1 国外調査 1.5.2

1.5 ギリシャにおける合理的配慮・環境整備と国連障害者権利委員会審査状況

1.5.2 ギリシャの政府報告の国連審査状況

(1)審査プロセスの現状

 ギリシャは、2012年5月に障害者権利条約及び選択議定書を批准し、2015年6月に政府報告を国連障害者権利委員会に提出した。2019年5月には国連障害者権利委員会より事前質問事項が示され、7月にはギリシャ政府による政府回答が提出された。事前質問事項に先立ち、国家人権機関からパラレルレポートが提出されたほか、2019年7月にはオンブズマンから報告書が出された。さらに、2つの市民社会団体から事前質問事項及び2019年秋に行われた第22会期の審査に先立ったパラレルレポートが提出され、その後10月に委員会による総括所見が提示された。
 パラレルレポートを提出した各組織の概要は以下のとおりである。

ギリシャ全国人権委員会(The Greek National Commission for Human Rights;GNCHR)

 国内法2667/1998に基づいて、独立した諮問機関として設置された。ギリシャの国家人権機関となっており、パリ原則に準拠している22

オンブズマン

 憲法に沿って設置された独立機関。2017年に政府から独立した監視の仕組みとしての指定を受けた23

全国障害者連合(NCDP)

1989年に障害者の利益を守り、権利を促進し、政府による立法・政策を監視するために設立された統括組織24

ギリシャヘルシンキモニター(Greek Helsinki Monitor;GHM)

1993年に設立された、ギリシャ及びバルカン半島の人権、少数派(以下、マイノリティと記す)の権利、無差別に関する問題の監視や出版、ロビー活動、告訴等を行う団体25

(2)主な論点

第1~4条 一般的義務

 第1条~第4条に関して、事前質問事項に先立つパラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 普遍的に適用されている障害の定義付けがなく、医学的アプローチによる障害の認定が依然として行われている。
  • 全国障害者連合は政府報告の執筆に当たって最初に相談を受けたが、全体にわたっては関与していない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、ギリシャの立法における障害に対するアプローチや、条約における人権の概念に則った立法を保障するための措置について情報提供を求めた。
 ギリシャ政府は上記に対する回答として、以下を述べた。

  • 国内法4488/2017の第60条で、障害者権利条約に沿った包括的な障害者の概念を定義付けている。
  • この法律が障害者に関する私法又は公法のすべての自然人及び法人の一般的な義務を定めている。
  • この法律は公共政策のあらゆる領域における障害の主流化のために制定されており、公共政策や行政サービスにおけるユニバーサルデザインや合理的配慮、建物や情報のアクセシビリティ、意識向上、障害者の権利に関する教育、差別禁止、影響評価統計の収集等に関することが規定されている。

 そして、総括所見においては障害者団体との綿密な協議と団体の積極的な関与の下で、以下を実現することが勧告された。

  • 政府及び領土内のあらゆる法律、規則、慣行において、障害の人権モデルを導入し、障害の評価の仕組みを含む、障害に関する法的、あるいは行政上の枠組みを障害者権利条約に適合させること。
  • 明確な期限、効果測定、予算の割当てを伴った、条約実施のための包括的な国家戦略や行動計画の策定。
  • 障害者を指す軽蔑的な表現を法律の文面から削除すること。
第5条 平等及び無差別

 第5条に関しては、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • ギリシャの法的枠組みにおける合理的配慮の定義が曖昧で、雇用や職業訓練の場におけるものが前提となっている。
  • 社会保障と保健分野への差別禁止原則の適用範囲の拡大について、実施されないまま法に定められた実施期限が過ぎている。
  • 障害者のためのアクセシビリティを低下させる行為に対する罰則規定が不十分である。
  • 国内法4488/2017では平等の原則の侵害に対する保護の範囲を教育及び製品とサービスの提供の分野に適用するための大統領令の採択を年内に規定しているが、大統領令はまだ発効されていない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、合理的配慮の提供を含む障害者に対する差別からの保護を保障しているEU指令2000/43/ECと2000/78/ECを実施している締約国の国内法について、学校をはじめとする公私それぞれの空間における合理的配慮の提供状況、障害のある移民や亡命申請者を差別から保護する措置等について情報提供を求めた。
 これに対し、ギリシャ政府は次のように回答した。

