1 国外調査 1.8.2

1.8 エストニアにおける合理的配慮・環境整備と国連障害者権利委員会審査状況

1.8.2 エストニアの政府報告の国連審査状況

(1)審査プロセスの現状

 エストニアは、障害者権利条約と選択議定書を2012年5月に批准した173。その後、2015年12月に政府報告を国連障害者権利委員会に提出した。さらに事前質問事項が2019年5月、事前質問事項への政府回答が2019年12月に出されている。
パラレルレポートは、2件提出されている。国家人権機関が作成したパラレルレポートは2019年12月に提出されており、エストニア障害者会議が作成したパラレルレポートの提出日は不明である。

(2)主な論点

 以下では、パラレルレポート2件と、事前質問事項、それに対するエストニア政府の回答から論点をまとめる。
 国家人権機関が作成したパラレルレポートは条文別にまとめられたものではないが、アクセシビリティに関する論点が中心となっており、第9条、第21条、第24条、第29条を対象としている。

第1~4条 一般的義務

 エストニア障害者会議が作成したパラレルレポートでは、第4条についてのみ、次のような指摘がなされた。

  • 行政改革、国家改革、就労能力改革が進行中だが、障害者の状況がどの程度変化したかについてはまだ明らかになっていない。
  • 意思決定過程における障害者団体の関与はかなり改善されており、彼らが諮問過程で発言することも増えているが、彼らの意見は必ずしも考慮されるというわけではない。
  • 障害者団体が国家と対等な関係を築こうとすると、法的能力や時間、財政的資源の欠如の問題にぶつかることが多い。
  • 障害者団体と協力し、幅広く協議した上で、包括的で現代的な、障害者権利条約に基づく国家レベルの戦略や行動計画を起草すべきである。
  • 建築家、インテリアデザイナー、都市景観プランナー、建設業者、サービス及び製品デザイナー等の領域における専門家に対して、アクセシビリティやユニバーサルデザインに関する教育研修を確保すべきである。
  • 国家レベルと地方自治体レベルで、同じやり方で意思決定過程への関与のベストプラクティスを観察するべきである。
  • 障害者団体の持続可能な機能及び発展を支援すべきである。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の事柄に関する進捗状況の報告を求めた。
 (a) 条約に沿った障害者の権利を実施するための国家戦略の策定。
 (b) 条約の遵守に関する詳細を規定している、2016年から2023年までの期間の社会的保護、包容及び機会の平等に関する開発計画の一部としての、障害者の権利の保護に関する計画の採択について。
 (c) 就労能力改革の採択並びにその予想される成果について。
 (d) 新しい法律や政策の策定における、知的障害者を含む障害者団体の効果的かつ広範な関与の確保。
 (e) 条約で認められている権利に関する、裁判官、検察官、医療及び健康の専門家、教員、障害者と働くソーシャルワーカーを含む、国家及び地方自治体レベルでの政策立案者及び専門家の研修の促進。

 (b)(c)に関して、委員会は条約の遵守に関する詳細な情報も同時に求めた。
 以上に対し、エストニア政府は次のように回答した。
 まず、(a)及び(b)について、以下のとおり回答した。

  • 条約の原則に沿う障害者の権利の向上を主流に取り入れた開発計画や戦略は複数あるが、福祉開発計画2016-2023(the Welfare Development Plan 2016-2023)が最も関連性が高い。
  • 福祉開発計画には4つの目標が含まれているが、その1つでは社会福祉サービスのアクセシビリティや質の改善、人々を社会に包容するサービスの開発、基本的人権及び自由の保護に焦点が合わせられている。

 次に、(c)について、エストニア政府は改革の内容とその結果ついて、以下のとおり回答した。

  • 2016年に立ち上げられた、就労能力を支援するための新しい制度は、就労能力の評価方法及び補助金制度、並びにエストニア失業保険基金(Estonian Unemployment Insurance Fund)の提供する一連のサービスを刷新するものである。
  • この制度は、障害者への個別のアプローチや障害者各人のケースマネージメントに基づいており、職業の検索に当たって精神保健に関する問題も考慮されている。
  • 財務省(the Ministry of Finance)による試算によると、新制度下においては、旧制度を継続した場合と比較して、2022年までの就労者が1万9,100人増加し、積極的な求職活動を行う人が1万6,400人増加する。
  • 労働市場参加において、極めて肯定的な効果が既に出ており、障害者や特別な支援を必要とする人に対する社会の認識が向上している。

 さらに、(d)について、エストニア政府は以下のとおり回答した。

  • 「良い法律を起草するための規則及び法律の草案のための技術的規則」という規則を制定し、その中で利害関係を有するグループや公衆を、法律や政策計画、議院法の起草に当たっての趣旨書の準備に関与させることを規定した。利害関係者グループの関与に当たっての調整は、「参加のグッドプラクティス」に沿って行われる。
  • 「参加のグッドプラクティス」は、障害者を含む利害関係者グループや公衆を意思決定過程に携わらせることを政府に対して要求するものであり、こうしたグループが参加するに当たっての指針を規定している。
  • 「eコンサルテーションシステム (e-Consultation System) 」では、草案や手続にアクセスし、意見を提出することができる。草案に対するフィードバックは、段階を追ってインターネット上に公開される。
  • エストニア議会は、法案起草のガイドラインを発行しており、ここでも利害関係者の積極的な参加や、一般公衆との活発な協議が求められている。

