2 国内調査 2.4.3
2.4 調査結果
2.4.3 相談・紛争解決のための仕組みと権限について
(1) 紛争解決の仕組みの概況
表2.4-4に、障害者政策委員会資料として公表している「地方公共団体における障害者差別解消法の施行状況について(速報値)」33に掲載されている、地方公共団体における差別に関する相談・紛争解決の体制の概要を示す。これによると、ワンストップ相談窓口を設置又は指定した地方公共団体が44%、統一的な解釈・判断を行う部局等を指定した地方公共団体が19%、障害者差別に関する相談員を配置した地方公共団体が15%、いずれにも該当しないと回答した地方公共団体が35%となっている。
選択肢 | 計 | 都道府県 | 政令市 | 中核市等 | 一般市 | 町村 | ||||||
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数 | 割合 | 数 | 割合 | 数 | 割合 | 数 | 割合 | 数 | 割合 | 数 | 割合 | |
ワンストップ相談窓口を設置又は指定 | 791 | 44% | 32 | 68% | 10 | 50% | 39 | 46% | 308 | 43% | 402 | 43% |
障害者差別に関する相談員を配置 | 261 | 15% | 29 | 62% | 7 | 35% | 15 | 18% | 104 | 15% | 106 | 11% |
統一的な解釈・判断を行う部局等を指定 | 331 | 19% | 7 | 15% | 9 | 45% | 33 | 39% | 154 | 22% | 128 | 14% |
いずれにも該当しない | 627 | 35% | 5 | 11% | 6 | 30% | 22 | 26% | 221 | 31% | 373 | 40% |
(母数) | 1,788 | 100% | 47 | 100% | 20 | 100% | 85 | 100% | 709 | 100% | 927 | 100% |
ワンストップ相談窓口を設置又は指定した地方公共団体としては、平成29年度調査報告書において、名古屋市の事例が紹介されている。また、統一的な解釈・判断を行う部局等として地域協議会を設置し活用している地方公共団体・地域に関しては、「平成28年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査報告書(以後、平成28年度調査報告書)34」において、北海道新得町、茨城県那珂市、東京都八王子市、神奈川県湘南西部圏域、長野県、長野県上小圏域、三重県、大阪府、兵庫県、兵庫県明石市、岡山県総社市、山口県、福岡県北九州市の取組が紹介されている。そして、障害者差別に関する相談員を配置した地方公共団体としては、平成29年度調査報告書において、千葉県の取組が紹介されている。
(2) 市区町村の窓口で対応している事例:横浜市
本調査では、上記のいずれにも該当しない差別に関する相談・紛争解決の体制を整備した事例として、横浜市の取組みを調査した。
横浜市は、障害者差別解消法施行に先立ち、2014年11月から2015年9月までの間、横浜市障害者差別解消検討部会を開催し、ワンストップ相談窓口を設置するかどうかを検討した。その結果、「ワンストップ相談窓口を設けない」という判断に至ったという。訪問調査でその理由について尋ねたところ、「生活の様々な分野で問題があった時に、障害のない人は所管部署が対応する。ところが、障害者に限ってはしかるべき部署が対応を取らない。そのこと自体が問題であり、それぞれがきちんと対応できることを目指す」という回答であった。
この検討結果を受け、横浜市は2016年2月に「障害者差別解消の推進に関する取組指針」を公表し、市のすべての部署で差別に関する相談・紛争解決に取り組むこととした。ただし、個々の部署では解決できない内容の相談も想定されたため、2016年4月に「横浜市障害を理由とする差別に関する相談対応等に関する条例」を制定し、市による調査・調整、市長によるあっせん権限付与、調整委員会の設置を定めた。
紛争解決のための独自の工夫としては、横浜市では年1回「障害者差別解消庁内推進会議」という、全区局長が参加する会議を開催している。そこでは、各区局での相談事例、具体的な合理的配慮の事例、課題の共有を毎年継続して行うことに加えて、例えば、イベントの何%に手話通訳が配置されているのかといったテーマを年ごとに設定し、全庁調査を実施して各区局の対応状況を可視化している。これらの作業を通じて、各区局にとって障害者差別解消法は他人ごとではないということを確認するようにしているという。
さらに、各区局からいつでも相談ができるように、障害に詳しい弁護士3名と契約し、各区局に対するバックアップ体制を整えている。これらの弁護士は、市の特定の部署に在籍する形ではなく、区局をグループ分けしてそれぞれの弁護士事務所で分担し、対応してもらっているとのことだった。