  • 国内法4443/2016がEU指令2000/43/ECと2000/78/ECを実施しており、雇用と労働のあらゆる場面において、障害あるいは慢性疾患に基づく差別を禁止している。
  • 国内法4443/2016に、雇用の場における合理的配慮の否定を差別とみなす規定がある。
  • 初等、中等教育及び職業訓練における、普通学校でのインクルーシブな学級の設置をはじめとする障害のある生徒に配慮を提供する規定が国内法3699/2008でなされている。
  • 教育省が車椅子、補聴器をはじめとする様々な支援機器を障害のある学生に提供している。
  • 2018年~2019年に、障害あるいは特別な教育的ニーズのある難民の児童を適切な学校に配置する目的で、難民施設に滞在するこのような児童を記録する最初の試みがなされた。
  • 障害のある難民申請に対しては、無差別の原則に則り、申請に当たっての障壁を取り除いている。法的代理人による申請も認められている。脆弱な難民申請者は入国手続が免除される。
  • 国内法4443/2016は、警察に対し障害のある難民の受け入れ手続中に特別なケアを提供することを義務付けている。

 これらに対し、総括所見において、委員会は一般的意見第6号を念頭に置き、以下を勧告した。

  • 障害に基づく差別から確実に保護する立法措置を講じ、その中に、特別な措置、パーソナルアシスタント、生活上のあらゆる場面における合理的配慮の否定からの保護を含めること。
  • 特に学校及び障害のある難民や亡命申請者、移民に関して、公共及び民間部門における特別な措置やパーソナルアシスタントの基準の実施を促すこと。
  • 公平な待遇を保障し、教育及び製品とサービスの提供の領域における障害者差別を禁止するために国内法4488/2017で求められている委任立法を採択すること。
  • 持続可能な開発目標のターゲット10.2及び10.3の実施に当たって障害者権利条約第5条を考慮に入れること。
第6条 障害のある女子

 第6条に関しては、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 障害のある女性は障害のある男性に比べ多くの困難に直面している。
  • 障害のある女性についての統計をギリシャ政府は保持していない。
  • 女性への暴力と戦うための施設等の女性に特化された情報施設や、避難所はアクセシビリティの基準を満たしていない。
  • 政策面でも障害のある女性は主流化されていない。
  • 国内法4443/2016で規定されている複合差別の禁止は仕事と雇用に限られており、罰則規定を伴わない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、政府報告第293項-第296項で言及されている内務省のジェンダー平等のための事務総局(GSGE)の活動によってなされた障害のある女性に関連する成果について、年齢、教育、雇用状態、障害種別で分類された情報の提供を求めた。
 これに対し、ギリシャ政府は2010年から実施している「女性に対する暴力の予防と戦いに関する国家プログラム(National Program on Preventing and Combating Violence against Women)」の統計的な成果がデータベース化されているとし、そのデータの概要に言及したほか、以下のような回答がなされた。

  • ジェンダー平等に関する国家行動計画2016-2020が複合差別に直面する女性の社会的な包容と平等を戦略方針の1つとしている。
  • 2018-19年に、障害者のニーズに関する行動を含む意識向上キャンペーンが行われた。
  • ジェンダー平等のための事務総局(GSGE)は、障害のある女性にとって使いやすい新たな視聴覚技術の開発に尽力している。
  • 「地方自治体におけるジェンダー主流化」プロジェクトで作成された成果物は、各地方自治体が利用できるようになっている。
  • 国内法4443/2016と国内法4604/2019では、ジェンダー平等促進の文脈で、複合差別を禁止している。

 総括所見において、一般的意見第3号及び持続可能な開発目標のターゲット5.1、5.2、5.5を考慮に入れた上で、委員会は次のような勧告を行った。

  • 障害のある女性及び女児の差別からの完全な保護と権利を保障するために、障害者権利条約に沿って必要な仕組みを伴った効果的な政策及び戦略を策定すること。
  • 生活のあらゆる領域におけるジェンダー平等政策やプログラムに障害の視点を導入し、障害のある女性によるすべての意思決定過程への効果的な参加を促すこと。
  • 障害のあるロマの女性及び女児を含む、障害のある女性や女児に対する複合・交差差別とジェンダーに基づく暴力を防止し、それらと戦うための効果的な措置を講じること。
第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 第9条に関しては、パラレルレポートでは多数の指摘がなされた。主な指摘としては以下のものが挙げられる。