 最後に、(e)に関して、エストニア政府は以下のとおり回答した。

  • 2019年から2023年までの間の政府の活動計画は、特別な教育上のニーズのある児童に教育を施すための一般的な教育学的(pedagogical)、心理学的及び教授的助言を含んだ専門的なカウンセリングを教員に行うことを確保すること、児童の居住場所や特別な教育上のニーズにかかわらず、児童のための支援サービスのアクセシビリティや質を確保するために、健康、社会及び教育との協力を改善することといった目標を置いている。
  • インクルーシブ教育は、教員、ティーチングチームや学校運営者向けの現行の研修プログラムにおいて、中心的な優先事項の1つとなっている。
  • 初級の教職課程の選択科目の1つには、特別な教育上のニーズのある学習者を支援するスキルがあり、これは教員の専門的基準の一部にもなっている。
  • 最高裁判所は、就労能力改革を2019年に判断するための研修と、精神障害者のヒアリングを企画している。2020年には、司法上の研修プログラムが、法精神医学(forensic psychiatry)及び法科学(forensic science)に関する研修、非公開の児童介護サービス、閉鎖施設に人を配置することに関する社会福祉サービスを含む予定である。

 次に、国連障害者権利委員会は、以下の事柄に関する情報提供を求めた。
 (a) 「異常」、「精神損傷」等の差別用語や、「就労不能」の概念を、すべての法律及び政策から排除し、そのような用語を障害の人権モデルに基づいた言語に置き換える措置。
 (b) 障害の評価基準と障害評価の仕組みを条約の目的に合わせる措置。
 (c) 条約を遵守したユニバーサルデザインの促進と実施のための立法措置を採用する措置。

 これに対し、エストニア政府はそれぞれの項目について次のように回答した。
 (a) 社会事業省及び法務省は、国内法における差別用語の問題をこれから数年のうちにまとめ、それらの用語を障害者権利条約に沿って改訂することを決定した。
 (b) 障害者のための社会利益法第2条第1項及び平等待遇法第5条で障害を定義しており、これらの定義は障害者権利条約と一致しない部分がある。実践では、様々な文脈の中で多様な表現が用いられている。調査によると、「活動制限(activity restriction)」「長期の健康的欠損(long-term health loss)」といった表現が条約に定義された状態を描写する際に使用されている。また、2019年に、障害評価構造に関する分析が行われ、その結果に基づく取組やその結果に依拠した政策の変更が、長期間の介護改革の枠組みの中で進められる予定である。
 (c) 2018年に、起業・情報技術省(the Minister of Entrepreneurship and Information Technology)が、障害者の特別なニーズに関係する建物の詳細な要件を規定する規則を施行した。その法律の適用に関する監督は、消費者保護・技術調整局(Consumer Protection and Technical Regulatory Authority)が行っている。また、起業・情報技術省は、「生活領域における要件(Requirements set on living space)」を補完する規則も施行している。この規則の目的は、生活領域のアクセシビリティを改善することであり、少なくとも4階以上の建物にエレベーターを設置することを要求している。この要件は、2019年8月1日から実施される建設計画に適用されている

第5条 平等及び無差別

 エストニア障害者会議のパラレルレポートでは、次のような指摘がなされた。

  • 雇用の領域だけでなく、教育や社会保障、サービスの提供をはじめとした広い領域で障害者に対する差別からのより広い保護を提供し、合理的配慮を法的要件とするよう平等待遇法の改正の提案を何年も続けているが、未だ改正されていない。
  • 差別が生じた場合に、障害者が平等待遇機関に苦情を申し立てられるように平等待遇法を改正すべきである。
  • 教育、就労、健康を含むすべての生活分野における障害者の状況を科学的に位置付ける研究及び分析を実施すべきである。
  • 意識向上のために、障害者の様々な差別事案とその状況分析を公表すべきである。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の事柄について情報提供を求めた。
 (a) ジェンダー平等法、平等待遇法及びその他すべての既存の差別禁止立法に関する情報、及びそれらがすべての部門及び生活分野にわたって、複合・交差差別を含む、障害に基づく差別の明示的な禁止を含むかどうかについての情報。
 (b) 障害を理由とするあらゆる形態の差別を防止し、調査及び制裁を行うために採用された措置に関する情報。
 (c) 現在、国内政策及び法律で用いられている合理的配慮の概念の実施の範囲及び段階に関する情報。
 (d) 合理的配慮の否定が、無差別の法案を含む法律のすべての分野で禁止された差別形態として、明白に認識されているかどうかに関する情報。
 (e) ジェンダー、年齢、特定された障壁、差別が発生した部門ごとに分類された差別の申立て件数と割合に関する統計及び制裁に至った事案の数と割合に関する情報。

 これに対し、エストニア政府は、 (a)に関して次のように回答した。

  • ジェンダー平等法の目的は、エストニア憲法に示されている男女の平等待遇を確保することで、ジェンダーに基づく直接差別と間接差別を定義し、禁止している。
  • 平等待遇法の目的は、国籍(民族出自)、人種、肌の色、宗教又はその他の信条、年齢、障害又は性的指向に基づく差別からの保護である。その適用範囲は事由によって異なっており、障害に基づく差別は雇用及び職業訓練において禁止されている。現在、適用範囲を社会福祉や社会保障、保健、教育領域、住居を含む製品やサービスの提供にまで拡大するための改正手続を準備している。

 (b)に関して、エストニア政府は、次のように回答した。

  • ジェンダー平等及び平等待遇委員が、公共及び民間領域における平等待遇法とジェンダー平等法の遵守を監視している。
  • 障害者権利条約の第33条(2)に示されている条約実施の促進、保護、監視の義務に関して、2019年1月1日からは公正長官が負うことになった。

