1 国外調査 1.11

1.11 国連障害者権利委員会審査状況のまとめと考察

 平成30年度の調査に引き続き、ここでは本調査報告書の1.5~1.9で扱った、第22会期、第23会期の国連障害者権利委員会によるギリシャ、インド、アルバニア、エストニア、及びラオスの審査状況から見えてくる、それぞれの条項に表れている特色や共通点を明らかにする。
 総括所見の肯定的側面における論点と、各条項における論点に分け、それぞれの論点の整理、考察を行う。各条項の論点は主に総括所見から抽出するが、2020年2月時点で総括所見の出ていないエストニアとラオスに関しては、事前質問事項から抽出を行う。論点は原則として複数の国に共通してみられるものを取り上げるが、我が国に対する審査への適切な対応に資すると判断された場合はこの限りではない。

(1) 総括所見の肯定的側面における論点

 今回の調査対象国で、2020年2月時点で既に総括所見が出ているのはギリシャ、インド、アルバニアの3か国となる。
 ギリシャでは、法政改革や新たな法的枠組みの導入によって条約の基準の実施に取り組んだこと、公共交通機関のアクセシビリティ確保のための措置、経済危機後にかかわらず障害者給付金の額面を維持したことが評価された。
 インドに対しては、障害のある児童の教育無償化や選挙手続におけるアクセシビリティの確保、障害に基づく差別からの保護といった、障害者の権利を認識し、実施する法律を策定したこと、条約のヒンディー語への翻訳、並びに国際協力プログラムの中に障害の包容を含めたことが評価された。また、持続可能な開発のためのアジェンダ2030の枠組みを利用した政策や制度の改善、障害者エンパワメント庁の設置について留意された。
 アルバニアについては、障害者の包容とアクセシビリティに関する法律の制定と、教員にインクルーシブ教育について学んでもらう取組、障害者のための国家行動計画の策定が評価された。
 いずれの国も、条約に基づいて具体的な法改正や政策を実施したことが評価されているという点で共通している。加えて、インドが国際協力プログラムの中に障害を含めたこと、アルバニアが障害者のための国家行動計画を策定したことが評価されている点からは、障害者に特化した取組がなされていることが肯定的な評価に繋がる、と推察される。

(2) 各条項における論点

第1~4条 目的と一般的義務

 第1条~第4条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 障害の人権モデルの導入
  2. 一般的意見第7号への言及
  3. 条約実施のための国家戦略や行動計画について
  4. 障害者を指す軽蔑的な表現の法文からの削除
  5. 条約の国内公定訳に対する評価

 1については、すべての対象国で言及があった。エストニアに関しては、人権モデルという用語は使用されていないものの、障害を評価するための基準や障害評価の仕組みを条約の目的に沿うようにするための措置についての質問がなされた。この論点に関しては、多くの国で障害者に言及している法令や政策が医学モデルに基づいて設計されており、条約実施上の課題になっていると考えられる。
 2について、インドとアルバニアの総括所見では、勧告に当たって、「条約の実施及び監視における障害者の参加に関する一般的意見第7号」についての言及がある。ギリシャでも「障害者団体との綿密な協議及び障害者団体の積極的な関与に基づき」行動することが勧告されており、この一般的意見が前提とされていることがうかがえる。一般的意見第7号は2018年に公開されている。これまでの一般的意見の総括所見における取り扱いを考えると、今後の審査においても、ほぼすべての国で言及されることが予想される。
 3について、国家戦略や行動計画については多くの国の事前質問事項で質問がなされており、政府報告の中で既に言及のある場合はその進捗が問われるケースが昨年度以前の各調査でも散見される。立法措置と同様、委員会が条約実施を審査する上で重要視していることがうかがえるが、その一方でアルバニアの肯定的側面のように、評価に繋がりやすい要素でもあると推察される。
 4については、ラオスを除く4か国で言及がなされている。第22会期の調査対象である3か国すべてに対し、委員会がこの論点に関する勧告を行っていることから、1と同様、多くの国で差別的な表記の問題が残っていることが推察される。しかしながら、インドを例に挙げると、事前質問事項で委員会が軽蔑語を廃止する措置について説明を求めたのに対し、政府回答では差別用語ではないという反論がなされており、見解の対立が起きている。本章の対象国ではないが、スウェーデンの初回審査の総括所見の第27条で、委員会は"障害者を指す「衰えた能力あるいは制限のある人」という用語が労働市場で使われていることについて影響を調査し、無差別の原則に従ってこれを見直すこと"を求めている(第50項)。これらの事例は、社会の様々な局面において公的な文脈で使用される、障害者を含む配慮の必要な人を指す用語や表現に関して、条約の概念と一致しているか改めて検証を行う必要性があることを示唆しているといえる。
 5について、アルバニアは条約の公定翻訳の訂正を勧告されている。インドが条約をヒンディー語に翻訳したことが評価されている一方で、公定訳と原文との間で解釈のずれが生じる余地がある場合は、勧告の対象となる可能性がある。

