1 国外調査 1.10.1

1.10 これまでの国連障害者権利委員会審査における論点

1.10.1 国連障害者権利委員会審査における各国に対する勧告内容のまとめ

(1) 条文別の検討

 この章で比較対象とした5か国の審査時期を古い順に並べると、オーストラリアは2013年9月の第10会期、スウェーデンは2014年3月~4月の第11会期、ニュージーランドは2014年9月~10月の第12会期、カナダは2017年3月~4月の第17会期、イギリスは2017年8月~9月の第18会期となっている。このように、イギリスとカナダの2か国と、残りの3か国は審査の時期に大きな開きがある。このことを念頭に置きながら、各条項における各国の共通点及び相違点を概観する。
 なお、2020年2月現在で、カナダ、ニュージーランド、スウェーデン、オーストラリアについては第2サイクルの審査が既に始まっている。カナダは事前質問事項の提示を受けており、ニュージーランドとスウェーデンについては政府報告を提出済み、オーストラリアについては総括所見の提示を受け、審査が終了した状況となっている。

第6条 障害のある女子

 スウェーデンを除くすべての国では、障害のある女性及び女児に対する暴力が論点に挙がっている。なお、障害のある女性及び女児、男児に対する暴力については、搾取、暴力及び虐待からの事由について定める第16条で改めて言及されることが多く、本調査の対象国で、2019年に総括所見が提示されたギリシャ、インド、アルバニアもこれに当たる。
 なお、委員会は、イギリスに対する総括所見で複合・交差差別に言及している。スウェーデンに対しては複合差別には触れず、交差差別のみに言及している。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 イギリスとニュージーランドに対する勧告で、委員会は法律の前にひとしく認められる権利に関する一般的意見第1号について言及しており、勧告内容はこれに沿うことを期待する内容となっている。
 ニュージーランド、スウェーデン、オーストラリアの3か国をみると、委員会はいずれの国に対しても[1]代理意思決定から支援付き意思決定への置き換え、[2]法的能力の行使をはじめとする様々な権利の保障、[3]自律、意思、選好を尊重した幅広い対応策の提供の3つの要素を含めた措置を講じることを勧告している。なお、条約制定初期の比較的近い時期に審査を受けた関係からか、同勧告に関しては3か国ともほぼ同じ文面が使用されている。
 一方、カナダに対しては、多くの州で支援付き意思決定が提供されていないことに懸念を示し(第27項)、州及び準州との協働において中央政府が指導力を発揮することを勧告するという、連邦国特有の内容となっている。

第14条 身体の自由及び安全

 委員会はイギリス、ニュージーランド、スウェーデンの3か国に対し、実際あるいは認知された障害(actual or perceived disability)に基づく本人の同意に基づかない拘束を行わないよう勧告している。
 ニュージーランドとスウェーデンに対しては、「直ちに必要なすべての立法上、行政上、司法上の手段を講じること」という強い表現を用いた上で、「すべての精神保健サービスが、当事者の自由意志によるインフォームド・コンセントを伴って提供されることを確保すること」を勧告している。ここではほぼ共通した文言が使用されている。一方、カナダに対しては、被収容者に対するインフォームド・コンセントに基づく保健サービスへのアクセスを確保することを勧告している。
 オーストラリアに対し、委員会は「あるとみなされた障害、あるいは診断された障害(apparent or diagnosed disability)に関連付けての意思に反した強制収容を是認する規則を廃止すること」への勧告に加え、精神保健施設収容の令状、強制的な治療を課すことのできる「地域療養命令」を名指した上で制度の廃止を求めている。
 一方、第14条では合理的配慮が論点に挙がっている国もある。具体的には、カナダとニュージーランドに対して、委員会は、刑務所や勾留施設に拘禁されている障害者への合理的配慮の提供を勧告している。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 スウェーデンとニュージーランド以外の国に対し、委員会は、どこで誰と生活するかを選ぶ権利に言及している。
 カナダに対しては、心理社会的障害者及び知的障害者向けの支援サービスや居住ユニットの利用可能性の確保や、障害者の孤立化や施設化を防止するためのアクセシビリティ関連法や計画、プログラムの確保等、環境整備に重点を置いた勧告を行っている。
 スウェーデンに対しては、2010年以降の国費によるパーソナルアシスタントサービスの縮小に対して懸念を示し、パーソナルアシスタントによる財政支援の強化を勧告している。
 オーストラリアに対しては、居住型施設閉鎖のための政策が既にあるにもかかわらず脱施設化が進んでいないことを指摘し、懸念を示した(第41項)。そして、居住型施設閉鎖のための枠組み開発と自立生活支援のための十分な予算の割当てを勧告した。
 イギリスに対しては、自立した生活及び地域社会への包容に関する一般的意見第5号と、条約の選択議定書の第6条に基づいて委員会によって行われた調査結果に基づいた勧告を行っている。また、障害者団体が関与した計画づくりを論点の1つとして挙げている。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 委員会はオーストラリアとカナダに対し、手話を公用語と認めることを、イギリスに対しては聴覚障害のある児童やその関係者に対する手話の教育のための資源割当て、ニュージーランドに対しては手話の利用増加や手話通訳者の研修への予算割当てを勧告している。イギリス、カナダ、オーストラリアに対しては、手話以外の代替手段の促進についても言及している。中でも、イギリスとカナダでは、ICTのアクセシビリティについても勧告を行った。
 一方、スウェーデンに対する総括所見の中で、第21条は取り上げられなかった。第21条は、2013年9月に示されたスウェーデンの最初の報告に関連する事前質問(CRPD/C/SWE/Q/1)、並びに2018年10月に示したスウェーデンの第2回・第3回連結報告に関する事前質問(CRPD/C/SWE/QPR/2-3)においても同様の扱いとなっている。一方で、総括所見の第2章「肯定的側面」の中で、委員会は言語法(Language Act)がスウェーデン手話を国内五大少数言語と同等のものと認めていることを評価している209。委員会が特定の条項に対して事前質問や勧告を行わない例は、度々散見される。第21条に関していえば、手話の公用語としての認定の度合いが同条の審査に大きく影響している可能性がある。類似の現象はその他の国においてもみられ、第21条について事前質問や勧告が行われていない複数の国で、初回審査の政府報告提出の時点で手話が公用語として認定されている210