 (c)及び(d)に関して、エストニア政府は次のように回答した。

  • エストニア労働安全衛生法第10条は、障害のある労働者の業務、業務機材及び作業場は、彼らの身体的及び精神的能力に適合させなければならないと規定している。
  • 雇用者は、障害者が雇用に応募すること、参加すること又は職場で昇進すること、あるいは研修を経験することを可能にするために、雇用者に過度な負担を課すものではない限り、個別の事案で必要とされる適切な措置を講じる義務がある。
  • 労働者は、本人や他者の健康を危険にさらす業務、あるいは、環境上の安全要件を満たしていない業務の遂行を拒絶する権利や、その遂行を停止する権利を有する(エストニア労働安全衛生法第14条)。
  • ジェンダー平等及び平等待遇委員は、平等待遇法の遵守を監視し、差別を主張する人による申立てに対して意見を述べる。原告は、その意見を、裁判あるいはほかの法的手続に使用できる。

 (e)に関して、エストニア政府はジェンダー平等及び平等待遇委員の事務局による統計、及び、法務省事務局の統計の一部を紹介した上で、次のように回答した。

  • 委員会は、制裁を科すことはできないが、意見を提出することができる。
  • 公正長官事務局による統計によれば、申立ての件数は増加しているものの、障害であることを申立て人が申告していない事案があるため正確な数字は把握していない。
  • 障害者権利条約に言及した最高裁判所判決はこれまでに存在しない。
第6条 障害のある女子

 第6条に関しては、エストニア障害者会議の作成したパラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • エストニアには、障害のある女性の状況に取り組む法律や、国家政策がない。障害のある女性に対する差別を申し立てる際に根拠となる国内法がなく、障害者権利条約を根拠にするしかない。
  • 市民社会組織の取組の1つとして、家庭内暴力を受けた女性のための避難所がある。こうした避難所は障害のある女性も受け入れているが、そのうちのほとんどが移動障害のある女性にとって利用可能でない。
  • ロシア人の女性がより仕事を得にくいことから、ジェンダー、障害、国籍に基づいた複合差別が起こっていると考えられる。
  • 障害のある女性は、労働市場において最も脆弱で、また、仕事と家庭の両立でより困難を感じている。
  • 複合差別の概念は法律でも取り入れられておらず、メディアでも十分に議論されていない。
  • 支援を必要とする障害のあるすべての女性が利用できる施設を確保する措置をエストニア全土で導入すべきである。
  • エストニアの障害のある女性の権利の行使に関する研究を行うべきである。
  • 障害のある女性の公平な権利に関する、障害者同士や社会全体における認識を改善すべきである。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下を行うために採用された政策及び措置に関する情報提供を求めた。
 (a) 女性と女児に対する周辺化、交差的な形態の差別につながる要因への対処等、障害のある女性と女児の権利を保護する措置。
 (b) 積極的差別是正措置プログラムに関する情報を含めて、障害のある女性と女児の完全な発展、前進及びエンパワメントを確保する措置。
 (c) 積極的差別是正措置プログラムに関する情報を含めて、意思決定機関における、障害のある女性の数を増加させるための措置。

 これに対し、エストニア政府は(a)に関して次のように回答した。

  • 女性支援センターの提供する一時宿泊所は、年齢、宗教、国籍、民族、性的指向、健康状態、及び社会的立場にかかわらず、暴力の被害を受けているすべての女性及びその女性と一緒にいる児童にとって利用可能でなければならない。
  • 障害のある女性は、自宅又は公共の場でカウンセリングを受けることができる。あるいは、地方自治体の社会福祉サービス部門が、障害のある女性にとって利用可能なカウンセリングルームの手配に協力する。
  • エストニアにある15の避難所のうち、障害のある女性に特化して作られたものは1軒だけである。部分的にアクセシビリティが確保された避難所も複数あるが、そうした措置がまったくなされていない施設もある。
  • 障害のある女性を含むすべての女性は、地方自治体の社会福祉サービス部門の協力による支援を受けることができる。手話通訳者を利用することもできる。

 次に、(b)に関するエストニア政府の回答は、次のようなものである。

  • 国内の女性支援センターが、身近な相手から暴力を受けたことのある女性を対象に手話を用いた小規模キャンペーンを立ち上げ、非常に好評だった。
  • 2013年から2016年に、ジェンダー平等及び平等待遇委員事務局(the Gender Equality and Equal Treatment Commissioner's Office)が、ノルウェー助成金(Norway Grants)を得て行ったプロジェクトの枠組みの中で、障害を含む複数の差別事由に焦点を合わせた、平等待遇原則に関する情報提供資料が出版された。さらに、ジェンダー差別及び複合差別の被害者になりやすい、マイノリティの集団や脆弱な社会的集団に焦点を合わせた、エンパワメントによるジェンダー平等、意識向上、及びジェンダーの主流化を促進するプロジェクトを実施した。
  • ノルウェー助成金の援助を受けて、障害のある女性の権利の面で支援センターの質を改善するための指針が2020年から2022年に開発される予定である。この事業はエストニア女性障害者協会(Estonian Association of Disabled Women)との協力の下で行われる。

 最後に、(c)に関するエストニア政府の回答は、2019年春に政策研究のための実践センターによって行われた「女性に力を与える("Nudging Women to Power")」という22か月計画の説明であるが、この計画は、障害のある女性を特に対象としているものではなく、女性一般を対象としたものである。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 第9条に関して、国家人権機関が作成したパラレルレポートでは、障害者が利用可能な公的機能を果たしている施設の数の全体像が把握できておらず、そのため、障害者の権利がどの程度確保されているのかに関して、信頼できる総合的な報告と統計がない点が指摘されている。これに加えて、公共交通機関のアクセシビリティ、及び社会福祉サービスに関する指摘がなされている。
 まず、公共交通機関のアクセシビリティについては以下のような指摘がなされた。

