2 国内調査 2.4.2

2.4 取組状況詳細調査結果

2.4.2 条例において差別の定義にいわゆる間接差別等を含むとしている地方公共団体の取組状況

 本調査項目については、静岡県、滋賀県及び茨木市でそれぞれの取組状況についてヒアリングを行った。また、新潟市及び北九州市へは取組状況について問い合わせを行い、文書で回答を得た。
 調査対象としたのは、条例において、差別の定義にいわゆる間接差別等(以下、単に「間接差別等」とする。)を含むと解釈している地方公共団体である。条例の運用において間接差別等の該当性の判断をどのように行っているか、どのような相談事案を間接差別等と判断したかを中心に調査を行った。

<ヒアリング調査対象地方公共団体> 静岡県、滋賀県、茨木市
<資料調査対象地方公共団体> 新潟市、北九州市

(1) 条例におけるいわゆる間接差別等の該当性の判断について

 ヒアリングでの各地方公共団体の担当者からの説明及び書面での回答の内容によれば、個々の相談への対応を行うに当たって、間接差別等の該当性の判断は行われていないことが分かった。その理由として、該当する事例が少ないこと、間接差別等と合理的配慮の不提供との判別等が難しいこと等が挙げられた。

〇ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント

<静岡県>

  • 本県条例の「不当な差別的取扱い」の定義(第2条(4))において、「障害者に対して、正当な理由がなく、障害を理由として、(中略)機会の提供等を拒否し、又は当該提供等に当たって場所、時間等を制限し、若しくは条件を付けること等」と規定しているのは、条例を既に制定していたほかの地方公共団体の規定等を参考にしたものである。しかし現状では、個別の相談事案を検討する時に関連差別又は間接差別の該当性は考慮に入れてはいない。
  • 間接差別等の該当性の判断では、合理的配慮の不提供との判別がとても難しい。例えば、発達障害の児童生徒が学校で読み書きを補助するタブレットの持ち込みを認められなかった事例がある。この事例は間接差別なのか合理的配慮の不提供なのか判然としない。

<滋賀県>

  • 相談事案の内容について、間接差別等の該当性の判断をした事例はない。事案の内容を聞いて、それが間接差別等に該当するのかどうか、個別で判断するしかなく、現場では間接差別等と合理的配慮の不提供の判別が難しいと感じている。
  • 滋賀県の条例では、差別の禁止も合理的配慮の提供も義務となっているため、厳密に区分する必要はないと考えている。条例が施行されたのは平成31年4月であり、まだ期間をあまり経ていないこともあり事例も少なく、該当性の判断についても曖昧なところがある。
  • 例えば、実際にあった事例ではないが、受験資格を制限していない英語の試験にヒアリングがあり、聴覚障害の人が行ってみたら受験できなかったというケースの場合、合理的配慮の不提供に該当するのか、その人が能力を発揮できるような試験体制でないところが不当な差別に該当するのか、切り分けが明快にできないところが難しいと感じる。

<茨木市>

  • 当市の条例では、相談事案について、間接差別等の該当性の判断という視点では見ていない。相談を聞いて、相手方の対応に不当な差別があるのか、合理的配慮の不提供なのか、その両方に該当するかどうかという視点で判断をしている。
〇資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント

<新潟市>

  • あくまで発生している事象が、当該障害者にとって「不利益な取扱い」及び「合理的配慮の不提供」に該当するか否かを判断しており、直接差別か間接差別等かという判断は特段行っていない。

<北九州市>

  • 本市条例では、障害そのものを理由とするものだけでなく、いわゆる関連差別(障害に関連する差別のことをいう。以下同じ。)も想定し、「不当な差別的取扱い」の定義において、「障害に関連する事由を理由とする」と条文に明記している。ただし、相談対応においては、相談事案の解決に至るまでの支援を行うことを目的に行っており、個々の差別に該当するか否かの判断は行っていない。

