1 国外調査 1.6.2

1.6 インドにおける合理的配慮・環境整備と国連障害者権利委員会審査状況

1.6.2 インドの政府報告の国連審査状況

(1)審査プロセスの現状

 インドは、2007年10月に障害者権利条約を批准し、2015年10月に政府報告を国連障害者権利委員会に提出した。2019年2月から4月にかけて、7つの市民社会団体から事前質問事項に向けてのパラレルレポートが提出され、3月には全国人権委員会が国家人権機関としてパラレルレポートを提出した。2019年5月に国連障害者権利委員会より事前質問事項が示され、これに対してインドは事前質問事項への政府回答を同5月30日に国連障害者権利委員会へ提出した。その後、第22会期の審査に先立ったパラレルレポートが6市民社会団体及び全国人権委員会から提出され、その後10月に委員会による総括所見が提示された。
 パラレルレポートを提出した各組織の概要は以下のとおりである。

自然・社会資源の持続可能な利用センター(Centre for the Sustainable Use of Natural and Social Resources;CSNR)

 インド東部の都市ブバネーシュワルを拠点に活動する、無宗教、非営利を掲げる市民社会組織。インド国内の民族的あるいは宗教的マイノリティの権利を中心とする人権促進のために活動している。

マイノリティ権利グループインターナショナル (Minority Rights Group International;MRG)

 世界の民族的、宗教的、言語的マイノリティの権利を保護するために働く国際非政府組織47

障害者のためのサマーサナム・トラスト(Samarthanam Trust for the Disabled)

 1997に設立された非政府組織。支援の十分に行き届いていない障害者のエンパワメントが主な活動内容で、教育、社会、経済、文化、技術的な面から支援を行っている48

児童に対するあらゆる体罰を終わらせるグローバル・イニシアチブ(Global Initiative to End All Corporal Punishment of Children)

 児童の権利条約の遵守を通じて、児童への体罰禁止を促進するために活動している国際団体49

国内障害者ネットワーク(National Disability Network;NDN)

 障害者団体や障害者にかかわる非政府組織によって構成されているネットワーク組織50

障害者の権利に関する国家委員会(National Committee of Rights of Persons with Disabilities;NCPRD)

 インドの各地を代表する、障害に関する専門知識を持った人によって構成されるシンクタンク51

国立障害者雇用促進センター(National Centre for Promotion of Employment for Disabled People;NCPEDP)

 権利に基づく視点で障害者のエンパワメントのために活動する、インド唯一の障害者擁護組織52

CRPDパラレルレポートのための国内連合体 (National Coalition towards the CRPD parallel report)

 国内の30以上の組織で構成されている連合体。インド国内のあらゆる地域に拠点を持つ多様な障害者団体を含んでいる53

障害のあるインドの女性ネットワーク(Women with Disabilities India Network)

 インド国内の障害のある女性活動家、研究者、団体等による連合体54

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)

 90か国以上で人権に関する監視、報告、アドボカシーの運営等の活動を行っている国際人権組織55

国際対ハンセン病団体連合(International Federation of Anti Leprosy Associations;ILEP)

 ハンセン病に関する13団体を擁する連合組織。ハンセン病及びハンセン病による差別等の根絶を目指して活動している56

スリシチ・マドゥライ(Srishti Madurai)

 インターセックスの人の人権、教育、認知(visibility)や地域社会支援に取り組むインドの学生ボランティア団体57

NNID

 インターセックスの人の平等、権利、認知(visibility)に関する活動を行うオランダの当事者団体58

(2)主な論点

第1~4条 一般的義務

 第1条~第4条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 2016年の障害者権利法及び2017年のメンタルヘルスケア法の制定は評価する。
  • 自閉症・脳性麻痺・精神遅滞・重複障害のある者の福祉のための信託法及びインド・リハビリテーション委員会法は制定が古く、条約に適合していない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下について情報提供を求めた。

  • 障害の人権モデルを法制度等に適用し、メンタルヘルスケア法をはじめとする法律での蔑視的な用語の使用を廃止するための措置。
  • 障害に関する法律の障害者権利条約への適合の進捗状況、また、憲法が障害に基づく差別を禁止しているか。
  • 障害者(特に地方での)の権利実現のための主要な政策の設定期間、最終目標、投入される資源とそれらの進捗。
  • 障害者権利条約の実施・監視及び障害関連法政策に関する、障害者との協議のため、また障害者団体を通じた障害者の参加を確保するための、すべてのレベルにおける仕組み。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者権利条約における原則に沿った、障害者権利法を2016年に制定した。この法律には障害に基づく差別を明確に禁止する規定がある。
  • 政府は障害者識別プロジェクト(Unique Disability ID project)を立ち上げ、障害者識別カードを2016-17年度から発行している。立ち上げ時は29の州及び連邦直轄領で開始されたが、2019年内にはすべての州と連邦直轄領の全地域を対象とする予定となっている。
  • ヒンディー語をはじめとする国内の諸語で障害者を意味する‘Divyangjan‘は、直訳では神聖な力を持つ者を意味しており、差別用語ではない。
  • 中央政府に障害者エンパワメント庁を立ち上げた。同庁は地方政府による障害者の権利保障の取組を補完するための様々な計画やプログラムを実施している。
  • 障害者権利法に従って、障害に関する中央諮問会議を設置した。この会議には障害者を代表する10人の構成員が参加しており、国家レベルでの障害に関する政策の勧告を行ったり、障害者の完全な参加を確保するためのプログラムや政策の監視や評価を行う権限を持っている。

