2 国内調査 2.4.5

2.4 調査結果

2.4.5 施策の効果測定について

(1) 効果測定の状況

表2.4-6は、内閣府が2018年6月に実施した調査で把握した、地方公共団体における効果測定の状況に関する概要をまとめたものである。表2.4-6によると、障害者差別解消に関する効果測定の一環として相談件数をカウントしている都道府県は98%であるのに対し、一般市は60%、町村では43%にとどまっている。このように、現状では効果測定における最も基本的な指標である相談件数のカウントが、地方公共団体で必ずしも十分に行われていないという課題がある。

表2.4-6 相談件数のカウントの有無
都道府県 政令市 中核市等 一般市 町村
割合 割合 割合 割合 割合 割合
カウントしている 959 54% 46 98% 19 95% 71 84% 427 60% 396 43%
カウントしていない 829 46% 1 2% 1 5% 14 16% 282 40% 531 57%
1,788 100% 47 100% 20 100% 85 100% 709 100% 927 100%

表2.4-7と表2.4-8は、前述の内閣府調査で、地方公共団体がどのような相談をカウントの対象としているかを調査した結果である。表2.4-7が計測している相談の対応者、表2.4-8が計測している相談の内容についての回答結果を示している。
 表2.4-7によると、障害者施策主管部局の職員が対応した相談についてカウントしている地方公共団体は85%だったのに対し、相談員が対応した相談をカウントしている地方公共団体は41%、主管部局以外の職員が対応した相談をカウントしている地方公共団体は25%にとどまった。また、表2.4-8によると、相談件数をカウントしている地方公共団体のうち、相談内容を区分せずに数えている地方公共団体が46%ある。
 つまり、障害者差別解消に関する効果測定の一環として相談件数を数えている地方公共団体においても、必ずしも寄せられた相談すべてがカウントの対象となっているわけではなく、また相談内容についての分布や傾向の把握がなされていない地方公共団体もかなりあることが分かる。

表2.4-7 カウントの対象となる相談(相談対応者)
割合
相談員が対応した相談 390 41%
障害者施策主管部局の職員が対応した相談 813 85%
障害者施策主管部局の出先機関の職員が対応した相談 158 16%
障害者施策主管部局以外の部局の職員が対応した相談 236 25%
その他 41 4%
表2.4-8 カウントの対象となる相談(相談内容)
割合
不当な差別的取扱いに関する相談 494 52%
合理的配慮に関する相談 485 51%
環境の整備に関する相談 396 41%
一般的な意見、要望、苦情、問合せ等(ア~ウを除く) 357 37%
その他 18 2%
相談内容を区分していない 445 46%

表2.4-9は、前述の内閣府調査で地方公共団体が回答した年間相談件数の分布を示したものである。これによると、カウントされた年間相談件数が50件を超える地方公共団体は全体の2%であり、極めて少ない。一方、年間相談件数が9件以下の地方公共団体が全体の7割を超えている。また、平成28年度から平成29年度にかけては、相談件数の伸びも見られない。
 ただし、前述したように、相談件数をカウントしている地方公共団体でも、必ずしもすべての相談がカウントの対象になっているわけではなく、表2.4-9の数字は、寄せられた相談全体の件数を示しているのではないことに注意する必要がある。

表2.4-9 年間相談件数の分布
平成28年度 平成29年度
選択肢 割合 割合
9件以下 689 72% 710 74%
10~29件 46 5% 48 5%
30~49件 18 2% 9 1%
50~99件 13 1% 10 1%
100件以上 8 1% 10 1%
不明 185 19% 172 18%

(2) 自治体担当者からみた実態と課題

訪問調査では、調査対象のすべての地方公共団体で、効果測定の方法について質問した。その結果、地方公共団体が示している相談件数は、実際に寄せられている相談の一部をカウントしたものであることが担当者のコメントからも明らかになった。

  • 相談自体はものすごい数があるが、どこまで拾うか(カウントするか)が難しい。ただ、障害者差別解消法の対象になる相談件数はそれほどない。(鳥取県)
  • 市町村では振興局に相談したものだけカウントするところと、全く数えないところと、ありとあらゆるものを全部数えるところと3パターンぐらいある。扱う業務が多く、捉え方も多様なため、有効な数字にはなっていない。(北海道)
  • どの程度のものまでを相談に含めるかが難しい。相談内容としては「その他」が多くなっているが、これは、法律や条令と照らし合わせて、差別的取扱いでも合理的配慮ともいえない内容のものである。そういったものを従来はカウントしていなかった。(福岡県)
  • 受けた相談すべての件数だと何万という数になると思われる。横浜市の規模だと、組織も人口も多いので、何らかの条件で対象を絞らないと集約が難しい。相談件数も数えてはいるが、部署ごとの感度、理解度によってもカウントの仕方が異なってくる。定量的な観測をする仕組みを設けてはいるが、十分とは言えない。(横浜市)

このように、相談件数のカウントについては共通的な基準やルールがなく、現時点では不十分なものであるということが、担当者に共通の認識となっている。
 しかし、そうであっても相談件数のカウントは続けるべきだという意見も同時に聞かれた。その理由について、横浜市の担当者からは次のようなコメントがあった。

  • それ(相談件数を数えること)をやらないと実態が見えてこない。件数がすべてを表しているわけではないという課題意識は持っているが、どこでどういう声があるのかという相談事例の共有が重要で、そのためにはどこかで集約しないといけない。そこから、研修やマニュアル整備につながっていく。相談事例を集約することからそこに取り入れるべきことが見えてくる。(横浜市)

(3) 効果測定に関する小括

内閣府調査の集計結果や、訪問調査における聞き取りの結果、相談件数のカウントは多くの地方公共団体で行われているものの、カウントの対象は地方公共団体が対応したすべての相談とはなっておらず、また、その対象範囲や判断基準は団体によって異なることが明らかとなった。
 横浜市の担当者が指摘したように、たとえ独自基準のカウントであっても、各地方公共団体が相談件数を継続的にカウントすることには様々な意義や有用性が認められる。
 しかし、統一された基準やルールがないまま、各地方公共団体個々の判断基準で相談件数のカウントが行われていると、報告された相談件数に基づく分析や評価、例えば全国での相談状況の実態把握や地方公共団体間の状況の比較等が正しく行えず、効果測定指標としての有効性が限定されることともなる。
 障害に関する相談の内容は非常に多様であり、カウントすべき範囲やルールを厳密に定めることは現実には難しい。しかし、カウントの対象範囲や判断基準について何らかの共通の指針を設け、各地方公共団体が行うカウントに一定の整合性を持たせる取組が必要だと考えられる。

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