  • 公共交通法は、バスに関して、公共事業団体にも民営団体にも障害者が利用可能なバスの調達を義務付けていない。
  • 鉄道が計画的に運休する場合、バスによる振替輸送がなされるが、そのバスの車両は車椅子の人にとって利用可能ではない。
  • 定期及び不定期の輸送に関する調達規則には、バスのアクセシビリティ要件が含まれておらず、このために、アクセシビリティの確保されたバスの供給が発達しない。
  • 公共交通機関のアクセシビリティを向上させる仕組みが国内に存在しない。すべての交通機関に対して強制力のあるアクセシビリティ要件を課すべきである。

 次に、社会福祉サービスについては以下のような指摘がなされた。

  • 社会福祉サービスの組織が依然として複雑であり、障害者が必要なサービスを受けられず、社会生活に参加できない。

 エストニア障害者会議が作成したパラレルレポートでは、次のような指摘がなされている。

  • 障害者の権利の保護及び発展に関する国家戦略の枠組みの中で、障害者のすべての集団のためのアクセシビリティ戦略や行動計画を練り上げるべきである。
  • 障害者が公共の場や環境にどの程度アクセスできないかをマッピングし、それらの場所や環境を利用可能にする措置を導入すべきである。
  • 地方自治体レベルのアクセシビリティを監視するための手段、及びその監視のための資金獲得の措置を導入すべきである。
  • 公共交通法を障害者権利条約に適合させるべきである。
  • 各領域の専門家に対し、アクセシビリティやユニバーサルデザインに関する専門的な教育研修の受講を確保すべきである。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の事柄に関する情報提供を求めた。
 (a) 国家交通開発計画2014-2020及び締約国によって実施されているその他のアクセシビリティ方針と規定の進捗状況、結果、及び追跡調査。
 (b) 公共情報法が、交通システム、建物、サービス及び通信システムにおいて、条約に示されたユニバーサルデザインの原則を促進及び実施する範囲。
 (c) 公共部門機関のウェブサイト及びモバイルアプリケーションのアクセシビリティに関する2016年10月26日の欧州議会及び理事会のEU指令第2016/2102号と差別禁止立法を整合させるための、計画済み又は既に実施されている措置、そして、この手続全体を通して、障害者団体と効果的に協議するための措置。

 (a)に関して、エストニア政府は次のように回答した。

  • 2018年に施行された起業・情報技術省による規制は、障害者の特別なニーズに関係する建物及び公道に関する詳細な要件を規定している。
  • 知的障害者の公共サービスのアクセシビリティを高めるために、図書館、地方自治体、スポーツ施設等で平易な言葉の使用を強化するための計画が、エストニアのアクティブ市民基金(Active Citizens Fund in Estonia)を通じ、ノルウェー助成金2014-2021(the Norway Grants 2014-2021)の支援を受けて立ち上げられた。
  • 社会事業省は、エストニア全土の公共輸送の停留所のアクセシビリティを現在分析中である。2020年初めには、必要とされる調整やその費用の概要が明らかになる。
  • 2018年から2022年の間で、社会事業省は、福祉輸送に関する試験的な計画を行っている。福祉輸送の利用者や資金調達モデルに関するより多くの情報を見つけることを目的としており、5つの試験地域のうち4地域では交通機関事業者と地方自治体の協力の下で、福祉輸送サービスが立ち上げられている。

 次に、(b)に関して、エストニア政府は次のように回答した。

  • 公共部門のウェブサイトに関するアクセシビリティ要件は、公共情報法第32条に規定されている。この条文全体は、2018年12月1日から有効である。
  • 観光におけるアクセシビリティに関する様々な啓発活動も行われている。アクセシビリティに関するセミナーの開講や、アクセシビリティに関する研修資料を通じて観光企業を支援している。
  • 欧州アクセシビリティ法が2025年に施行されるのに伴って、障害者のためのアクセシビリティの発展が加速することが見込まれている。

 また、(c)に関して、エストニア政府は次のように回答した。

  • EU指令第2016/2012号は、公共情報法第32条によってエストニアの法律に導入された。EU指令導入に当たってのワーキンググループには、エストニア盲人連合(the Estonian Blind Union)とエストニア障害者会議の代表者が含まれていた。
  • 公共情報法第32条(2)に基づき、起業・情報技術省は、ウェブサイトやモバイルアプリケーションのアクセシビリティに関する要件、アクセシビリティについて記述する情報の公開に関する規則の概要を述べた規定を発行した。
第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 第12条に関して、エストニア障害者会議が作成したパラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 後見制度は被後見人の投票の権利を奪うことができる。
  • 後見人となる近親者がいない場合、地方自治体が後見を行うが、その際のサービスの品質は担当者の知識や能力に左右される。
  • 法的能力の制限を受けている人は、一般的に自分自身の生活条件に関する意思決定に関与できない。
  • 法的能力の制限は限られた範囲にのみ行われるのが一般的とされるが、エストニアの裁判所では、すべての行動に対して制限を行う判決がしばしば下される。被後見人のニーズが考慮されずに判決が下されることもあり、人権に基づくアプローチとはいえない。
  • 代理意思決定モデルから、支援付き意思決定モデルへ変更するための前提条件を構築すべきである。
  • エストニア政府による障害者権利条約第12条の解釈宣言の撤回を検討すべきである。
  • 後見に関するデータを定期的に収集して公表すべきである。
  • 精神保健に問題を抱えた人や、行動に問題のある人が地域社会に参加することについての社会における寛容さを促進するために、精神保健や知的障害についての啓発活動を行うべきである。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の3点について情報提供を求めた。
 (a) 締約国による、障害者権利条約第12条に関する解釈宣言の撤回について研究するために講じられた措置、及びこの点に関する締約国の意向について。  (b) すべての障害者の法的能力を完全に回復し、実施されている代理意思決定制度を支援付き意思決定の仕組みに置き換えるための法律の改正。
 (c) 完全な又は部分的な後見の下にある人の数、並びに、障害者権利条約の批准以降に法的能力を回復した障害者の数。