第24条 教育

 委員会は、すべての国においてインクルーシブ教育の促進を論点として挙げている。また、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアに対しては、学校における合理的配慮提供についても言及している。イギリスとカナダに対しては、2016年8月に採択された一般的意見第4号及び持続可能な開発目標のターゲット4.5に言及し、さらに、教員のインクルーシブ教育に対する理解を促進するための施策を行うことを勧告している。

第27条 労働及び雇用

 イギリスとカナダに対し、委員会は、持続可能な開発目標のターゲット8.5に言及している。さらに、この2か国に対しては、合理的配慮の提供について、特に論点の1つとして挙げている。
 以上に加えて、委員会はイギリスに対し、合理的配慮の否定に対する制裁の導入と、障害のない雇用主や従業員への合理的配慮に関する研修の提供を勧告している。また、労働能力を評価する手続の立法上、行政上の要件が障害の人権モデルに則っていることを確保することも勧告している。
 ニュージーランド、オーストラリアに対しては、障害者にとって不利な賃金体系をもたらす特定の制度があることを指摘した。ニュージーランドに対しては、その制度の代替案の検討(第58項)を、オーストラリアに対しては、賃金体系を評価するツールの使用を直ちに中止すること、「支援された賃金体系」制度における賃金評価の修正(第50項)を勧告した。

第31条 統計及び資料の収集

 すべての国に対し、委員会は、分類されたデータの体系的な収集を行うための措置を講じることを勧告している。国によってばらつきはあるものの、障害のある女性や児童、先住民族といった、脆弱な層やマイノリティに関するデータの充実も論点に挙げている。イギリスに対しては、ワシントン・グループの障害についての短い質問集の利用を勧告している。なお、ワシントン・グループの障害についての短い質問集の利用に関する勧告は、本報告書内で扱っている、2019年9月に審査されたギリシャ、インド、アルバニアの総括所見でもみることができる。

(2) 作業文書種別の検討

1) 一般的意見

 2014年4月11日に法律の前にひとしく認められる権利に関する一般的意見第1号が採択された。それ以降に審査がなされたイギリス、カナダ、ニュージーランドの3か国に対し、第12条に関する勧告の中で、委員会は一般的意見第1号について言及している。
 一般的意見第3号は障害のある女性に関するもので、2016年8月26日に採択された。委員会は、2017年に審査されたイギリスとカナダに対し、第6条に関する勧告の中でこの一般的意見に言及している。
 一般的意見第4号はインクルーシブ教育への権利に関するもので、第3号と同様に2016年8月26日に採択された。イギリスとカナダに対する第24条に関する勧告において、委員会はこの一般的意見に言及している。
 自立生活への権利に関する一般的意見第5号は、第18会期中の2017年8月31日に採択された。同じく第18会期中に審査を受けていたイギリスの総括所見における、第19条に関する勧告の中で、委員会はこの一般的意見に言及している。このことは、会期中に採択された文書を同じ会期内の審査で使用することが可能であることを示している。

2) 持続可能な開発目標

 持続可能な開発目標は2015年に採択されており、イギリスとカナダに対する総括所見の中で、委員会は多くの関連するターゲットに言及している。本章の対象条項でいえば、両国に共通して、第6条ではターゲット5.1、5.2、5.5に、第24条ではターゲット4.5に、第27条ではターゲット8.5に言及している。

3) 選択議定書に基づく調査結果

 イギリスに対しては、委員会により選択議定書の第6条に基づく調査が行われている。委員会は、この調査がイギリス国内で体系的かつ重大な条約違反が行われていると主張する、複数の障害者団体からの要請を受けたものであるとしている211。審査の結果、選択議定書第6条に合致することが認定され、調査が実施された212。第19条、第27条、第28条が対象とされており、2015年10月には委員会のラポーターが現地調査を行った。その結果は、2017年10月に調査報告書として公開された213。この調査結果は条約審査にも影響しており、今回の調査対象である第19条及び第27条に関しても、調査結果に基づいた勧告がなされている。


209 スウェーデンに対する総括所見第4項
210 スウェーデンと審査時期の近い国の例をここで挙げる。フランデレン手話とフランス語ベルギー手話が連邦自治政府レベルで公用語として認識されているベルギーでは事前質問事項と総括所見から、また、ニュージーランド手話を公用語として認定しているニュージーランドでは事前質問事項から、第21条が除外されている。
211 CRPD/C/15/4 第3項
212 CRPD/C/15/4 第5項
213 CRPD/C/15/4 を参照のこと。

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