  • アクセシビリティに関する基準はあっても遵守させる仕組みがない。既存のアクセシビリティの基準を参照している法律は国内法4067/2012の第26条のみである。
  • アクセシビリティに関する国内計画がない。
  • 地方公共交通におけるアクセシビリティが不十分である。
  • 政府によるアクセシビリティに関する意識向上がなされていない。
  • メディアやコミュニケーションサービスのアクセシビリティの導入が遅れている。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で以下について情報提供を求めた。

  • 障害者が利用可能な建物や公共施設の数と割合、特に第26条で言及されている国内法4067/2012実施の成果とみなされるもの。
  • 製品とサービスのアクセシビリティを保障するために特化された法的枠組み。
  • 都市部と農村部それぞれにおける、長距離バスのようなアテネの外にある公共交通機関を障害者に利用可能にするために講じられた措置について。
  • 電子的にやりとりされる情報、メディア、コミュニケーションサービスについて、EU指令2016/2102 と国内法4488/2017に調和した現在のアクセシビリティの状態について。

 これに対し、ギリシャ政府は次のように回答した。

  • スロープ、障害者が利用可能なトイレ、エレベーター等の設置が一部の学校で行われているが十分ではない。保健機関のアクセシビリティについては国内法4600/2019で規定がなされており、遵守が義務化されている。観光地や遺跡、ツアーでは障害者のアクセシビリティを考慮した複数の取組がある。障害者の利用可能な市民サービスセンターがすべての地方自治体にあり、障害者に対する公共サービスと情報が提供されている。その他幾つかの施設は身体障害者のアクセスを考慮したインフラが整備されている。
  • すべての自然人及び法人は、主として障壁の除去、インクルーシブ政策の発展、現行政策に対する合理的配慮の提供、差別的慣習の回避、障害者の平等参加及び権利行使の促進によって、障害者による平等と無差別の権利の行使を保障しなければならない、と国内法4488/2017の第61条は定めている。
  • 地方公共交通機関のアクセシビリティに関しては、海上・島嶼政策省による、港湾施設職員及び船舶の乗組員に対するアクセシビリティ研修の実施が挙げられる。また、長距離交通機関は障害や移動に不自由のある人に無料の介助者を提供することが義務付けられている。
  • デジタル政策・電気通信・メディア省が幾つかの取組を行っている。国内法4488/2017が電子通信の公平なアクセシビリティを規定している。また国内法4339/2015には、聴覚障害者による放送コンテンツへのアクセスを確保するための規定が定められ、EU指令2016/2102は国内法4591/2019の第12条(8)で実施されている。
  • 2008年12月の合同閣議決定では、テレビ番組の放送における、一連のアクセス措置(クローズドキャプション、ギリシャ手話、解説放送)、技術的基準等が規定された。合同閣議決定1686/2018では、毎日最低40秒、障害者の保護、福祉、改善、差別の根絶を促進するために必要な措置を含んだソーシャルメッセージを放送する規定が提供された。

 総括所見において、委員会は一般的意見第2号を前提とし、持続可能な開発目標のターゲット9、11、特に目標11.2と11.7を考慮に入れた上で以下の行動をとることを勧告した。

  • アクセシビリティに関する規則や包括的な国家行動計画、長期的な戦略等、必要な立法及びその他の措置を講じること。それらの措置は十分な予算、具体的な期限、効果的な監視の仕組み、それに障害者を代表する団体を通じた障害者との緊密な協議と彼らの積極的関与を伴うものでなくてはならない。
  • 建築環境、製品とサービス、特に都市や郊外の輸送システム、公共メディア・ソーシャルメディアのアクセシビリティを確保するための必要な措置を講じ、サービス提供者、技術者、建築家、都市計画者に対して障害者が直面するアクセシビリティの問題に関する研修を提供すること。
第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 第12条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 精神的、知的、あるいは身体的な障害によって成人が自分に関する問題を扱えない場合に受けるとされている法的扶助は一種の後見であり、障害者権利条約第12条に反している。
  • 障害者が公的手続をとる際の障壁が高く、本来権利があるにもかかわらず手続に失敗し給付を受けられないことがある。
  • 経済危機の影響で障害者の親類が法的代理人として認定を受けるために裁判所に納める費用を払えないため、本人が給付金の申請を行うことができない事例が発生している。
  • 社会保障の受益者が申請を続行できないときに、一時的な社会保障権の管理者を任命するという制度が緊急法1846/1951に定められており、国内法4476/1965で補足されているが、オンブズマンはこの制度が後見よりも障害者権利条約第12条に沿っていると考えており、後見からの置き換えを提案した。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、精神障害者の集団的表現、及び、それらの人に対するアドボカシーの強化を目的とした6つのサブプロジェクトの成果についての情報、そして障害者、特に感覚障害者又は精神障害者の法的能力を制限する法的規定を撤回し、一般的意見第1号に沿った支援付き意思決定に基づく立法枠組みを制定するために講じられている措置について情報提供を求めた。
 これに対し、ギリシャ政府は精神治療のための強制的な入院に関する新しい法律の草案を取り上げ、次のように回答した。