 これに対し、エストニア政府はまず、(a)及び(b)に対して、以下のとおり回答した。

  • 民法第8条3項の一般条項は、積極的に法的能力を制限するのではなく、特定のレベルの精神障害が後見をつける根拠となり、後見人の指名に当たり制限されると推定している。
  • 後見人は、後見制度によって要請される行動についてのみ指名される。後見の義務には、第三者に対して被後見人の権利を行使することも含まれる。
  • 後見の範囲は常に可能な限り狭いものとなる。このことは、エストニアが障害者権利条約第12条の解釈宣言を撤回する意向がないことの理由でもある。

 次に、(c)については、エストニア政府は、2018年、6万705人の成人(18歳以上)が少なくとも1日以上は後見の下に置かれたが、障害者の公式な人数は識別できないと回答した。

第13条 司法手続の利用の機会

 これまでに提出されたパラレルレポートでは、第13条に関する言及はなされていない。
 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、刑事訴訟法の下での義務に関して、特に、手続上及び年齢に応じた配慮の利用可能性と、障害のあるすべての人の司法制度への効果的な参加を確保するための義務について情報提供を求めた。
これに対し、エストニア政府は次のように回答した。

  • 捜査機関、検察庁、裁判所は、刑事訴訟手続に参加する者の尊厳を辱めてはならない(刑事訴訟法第9章3節)。
  • 精神障害や身体障害を理由に自身の弁護が困難もしくは弁護が複雑である者については、刑事手続の間、弁護人の参加が必要不可欠である(第45章2節2項)。刑事手続を行う機関が適切な研修を受けていない場合は、発話障害、感覚障害、学習障害、精神障害のある未成年者が尋問を受ける際、児童保護官、ソーシャルワーカー、教員、心理学者の関与が必要不可欠である(第70章2節3項)。
  • 身体障害を理由に調書に署名することができない場合、調書に非署名の理由を注記することになっている(第152章4節5節)。
  • 裁判所は、裁判手続の当事者による要請によって未成年を召喚してはならず、公判前手続で録画された未成年の証言を、証拠として提出することを許可してはならない。証人に発話障害、感覚障害、学習障害、精神障害がある場合、弁護人は公判前手続において証人に質問する機会が与えられる(第290-1章1節3項)。
第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 第19条に関して、パラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • サービス提供者との距離、煩雑な事務処理、サービスを希望する待機者の多さ、サービスそのものの認知度の低さ等の様々な理由で、障害者の社会福祉サービスの利用が阻まれている。
  • 障害者団体による研究では、公共交通機関と福祉輸送サービスが、ほかのサービスに到達するための前提条件であることが示されている。とりわけ農村部における最大の障害の1つは、利用可能な移動手段の不足である。地方自治体のソーシャルワーカーによる移動サービスが部分的に提供されているものの、車両の多くは、補助器具を使っている運動障害のある人にとって利用不可能である。
  • 必要なサービスを提供するに当たって地方自治体間で能力の不均衡があり、政府から地方自治体への補助金も不足していることに対して、政府は十分な取組をしていない。
  • サービスがニーズに基づいて提供されていない。
  • 障害者団体はとりわけ、ロシア語話者が排除される恐れがあるとみている。ロシア語による理解しやすい資料や、法制度のロシア語要約を作り上げるべきである。専門家もロシア語ができるとは限らず問題になっている。
  • 地域社会への統合は支援者サービスによって支えられているが、サービスの提供が十分に整備されているとはいえない。
  • 政府の資金による特別支援サービスへの需要は、供給可能量を上回っており、多くの人が待機している。供給不足の主な原因は、不十分な予算にある。さらに、利用者がサービス提供者や提供時間を選べないことにより、障害者がライフプランを構築するに当たって混乱が生じている。こうした要素が、知的障害のある成人の家族に対して不釣り合いな労力を生んでいる。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の3点について情報提供を求めた。
 (a) 障害のあるすべての児童及び成人の脱施設化を確保するために講じられた措置に関する情報、及び障害者が自立して生活する権利を行使し、地域社会に包容されるための、パーソナルアシスタントを含む様々な在宅及び地域社会支援サービスにアクセスできるようにするために講じられた措置。
 (b) 依然として施設及びグループホームで生活している障害者の数、所在地、並びに地域社会の主流のサービスへのアクセスレベルに分類されたデータ。
 (c) 障害者の脱施設化に指定された、欧州構造投資基金の締約国による利用に関する情報。

