1 国外調査 1.8.3

1.8 エストニアにおける合理的配慮・環境整備と国連障害者権利委員会審査状況

1.8.3 エストニアにおける合理的配慮・環境整備等の実態状況のまとめ

 エストニアは、平等待遇法の適用範囲拡張の検討が進められているものの、現時点では障害者の権利に関する包括的な法律がなく、特に、合理的配慮の否定を差別とする一般的な規定が法律で定められていない点がパラレルレポートで指摘された。また、国連障害者権利委員会は、エストニア政府に対し、合理的配慮の否定がすべての分野で禁止された差別事由として認識されているか否かの情報提供を求めた。この質問に対するエストニア政府の回答では、雇用分野に関する情報が主に示された。

 一方、実施体制に関しては、独立した仕組み設置の遅れによって障害者団体側で生じた弊害と、障害者団体による監視過程への関与についての懸念がパラレルレポートで示されている。国連障害者権利委員会も事前質問事項の中で、具体的な予算配分を含む、障害者とその代表団体を監視過程に関与させるために実施されている仕組みや措置に関する情報提供を求めた。エストニア政府はこの質問の回答として、政府回答の中で障害者権利条約実施を監視する仕組みが複数紹介されている点を挙げている。

 アクセシビリティについては、公共交通機関のアクセシビリティの欠如に関する複数の指摘がパラレルレポートでなされた。国連障害者権利委員会は事前質問事項の中で、エストニア政府が策定した国家交通開発計画2014-2020等におけるアクセシビリティ方針と規定に関する情報提供を求めた。これに対し、エストニア政府は国内の公共輸送の停留所のアクセシビリティについて分析を進めている旨を回答したが、パラレルレポートで問題視されていたバス等の車両のアクセシビリティに関する回答はなかった。また、委員会はEU指令第2016/2102号と差別禁止立法を整合させるための措置に関する質問も行い、これに対してエストニア政府は、当該のEU指令の国内法制化が既に完了しており、ワーキンググループにはエストニア盲人連合とエストニア障害者会議の代表者が含まれていたと回答した。

 エストニア政府による障害者権利条約第12条の解釈宣言に関しては、パラレルレポートで指摘がなされ、国連障害者権利委員会は事前質問事項で、解釈宣言の撤回に関する意向を尋ねた。これに対し、エストニア政府はその政府回答において、法的能力の制限の範囲が限定的であることを挙げ、解釈宣言撤回の意向を否定した。

 エストニアの政府回答からは、EU指令の国内法化を完了したことをはじめ、複数の分野で一定の進展がなされていることがうかがえる。その一方で、ここで挙げた諸点に関しては、エストニア政府の回答は国連障害者権利委員会の期待するところと必ずしも一致しておらず、今後の審査の動向を追って行くに当たって注目するべき点であると考えられる。

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