 総括所見において、委員会は次のような勧告を行った。

  • 政策立案者及び社会において、障害者の人権モデルについて、また人間の多様性の一部及び人類の一員として障害者を受入れるという原則について、理解を促進するため、国及び州の戦略を策定すること。
  • 障害の人権モデルに一致させるため、障害の評価、認定のためのガイドラインを障害者団体の関与の下で改正すること。政策及びプログラムにおいて、介護、治療、予防から、平等と包容を妨げる環境及び態度の障壁除去への移行を確保すること。
  • 既存の障害者関連法制や障害の包容のための一般的なサービスを管理する措置等、その立法、政策、計画を障害者権利条約と一致させるための審査過程とすること。障害者に対する軽蔑的な用語や概念をその法律、政策、政府規則、政府のウェブサイト、公的な談話から削除すること。
  • 障害識別カードをまだ実施していない農村部において、差別なく、すべての障害者が、地域社会サービスを利用でき、包容されることを確保すること。

 また、包括的な国及び州の行動計画がないことと、障害者の権利を認める立法措置の実施に地域差があることに懸念を表明した上で、以下のように勧告した。

  • 農村部で生活する障害者を含めて、すべての障害者を公共政策の取組の対象として、部門横断的な人的、技術的資源、予算割当てを確保し、障害者代表団体を通じて、障害者が有意義に関与し、国レベル、州レベルでの障害者権利条約を実施するための行動計画の迅速な審査と策定を確保すること。
  • すべての州で障害者の権利を認める法律を実施するため、州レベルでの担当機関との協力を確保すること。

 さらに、政策決定過程における障害者の関与が不十分であることを指摘した上で、一般的意見第7号に従って次のように勧告した。

  • 障害のある女性を含めて、一般的意見第7号の第10項から第13項で定義される障害者団体が、政府のすべてのレベル、すべての公共政策分野において、政策決定過程で助言を求められ、関与することを確保すること。
  • 後見制度等、障害者団体の参加に対する障壁を取り除き、彼らの効果的な参加のために、適切な資源、利用可能で包容的な情報、協議についての方法論を提供すること。
  • 障害者の意見を尊重し、協議の結果として決定に反映すること、並びに、公共の意思決定における説明責任の基準の採用を確保すること。
第5条 平等及び無差別

 第5条に関しては、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • インドの憲法では差別を禁止しているが、障害が差別禁止事由に含まれていない。
  • 特に農村、山岳、部族民居住地等で、障害者の権利や平等は不適切な状況にある。
  • インド国内で起草されている差別解消法案は、いずれも障害者に関する明確な定義を含んでいない。
  • 障害のあるイスラム教徒が巡礼を禁止されている。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の点に関して情報提供を求めた。

  • 障害者の平等・無差別促進のための既存の枠組み(合理的配慮に関する規定を含む)、また、様々な人(指定カーストや指定部族のハンセン病患者、LGBTの障害者等)への複合差別、交差差別の根絶のための取組の進捗。
  • 障害に基づく差別禁止を規定する一方で、正当な目的達成のために適切とみなされる場合を除くという例外を定めている2016年の障害者権利法第3章(3)の改正のための措置。
  • 障害に基づく差別の申立てについて分類されたデータ(件数と割合)、また処罰に至った件数及び割合。
  • 2018-2022年ハジ(Haj)59政策の差別的規定の修正、障害者が巡礼を妨げられていた状況の是正、ハンセン病患者・回復者に対する差別に関する2018年の最高裁判決(Pankaj Sinha vs. Union of India and others)の実施の進捗。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者権利法第3章(3)を、障害者に不利益を起こさずに効果的に実施するため、保護措置の誤用の際の責任の所在を施設の責任者とすることを「障害者権利規則2017」で通告した。
  • 憲法は指定カースト、指定部族、その他社会的、教育的に後れをとっている階級の市民を助成するための規定を設けることを州政府に求めている。政府はそれらの階級の市民の社会的、教育的、経済的エンパワメントのための様々な計画を実施している。
  • 障害者権利法はカースト、信条、宗教、ジェンダー等に関係なく適用可能である。ハンセン病は治療可能であり、障害の1つであると認識している。また、政府はハンセン病患者に対する差別的な条文を含む多くの法律を改正した。
  • 政府は最近ハジ政策を修正した。改正ハジガイドラインには、身体障害者は身体的不健康と解されないこと、1人で移動できないと医療機関に認められた障害者は身体障害のない親族による同伴が必要であること、詳細な健康面の規定はサウジアラビア王国の保健省による規則を遵守することが含まれている60