第5条 平等及び無差別

 第5条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 一般的意見第6号への言及
  2. 合理的配慮の否定や複合・交差差別を含んだ差別禁止のための立法措置
  3. ハンセン病患者とその家族に対する差別撤廃
  4. 少数民族、亡命申請者、移民に対する支援
  5. 持続可能な開発目標のターゲット10.2及び10.3との関連

 1について、「平等と無差別に関する一般的意見第6号」も、「条約の実施及び監視における障害者の参加に関する一般的意見第7号」と同様に2018年に公開されている。論点2で挙げられている複合・交差差別や、論点3から類推される関連差別は、この一般的意見に沿うものであるといえる。
 2については、5か国すべてで論点に挙がっている。特に、複合・交差差別と、合理的配慮の否定については、差別の定義の要素として複数の国で言及されている。ギリシャに対する勧告で、委員会が差別からの保護を確保する立法措置を講じることを勧告している点や、アルバニアに対し、明確な差別禁止の導入を目的とした、法律の審査を勧告している点、インドの肯定的側面として、立法措置に合理的配慮の否定からの保護を含めたことを挙げている点からは、障害者を差別から保護する具体的な措置の有無が、第5条の審査の上で委員会にとっての1つの評価点となっていることが推察される。また、委員会は、エストニアに対する事前質問事項で差別に対する罰則規定についての情報を求めている。差別を禁止するために断固とした姿勢をとり、それを立法に反映させることを、委員会は審査の上で重要視していることが推察される。
 3について、インドとラオスではハンセン病患者を含む差別が論点に挙がっている。インドに対し、委員会はハンセン病患者とその家族に対する差別に取り組むことを勧告し、「ハンセン病患者とその家族に対する差別撤廃のための原則及びガイドライン」を示しており、その関心の高さがうかがえる。
 4については、ギリシャとアルバニアの総括所見の論点として挙がっている。特にギリシャに対しては、委員会は難民や亡命申請者を支援の対象として挙げており、入国許可や滞在許可の有無に関係なく、障害者への配慮を行うことを期待していることがうかがえる。
 5については、ギリシャ及びインドへの総括所見で論点に挙がっている。持続可能な開発目標のターゲット10は、各国内、及び各国間の不平等の是正のために設定されているものであり、10.2と10.3は条約第5条の理念と一致する内容となっている214。アルバニアに対しては言及がなされていないが、委員会は、第5条の勧告における本ターゲットへの言及の有無について、明確な指標を明らかにしていない215

第6条 障害のある女子

 第6条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 一般的意見第3号と持続可能な開発目標のターゲット5への言及
  2. 女性に対する複合・交差差別についての措置
  3. 意思決定過程への障害のある女性の関与
  4. 女性差別撤廃委員会の勧告の実施

 1について、委員会は、第6条に関する総括所見において、いずれの国に対しても障害のある女子に関する一般的意見第3号と、ジェンダー平等を目標とする持続可能な開発目標のターゲット5(5.1、5.2、5.5)に沿った勧告を行っている。インド以外の国では、第3条とターゲット5について本文中に記載がある。インドは、ターゲット5.5という言葉について明記していないものの、障害のある女性の意思決定過程への関与を勧告しており(第15項(d))、5.5に沿った内容となっている。
 2については、5か国すべて、3についてはアルバニア以外の4か国で論点に挙がっており、女性及び女児に対する複合・交差差別からの保護と障害のある女性の意思決定過程への関与という2つが第6条を実施する際の中心的なテーマであり、条約の実施において積極的な改善が求められていることがうかがえる。
 4については、アルバニアに対する総括所見にこの勧告がみられた。アルバニアは2016年、女性差別撤廃委員会から、障害のある女性が他者と平等に権利を享受できるようにするため、障害者権利条約における基準に沿った取組を国内法の中で行うことを勧告されている216。このことから、ほかの条約で障害者に関する勧告がなされた場合、その実施状況が障害者権利条約の審査に関係し得ることが推察される。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 第9条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. アクセシビリティに関する一般的意見第2号と持続可能な開発目標のターゲット9、11.2、11.7への言及
  2. 国家行動計画等によるアクセシビリティ向上の取組

