県青森市 | 青森市障がいのある人もない人も共に生きる社会づくり条例 | 2017年 3月24日 |
第2条二障がいを理由とする差別 障がい又は障がいに関連する事由を理由として、直接的なものであると間接的なものであるとにかかわらず不当な差別的取扱いをすることにより、障がいのある人の権利利益を侵害することをいう。 |
静岡県 | 静岡県障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例 | 2017年 4月1日 |
第2条(3) 障害を理由とする差別 不当な差別的取扱いをすること又は合理的な配慮をしないことをいう。 |
福岡県 | 福岡県障がいを理由とする差別の解消の推進に関する条例 | 2017年 10月1日 |
第二条四 不当な差別的取扱い 障がい又は障がいに関連する事由を理由としてされる、財・サービス又は各種機会の提供の拒否又は提供の場所若しくは時間帯の制限、障がいのない人に対して付さない条件の付加等の区別、排除、制限その他の異なる取扱い(障がいのない人と同等の機会及び待遇の確保を推進すること等正当と認められる目的の下にされる取扱いを除く。)であって、当該取扱いを受けた人の権利利益を侵害することとなるものをいう。 |
石川県白山市 | 白山市共生のまちづくり条例 | 2017年 10月1日 |
第2条(3)障害を理由とする差別 不当な差別的取扱いをすることにより障害のある人の権利若しくは利益を侵害すること又は合理的配慮の提供を行わないことをいう。 |
福岡県北九州市 | 障害を理由とする差別をなくし誰もが共に生きる北九州市づくりに関する条例 | 2017年 12月20日 |
第2条(3)障害を理由とする差別 不当な差別的取扱いをすること又は合理的配慮をしないことをいう。 |
秋田県秋田市 | 秋田市障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例 | 2018年 4月1日 |
第2条(4) 不当な差別的取扱い 正当な理由なく、障がいのある人に対し不利益な取扱いをすることをいう。 |
東京都立川市 | 立川市障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちをつくる条例 | 2018年 4月1日 |
第2条(2) 差別 障害を理由として、不利益な取扱いをすること及び合理的配慮を怠ることにより、障害のある人の権利利益を侵害すること。 |
京都府長岡京市 | 誰もが共に自分らしく暮らす長岡京市障がい者基本条例 | 2018年 4月1日 |
第2条(6)差別 障がいを理由として障がいのない人には行わない不当な取扱いをすることにより障がいのある人の権利利益を侵害すること又は第10条の合理的配慮の提供を怠ることをいう。 |
大阪府茨木市 | 茨木市障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例 | 2018年 4月1日 |
第2条6 この条例において「障害を理由とする差別」とは、障害を理由とする不当な差別的取扱いにより障害のある人の権利利益を侵害すること又は合理的な配慮の提供をしないことをいう。 |
香川県土庄町 | 土庄町障害のある人もない人も共に安心して暮らせるまちづくり条例 | 2018年 4月1日 |
第2条 (4) 不当な差別的取扱い 正当な理由なしに、障害又は障害に関連する事由を理由として、障害のある人を排除し、その権利の行使を制限し、その権利を行使する際に条件を付け、その他の障害のある人に対する不利益的な取扱いをすることをいう。 |
大分県杵築市 | 杵築市障がいのある人もない人も心豊かに暮らせるまちづくり条例 | 2018年 4月1日 |
第2条(2) 差別 障がいを理由として不利益な取扱いをすること及び合理的配慮を怠ることをいう。 |
大分県日出町 | 日出町障がいのある人もない人も健やかで安らかに暮らせるまちづくり条例 | 2018年 4月1日 |
第2条(2) 障がいを理由とする差別 正当な理由がなく、障がい又は障がいに関連する事由を理由として、障がいのない人と異なる不利益な取扱いをすることにより、障がいのある人の権利利益を侵害することをいう。 |
兵庫県三田市 | 三田市障害を理由とする差別をなくしすべての人が共に生きるまち条例 | 2018年 7月1日 |
第2条(3) 障害を理由とする差別 障害を理由とする不当な差別的取扱いを行うこと又は合理的配慮の提供をしないことをいいます。 |
(2) 自治体担当者からみた実態と課題
訪問調査は、2017年3月に「福岡県障がいを理由とする差別の解消の推進に関する条例」を制定した福岡県にて行った。この条例は、「不当な差別的取扱い 障がい又は障がいに関連する事由を理由としてされる、財・サービス又は各種機会の提供の拒否又は提供の場所若しくは時間帯の制限、障がいのない人に対して付さない条件の付加等の区別、排除、制限その他の異なる取扱い(障がいのない人と同等の機会及び待遇の確保を推進すること等正当と認められる目的の下にされる取扱いを除く。)であって、当該取扱いを受けた人の権利利益を侵害することとなるものをいう。」という形式で、間接差別を指すことが想定される「差別」の定義をしている。
まず、当該定義や分類の考え方については、先行して制定されていた長崎県の条例や、「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」を参考にし、このような定義に至ったとの説明があった。
検討の過程で注意したことは、障害者差別解消法で具体的になっていない点をより具体的にすることや、「まずできることから考えよう」という読み方ができる形にすることであり、間接差別に言及するか否かについて大きな議論はなかったとのことだった。
制度の運用面では、直接差別・間接差別・関連差別に関する相談件数を分別カウントはしておらず、また、直接差別・間接差別・関連差別の定義を争う相談が寄せられることも、現時点ではないとのことだった。
福岡県へのヒアリングで名前が挙がった長崎県に対しても制度の運用実態について質問したところ、やはり、制度の運用実態として、直接差別・間接差別・関連差別の定義を争う相談が寄せられることはないとのことだった。
訪問調査では、間接差別に言及していない条例を制定している自治体においても相談窓口の実務上の課題を尋ねてみたが、間接差別が規定されていないことによる課題を実感している担当者はいなかった。例えば、訪問調査での問いかけに対し、ある地方公共団体では次のようなコメントがあった。
- 現時点で寄せられる相談の多くは明らかに差別であるか、または(差別とは言えない)「嫌な思い」に関する相談であって、条例における差別の定義によって自治体側の対応が分かれるような内容の相談は寄せられていない。
(3) 差別の定義に関する小括
訪問調査での担当者からのコメントから、地方公共団体の相談窓口は寄せられた全ての相談に対応することを基本方針として運用されており、条例で間接差別を規定している地方公共団体においても、寄せられた相談が直接差別か間接差別かはあまり意識せずに対応しているのが現状と考えられる。また、条例で間接差別を規定していない地方公共団体でも、そのことによる実務上の課題は認識されていなかった。
なお、前節の最後に紹介したコメントで述べられている「嫌な思い」には幅広い事象が含まれていると考えられ、その中には、間接差別に該当するケースが差別に当たらない「嫌な思い」だと判断されたケースが含まれる可能性も否定できない。