2 国内調査 2.4.6
2.4 調査結果
2.4.6 相談対応や事案解決のためのガイドライン整備について
(1) 公開されているガイドライン等の状況
相談対応や事案解決の指針となるガイドライン、ガイドブックの整備・活用の取組については、訪問したすべての地方公共団体の担当者にヒアリングした。いずれの地方公共団体も、これらの整備には積極的に取り組んでいた。表2.4-10に、本調査で訪問した地方公共団体における取組のうち、ウェブサイトで資料等を閲覧することが可能なものを示した。
北海道 | 障がいのある方へのよりよい対応ができるためのページ 北海道障がい者条例パンフレット 障害者差別解消法パンフレット(道作成) |
東京都 | 障害者差別解消条例普及啓発パンフレット 東京都障害者差別解消条例リーフレット 東京都障害者差別解消法ハンドブック 障害者差別解消法啓発動画 |
横浜市 | 障害のある人もない人も みんながいっしょに暮らす 横浜すごろく http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/shogai/sabetsu-kaisyou/sugoroku.html |
鳥取県 | あいサポート運動ハンドブック DVD「まず、知ることからはじめましょう 障がいのこと」 DVD「あいサポート運動ステップアップDVD」 |
福岡県 | 障がいのある人への合理的配慮ガイドブック(施設利用、情報提供、意思表示の受領編) http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/45026.pdf |
(2) 担当者からみた課題認識と取組
ガイドラインやガイドブックの整備・活用において、担当者が認識する課題について質問したところ、大きく分けて二つの意見が聞かれた。一つは、事業者向けの効果的な啓発・研修につながるガイドブック等の整備と活用、もう一つは相談対応のレベルアップにつながるガイドライン等の整備と活用である。
1 :事業者に対する啓発・研修
各団体の担当者の話から、事業者に対する啓発に役立つガイドブック等の整備が共通の関心ごとになっていることがうかがえた。その背景としては、鳥取県への訪問調査でも指摘されたように、事業者向け研修が有効な対応になかなか結びついていない実態がある。同様の課題は、鳥取県以外の訪問調査先でも指摘された。
こうした課題認識をもとに、各地方公共団体は事業者向けのガイドブック等の整備と活用に取り組んでいるが、その実施内容は団体によりさまざまである。
例えば、福岡県では、「障がいのある人への合理的配慮ガイドブック(施設利用、情報提供、意思表示の受領編)」を作成している(図2.4-2)。事業者の現場レベルで手に取って読んでもらえるようにするため、全24ページとかなり分量を抑えたものになっている。さらに、このガイドブックを基にした事業者向け研修の実施も検討されているが、福岡県下の事業所は20万カ所以上あり、有効な規模の研修を行うための予算と人員、時間の確保が課題になっているということであった。
一方、横浜市では、「マニュアルを配布してもきっと読まずにしまわれてしまう。」という判断から、事業者向けの啓発ツールとしてはマニュアルやガイドブックではなく、小さくて机の端に貼っておけるようなものを想定しているという。「まず話を聞きましょう」というシンプルな内容のものが想定されており、障害者への対応の第一歩を踏み出すことを促すステッカーやクレド35のイメージと思われる。
図2.4-2 福岡県障がいのある人への合理的配慮ガイドブックのページ例(図2.4-2のテキスト版)
2 :相談対応のレベルアップ ガイドラインやガイドブックの整備における担当者の主要な課題認識の二つ目は、相談対応のレベルアップにつながるガイドライン等の整備である。 相談窓口には、社会のあらゆる部門・分野での差別に関する相談が持ち込まれ、その内容も非常に多様である。適切な対応を行うには、相談対応や事案解決の基礎となる考え方をまとめたガイドラインが重要な手がかりになる。 例えば、横浜市は「横浜市ピア相談員のための障害者差別解消法と相談のポイント集」という文書を作成している。この資料は、「Ⅰ基礎知識編」「Ⅱ相談対応編」の2部から構成されており、「Ⅰ基礎知識編」は、障害者差別解消法に関する解説が記載されている。「Ⅱ相談対応編」は、1.相談員の役割、2.相談対応の心構えとポイント、3.相談の手順、4.差別判断のポイント、5.相談窓口という構成で、相談の背景にある問題に気付くための視点や、判断のポイントが記載されている。この資料は、構造的な問題をすくい上げ、対話につなげていくためのノウハウが記載された優れたガイドラインの例といえる。 また、相談対応のレベルアップについては、多くの地方公共団体が事例情報の共有を重要なテーマとして取り組んでいる。 例えば、茨城県が公表している「障害を理由とした差別に関する相談事例集(第2版)」36や、大阪府「障がい者差別解消の取組みと相談事例等の検証」37、長崎県が毎年公表している「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例活動報告書」38などにおいては、具体的な相談事例が記載されており、続いて相談に対応する時の考え方や整理のポイントが記載されている。これらの資料では、具体的な相談事例の背景にある社会的・構造的な問題を検討するための手引きを作成することで、相談対応のレベルアップにつなげようとしていることがうかがえる。
(3) ガイドライン等の整備に関する小括
地方公共団体の取組についての資料調査、訪問調査の結果、次のことが明らかになった。
- 各地方公共団体担当者に共通する課題認識として、事業者に対する啓発・研修の難しさがある。それぞれ工夫したガイドブック等の整備・活用を進めているが、その作成の考え方や内容はさまざまで、現状は手探りの状態ということができる。
- 地方公共団体職員向けのガイドライン整備については、相談対応のレベルアップが共通のテーマとして認識されている。これについては、考え方のポイントを示した資料や、実際の相談事例と対応の考え方をまとめた事例集の作成が多くの自治体で進められており、事例やノウハウの共有が取組のポイントとなっている。
これらの取組を多くの地方公共団体は積極的に進めているが、今後これらの取組をより有効なものにするには、地方公共団体の枠を超えた事例やノウハウの共有が効果的と考えられる。特に事業者向けの啓発ツールやガイドブックの整備については、各地方公共団体が異なる考え方で取組を進めており、それらの考え方や実施効果などを地方公共団体間でも広く情報交換し共有していくことが、効果的なツールや取組手法を早期に形成していくために必要だと考えられる。
35 業務活動の基準になる信条・価値観を簡潔に示した行動指針。就業時にそれを記したカード等を携帯し、いつでも確認できるようにする。
36 茨城県「障害を理由とした差別に関する相談事例集(第2版)」
https://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/shofuku/kikaku/shofuku/g/documents/jireisyuu2.pdf
37 大阪府「障がい者差別解消の取組みと相談事例等の検証」
http://www.pref.osaka.lg.jp/keikakusuishin/syougai-plan/sabekai_kensho.html
38 障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり
https://www.pref.nagasaki.jp/bunrui/kenseijoho/kennojorei-koho/heiwa-jyourei/