 1について、委員会はギリシャとインドに対してはアクセシビリティ向上に関する一般的意見第2号、並びに持続可能な開発目標のターゲット9、11に関して、ギリシャ、インド、アルバニアいずれの国への勧告の中でも言及している。持続可能な開発目標のターゲット9は産業と技術革新の基盤づくりで、特に9.Cは情報コミュニケーション技術へのアクセスの向上を目指している。ターゲット11は住み続けられる街づくりを目標とするもので、特に11.2は女性、子供、高齢者、障害者に配慮した交通システム、11.7は女性、子供、高齢者、障害者に配慮した公共空間作りを目指すものとなっている。交通システムのアクセシビリティの確保と情報のアクセシビリティ向上は、エストニアとラオスの事前質問事項も含め、すべての国で論点に挙がっている。
 2について、委員会はギリシャについてはアクセシビリティに関する法的枠組みの実施の遅れ、インドに対しては施策にアクセシビリティ要件が欠如している点、アルバニアに対してはアクセシビリティに関連する法的枠組みを実施するための行動計画の欠如と、アクセシビリティに関する取組についての情報が不足している点を懸念し、それぞれの国における、アクセシビリティ改善のためのあらゆる措置の実施において、十分な予算の確保、具体的な期限の設定、監視の仕組みの確立、障害者団体を通じての障害者の関与を伴わせることを勧告している。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 第12条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 一般的意見第1号への言及
  2. 代理意思決定から支援付き意思決定への置き換え
  3. 後見制度の廃止
  4. 法律の前の平等や法的能力執行の確保に関する意識向上
  5. 欧州評議会の人権コミッショナーによる報告

 1については、ギリシャ、インド、アルバニアの総括所見で「法律の前にひとしく認められる権利に関する一般的意見第1号」への言及がみられた。ギリシャに対する総括所見では、委員会は「一般的意見第1号を念頭に置いた上で」、インドに対しては「一般的意見第1号に従い」勧告するとし、これらの記述に続き、代理意思決定から支援付き意思決定への置き換えといった一般的意見第1号に沿った勧告を行っている。アルバニアに対しては、「一般的意見第1号(略)を想起し」、条約を遵守し、法律を一致させることを勧告した。
 2については、5か国すべてで論点に挙がった。代理意思決定から支援付き意思決定への置き換えは、条約制定初期から常に論点に挙がっており、ほぼすべての締約国が課題として抱えており、世界的な状況の進展にも時間がかかっていることが推察される。
 3については、インドとエストニアで論点に挙がった。エストニアでは政府回答の中で、後見は常に可能な限り狭い範囲に限ると主張している。このように、後見に関しては、後見の範囲が部分的であることを挙げて人権上問題ないと主張する例はこれまでの調査で散見される。しかしながら、昨年度以前の調査では、委員会は例え限定的なものであっても後見制度に対しては否定的な立場をとる傾向にある。
 4については、ギリシャとインドで論点に挙がった。ある分野において障害者とかかわる職員への研修については、第12条の他にも第13条、第24条等で論点に挙がっており、現場における意識向上を委員会が重要視していることがうかがえる。
 5については、アルバニアで論点に挙がっている。欧州評議会の人権コミッショナーによる、2018年5月21日から25日にかけてのアルバニア訪問後の報告書では、アルバニアで障害者の法的能力が制限されていることに懸念が示されているが217、委員会はこれを想起して、国内法を条約に一致させることを勧告している。障害者権利条約とは直接関係のない組織の報告が論点に挙がることはまれであるが、このような事例もあるものとして取り上げた。

第13条 司法手続の利用の機会

 第13条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 民事、刑事、行政訴訟のすべての段階における手話、点字、わかりやすい版、その他代替形式へのアクセス
  2. 障害のある女性への配慮
  3. 持続可能な開発目標のターゲット16.3への言及