 これに対し、エストニア政府は、(a)(b)(c)の事前質問事項をまとめて、次のように回答した。

  • 脱施設化は、エストニアにおける最優先事項の1つである。
  • 2013年までに、550世帯が入居できる55棟の家族向け住居が建設された。2014年から2020年にかけて、追加的な投資が欧州地域開発基金から得られる見込みであり、改装や新たな住居の建設が予定されている。
  • 入所者を中心に据えた柔軟な介護サービスの構築を目的とした、特別介護サービスの設計が始まっている。
  • 地域社会生活サービスを利用する特別な支援を受ける者は現在503人いる。2,276人は24時間体制の特別支援を受けている。その一部は6人ずつの小規模グループに分けられた小型施設で生活している。施設の設置場所は一般サービスの利用可能性が考慮に入れられており、新規の施設は町の近くか、市街地に建造される。
  • 2018年の時点で、約1,300人の精神障害者が24時間体制の旧式の施設で特別な支援サービスを受けていた。
  • 欧州社会基金の2014年-2020年計画「労働市場への参加を支援する社会福祉サービス」の枠組みの中で、「障害のある児童の自立支援サービスの開発提供」活動が実施された。同活動の目的は、重度障害のある児童に対する自立支援サービスを開発・提供し、必要だと評価されたすべての人が、保育、移動の支援等のサービスを受けることであった。サービス提供者はすべての州にいる。2018年には1,906人の重度の障害のある児童にサービスが提供され、現在もその数字は増加している。
第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 国家人権機関が作成したパラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • エストニア政府は電子サービスの導入を進めているが、電子化された手続に対する代替手段が用意されておらず、不具合が出た場合に一部の利用者が排除される危険がある。具体例としては、個人認証を行うソフトウェアをバージョンアップしたところ、スクリーンリーダーで正常に読みとれなくなり、視覚障害のある職員が電子サインを行えなくなった事例がある。
  • ほとんどの公的なウェブサイトは、ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG 2.0)に適合していない。情報保護検査局(Data Protection Inspectorate)は、公的なウェブサイト及びモバイルアプリケーションがアクセシビリティ要件を満たしているか確認する義務を新たに命じられた。しかし、貿易情報技術省によると、この義務を遂行するための追加的な資金は投入されていない。

 エストニア障害者会議が作成したパラレルレポートでは、次のような指摘がなされた。

  • 難聴者は、テレビ放送と映画にクローズドキャプションをつけることが急務であると感じている。同様に、教育、雇用、その他の文化的分野において、テキストサービスは不足している。
  • 障害者のための情報、特に障害者の権利に関する情報は様々な組織に分散しており、利用する上での課題となっている。視覚障害者だけでなく、聴覚障害者、知的障害者、エストニア語を母語としない障害者に対しても障壁となっている。
  • 2015年に行われた調査によると、公共部門のウェブサイトのわずか6%のみがWCAG 2.0に適合している。政府機関のうち28%、地方自治体のうち1%がA又はAAを満たしている。AAAを満たしているウェブサイトは存在しない。
  • 言語法は、手話を国の公的言語の1つとして認めているが、社会福祉法は手話に言及しておらず、地方自治体に対して手話通訳の提供を義務付けていない。手話通訳サービスの提供に関する共通の基準がなく、サービスの利用枠には大きな地域間格差がある。通訳者も不足している。
  • タルトゥ大学は、大学レベルの教育における手話通訳の提供を終了した。
  • 情報法の改正による、EU指令の国内法化と公的部門機関のウェブサイトやモバイルアプリケーションのアクセシビリティに関する審議会の立ち上げは、前向きな進展である。
  • 2018年10月2日から、すべての聴覚障害者がスカイプを用いた遠隔手話通訳を週3回まで利用できるようになった。

国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の事柄に関する情報提供を求めた。
 (a) 生活のあらゆる分野において、障害者の手話通訳、クローズドキャプション、わかりやすい版、及び補助的・代替的コミュニケーション手段へのアクセスを確保すること。
 (b) 一般公衆にサービスを提供する民間団体、及びインターネット経由のものを含む、情報を提供するマスメディアが、すべての障害者にとって利用可能な形態及び方式で提供することを確保すること。
 (c) すべての公開ウェブサイトに対してウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン2.0の実施を確保すること。
 (d) 2016年10月26日の欧州議会及び理事会第2016/2102号のEU指令を実施すること。

 エストニア政府は、(a)(b)(c)(d)の事前質問事項をまとめて、次のように回答した。

  • マラケシュ指令による、盲人あるいは視覚障害のある人の利益のための作品利用の無償化を導入するために改正された著作権法が、2018年11月に施行された。
  • 欧州ウェブアクセシビリティ法の国内法化が完了した。
  • 製品、サービスのアクセシビリティに関するEU指令第2019/882号の国内法化は2022年に完了する予定である。この指令による公共部門のウェブサイトにおけるアクセシビリティ要件は、設定された期限までに導入される。
  • 経済通信省は2018年9月以降、ウェブサイトの編集者、開発者やモバイルアプリケーションの開発者に対して、実践的な研修やセミナーを開催している。情報保護検査局は、アクセシビリティ要件について監督する責任を担っている。
第24条 教育

 国家人権機関が作成したパラレルレポートでは、第24条に関して次のような指摘がなされた。

  • 公正長官は、幼稚園及び学校で、特別なニーズのある児童や行動に問題のある児童に必要な環境の創出に関する請願書を複数受理している。
  • タルトゥ大学における障害者教育に関する苦情が公正長官に寄せられ、実際に差別が発生し、特別なニーズのある学生の不利益となっている複数の点が明らかになった。
  • 公正長官は、タルトゥ大学に対し、特別なニーズがある学生に対する学業上の配慮を提供することを提案した。