 総括所見において、委員会は一般的意見第6号に従い、次のように勧告した。

  • 明確に障害に基づく差別を禁止するために憲法を改正し、その法律において、障害者が直面する、直接的、間接的な障害に基づく差別及び複合・交差差別の認識を確保し、障害者権利法第3章(3)を廃止すること。
  • ヒンズー教の婚姻に関する規則、家庭裁判所規則の規定、移動の自由を制限する規定、公共生活への参加を妨げる規定等、すべての分野でハンセン病の影響を受けた人に対するすべての差別的な法律を廃止すること。また、ハンセン病患者と家族の状況に対処するために、ハンセン病患者とその家族に対する差別撤廃のための原則及びガイドライン(A/HRC/15/30, annex)を遵守すること。
  • そのような差別に直面する障害者の包容的な平等を達成するために、複合・交差差別に取り組む差別解消法及び公共政策の状況を評価し、それらを採択すること。
  • 障害のある女性に対するジェンダー面での差別を考慮して、障害に基づく差別、合理的配慮の否定の事案において、効果的な法的補償及び賠償への障害者のアクセスを確保すること。
第6条 障害のある女子

 第6条に関しては、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 障害のある女性は様々な人権侵害を受けており、搾取や虐待からの保護が必要。
  • 2017年メンタルヘルスケア法では、ジェンダーに特化された平等規定がない。
  • 家庭内暴力からの女性の保護法(The Protection of Women from Domestic Violence Act;PDV)では障害のある女性のニーズは考慮されていない。また、一部の被害は夫によるものしか想定されておらず、それ以外の家族から同様の被害を受けた場合は取り締まれない。職場におけるセクシャル・ハラスメント法(the Sexual Harassment of Women at the Workplace Act)にも、聞き取り調査における障害のある女性に対する配慮規定がない。
  • 女性に特化されたプログラムが障害のある女性に適合していない。
  • 女性・児童開発省によるデータ収集は障害のある女性を含んでいない。
  • 障害があり、かつ社会的マイノリティに属す女性にとって、司法へのアクセスが極めて難しい。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次に関して情報提供を求めた。

  • ジェンダーに基づく一般政策、障害のある女性の権利実現のための特別な法律、政策、行政措置。障害のある女性に関する教育、保健、雇用等の分野での達成状況の進捗について、年齢、ジェンダー、地方及び都市部に分類された統計。
  • 障害のある女性の権利を全部門と政府レベルで主流化させるための措置、また、その促進と障害のある女性のエンパワメントのための予算配分。障害のある女性の関連で女性・児童開発省に配分された人的、技術的、経済的資源。
  • 全国と州レベルでの女性委員会への障害のある女性の参加状況、また障害のある女性への権利侵害に関する調査と是正実施の件数。障害のある女性に提供されている苦情手続の情報、またそれが利用可能な形態であるか。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者権利法では、政府及び地方行政機関に障害のある女性及び児童が権利と平等を確実に享受するための措置を講じることを命じている。その命令には、生殖及び家族計画に関する適切な情報へのアクセス、インフォームド・コンセントを伴わない医療行為の禁止等が含まれている。
  • 障害者権利法では、中央諮問会議に障害のある女性を代表する構成員を最低5人含めるよう定められており、2017年の設置以来、障害者団体や障害者とかかわる非政府組織を代表する5人の女性が参加している。
  • 障害のある女性の教育と雇用に関するデータは個別に保持されていない。
  • 国家女性委員会は、「聾者の女性のエンパワメント」に関する全国規模のセミナー、「障害のある女性をめぐる重大な問題」に関する円卓会議、「障害のある女性の機会」についての協議、「障害のある女性の促進と福祉」に関するセミナーといった活動に取り組んでいる。
  • 女性・児童開発省による計画やプログラムは、障害のある女性を含む女性全体に対して適用可能である。

 総括所見において、委員会は一般的意見第3号に従い、持続可能な開発目標のターゲット5.1及び5.2を考慮した上で、次の勧告を行った。

  • 障害のある女性及び女児に対する複合・交差差別に対処する措置の強化。
  • すべての生活分野で障害のある女性及び女児の平等と包容を促進するため、国及び州の行動計画を策定すること。また、女性のための国家政策において、障害が主流となっている状態を確保すること。さらに、意識を向上させ、スティグマ61化やジェンダー及び障害に対する固定概念を弱めるキャンペーンの有効性を確保し、一般的意見第7号に沿って、そのような意識向上プログラムに、代表団体を通じて障害のある女性を関与させること。
  • 国及び州レベルで、機能障害、農村部又は都市部、民族的アイデンティティ、社会的経済的背景にかかわらず、すべての障害のある女性及び女児の権利に対処するために、ジェンダーに対応した政策、予算割当てを確立すること。また、政策及びサービス提供により良い情報を与えるために、ジェンダー、年齢、民族、言語、宗教的背景で分類したデータを収集すること。
  • すべてのレベルの決定及び政策立案で、障害のある女性の完全で効果的な参加を確保すること。これには、女性・児童開発省、国家女性委員会、州の女性委員会によって採択される政策に関しても含まれる。
第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 第9条に関しては、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 2015年に立ち上げられたアクセシブルインドキャンペーンについて、近年では思わしい成果が出ていない。
  • 政府の立ち上げるスマートシティの建設計画は、障害者のアクセシビリティが考慮に入れられていない。
  • テレビ等の視覚メディアの大部分は障害者にとってのアクセシビリティが欠如している。
  • 2016年の障害者権利法ではアクセシビリティに関する諸規定が盛り込まれているが、建築関連の条例はそれに従っていない。
  • 公共交通機関のアクセシビリティが不十分である。適切な手段が用意されていないために、障害者が飛行機の搭乗を拒否されたり、安全や尊厳を確保されない状態での移動を余儀なくされる事例が度々発生している。
  • ウェブサイトのアクセシビリティの欠如が改善しないままの状態にある。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の措置についての最新情報の提供を求めた。