  • 草案は拷問防止のための欧州委員会の勧告に従っている。
  • 独立、公平、及び客観的な医学的見解の保証、入所者への面談の実施、無料の法的扶助の提供、不要な強制入院への救済措置等を規定している。

 そして、総括所見において、委員会は一般的意見第1号を念頭に置いた上で以下の勧告を行った。

  • 法的支援の仕組みを含む代理意思決定を、本人の自律、意思、選好を尊重する支援付き意思決定の制度に置き換えることにより、法制度を障害者権利条約に適合させること。
  • あらゆる領域における職員やサービス提供者への研修等、法の前の平等の権利と法的能力の執行の保障に必要な支援に障害者が確実にアクセスできるようにするため、あらゆる適切な措置を講じること。
第13条 司法手続の利用の機会

 第13条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 裁判所や法務機関はアクセシビリティが欠如している。
  • 刑務、拘置施設の職員を対象とした障害者の扱いに関する研修が欠如している。
  • 障害者の法的な情報及びサービスへのアクセスに特化した法律が必要である。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、特に盲人あるいは聾者に関する、EU指令2013/48/EU 及び 2011/99/EUの実施についての情報、司法、行政手続上での障害者の権利を保護するための措置や、司法、行政職員に提供されている研修についての情報提供を求めた。
 これに対し、ギリシャ政府は次のように回答した。

  • 視覚障害者あるいは聴覚障害者に関して、ヨーロッパ保護令あるいはヨーロッパ逮捕令状の事例が存在しない。
  • 国立法科学校は"障害者の保護"と称する6時間のセミナーを毎年提供している。

 そして、総括所見においては次のような勧告がなされた。

  • 効果的な監視の仕組みを伴い、差別なく司法にアクセスできることを確保すること。
  • 民事、刑事、行政手続のすべての段階において、法的サービスや法的扶助、支援技術や手話、点字、及びその他代替形式の質の高い翻訳等への無料かつ効果的なアクセスを確保すること。
  • 裁判官、弁護士、司法職員に対し、障害者の権利に関する適切な研修の提供を続け、この領域における取組を継続的に強化していくこと。
  • 持続可能な開発目標のターゲット16.3の実施に当たって障害者権利条約第13条を考慮に入れること。
第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 第19条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 障害者のデイケアセンターの費用の補助を規定するEOPYY 規則の規定が曖昧で問題に繋がっている。さらにこの規定は精神保健施設しか対象にしていない。

 さらに、事前質問事項の提案として以下の論点が提示された。

  • 国の脱施設化計画の実施に関しての状況と、実現のためのスケジュールについて。
  • 障害者に対するパーソナルアシスタントの計画を法的、制度的に導入するための計画について。
  • 社会福祉サービスに対して、政府から安定した財政支援を行う計画はあるか。
  • すべての障害者に支援付き住居に入居する権利を保障するための措置。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下に関して情報提供を求めた。

  • パーソナルアシスタントを含む支援サービスの利用可能性について。
  • 国による脱施設化戦略策定のための計画と、スケジュール、予算割当て、その設計と実施における障害者団体の関与、より小さな施設への再入所予防措置について。
  • 各種脱施設化プログラムの状況及び進捗について。
  • 障害のある児童の施設入所を廃止するための戦略や拘束力のある行動計画等に関する情報と、施設に入所させられている障害のある児童に関する2012年以降の統計情報。
  • 自立して生活し、地域社会に包容されるための支援措置と行動計画に対する経済的な割当て。