 1については、ギリシャ、アルバニア、ラオスで論点として挙がった。また、エストニアの事前質問事項においては、委員会は、障害者の効果的な司法参加の確保に関する質問を行っており、テーマとしては近いものであると考えられる。
 その一方で、インドに対する第13条に関する勧告において、委員会は論点2に当たる、障害のある女性への配慮を明示した勧告を行っている。これは、インドのジェンダー平等の状況を受けた例外的な対応であると考えられる。
 論点3の中にある、ターゲット16.3はすべての人に対して司法へのアクセスを確保することが掲げられている。第5条と同様、インド、アルバニアと比べて、グローバル・インデックス・ランクにおいて比較的スコアの高いギリシャのみに対する論点となっている。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 第19条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 一般的意見第5号への言及
  2. 障害者に利用可能な地域社会サービス
  3. パーソナルアシスタントの提供
  4. 自立生活のための戦略等の策定における障害者の関与

 1について、自立生活への権利に関する一般的意見第5号はギリシャ、インド、アルバニアの3か国で論点に挙がっている。この一般的意見が第18会期中に採択されたことは本報告書1.10.1で既に述べたとおりで、第18会期以降の総括所見において言及される可能性が高いものと思われる。
 2については、本報告書1.10での比較ではカナダでのみ論点に挙がっていたが、第22、23会期の調査対象国では5か国すべてで論点に挙がっている。第13条で司法のアクセシビリティが論点とされているのと同様、様々な障害のある人が地域社会において自立した生活を送るための、アクセシビリティの整備が重要視される傾向にあることが推察される。
 3のパーソナルアシスタントは地域社会サービスに含まれるものだが、5か国の中ではギリシャ、インド、アルバニアの総括所見でのみ論点として挙げられている。委員会は、ギリシャに対する総括所見において「パーソナルアシスタントを含む、在宅サービス、居住サービス、その他の地域社会支援サービスについて、委員会に提供された情報が不足している点218」を懸念事項として挙げている。しかしながら、勧告ではパーソナルアシスタントを個別の論点としては挙げず、「効果的な脱施設化のための包括的な国家戦略をすべての水準で採択すること219」としている。
 4については、ギリシャとアルバニアの総括所見で論点として挙げられている。本報告書1.10の整理ではイギリスの総括所見で論点に挙がっていることから、比較的近年になってから論点として採用されているテーマと考えられる。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 第21条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 障害者のために利用可能な形式での情報提供のための戦略や行動計画の実施
  2. 手話や点字等の促進に当たっての障害者の関与
  3. 手話を公用語として認めること

 1については、すべての国で論点として挙がっている。いずれの国に対しても、委員会は、手話、点字、わかりやすい版等の具体的な手段に対して言及しており、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者をはじめとする様々な障害者に対する環境整備を国家戦略や行動計画を通じて確実に実施することに関する関心の高さがうかがえる。さらに、ギリシャ、インド、アルバニアでは、手話通訳の提供が論点に挙がっている。ギリシャに対する総括所見では、委員会は手話通訳の不足を懸念点として挙げており、インドに対しては手話通訳者そのものの数が少ないこと、アルバニアに対しては、手話通訳サービスへのアクセスを増やすための措置が不十分であることを指摘している。
 2については、ギリシャとアルバニアで論点に挙がっている。イギリス、カナダに対する総括所見ではみられないため、比較的新しい論点であると推察される。近年、委員会は、第1~4条や第33条だけでなく、多くの条項で障害者の関与を意識する傾向にあると考えられる。
 3は、インドとアルバニアに対して挙がった論点となっている。委員会は、インドに対しては手話を公用語として認めるよう勧告を行っているが、アルバニアに対しては懸念を示すにとどまっている。本報告書1.10でも触れたとおり、重要な評価ポイントの可能性がある。ギリシャについては、手話及び点字が政府の公認を得ていると政府回答で主張されている。

第24条 教育

 第24条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 一般的意見第4号と持続可能な開発目標のターゲット4への言及
  2. インクルーシブ教育を確保するための措置
  3. 学校や大学におけるアクセシビリティの確保
  4. 教室での手話通訳や補助的・代替的意思疎通(AAC)、点字、わかりやすい版等の提供
  5. インクルーシブ教育研修の教職課程への導入
  6. 障害のある教職員、定期的な研修を受けた教職員の配置
  7. 難民、亡命申請者、移民の障害のある児童に対する正規教育へのアクセス確保