  • 特に地方でのアクセシビリティの向上のための措置。物理的環境・輸送・情報・通信技術、施設やサービスのアクセシビリティ遵守の確保のための、分野横断プログラムの実施のための措置。
  • 公共調達法、財・サービス政策におけるアクセシビリティとユニバーサルデザインの確保のための措置。
  • アクセシビリティに関する法定義務遂行についての長期的ロードマップ実行のための措置。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者権利法は、構築されたインフラ、輸送システム、情報通信エコシステムにおけるアクセシビリティの確保に重点を置いている。公共の建物、路線バス及びウェブサイトに関しては政府がアクセシビリティ基準を通知している。これらの基準は農村部も含む公共の事務所やサービスに適用される。既存の建物に関しては5年以内に、サービスは2年以内に基準を満たすことが求められている。
  • 普遍的なアクセシビリティを達成するため、政府はアクセシブルインドキャンペーンを立ち上げた。
  • 電気・情報技術省は、中央省庁のウェブサイト100件をインド政府ウェブサイトガイドライン(GIGW)に準拠させるための「共通最小フレームワーク」プロジェクトを実施しており、既に95のウェブサイトがGIGWに準拠している。
  • ユニバーサルデザインに関して、障害者権利法は、ユニバーサルデザインの適用された障害者の使用する消費財やアクセサリーの開発、促進、製造、流通のための措置を講じることを政府に命じている。

 総括所見において、委員会は一般的意見第2号に従い、持続可能な開発目標のターゲット9、11.2、11.7を考慮した上で、次の勧告を行った。

  • 障害者権利法第40章~第46章を実施し、特に、農村部で、あらゆる段階に障害者団体を通じて障害者が関与し、アクセシビリティを改善するため、部門横断的アプローチを採用することによって、公共インフラに携わるすべての省庁に、適切な時間枠、予算、監視、評価とともに、すべての計画、実施過程において、アクセシビリティに対応させること。
  • 特に、国及び州レベルで、インド基準法局において、アクセシビリティ要件が公共調達法及び製品、サービスに関する政策に含まれることを確保すること。
  • 交通免許等、輸送サービスのアクセシビリティ、情報のアクセシビリティを高めること。また、バリアフリーな建物の実施を促進すること。
第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 第12条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 無能力や後見についての法律が依然として運用されている。
  • 障害者権利法では「精神的に不健全な者(person with unsound mind)」が障害者団体として事務所を構えられない規定があり、これは障害者権利条約に反している。
  • 障害者権利法では意思決定手段として「一時的な後見」を認めているほか、聾者、盲人、精神障害者、心理社会的障害者、知的障害者の親による団体が代理意思決定を求めている。
  • 障害者権利法では障害者による財産の管理や銀行の融資を利用する権利を認めているが、銀行や融資機関は後見人が必要であるとしている。
  • 障害者権利法では法的能力の行使を促すための支援組織の立ち上げについて規定しているが、法の施行から2年経ってもそのような組織は立ち上げられていない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の措置について情報提供を求めた。

  • 無能力と管理に関する法令の撤回、すべての形態の後見人の廃止、障害者のための支援付き意思決定の仕組みの導入。
  • 特に障害者、その家族、司法官、政策決定者、金融サービス事業者向けの、法的能力及び支援付き意思決定に関する障害者の権利についての意識向上。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者権利法は、障害者が合法的に意思決定することを可能にするための支援の仕組みとしての、限定的後見制度について規定している。この制度は特定の状況下における特定の意思決定に関して、障害者と期間限定の後見人が連帯で意思決定をなす仕組みであり、障害者の意思に沿って実施される。
  • 障害者権利法は、障害者の法的能力の行使を支援するため、地域社会を動員し意識向上を図るための機関を州政府が任命することを定めている。

 総括所見において、委員会は一般的意見第1号に従い、次の勧告を行った。

  • 障害者権利法(第14章)、メンタルヘルスケア法(第4章)、自閉症・脳性麻痺・精神遅滞・重複障害のある者の福祉のための信託法等、国及び州の法律、慣行から、あらゆる種類の後見を削除すること。
  • すべての障害者の自律、意思、選好を尊重する支援付き意思決定制度を導入し、これらの制度について、障害者に情報提供すること。
  • 法律の前にひとしく認められる権利について、及び、ハンセン病患者、盲人、聾者、知的障害者、心理社会的障害者等、障害者の法的能力に対する権利を理解する方法について、障害者の家族を含め、社会での意識を高めること。締約国は、障害者権利条約に沿って、障害者の法律の前にひとしく認められる権利、支援付き意思決定の取決めについて、公務員に研修を受けさせるべきである。
第13条 司法手続の利用の機会

 第13条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 国内の司法機関ではアクセシビリティが欠如している。
  • 法的機関におけるデータ収集では障害が考慮されていない。
  • 法律の中に一部の障害者を無能力と推定する規定があることが、障害者の司法へのアクセスの障壁となっている。
  • 1987年の精神保健法の時から、強制入院への異議申立て、虐待の報告、弁護士への相談等が医学的問題として取り扱われ、精神科医が担当するものとされており、2017年のメンタルヘルスケア法でも変わっていない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下について情報提供を求めた。

