1 国外調査 1.9.2
1.9 ラオスにおける合理的配慮・環境整備と国連障害者権利委員会審査状況
1.9.2 ラオスの政府報告の国連審査状況
(1)審査プロセスの現状
ラオスは、2009年9月に障害者権利条約を批准し、2016年5月に政府報告を国連障害者権利委員会に提出した。その後、事前質問事項が2019年10月に示されている。2019年秋に行われた第12回事前作業部会に先立ったパラレルレポートが、1つの市民社会団体から提出された。パラレルレポートを提出した組織の概要は以下のとおりである。
International Federation of Anti Leprosy Associations (ILEP)
1966年に設立された、ハンセン病に関する活動を69か国で行う13協会の連合体である198
(2)主な論点
以下に、主要な論点を整理するが、ラオスに関しては1つの国際的な市民社会団体から量的にも質的にも厚いとは言い難いパラレルレポートが提出されているのみである。また、現時点では事前質問事項に対する政府回答が提出されていない。そのため、ここでは主に事前質問事項の内容から論点をまとめる。
第1~4条 一般的義務
これまでに提出されたパラレルレポートでは、第1条~第4条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、国内法及び公共政策と、障害者権利条約における概念及び用語の整合性をとるための取組、すべての法令や政策を、医学モデルや慈善モデル(charity models)から、人権モデルに基づいたものにするための措置、障害者に関する法律や政策の策定、実施、監視の際に、障害者と協議する措置について、さらに、選択議定書の批准に向けて進展した事柄について情報提供を求めた。
第5条 平等及び無差別
第5条に関しては、ILEPによるパラレルレポートで、次のような指摘がなされた。
- ハンセン病の歴史的経緯から、多くの国はハンセン病に対して差別的な法律を維持していることを踏まえ、ラオスの法制度に差別的な規定があれば修正ないし廃止すべきである。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、合理的配慮の否定及び複合・交差差別等をはじめとする、ハンセン病患者を含めた障害者に対する差別を明示的に禁止するため、憲法及びすべての関連法を見直す措置について情報を求めた。
第6条 障害のある女子
第6条に関しては、パラレルレポートでは、ハンセン病の女性や女児は男性よりも厳しい差別を受けるため、女性及び女児の権利保護については特別な注意が必要である、という一般的な指摘がなされた。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、以下の情報やデータの提供を求めた。
- 障害者権利条約と国連障害者権利委員会より出された一般的意見第3号(2016)に沿って、民族的・宗教的マイノリティ、不発弾の犠牲者、ハンセン病患者を含む、障害のある女性及び女児に対する教育・雇用・保険を含む生活のあらゆる活動領域における複合・交差差別を排除するために講じられた措置に関する情報やデータ。
- ラオス女性障害者開発センターの予算に関する情報。
- 代表団体におけるリーダーシップや自ら団体を設立するための女性への支援やエンパワメントの措置についての情報。
- 代表団体やそれらの団体を強化するための措置等を含めた、障害のある女性の積極的な関与や綿密な協議に関する情報。
第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ
これまでに提出されたパラレルレポートでは、第9条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の2点について情報提供を求めた。
- 都市と農村における公共輸送機関や建物を含む、サービスや施設を障害者が利用できるようにするための建築法の実施。
- 情報通信技術を障害者に利用可能なものとなるよう促進し、提供するための、「障害者に関する首相令」の実施。
第12条 法律の前にひとしく認められる権利
これまでに提出されたパラレルレポートでは、第12条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、2つの措置に関する情報提供を求めた。
- 障害者、とりわけ、民族的・宗教的マイノリティに属している障害者や、知的障害者、精神障害者、不発弾の犠牲者が、法律の前にひとしく認められる権利が保障されるよう、刑事訴訟法、民事訴訟法、刑法を改正する措置が講じられたか。
- 代理意思決定制度を、支援付き意思決定の仕組みに置き換える措置が講じられたか。
第13条 司法手続の利用の機会
これまでに提出されたパラレルレポートでは、第13条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、次の3点について情報提供を求めた。