(2) これまでにいわゆる間接差別等と判断した相談事案の内容について

 前項で示したように、各地方公共団体とも主に相談事案への対応において間接差別等の該当性の判断は行っていないという回答だった。

〇ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント

<静岡県>

  • 医療機関で、衛生上の問題もあり犬が苦手な人もいるという理由から、盲導犬は外で待っているように指示された事例がある。補助犬法が関係するうえ、内閣府の合理的配慮提供等事例集(平成29年11月P.7)には事務室で待ってもらった事例が紹介されていたので、今後は院内への受け入れを検討してもらうことになった。

<滋賀県>

  • 温泉施設への入店を車椅子の人が拒否されたという事例がある。事業者側は通路が狭く車椅子では通れないことや、温泉に入っている時に転倒して怪我をするなどリスクを回避するためということを拒否の理由に挙げていたが、建物はバリアフリー対応しており、車椅子利用者が利用できない設備状況とまではいえないように見受けられた。現在、県内の温泉施設にアンケートを行い、障害者の利用状況や利用する場合の配慮内容について調査している。このアンケート結果を参考に、今後、当該温泉施設に具体的な改善策を提案していきたい。
〇資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント

<新潟市>

  • 某体育施設において、車椅子利用者の芝生部分の利用を一律に禁止する規則が存在した事例。その後、施設管理者と関係者の協議を行い、車椅子利用者の利用が認められた。

<北九州市>

  • これまで間接差別等と判断したものはない。ただし、例えば盲導犬の入店拒否等の事案は関連差別と考えられるのではないか。

(3) その他の調査結果等

 差別を分類して定義することの意義として考えられることとしては、当事者が差別についての相談をしやすくなることや、障害を理由とする差別を事業者や市民に対し説明しやすくなること等が挙げられた。また、条例で間接差別等の要素を含む不当な差別的取扱いを分野別に規定することにより、特に事業者への説明がしやすくなることが指摘された。
 一方、間接差別等に関して差別に該当するか否かの判断が難しいケースが出てくること、間接差別等に該当する事例が少ないため市民や事業者の理解を得にくいこと等の回答があった。

〇ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント

<滋賀県>

  • 間接差別等も含む障害を理由とする差別について、事業者や県民にも啓発を進めているので、趣旨を理解してもらえるように努めている。一方、相談に対応する際、間接差別等に当たるのかほかの正当な理由で拒否されているのかの判断が難しい。
  • 分野別の規定を設けたことによって、どんなことが差別に当たるのか比較的説明がしやすいと思われる。公共交通、医療、不動産等、幅広い分野を規定しているので、事業者には条例が自分の業務に関係するという意識を持ってもらえるため、理解促進につながりやすい。

<茨木市>

  • 間接差別、関連差別の概念を知っている事業者や市民はほとんどいないため、否定的な意見もあるが、説明すれば理解はしてもらえると考えている。

<滋賀県・茨木市>

  • 間接差別等を含めた差別を条例で規定したことが、障害当事者や関心のある市民から評価されている。
〇資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント

<新潟市>

  • 仮に、条例において直接差別のみを対象と定め、間接差別等を含めないとした場合、障害者等からの相談に十分に対応ができないケースが発生する可能性があると考えている。

<北九州市>

  • 差別解消を推進するため、障害に関連する差別と思われる事例等の説明を通じて、障害や障害のある人への理解を深めることの必要性を周知することができる。その一方で、実際該当する事例は少なく、判断が困難であるため、市民や事業者の理解を得にくい。

(4) 調査結果の小括

 条例において明確に間接差別等を定義はしていないが、差別の定義に含むと解釈している地方公共団体への詳細調査の結果、個別相談の対応の際に、相談を受ける担当者が条例の解釈を踏まえて相談対応を行っているものの、それぞれの相談事例の内容が間接差別等に該当するかなどの明確な判断及び整理は難しく、実際には行われていないことが分かった。間接差別等については、地方公共団体においても社会的にもまだ定着しているとはいえず、事例を積み上げながらその考え方等を検討していく必要があるといえる。

前のページへ次のページへ