  • 手続面での、また年齢やジェンダーに留意した、既存の配慮について。また司法制度全体における障害者のための物理的環境と情報のアクセシビリティ。
  • 特にジェンダーに基づく暴力に関して、障害のある女性の司法へのアクセスを妨げている意識態度的、物理的な側面での障壁を明確にする、また、それに対応するための措置。
  • 法制度全般における障害者への無料の法的扶助。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • サービスセンターを介して法的扶助を主流化するテレ・ロウ(Tele-Law)プログラムは、現在11州の1,800のサービスセンターで利用可能で、2020年までにすべての州と連邦直轄領に拡張される予定となっている。
  • ニャヤ・バンドゥ(Nyaya andh)プログラムは女性、児童、障害者、指定カースト、指定部族、拘留されている人、人身売買の犠牲者や自然災害の被害者等、不利な状況にある人に対し無料の法律相談と法的扶助を提供する。司法省に登録されたボランティアの弁護士によって提供されており、当事者はモバイルアプリケーションで切れ目なく弁護士と繋がることができる。
  • 司法省は社会的な弱者への無料の法務サービス提供を目的とする全国司法サービス機関(National Legal Service Authority; NASLA)法の支援を提供している。全国司法サービス機関は、州・地方・徴税支区単位ですべての適格者に対し無料の法的扶助を提供する国内ネットワークで、2017年4月から2018年3月までの間に6,420人の障害者が法的扶助を受けている。
  • 「司法省の行動調査と司法改革計画」によって、司法に関する調査研究等に対する経済支援を行っている。

 総括所見において、委員会は次の勧告を行った。

  • 法のすべての分野で、差別のない、障害者の司法への効果的なアクセス、苦情申立て制度や司法制度における手続上の配慮、年齢に適した、ジェンダーに対する配慮を確保すること。特に、女性に対するジェンダーに基づく暴力の事案、後見を受けているか、又は施設に収容されている女性に影響する事案において、障害者に利用可能で無料の法的扶助を提供する取組を強化し、物理的環境及び情報に対する障壁を取り除き、利用可能な報告手続を策定するべきである。
  • 司法制度がジェンダーに配慮した方法で判決を下すことを確保し、苦情申立ての手続が障害のある女性に配慮し、プライバシーと安全を確実に保障すること。
  • 起訴及び裁判が障害及びジェンダーに配慮した方法で行われることを確保し、スティグマや、ジェンダー及び障害に対する固定概念と戦うこと。
  • 警察等、刑事司法制度の様々な関係者が障害者の参加を促すための研修を受ける機会を確保すること。また、裁判官等、司法制度の専門家として、障害者の参加を促進、支援すること。
第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 第19条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 障害者が地域社会で生活する権利を保障する政策や法律がない。
  • 現行法には障害者の自立や自律を支援する規定がない。
  • 身体障害者向けの施設でもアクセシビリティの確保や配慮がなされていない。
  • メンタルヘルスケア法には脱施設化に関する規定がない。
  • パーソナルアシスタントをつける制度があるが、本人とその家族の研修の目的にのみ利用可能であり不十分である。
  • 地域社会に基づくリハビリテーションを実施する非政府組織は少数ながら存在するが、利用できる人数は極めて限られている。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下について情報提供を求めた。

  • 障害者の誰とどこに住むかを選択する権利(憲法21条を解釈した最高裁決定による(CRPD/C/IND/1, para. 123))を全州で行使できるようにするため、また国家障害計画での重度障害者施設建設に関する項目を撤回するための措置。
  • 施設入所の障害者数(特に、知的障害者や心理社会的障害者、障害のある児童)。また、脱施設のための短期的・長期的な戦略と配分された資源(地域における個別支援、パーソナルアシスタント、利用可能なサービスの提供を通じたものも含む)。
  • 地域における包括的な開発・支援とリハビリテーションを拡充し、住居と物理的環境(特に地方)へのアクセスを確保するための取組。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者権利法では、重度の障害者に特化された施設入所の仕組みを促進していない。住居のない障害者や家族が育てる余裕のない障害のある児童のリハビリテーションが一時的に居住型施設で行われ、それを政府がディーンダヤル・リハビリテーション計画(DDRS)やナショナルトラストの何らかの計画の枠組みで支援する事案がある。
  • 心理社会的障害を含む障害者のリハビリテーションのために、政府は地域に基づくリハビリテーションモデルの開発に取り組んでいる。障害分野の諸問題における協力のために他国と締結した覚書にも、地域に根ざしたリハビリテーションの開発が含まれている。