 エストニア障害者会議が作成したパラレルレポートでは、次のような指摘がなされた。

  • 最終学歴が義務教育か、又はそれ以前となっている障害者は全体の9%で、健常者の約3倍となっている。
  • 障害のある児童の幼児教育へのインクルージョンに関する、信頼できる調査が存在しない。幼稚園には、言語療法士(speech therapists)の深刻な不足がみられ、その他の専門家も不足している。
  • 2018年2月1日から施行された初等学校と高等学校に関する法(Basic Schools and Upper Secondary Schools Act)は、ほどほどの障害のある児童に対するインクルーシブ教育の導入を推進する一方で、重度な障害のある児童が無償で質の高い初等及び中等教育、後期中等教育を得られることを確保していない。国による特別支援教育の義務を廃止したため、国の教育への関与が薄れる一方で、地方自治体の対応能力も不十分なままである。
  • 普通学校ではインクルーシブ教育を提供するために必要な知識や能力を持つ教職員が不足している。特別支援学校で提供されている、視覚障害のある生徒向けに組まれた点字学習等のカリキュラムは普通学校では提供できない。同様に聴覚障害のある生徒に対する手話による初等教育の質は低下しており、手話そのものを教えられる教員の配置にも地域差がある。知的障害のある児童のための教材は欠如している。
  • 障害者の職業訓練の利用可能性は地域によって異なり、多くの場合、教員は障害のある学習者を支援する十分なスキルを持っていない。寮も不足しておりアクセシビリティが備わっていないことが多い。
  • 職業訓練を受けている者に対する国からの手当に、特別なニーズの有無が考慮されるようになった。しかし、多くの場合、支援者やパーソナルアシスタントは障害者には利用できない。知的障害者が参加できる職業訓練は限られている。
  • 高等教育を受ける障害者の割合は健常者と比べて少ない。その格差は特に女性の中で大きい。高等教育機関における、障害のある学生への情報、物理的環境のアクセシビリティは不十分である。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、インクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見第4号(2016)に言及し、以下の点について情報提供を求めた。
 (a) 特別な分離された学校環境を、個別の支援が伴うインクルーシブな教育環境に移行し、普通学校教育制度をインクルーシブなものにするための戦略あるいは行動計画を含む、障害者のためのインクルーシブ教育の権利を確保するための措置に関する情報。
 (b) 特別支援教育学校に通う障害のある学生と自宅で教育を受けている学生に関する、障害種別、ジェンダー、及び年齢に分類されたデータ。
 (c) 職業訓練及び高等教育を含む、すべてのレベルで普通教育制度に登録されている障害のある学生に関する、障害種別、ジェンダー、及び年齢に分類されたデータ。

 これに対して、エストニア政府は詳細な回答をしている。まず、(a)に関して、エストニア政府は以下のとおり回答した。

  • 2018年、初等学校と高等学校に関する法を改正し、学校側が生徒の個人的なニーズを整理し、支援制度を実践する機会を拡大した。改正には、教員の給与の引き上げ、生徒への支援による支出への助成、特別支援学級の解体、学級の定員制の廃止等が含まれる。学校は、学習目標に対して遅れをとっている生徒に一般的な支援を提供する。支援の内容は医学的な症状や障害種別によってではなく、生徒のニーズに応じて決められる。支援を必要とする児童への教育計画は国が監視を行う。
  • 2019年9月以降、生徒が以前に在籍していた教育機関が「エストニア教育情報システム(Estonian Education Information System)」に入力した、提供された支援内容に関する情報等のデータを次の教育機関が引き継げるようになった。これにより、進学・転校後も、これまで受けていた支援を継続して受けられるようになり、特別なニーズの再検査等によって当事者及びその家族が受けていた負担が減少した。
  • 特別なニーズの定義も変更された。特別なニーズの種類ではなく、複雑な教育上の特定のニーズに即した支援の必要性に焦点を当てたものとなった。総体的な財政計画は、総合的な教育支援措置を実施する学校に対し、より多くの資金を与えるものに変わった。
  • 高等教育法によると、高等教育機関は、受験者の優先的な能力や特別なニーズに基づいて異なる入学要件を定めることになっている。
  • 中程度以上の障害のある学生、及び3歳以下の障害のある児童の親又は後見人には、休学期間中にカリキュラムを終えることが認められている。
  • エストニアでは、特別なニーズのある学生のための奨学金やニーズに基づく控除といった教育支援制度が用意されている。

 次に、(b)及び(c)の事前質問事項をまとめて、以下のとおり回答した。

  • エストニア教育情報システムによると、一般教育を受ける児童のうち、20%が学習上の支援を受けており、14%が一般的な支援、6%が強化支援もしくは特別支援を受けている。
  • 教育研究省は、障害のある学生に関する分類されたデータを収集し、得られたデータに基づき、教育制度を強化するための分析をしている。しかしながら、教育研究省は、この詳細なデータを自由に共有することはできない。
第29条 政治的及び公的活動への参加

 国家人権機関が作成したパラレルレポートでは、第29条に関して次のような指摘がなされた。

  • 2019年に行われた選挙では、公正長官は地方自治体に対して各地の投票所にアクセシビリティを確保するよう要求した。国内選挙サービス(national election service)及びエストニア障害者会議と協力し、特別なニーズのある有権者に対する情報の整備を行った。依然としてアクセシビリティが確保されていない投票所が残っているが、電子投票や在宅投票の有無にかかわらず、すべての有権者に投票所で投票を行う権利を保障するべきである。