- 司法及び行政制度の利用機会に関する国内法において、手続上の配慮及び年齢に応じた配慮を含む措置が講じられているか。特に知的障害者、心理社会的障害者、聾者あるいは盲聾者、難聴者に対する配慮の義務、そして、司法行政で用いられる物理的設備や情報、コミュニケーション手段がその措置に含まれているか。
- 無料の法的扶助が、障害者に利用可能な形式で提供されているか。
- 政府報告第69項で言及された研修やセミナーの内容や、用いられた法的枠組み。
第19条 自立した生活及び地域社会への包容
第19条に関して、パラレルレポートでは、政府による地域社会に基づいたリハビリテーションプログラムにはハンセン病患者が含まれ、身体的のみならず社会的にも包容されるべきことが強調された。また、パラレルレポートは、多くのハンセン病患者は国の障害者に関する法制度による恩恵を受けていないとした上で、第19条と第28条は、ハンセン病患者に対し、ほかの障害者と同様に月々の手当とその他の支援が政府から与えられるべきことが確認された。
国連障害者権利委員会は、事前質問事項で、隔離された住居環境を廃止し、自立した生活を送る権利の促進、地域社会への包容、地域社会サービスの提供のために講じられた政策やプログラムについて情報提供を求めた。
第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
これまでに提出されたパラレルレポートでは、第21条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、聾者のコミュニティと綿密に協議した上で、手話を公用語として認定する措置が講じられたかについて報告を求めた。また、次の4点について情報提供を求めた。
- 点字、手話、わかりやすい版を含めた補助的・代替的コミュニケーション手段等の、情報のアクセシビリティを確保するために採用された措置。
- 手話の通訳者の研修を確保する措置。
- 公衆に開かれたウェブサイトの開設や、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)のウェブ・アクセシビリティ・イニシアチブ(WAI)による基準を確実に遵守するための措置。
- 資金不足によって2010年に停止された障害者のためのラジオ番組に向けての資金提供を確保する取組。
第24条 教育
これまでに提出されたパラレルレポートでは、第24条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で以下の5点について情報提供を求めた。
- 分離された教育(特別支援教育)を認める教育法第25条を改正するための措置。
- あらゆる教育段階においてインクルーシブ教育を確保するための十分な教材、財源、人的資源の割当て。
- 分離教育からインクルーシブ教育への移行のための取組。
- 都市と農村における、インクルーシブ教育のための教員の研修、点字や手話の通訳、及びその他の支援サービスのために割り当てられた財源、人的資源の水準。
- 特に遠隔地域に住む、障害のある学生や民族的マイノリティグループに属する学生に対する、利用可能な教材、適応可能な学習環境、及び十分な個別の配慮の提供。
第29条 政治的及び公的活動への参加
これまでに提出されたパラレルレポートでは、第29条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、差別を受けることなく、障害者が政治的及び公的活動に参加することを促進するために講じられた措置について情報提供を求めた。
第31条 統計及び資料の収集
これまでに提出されたパラレルレポートでは、第31条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は、事前質問事項で、年齢、性別、障害、民族、地理的な位置、社会経済的地位、国内又は地方の状況に関連したその他の特性で分類された包括的データ収集システムを構築するための措置が講じられているか、データの保護に関する法制度を含む障害者のプライバシーの尊重と守秘義務を確保する措置が講じられているか、2015年の人口住宅統計には、ワシントン・グループの障害についての短い質問集が採用されたかについて報告を求めた。
第33条 国内における実施及び監視
これまでに提出されたパラレルレポートでは、障害者権利条約第33条に関する言及はなされていない。
国連障害者権利委員会は事前質問事項で、第33条が求める締約国の義務を果たすための措置についての情報と、国家障害者高齢者委員会による取組に関する最新情報を提供することを求めた。また、障害者権利条約実施状況の監視活動における障害者団体の関与について説明を求めた。
198 Parallel Report on Ending Discrimination Against Persons Affected by Leprosy in Lao People's Democratic Republic, p. 1.