 これに対し、ギリシャ政府は次のように回答した。

  • 公的法人と認定を受けた非政府組織が支援付き住居を建てることができる。
  • 残された3つの精神病院を閉鎖あるいは改革する課題が残っている。
  • 地域密着型の精神保健施設が500以上あり、今後も増加する。保健省によって、心理社会的リハビリテーション住宅や児童向けの心理社会サービス、積極的地域治療サービス、在宅介護サービスといった施設の整備が始められている。
  • 精神保健センター、児童・若者向け地域密着型精神保健センターの組織と運用に関する法的枠組みが更新されている。

 そして、総括所見において、委員会は一般的意見第5号に従って次の措置を講じることを勧告した。

  • 明確な期限が設けられた措置と十分な財源を伴った、すべての水準での効果的な脱施設化のための包括的な国家戦略を策定すること。
  • 自立生活戦略と、特に地域レベルでの地域社会に基づく障害者が利用可能なサービスを提供する計画の策定において、障害者を代表する団体を通じて障害者の能動的な関与を確保すること。
第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 第21条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 政府報告の第182項で言及されている、障害者向けの給付金に関する情報をまとめた「障害のある市民のための手引き(Guid for Disabled Citizen)」は良い取組だったが、2007年から情報が更新されていない。
  • 公的なウェブサイトの多くで障害者に対するアクセシビリティが欠如しており、国内法4488/2017で規定されている情報へのアクセス措置の提供義務が遵守されていない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の点ついて情報提供を求めた。

  • 障害者による視聴覚メディアサービスとインターネット、特にEU指令2016/2102に示される障害者が利用可能な基本的サービスの情報へのアクセスについての国内基準と規範(norms)の導入について。
  • アクセシビリティに関する委員会の一般的意見第2号に従った、公的手続における手話、点字、わかりやすい版、補助的代替的コミュニケーションの利用の確保と整備のために講じられた措置について。

 これに対し、ギリシャ政府は次のように回答した。

  • ギリシャ手話はギリシャの聴覚障害者の第一言語として認められており、点字は盲の学生のための文字として公認されている。それぞれ資格を得た教員によって、特別支援学校等で教育がなされている。
  • 教育政策局(IEP)は、障害者が利用可能なデジタル教材とわかりやすい版の形で教科書を提供する欧州プログラム、「ユニバーサルデザイン」に参加しており、聴覚障害のある生徒向けの教材の提供が既に始まっている。
  • 教育政策局は、「中等教育機関に向けた民主主義的な学校コミュニティと人権に関する週間」を主導し、そこで差別や偏見、暴力についての情報を提供した。

 そして、総括所見においては次のような勧告がなされた。

  • 一般市民に対するサービス提供者、特に公共放送、電気通信事業者、公立図書館等が、手話、点字、わかりやすい版、クローズドキャプションのような、障害者のために利用可能な形式での継続的な情報の提供を、確立され監視された行動計画に基づいて保障すること。
  • 手話、わかりやすい版、点字の利用について、関連する障害者団体の能動的な関与の下で促進するための効果的な措置を講じること。
第24条 教育

 第24条に関して、パラレルレポートでは複数の団体から極めて多くの指摘がなされた。その中で、主だった指摘としては以下が挙げられる。

  • 障害のある生徒の多くは普通学校の特別支援学級に配置され、インクルーシブな状況には置かれていない。
  • 特別支援学級も生徒人数の増加や職員の不足といった問題を抱えている。
  • 特別支援教育が期間雇用の、適切な研修を受けていない職員によって提供されている。
  • 生徒の教育ニーズの評価や支援の提供が保健モデルに依存している。
  • 教材や校内施設はほとんどがアクセシビリティを備えていない。特に教科書等が点字に訳されていないか、翻訳の質が低く、視覚障害者が不利益を被っている。
  • 障害のある学生や児童に関する統計情報は少なく、全体的な数字は依然として不明である。学校に行けない障害のある児童の数や、卒業前に退学した数等も統計に含まれていない。
  • 法律で定められている内容や、障害のある生徒の実際のニーズに対して、財源が十分ではない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の点について情報提供を求めた。