 総括所見において、委員会は一般的意見第5号に従って、以下を勧告した。

  • 障害に基づくあらゆる形態の施設収容を終了し、「重度障害者」の施設を設置する法律規定を廃止すること。また、あらゆる種類の施設に収容された児童の脱施設化を優先して、障害者団体と協議し、適切な時間枠、財源、人的資源、技術資源とともに、脱施設化の戦略を策定すること。
  • パーソナルアシスタントを提供し、個別支援、地域社会における障害者の包容を促進する、地域社会支援ネットワークを強化すること。
  • 障害者による主流の地域社会サービスへのアクセスに関する戦略及び進捗状況の指標を制定すること。とりわけ、知的障害や心理社会的障害のある女性のために、住居、インクルーシブ教育、仕事と雇用のような公共サービスへのアクセスに対する障壁を取り除くこと。
第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 第21条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 障害者団体の要求にもかかわらず、手話が公用語として認定される動きがない。
  • 2011年に補助的代替的コミュニケーション全国リソースセンターが立ち上げられたが、この施設による成果や影響に関する報告がない。
  • ICTにおけるアクセシビリティに関しては成果が出ていない。
  • 手話通訳者の数は国全体で300人に満たない。
  • 中央中等教育局(Central Board of Secondary Education; CBSE)による点字、手話、代替コミュニケーションシステムの教育は障害のある児童向けにしか公開されていない。
  • 情報放送省(Ministry of Information and Broadcasting)によるテレビのアクセシビリティ向上の取組は遅々として進んでいない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の点について情報提供を求めた。

  • 手話を公用語の1つと認めるための立法上及び行政上の措置、また有資格手話通訳者の利用可能性を向上させるための措置。
  • 官庁間で用いる文書・情報が、利用可能な形式や方法、通信形態(点字、手話、平易な言語を含む)で提供されること、またインターネットでの情報サービスが障害者に利用可能であることを確保するための取組。
  • 国のユニバーサル電子技術アクセシビリティ政策(2013年)実施の進捗状況。
  • すべての州・連邦直轄領・農村部地方自治体において、補助的代替的コミュニケーション全国リソースセンターのサービスを監視し、向上させるための措置。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者権利法では、点字等とともに手話がコミュニケーションの手段として認識されている。
  • インド手話の促進のため、政府はインド手話研究研修センター(Indian Sign language Research and Training Centre;ISLRTC)を立ち上げた。この施設は手話通訳者の研修講座も開講しており、政府組織の研修にも使われている。手話辞書も開発しており、オンラインで参照可能となっている。

 総括所見において、委員会は次の勧告を行った。

  • 手話を公用語として認め、研修を提供するよう公的な資源を割り当てること。裁判手続、保健、教育、レジャー、宗教、文化的サービスにおいて、手話通訳の利用を拡大すること。
  • 国際的に認められているアクセシビリティ基準を考慮して、すべての障害者が、補助的、代替的コミュニケーション、わかりやすい版、平易な言語、触覚を使った意思疎通、利用可能なデジタルインターネットベースのサービスを使用し、あらゆる公的な情報及びサービスにアクセスできる状態を確保すること。
  • アクセシビリティ要件を遵守しないことに対する制裁を取り入れた、国内共通の放送立法を実施すること。
第24条 教育

 第24条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 2009年に制定された、インドにおける無料の義務教育の権利に関する法律(The Right to Free and Compulsory Education Act of India)では、障害のある児童を含むすべての6歳から14歳までの児童に質の高い教育を受ける権利を保障しており、法律上では差別も意識している一方で、少数民族等のマイノリティの児童の受ける複合差別には言及していない。
  • 障害者の38%が字を読むことができず、障害のある女性ではその割合が55%に増加する。また、都会の障害者の識字率は農村に住む障害者よりも高い。
  • 障害のある児童のインクルーシブ教育に取り組む学校は全体の21%である。
  • 障害者権利法はインクルーシブ教育について規定しているが、特別支援教育制度がより一般的である。
  • インクルーシブ教育に対応する教員の中で、2週間以上の研修を受けた者は1%である。
  • スロープを設置している学校は全体の44%に上るが、それ以外のアクセシビリティ確保のための設備設置割合は低い。
  • 点字の書籍は全体のうち7%の学校にしか所蔵されていない。
  • 複数の障害のある児童、精神疾患のある児童の半数が教育を受けることができない。知的障害のある児童が最も教育を受けておらず、インドの教育が依然としてIQに基づいていることを表している。
  • 相当数の特別支援学校が障害者エンパワメント庁による財政支援を受けているが、その成果等に関する調査研究がなされていない。
  • オンラインでの学習コンテンツにかなりの予算がつぎ込まれているが、それらはアクセシビリティが考慮されていない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の点について情報提供を求めた。

  • 国のインクルーシブ教育を効果的に実施するための戦略(具体的な時間枠、それを支える予算割当てを含む)。
  • 初等・中等・高等教育において個別支援付きでインクルーシブな普通教育に在籍している障害学生の数と割合(学生人口全体との比較で)、また障害者の退学率の高さ、また識字率の低さに対処するための措置(特に、マイノリティ集団、指定カースト、指定部族に属する障害者、また障害のある女性、知的障害のある児童について)。
  • インクルーシブで障害者が利用可能な学校設立のための、またインクルーシブ教育の手法に関する教育機関の教職員向け研修のための、さらに障害者が利用可能な教材・教育手法とコミュニケーション方式を提供するための戦略と予算。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • インドはすべての人に向けたインクルーシブで質の高い教育に重点を置いており、主流ではないグループの識字率を向上させ、教育へのアクセスを促すための様々な措置を講じている。女性、指定カースト、指定部族、その他社会的に後れをとっている階級を対象とした政府奨学金に加え、障害者を対象とした留学を含めたあらゆる教育段階における奨学金も開始された。
  • インド政府の立ち上げたサマグラ・シクシャ計画は、就学前教育から第12年次までのすべての段階において、インクルーシブで質の高い教育を確保するためのプログラムである。このプログラムでは初等前教育から後期中等教育までの連続体としての学校を謳っている。
  • 障害者権利法では、政府及び政府が支援する高等教育機関で、一定以上の基準と認定された障害のある入学候補者の枠で5%以上を占めるという規定がある。

