2 国内調査 2.4.4

2.4 調査結果

2.4.4 合理的配慮等の促進に向けた独自事業について

(1) 独自事業の状況

表2.4-5に、ウェブサイト等を通じた情報収集で、事業者による合理的配慮提供等の促進に向けた独自事業を実施していることが把握できた地方公共団体の一覧を示す。表2.4-5からは、コミュニケーションツールの作成・購入費や、バリアフリーに関する工事施工費について、半額から全額、助成金額の上限を設けて補助する地方公共団体が多いことが読み取れる。

表2.4-5 事業者への合理的配慮等の促進に向けた独自事業を実施している地方公共団体
北海道
岩見沢市
岩見沢市障がい者が暮らしやすい地域づくり推進事業 コミュニケーションツール作成費、物品購入費。規定額までは全額補助。
北海道
苫小牧市
合理的配慮の提供を支援する助成制度 コミュニケーションツール、物品購入費、工事施工費。いずれも二分の一を補助。
北海道
札幌市
障がい特性に応じたコミュニケーション手段に関する補助 コミュニケーションツール作成費補助費、研修会費補助。規定額までは全額補助。
栃木県
日光市
合理的配慮の提供の支援に係る助成制度 コミュニケーションツール作成費、物品購入費、手話通訳者・要約筆記者の派遣費用。規定額までは全額補助。
茨城県
つくば市
合理的配慮支援事業に対する補助金 コミュニケーションツールの作成費、物品の購入費、工事の施工費。規定額までは全額補助。
埼玉県
所沢市
社会的障壁の除去に要する費用への補助金交付 意思疎通支援用具の作成、物品の購入、工事の施工。工事施工費以外は規定額まで全額補助、工事施工費は半額補助。
東京都
千代田区
手話通訳等実施費用助成事業 手話通訳・要約筆記、講演会等で配布するための点字資料等費用。規定額までは全額補助。
東京都
世田谷区
商店等における共生社会促進助成事業 物品の購入、作成。規定額までは全額補助。対象地域が限られている。
静岡県 合理的配慮理解促進助成 合理的配慮の理解促進に関する講演会開催事業、研修会開催事業、その他事業。規定額までは全額補助。
大阪府 茨木市 合理的配慮の提供支援に係る費用の助成 コミュニケーションツールの作成費、物品の購入費、工事の施工費。規定額までは全額補助。
兵庫県
明石市
合理的配慮の提供を支援する助成制度 コミュニケーションツールの作成費、物品の購入費、工事の施工費。規定額までは全額補助。
兵庫県
加古川市
加古川市合理的配慮の提供の促進にかかる助成金交付について 物品購入費、工事施工費、手話通訳者等派遣費。規定額までは全額補助と半額補助のものが混在。
兵庫県
丹波市
合理的配慮の提供を支援する助成制度について コミュニケーションツールの作成、手話通訳等の派遣、物品の購入、工事の施工費。規定額までは全額補助。
鳥取県 障がい者が暮らしやすい社会づくり事業補助金 報償費、旅費、需用費(消耗品費、印刷費)、役務費(筆耕翻訳料)、使用料及び賃借料、備品購入費。上限額までの半額補助。
山口県
山口市
合理的配慮の提供支援に係る助成金制度について コミュニケーションツール作成費、物品購入費、助成限度額。規定額までは全額補助。
山口県
宇部市
合理的配慮の提供に要する費用の助成 コミュニケーション支援のための物品作製・購入・支援者の設置に係る費用。規定額までは全額補助。

(2) 自治体担当者からみた実態と課題:鳥取県

訪問調査は、2017年9月に障害を理由とする差別の解消に向けた取組について規定した条例を施行し、同時に「障がい者が暮らしやすい社会づくり事業補助金」の交付を開始した鳥取県を対象に行った。

鳥取県は、あいサポート運動で有名な地方公共団体である。あいサポート運動は、2009年に障害者権利条約の成立を受けて始まった、障害のことを理解し、障害者に対してちょっとした手助けを行う運動である。調査を実施した2019年1月時点では8県12市5町が推進しており、この運動に参加する「あいサポーター」は全国で44万人に達している。

鳥取県は、2017年9月1日に「鳥取県民みんなで進める障がい者が暮らしやすい社会づくり条例」、通称「あいサポート条例」を施行した。あいサポート条例は、1 あいサポート運動の推進、2 障害を理由とする差別の解消、3 情報アクセシビリティ及びコミュニケーションの保障、4 災害時の避難と支援、5 障害者の社会参加の5つを柱とした内容となっている。
 また、「障がい者が暮らしやすい社会づくり事業補助金」は、障害者差別解消法に基づき、県内の事業者が社会的障壁の除去を行うよう促進することを目的とする。社会的障壁の除去を行う事業の実施に必要な費用の半分を鳥取県が負担し、半分を実施主体が負担することになっており、補助の上限額は30万円となっている。

訪問調査では、「障がい者が暮らしやすい社会づくり事業補助金」の検討経緯について質問した。担当者によると、上記のあいサポート条例の検討プロセスの中で、補助金についても検討されたという。条例に伴う予算の案として5本の柱のそれぞれに対応するものを検討する中で、障害者差別解消に関連する補助金創設の案が出てきたとのことだった。
 制度の運用実績は、2016年度が2件で69,368円、2017年度が2件で164,920円の交付であり、この件数について担当者は予想外に少なかったとコメントしている。申請件数が少ない理由について尋ねたところ、以下の2点が挙げられた。

  • 補助が半額であり、必ず事業所の負担が発生すること。
  • 事業者向け普及啓発等によって現場レベルでの理解が得られても、それが法人としての意思決定に結び付きにくいこと。

1点目については、表2.4-5を見ても多くの地方公共団体が規定額までは全額補助としている中で、鳥取県は規定額以下であっても半額補助となっており、事業者にも必ず負担が生じる仕組みになっている。また2点目について県の担当者からは、普及啓発の場に参加した担当者が前向きに反応したとしても、具体的な取組を起こすためには社内の了解を得る必要があり、それがハードルになっているとの指摘があった。

(3) 合理的配慮等の促進に向けた独自事業に関する小括

鳥取県での訪問調査では、県が積極的かつ総合的な取組を進めているにもかかわらず、民間事業者の合理的配慮等の促進のために創設した補助制度が十分に活用されていないという状況があることが判明した。
 鳥取県における状況や、その原因についての担当者の考察を踏まえると、民間事業者に合理的配慮の提供等の具体的な取組を促すためには、企業・団体としての意思決定につながりやすい制度設計や、社内の意思決定者の意識やモチベーションを高めるためのさらなる働きかけが必要だと考えられる。

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