  • インクルーシブ教育を受ける権利を確保し、完全なインクルーシブ教育制度を策定するために講じられた措置。
  • 障害のある生徒に対し、学校の施設、教材、サービス、設備への完全なアクセスを確保するために講じられた措置。
  • 普通学校と特別支援学校又は分離された学級に通っている障害のある児童の数について、すべての教育課程における学校に入学している障害のある児童の合計人数に対する、ジェンダー及び出身の国又は民族性で分類された割合。
  • 普通学校と分離された教育環境における、障害のある児童が退学する割合について、すべての教育課程における2012年以降に退学した児童の合計人数に対する、ジェンダー及び出身の国又は民族性で分類された割合。
  • 障害や特別な教育的ニーズのある生徒の包容に特化された教育支援と、障害のある生徒のための利用可能な教材や説明資料に関するプログラムの実施の状況、範囲及び結果、それらが障害者権利条約に沿ったものであるかどうか。

 これに対し、ギリシャ政府は次のように回答した。

  • インクルーシブ教育のための措置として、特別な教育的ニーズのある生徒の送迎で提供される特別介護や、障害者の施設と住居の間の送迎サービスの提供、インクルーシブ教育を定義付けている国内法4547/2018による、心理社会的な発達支援やカウンセリング、キャリアガイダンスを行う教育・相談支援センター(KESYs)の全国での設置、国内法4547/2018による特別支援学校の支援センターへの移行推進と教育システムの分散化、差別を助長する既存のモデルからの脱却のための、人材育成や意識向上等の措置、特殊職業訓練校の刷新や就学前教育、初等教育での障害のある児童の主流化を考慮した立法措置といった取組がなされている。
  • 公立の初等、中等学校に通う生徒の地方自治体による無料送迎の条件と詳細について、複数省庁で合同閣議決定がなされている。
  • 特別支援教育局は2017年に普通学校に通う障害のある児童に関する組織的な統計の収集を開始した。特別支援学校、インクルーシブな学級、その他支援業務につく職員は増加しており、普通学校に通う障害のある児童の人数も増加している。学校に行っていない、又は就学を断念した障害又は特別な教育的ニーズのある人の数や、普通学校に通う障害のある児童の民族的背景に関して、特別支援教育局はデータを持っていないが、近い将来収集が始まるだろう。
  • 欧州共同基金とギリシャ政府出資のプログラム"Human Resources Development, Education and Life Long Learning"(2014-2020)の下で、障害のある生徒の支援と包容のための各種支援プログラムを実施している。また、インクルーシブ教育の促進のために、特別支援教育局はインクルーシブ教育と特別支援教育のためのウェブサイトの計画と開発、グッドプラクティスを広めるためのイベント開催、欧州全体での取組への参加、非政府組織やその他関係者との協力を行っている。

 総括所見において、委員会は一般的意見第4号を念頭に置き、持続可能な開発目標のターゲット4、特に4.5と4.aを考慮し、次のように勧告した。

  • インクルーシブ教育を確保するためにさらに取組を行うこと。
  • 普通教育制度におけるインクルーシブ教育に関する一貫した戦略を策定し実施すること。
  • ユニバーサルデザイン、利用可能で適合された教材等の、特別な措置及び個別化された支援の提供、インクルーシブなカリキュラム、障害のある生徒や学生のためのインクルーシブな情報通信機器、デジタル教育学を促進することによって、学校及び大学での障害者権利条約に沿ったアクセシビリティを確保すること。
  • 難民、亡命申請者、移民の障害のある児童や、障害のあるロマの児童すべてに対し、正規教育へのアクセスを直ちに確保すること。
  • インクルーシブ教育を効果的に確保するために、効果的かつ必要十分な経済的、物質的資源や、障害者を含めた適切かつ恒常的に研修を受けた職員を割り当てること。
  • 教職生のための高等教育課程や現職教員の研修プログラムに十分な予算を伴ったインクルーシブ教育の研修を導入すること。
第29条 政治的及び公的活動への参加