 総括所見において、委員会は一般的意見第4号に従い、持続可能な開発目標のターゲット4.5及び4.aを考慮し、次の勧告を行った。

  • 障害のある学生のためのインクルーシブ教育の実施を確保する措置を講じ、障害者における非識字率を低下させる取組を強化すること。
  • 障害のある児童、とりわけ、ハンセン病患者・回復者である児童とインターセックスの児童に対する拒絶、スティグマ化、いじめを防止するための措置を講じること。教育へのアクセスを確保するための規則を見直すこと。障害の固定概念(ステレオタイプ)と戦うキャンペーンを実施すること。差別の事案で、苦情申立ての仕組みと制裁を確立すること。
  • 農村部において、障害のある児童が利用可能な学校を建設し、維持するために、持続可能な人的資源、財源を確保すること。
  • 物理的環境、入学手続、教育資源と方法論、学習のためのオンラインプラットフォーム、そして教室と交通手段を含む学習環境が、障害のある児童にとって、利用可能で安全であることを確保すること。すべての教育レベルにおいて、教室での手話通訳、補助的、代替的コミュニケーション、わかりやすい版の提供及び利用を確保する措置を採択すること。
第29条 政治的及び公的活動への参加

 第29条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 障害者権利法では投票におけるアクセシビリティ規定がなされているが、裁判所によって「精神的不健全(unsound mind)」の認定がなされた場合は投票の権利が奪われる。複数の州法が「精神的に不健全な者」及び「聾唖者(deaf mute)」が選挙に立候補することを妨げている。
  • インド選挙委員会(Election Commission of India; ECI)が選挙におけるアクセシビリティに関する取組を行っているものの、全国的な実施は進んでいない。情報アクセシビリティの欠如のため、聾者、盲人や複数の障害のある人は政党マニフェストや選挙資料、投票用紙等が扱えず、選挙から排除されている。
  • インド選挙委員会のウェブサイトは障害者のためのアクセシビリティが欠如している。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下について情報提供を求めた。

  • 憲法やその他法令における障害者の政治的生活での参加を制限する規定廃止のための計画。
  • すべての選挙過程を障害者が利用可能にするための計画(利用可能な形式や方法、通信形態での選挙関連情報の提供を含む)。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者が国会議員や衆議院の選挙で立候補することは法で禁じられていない。
  • 障害者が選挙手続にアクセスできるよう、インド選挙委員会は様々なアプローチを行っている。2018年には選挙への参加を障害者にとって利用可能なものにするため、障害者が利用可能な選挙を宣言した。これについては関連する省庁を交え、障害者団体や非政府組織等と意見交換(brainstorming)を行っている。この結果、障害者の参政権の行使に関する意識向上のための取組が様々なメディアを通じて行われた。
  • インド選挙委員会は利用可能な選挙の戦略枠組みに基づいた介入や政策における枠組みを策定するため、障害者が利用可能な選挙に関する国家諮問委員会(NACAE)の立ち上げを行った。構成員は様々な政府機関、メディア組織、市民社会、学者等で構成されている。これに加え、障害者を考慮に入れた選挙やバリアフリー環境、選挙管理官の研修を確保するために、障害者が利用可能な選挙に関する州及び連邦管轄領監視委員会と地域監視委員会を立ち上げた。
  • 障害者エンパワメント庁は、インド選挙委員会とのスムーズな協力を行うため、選挙課を創設した。選挙課は州及び連邦直轄領の選挙管理責任者との調整を行う基幹的な位置付けとなっている。

 総括所見において、委員会は以下のように勧告した。

  • すべての障害者の投票権、被選挙権を制限する憲法及び法律規定を改正し、積極的優遇措置等を通じて、すべてのレベルの政治活動、公的な意思決定過程への障害者の参加を促進すること。
  • 2015年の南アジア選挙管理機構フォーラム第6回会議の決議を考慮して、障害者団体と協議し、物理的環境、情報環境を含めて、選挙手続のアクセシビリティを確保すること。
第31条 統計及び資料の収集

 第31条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 統計・プログラム実施省(the Ministry of Statistics and Programme Implementation)は社会経済的なテーマで様々な調査を行っているが、障害者を1つのグループとして捉えた調査を実施していない。
  • 障害者に特化されたプログラムで収集されている統計情報でも、障害種別やジェンダーでの分類が欠如していることがある。
  • 障害者権利法では、調査とデータに関する規定があるが、国際的な比較に耐えうるデータ収集を行うための規定は存在しない。
  • 2011年国勢調査では、障害の定義が不明確なために、全国の障害者の統計に重大な不整合が発生した。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下について情報提供を求めた。