 1について、インクルーシブ教育への権利に関する一般的意見第4号及び持続可能な開発目標のターゲット4についてはギリシャ、インド、アルバニアの総括所見で論点として挙がっており、本報告書1.10で比較したイギリス及びカナダと同様の傾向といえる。また、エストニアの事前質問事項でも、一般的意見第4号が論点に挙がっている。
 2については、第24条の主たる論点といえ、すべての国で論点に挙がっている。特に総括所見において、委員会はギリシャとアルバニアに対し、インクルーシブ教育のための法律、又は戦略の欠如に懸念を示している。これらの国に対しては、いずれもインクルーシブ教育のために十分な財源と人的資源を確保することを勧告している。そしてギリシャに対してはインクルーシブ教育に関する一貫した戦略の採択と実施を、アルバニアに対しては包括的なインクルーシブ教育の政策の策定、採択、実施を勧告している。
 インドに対しては分離教育の普及と、特に農村部や遠隔地における、障害者の利用できるインクルーシブな学校の欠如に懸念を示している。これに対し、勧告では障害のある児童が利用可能な学校を建設し、維持するための人的資源及び財源の確保を勧告しており、インクルーシブであることには言及していない。
 3と4については、ギリシャ、インド、アルバニアに対する総括所見で論点に挙がっている。第13条の論点として度々挙がる司法へのアクセスと同様、ここでは様々なニーズに対応するための、学習環境における環境整備が重要視されていることがうかがえる。
 5と6については、ギリシャとアルバニアに対する総括所見で論点に挙がっている。この論点に関しては、様々な国の審査でみられるものである。普通学校の教員が障害のある児童に対する知識、経験を持っていない点については過去の調査においても複数の国のパラレルレポートで指摘されており、これに対応する手段として、委員会は教職課程の改革を提示しているものと考えられる。また、インクルーシブ学級の担当教員が専門知識を持たない任期付きの代理教員のみで構成されている、といったケースも、これまでに多く報告されている。こうした状況を改善するため、委員会は、正規雇用され、定期的な研修を施された教員が、様々なニーズのある児童と長期的に向き合える環境を整備することを期待していると考えることができる。
 7については、ギリシャに対する勧告で論点に挙がっている。第5条の論点4に通じる内容であり、障害のある児童を含め、本人あるいは保護者の在留許可等の状況にかかわらず、児童が正規の教育を受ける権利を保障されることを委員会が期待しているものと推察される。

第29条 政治的及び公的活動への参加

 第29条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 投票へのアクセスの確保
  2. 投票の秘密の確保
  3. すべての障害者に対する選挙権の保障
  4. 政治活動や公的生活への障害者の参加

 1については、ラオスを除くすべての国で論点に挙がっているが、ギリシャとアルバニアに対する総括所見では、委員会は「アクセシビリティに関する一般的意見第2号」に従った、投票所への物理的アクセス確保のための措置を講じることを勧告している。加えて、ギリシャ、アルバニア、エストニアについては、選挙資料のアクセシビリティの確保に言及されている。
 2については、ギリシャとアルバニアに対する総括所見で論点に挙がっている。投票の秘密に関しては、例えば昨年度の調査では、トルコによる視覚障害者の投票の秘密を確保するための仕組みに委員会が興味を示していることが明らかになっており、繰り返し論点として挙がっているテーマであるといえる。
 3については、インド、アルバニア、エストニアで論点に挙がっている。これは条約第12条と関連しており、これまでの審査でも、後見制度や法的能力を制限する制度によって投票の権利が認められない事例が多くみられ、審査対象国の規模や条約の実施状況にかかわらず、委員会はこうした制度の廃止を一貫して勧告している。
 4については、すべての国で論点に挙がっているが、特にインド、アルバニア、ラオスについては公的な意思決定過程への障害者の参加の促進が論点となっている。
 また、アルバニアとエストニアでは、障害のある女性の政治への参加が論点として挙がっている。2018年の世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数のランキングでは、アルバニアが34位、エストニアが33位となっており、ギリシャの78位、インドの108位を大きく引き離している220。委員会は、ジェンダー・ギャップ指数が比較的高い国に対し、男女共同参画を積極的に促すことを期待している可能性がある。