 第29条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 選挙にかかわる印刷物は、障害者が利用可能な形式で提供されておらず、テレビでの政治家による討論やインタビュー等も、クローズドキャプションや手話通訳がなされていない。
  • 投票所は車椅子の利用者にとって利用しにくい。投票用の書類も代替形式がなく、手話通訳も使うことができない。
  • 障害者の投票の秘密が守られていない。
  • 選任された公職者が介助者等の支援を得られる制度があるが、対象となっているのは一部の公職のみである。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、障害者、特に知的障害者や居住型施設居住者の、政治的、公的生活への完全な参加の確保のために講じられている措置、わかりやすい版、点字、手話のような形式の提供も含む、投票手続、施設、書類に対する完全なアクセシビリティの確保のために講じられている措置について、情報提供を求めた。
 これに対し、ギリシャ政府は、障害者の選挙への参加を可能にするためのあらゆる必要な措置を講じており、最近では、2019年5月26日に行われる地方自治体選挙と欧州議会の議員選挙を視野に、内務省の選挙局が障害者の投票権の行使を促進するための通知を発行したと回答した。
 そして総括所見において、委員会は、一般的意見第2号に従い、障壁に阻まれない投票への物理的アクセスを確保し、投票の秘密と利用可能なあらゆる形式でのその他の選挙資料と情報の利用可能性を担保することによって、障害者が政治的及び公的生活に効果的かつ完全に参加し、投票の権利を行使できることを確保するため、法律、手続上の規則、支援の仕組みを含む現在の関連する投票の枠組みを改善することを勧告した。

第31条 統計及び資料の収集

 第31条に関して、パラレルレポートでは、障害者が条約の下で権利を行使できているか否かを評価するに耐えうる包括的なデータ収集制度について、戦略的計画がまだ作られていないという指摘がなされた。
 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、障害者権利条約第31条の義務を遂行するに当たって、ワシントン・グループの障害についての短い質問集の締約国における使用について情報提供を求めた。
 これに対し、ギリシャ政府は次のように回答した。

  • 障害に関する最初の公的な統計は、5年に一度行われる国内健康調査によって収集される予定である。この調査はEurostatの質問に基づいて国内の需要とニーズに合わせて調整されたもので、2019年度については、障害に関する質問が特別に追加されている。
  • 2021年国勢調査での障害に関する情報収集については準備中で、データ保護に関する法律に準拠するための方法が議論されている。

 そして、総括所見において、国連障害者権利委員会は持続可能な開発目標のターゲット17.18を念頭に、次のような勧告を行った。

  • 条約に沿った、包括的なデータ収集・報告制度を策定すること。
  • ジェンダー、年齢、民族、障害種別、社会経済的状況、雇用、居住地で分類された障害者に関するデータ、並びに障害者が社会で直面している障壁に関するデータについて、ワシントン・グループの障害についての短い質問集の方法論に基づいて計画的に収集、分析、公開すること。
第33条 国内における実施及び監視

 第33条に関して、パラレルレポートでは障害のある児童を代表する団体が監視の仕組みに関与していないという指摘がなされた。
 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、現在設置されている障害者権利条約の実施と監視のための仕組みについて、関与している機関の詳細な情報、障害者と彼らを代表する団体に監視過程での関与と完全な参加を確保するための現状の仕組みについて情報提供を求めた。

 これに対し、ギリシャ政府は次のように回答した。

  • 調整のための仕組みが国務省の省内に設置されている。
  • 司法・透明性・人権省人権事務総局が中央連絡先となっており、障害者団体や代表団体、関係者等との協議を実施している。
  • 独立した仕組みとしてオンブズマンが設置されており、権利を侵害された障害者からの苦情受付や、法律や政策と障害者権利条約との適合性に関する意見の表明を行っている。

 そして、総括所見において、委員会は「条約と独立した監視の枠組みと委員会の取組への参加に関するガイドライン(CRPD/C/1/Rev.1, annex)に従い」26という但し書きの上で、次のような勧告を行った。

  • 国内の監視と実施の枠組みを強化し、効果的な運用と関与している関連組織間の共同運用性を、透明性のある手続の原則に沿って、障害者団体の完全な参加の下で確保すること。
  • 一般的意見第7号を考慮し、条約の実施の監視の義務を課された独立した監視の枠組みに参加するために、障害者団体に独立した自己管理型の基金を通じた支援も含めた適切な財源の提供を確保すること。

 さらに、委員会は以下について奨励した。

  • ギリシャ全国人権委員会を条約第33条の独立した監視の枠組みの一部として任命すること。

22 GANHRIより、ステータスAの認証を受けている。( https://nhri.ohchr.org/EN/Contact/NHRIs/Pages/default.aspx )
23 The Greek Ombudsman's Report, p.3.
24 Human Rights and Persons with Disabilities Alternative report Greece 2019 by the National Confederation of Disabled People (NCDP), p. 5.
25 Parallel Report on Greece's compliance with the Convention on the Rights of Persons with Disabilities, p. 1.
26 総括所見第49項

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