 エストニア障害者会議によるパラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • どれほどの数の障害者が投票権を行使しているかに関する入手可能なデータは存在しない。
  • 裁判所により投票権や参政権を否定された者は、投票及び立候補ができない。裁判所が後見人に生活のすべてに対する後見を認めた場合、被後見人は投票権を失う。
  • エストニアにおいて電子投票は広く浸透しているが、介護付き住宅における電子投票が正当かつ透明性が確保された方法でなされているか定かではない。
  • 政治家による公約、選挙プログラム、ウェブページ、印刷された選挙資料等、選挙に関する情報の多くは、様々な障害者、主に視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者に利用可能ではない。
  • エストニアにおいては、多くの投票所は障害者にとって利用可能ではない。障害者は、投票所に行くのか、電子投票を利用するのか、投票箱を自宅に持ってきてもらうのか、決める権利が認められるべきである。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の措置について情報提供を求めた。
 (a) すべての障害者、特に心理社会的又は知的障害のある人に投票権を保障すること。
 (b) 投票環境、投票手続、施設、及び資料の完全なアクセシビリティを確保すること。
 (c) 障害者、特に障害のある女性が、選挙に立候補し、当選し、効果的に就任し、政府のあらゆるレベルで公的な役割を果たすための措置を採用すること。

 エストニア政府の回答は、(a)(b)(c)の事前質問事項をまとめて、以下のとおり回答した。

  • 規則上では、投票者は自分自身で投票することになっているが、必要があれば、投票用紙の記入のための介助を受ける権利がある。さらに、国政選挙法(Riigikogu Election Act)は、電子投票において、視覚障害者に対する支援を提供することを義務付けている。
  • エストニアにおける投票所は、起業・情報技術省による「障害者の特別なニーズに起因する構造物の要件」が適用される公的施設内にある。
  • 政府選挙事務所は、特別なニーズがある障害者のための情報をウェブサイトで提供している。その情報には、車椅子やベビーカーの利用者が完全に利用可能な投票所についての情報を含む。
  • エストニアでは、すべての人に電子投票を行う権利がある。国政選挙法第48条5項は、投票用アプリケーションが視覚障害者への支援を提供しなければならないと定めており、視覚障害者が介助者を伴わずに投票する権利を行使できることが条件となっている。
  • 2019年にエストニアでなされた選挙の後、公正長官は、障害者への選挙のアクセシビリティに関する成功事例と不十分な点を確認し、選挙組織の改善のための勧告を幾つか提示した。
第31条 統計及び資料の収集

 これまでに提出されたパラレルレポートでは、第31条に関する言及はなされていない。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、障害の人権モデルに従ったデータ収集ツールを開発するために講じられた措置について情報提供を求めた。
 これに対し、エストニア政府は次のように回答した。

  • 個人からデータを集める際、可能な範囲で障害についての情報に関連させ、可能な範囲でエストニア統計局のデータベースに公開されている。
  • 社会事業省は、障害のある児童や障害者がいる家族に焦点を合わせた調査を行っている。これらの調査は、様々なサービスの利用や発生した問題についての特定の情報を得るために行われている。
第33条 国内における実施及び監視

 第33条に関して、エストニア障害者会議によるパラレルレポートでは次のような指摘がなされた。

  • 社会事業省は、障害者の権利の保障は障害者権利条約が取り扱うすべての分野ではなく、ソーシャルケアの問題であると考えることの危険性を主張しており、このために、より包容的なアプローチやすべての人に対する機会均等が妨げられているとしている。
  • 障害者権利条約の締結から約7年経過するにもかかわらず、障害者に関する問題を解決し、調整をする委員会の創設がなされていない。
  • 独立した監視の仕組みはパリ原則に準拠していない。
  • 障害者権利条約実施の監視にかかわるために、エストニア障害者会議は研修等を通じて障害者の権利を代表する能力の向上に努めたが、独立した監視の仕組みの設置が遅れ、設置までに能力の維持ができなかった。
  • 障害者と障害者を代表する団体が監視過程に、どのように、どの程度関与するか不明確なままである。

 国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の3点について情報提供を求めた。
 (a) すべての部門及び生活分野にわたる障害者権利条約の規定の主流化のために、条約の実施を調整するための中央連絡先として指名された、社会事業省の権限及び能力。
 (b) 公正長官が、障害者権利条約の実施のために、独立した効果的な監視の仕組みとして行動するための能力、並びにこの目的のために割り当てられた予算について。
 (c) 障害者権利条約の実施の監視過程に、市民社会、特に障害者とその代表団体を完全に関与させるために、具体的な予算配分を含む、実施されている仕組みと採用された措置。

 これに対し、エストニア政府はそれぞれの項目について次のように回答した。
 (a) 社会事業省は、関連する省庁、民間団体、障害者を代表する団体等の様々な当事者が一堂に会するアクセシビリティ審議会を支援しながら、アクセシビリティの推進、調整に積極的に関与してきた。関連する法規制の展開のための議論も促し、アクセシビリティ基準の制定といった成果も出した。一方で、欧州アクセシビリティ法の交渉にもかかわってきた。
 (b) 2018年6月13日の公正長官法の改正をもって、公正長官が障害者権利条約の第33条(2)に示されている条約実施の促進、保護、監視の任務を担うこととなった。
 (c) 政策立案時に市民社会を関与させ、障害者とその代表団体と協議を行うことは、すべての省庁と政策決定をする政府機関の義務である。条約実施を監視する取組はこれまでの回答の中で紹介しており、第15条、29条、33条に対する回答等を参照してほしい。


173 政府報告第2項、第20項

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