  • 次回国勢調査にワシントン・グループの障害についての短い質問集に従った問いを含めることを確保するため、また障害者に関して、質が高く、適宜の信頼できるデータの入手可能性を向上させるための措置。
  • データ収集の全過程において、また障害関連統計データの普及において、プライバシーの尊重を確保するための措置。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 正確なデータに基づく障害者データベースを作成するため、政府は障害者識別プロジェクトを実施している。障害者識別プロジェクトのウェブポータルでは障害者認定証明書の発行も行っており、障害者の包括的な情報の電子化に寄与している。動的かつリアルタイムなデータベースで、地域、カテゴリ、年齢、ジェンダー等で分類されている。
  • 認定を受けた者の情報のみがデータベースに含まれるため、情報の信頼性が高く、政策立案者や調査員、プログラムの運営者や研究者の利用に耐えうるものとなっている。
  • 2021年に予定されている国勢調査は、障害種別ごとの信頼性のあるデータを提供できるものとして計画されている。障害者に関するデータ生成を目的とした、標本世帯を対象とした調査が行われている。

 総括所見において、委員会は持続可能な開発目標のターゲット17.18を考慮して、障害に特化したデータ及び障害を含めた主流データの両方のデータ収集を確保し、障害者の人口に関するデータを収集、分析、分類するために、障害者団体と協力して、ワシントン・グループの障害についての短い質問集の方法論に依拠するよう勧告した。データの分類はジェンダー、年齢、民族、障害、社会経済的地位、雇用、直面した障壁、居住地に基づき、障害者に対する差別や暴力の事案のデータも含めるべきであるとした。

第33条 国内における実施及び監視

 第33条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 障害者エンパワメント庁は、その他の政府機関との調整を十分に行っておらず、政策や計画、プログラムの設計に当たり障害者団体と協議していない。
  • 障害者権利法では、あらゆる委員会で障害のある構成員の人数を増加させる規定があるが、実現できていない。
  • 障害者権利条約の実施を監視する独立した仕組みが立ち上げられていない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下に関する情報提供を求めた。

  • 障害者エンパワメント庁及び中央・州調整委員会が、障害者権利条約実施のために、様々な部門、各レベルの政府とどのように協力しているか。また、それに関する(2つの機関による)実績と課題。
  • 条約実施を監視する独立した監視の仕組み(パリ原則に則るもの)設置のための措置、またそれに関連する障害者主任委員の役割。
  • 障害者権利条約実施の監視過程における、障害者を代表する団体を通じた、障害者の完全かつ効果的な参加を確保するための措置。

 これに対し、インド政府は次のように回答した。

  • 障害者権利法に沿って設置された障害に関する中央諮問会議は、すべての州及び連邦直轄領の大臣レベル、すべての関連する省庁からの長官レベル、それに加えて障害者団体からの代表者や障害の分野の専門家で構成されている。
  • 中央諮問会議は関係省庁間の調整のための体系的なアプローチに従っている。会議の議題に関する詳細なアジェンダはすべての中央省庁で回覧され、特定の領域に関する問題は、それに関連する省庁、州等の代表が個別に扱う。
  • 障害者権利法は、障害者主任委員が障害者権利法の規定の実施を監視し、州レベルでは障害者州委員が監視を行うことを定めている。

 総括所見において、委員会は以下の勧告を行った。

  • 障害者権利条約の効果的な実施のため、締約国及びすべての部門のあらゆるレベルで、諮問の役割を超えて、中央諮問会議を強化し、障害に関する中央連絡先の調整を確保する措置を講じること。
  • 障害者権利条約第33条(2)の下で、国及び州の人権委員会が独立した監視の仕組みの一部である状態を確保し、その任務を達成するため、技術的、人的、財政的支援を提供すること。締約国は、独立した監視の枠組みを設計する際に、独立した監視の枠組みと委員会の取組への参加に関するガイドライン(CRPD/C/1/Rev.1, annex)を考慮するべきである。
  • 障害者代表団体を通じて、障害者による、障害者権利条約の実施監視への効果的な参加を確保すること。

47 Centre for Sustainable Use of Natural and Social Resources (CSNR) and Minority Rights Group International (MRG)によるパラレルレポート(for LOI) p. 1.
48 https://samarthanam.org/about-us
49 Global Initiative to End All Corporal Punishment of Childrenによるパラレルレポート p. 1.
50 National Centre for Promotion of Employment for Disabled People (NCPEDP)によるパラレルレポート(for LOI) p.1.
51 National Centre for Promotion of Employment for Disabled People (NCPEDP)によるパラレルレポート(for LOI) p.1.
52 National Centre for Promotion of Employment for Disabled People (NCPEDP)によるパラレルレポート(for LOI) p.1.
53 National CRPD Coalition-Indiaによるパラレルレポート(for LOI) p. 5.
54 Women with Disabilities India Networkによるパラレルレポート(for Session) p. 6.
55 Human Rights Watchによるパラレルレポート(for Session) p. 1.
56 ILEPによるパラレルレポート(for Session) p.1.
57 Srishti MaduraiとNNIDによるジョイントレポート p. 2.
58 Srishti MaduraiとNNIDによるジョイントレポート p. 2.
59 ハジとはイスラム教のメッカ巡礼のことを指す。(デジタル大辞泉 2016年4月更新版による)
60 政府回答第18項
61 デジタル大辞泉(2016年4月更新版)によると、スティグマとは、恥辱、汚名、負の印を指すとされている。一方、東京大学と国立精神・神経医療研究センターの共同研究発表「精神疾患の生物医学的知識は、スティグマ(差別・偏見)の軽減に役立つか」の資料( https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/files/20191122sobunkoikeojio01.pdf )によると、スティグマ(Stigma)は「日本語では、差別や偏見と訳される」とされている。

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