第31条 統計及び資料の収集

 第31条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 人権モデルに基づくことを目指した統計の収集
  2. 持続可能な開発目標のターゲット17.18への言及
  3. ワシントン・グループの障害についての短い質問集の利用

 1については、ラオスを除くすべての国で論点に挙がっている。特にギリシャ、インド、アルバニアに対する総括所見において、委員会は統計の収集が障害の医学モデルに基づいてなされていることに懸念を示した上で、障害者が直面している障壁を含めた統計の収集を勧告している。社会モデル、人権モデルに基づいたデータ収集制度の構築を促す意図があることが推察される。
 2については、ギリシャ、インド、アルバニアの総括所見に論点として挙げられている。持続可能な開発目標のターゲット17.18では、収入、ジェンダー、年齢、人種、民族、出身地、障害、地理的位置、及び、国内の状況に関連したその他の特性によって分類された、質の高い、即時性のある、信頼性の高いデータの入手可能性の向上が求められている。これらの分類要件は持続可能な開発のための「2030年アジェンダの持続可能な開発目標とターゲットのためのグローバル指標の枠組み(Global indicator framework for the Sustainable Development Goals and targets of the 2030 Agenda for Sustainable Development)221 」で定められており、委員会による勧告におけるデータ分類の要件もこれに基づいたものと思われる。
 3については、エストニアを除くすべての国で論点として挙がっている。特に国勢調査におけるワシントン・グループの障害についての短い質問集の利用は、これまでの調査でも高い可能性で第31条の論点として挙がっており、委員会も各国に対してその利用を勧告してきた。委員会は、今後も引き続き審査対象国に対しワシントン・グループの障害についての短い質問集の利用を促していくものと考えられる。

第33条 国内における実施及び監視

 第33条に関しては、以下の論点がみられた。

  1. 独立した監視の枠組みと委員会の作業への参加に関するガイドラインへの言及
  2. 一般的意見第7号への言及、及び監視の手続への障害者団体の参加
  3. 国家人権機関の独立した仕組みへの指名

 1については、ギリシャ、インド、アルバニアの総括所見で論点に挙がっている。条約と独立した監視の枠組みと委員会の作業への参加に関するガイドライン(CRPD/C/1/Rev.1, annex)は2016年10月に採択された「運営規則(Rules of Procedure)」の付属書で、これ以降に示された総括所見で度々言及されている。
 2については、5か国すべてで論点として挙げられている。中でもギリシャとアルバニアへの総括所見では、委員会は、障害者団体が独立した監視の枠組みに参加できるよう、財政支援を強化することを勧告している。とりわけギリシャに関しては、障害者団体への十分な財政支援がなされておらず、障害者の条約審査への参加が不足していることに懸念を示している。ちなみに、2017年10月に示されたイギリスへの総括所見でも、障害者団体への支援の不足が論点に挙がっている。
 3については、ギリシャとアルバニアへの総括所見で論点に挙がっている。昨年度以前の調査においては、パリ原則に則って活動する国家人権機関、もしくはそれに類する組織が、独立した監視の仕組みとして機能している例が数多くみられる。人権を擁護する専門機関が設置され、監視の役割を担っていることが、条約審査の上で1つの評価ポイントとなり得ることが推察される。


214 “10.2 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況にかかわりなく、すべての人の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。 10.3 差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、並びに適切な関連法規、政策、行動の促進等を通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する。” (https://www.unicef.or.jp/sdgs/target.html)
215 昨年度の調査対象国の総括所見を確認したところ、ノルウェーでは言及があったのに対し、ニジェールとキューバでは言及がなかった。以上の結果からは、第5条においては順位の高い国に対して持続可能な開発目標への言及がみられる傾向が推察されるものの、2018年度のランキングではキューバはギリシャよりも順位が高かった。
216 CEDAW/C/ALB/CO/4 第39項 (c)
217 実際のレポートは右記で閲覧できる: https://rm.coe.int/report-on-the-visit-to-albania-from-21-to-25-may-2018-by-dunja-mijatov/16808d2e22
218 総括所見第28項(a)
219 総括所見第29項(a)
220 World Economic Forum 2018, The Global Gender Gap Report 2018. (http://www3.weforum.org/docs/ WEF_GGGR_2018.pdf)
221 A/RES/71/313,annex

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