障害所管部署担当者の話では、これらの取組の効果として、障害所管部署への他の区局からの問い合わせや相談が増えているということである。トラブルの解決に向け積極的に取り組む姿勢が各区局で見られるようになり、さらには民間事業者からの相談も増えているということであった。
もう一つ、横浜市の相談体制において特徴的なのが、「ピア相談」の取組である。これは、身体障害者福祉法に基づいて設置している障害者相談員の役割を拡張する取組である。相談員は様々な障害者団体から派遣された障害当事者であり、障害者差別解消法施行後は、同法に関する相談への対応も業務委託内容に含めている。この取組により、なかなか気づきにくい差別にも障害当事者である相談員が気づいて相談者に伝え、必要なアクションを起こしやすくする効果が期待されている。
横浜市ではさらに、障害者差別解消に向けた取組のPDCAサイクルを回す取組も進められている。2018年12月に開催された横浜市差別解消支援地域協議会の資料では、法施行後3年の相談対応状況をふまえた課題として、次の3点が挙げられた。
ア担当部署への相談件数が少ない(障害者にとって窓口が分かりにくい、相談しづらい)
イ相談したにもかかわらず対応が改善されないケースが多い
ウ事業者・行政機関からの相談件数は増加しているものの、相談を受ける相談窓口担当者の対応方法が明確になっていない
そして、これらの課題へ対応策として、以下が挙げられた。
アより相談しやすい体制構築に向け継続的に充実を図る
イ事業者や行政機関担当者が適切に対応できるよう対応方法を明確に示す
ウ障害者差別に関する相談対応の課題検討会議(仮称)を地域協議会の部会として設置し検討する
このうち、障害者差別に関する相談対応の課題検討会議は、2019年3月28日に第1回会合が開催され、例えば駅構内の案内はどのようなものが望ましいか、不動産の賃貸契約を断られる事態にどう対処したらよいかといった具体的テーマに関する議論が交わされている。
(3) 相談窓口を新規設置した地方公共団体:北海道
もうひとつ、独自の取組を進めている地方公共団体として、北海道について調査した。
北海道は、障害者差別解消法施行に6年先だち、2010年4月から「北海道障がい者及び障がい児の権利擁護並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例」(略称:北海道障がい者条例)を施行している。北海道障がい者条例は、障害者が暮らしやすい地域づくりを推進するためのものであり、障害者差別解消だけに特化した条例ではない。障害者総合支援法や障害者虐待防止法など、障害者の暮らしに関する各法律の分野も対象とするものである。
北海道は、「地域づくり推進員」という、障害者の暮らしにおける相談や事案解決のための新たな人員を確保し、調査及び助言に関する権限を付与している。地域づくり推進員(以下、「推進員」という。)に加え、14の振興局ごとに「地域づくり委員会」が置かれ、推進員は地域づくり委員会を束ねる役割となっている。条例の条文上は推進員が調査や助言の権限を持っているように読めるが、推進員は、事案解決にあたっては地域づくり委員会を招集し、組織として採択した結果に基づいて活動している。図2.4-1に北海道障がい者条例の相談・紛争解決の仕組みの概要を示す。
図2.4-1 北海道障がい者条例に基づく相談・紛争解決の仕組み(図2.4-1のテキスト版)
このように北海道では紛争解決のための独自の仕組みが整備されているが、実際に地域づくり委員会による審議に上がった事案は、2017年度で4件のみであった。多くの相談は地域づくり委員会まで上がることなく、基礎自治体の窓口の対応で決着していると推定される。しかし、道の担当者によると、基礎自治体での決着とは、必ずしも紛争が解決したということではないと考えられる。
その背景として、合理的配慮の義務化の項でも示した、北海道の置かれた厳しい状況がある。都市部以外では過疎化が進行し、紛争解決のために必要な人員を確保できない地域もある。また、問題を解決しようとすると、都市部以外では過大な負担が発生しやすい環境がある。
(4) 相談・紛争解決に関する小括
相談・紛争解決について独自の体制整備や取組を進める二つの地方公共団体の例を概観したが、工夫を凝らした体制を整えても、その取組効果には大きな違いが見られた。
これらの訪問調査の結果から、今後の障害者差別解消の相談・紛争解決の取組においては、地域ごとのリソースや環境に著しい格差があることを踏まえ、特に都市部以外での取組の在り方についてさらなる検討が必要になると考えられる。
33 第41回障害者政策委員会資料「地方公共団体における障害者差別解消法の施行状況について(速報値)」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/k_42/pdf/s5.pdf
34 平成28年度障害者の社会参加推進等に関する国際比較調査(障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態)
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h28kokusai/index.html