2 国内調査 2.4.3
2.4 取組状況詳細調査結果
2.4.3 条例において障害者差別解消法には明示はされていない障害に関する定義・概念を明示している地方公共団体の取組状況
本調査項目については、静岡県、滋賀県、茨木市及び立川市にそれぞれの取組状況についてヒアリングを行った。また、香川県、新潟市、所沢市及び北九州市に取組状況の問い合わせを行い、文書で回答を得た。
調査対象としたのは、条例において障害者差別解消法には明示はされていない障害に関する定義・概念を明示している地方公共団体であり、条例において「障害の社会モデル」の定義規定を置いている地方公共団体や、障害者の定義に「難病」の文言を明示している地方公共団体等である。本調査項目については、条例における障害の定義への該当性の判断をどのように判断しているかを中心に、事業者や市民から障害の定義についてどのような意見や見解が寄せられているかなどについて調査した。
<ヒアリング調査対象地方公共団体> 静岡県、滋賀県、立川市、茨木市
<資料調査対象地方公共団体> 香川県、新潟市、所沢市、北九州市
(1) 障害の定義に関する該当性の判断について
新潟市、茨木市及び北九州市では、障害の定義に含まれている「難病に起因する障害(難病を原因とする障害)」の文言を明示する形で障害の一類型と明確に示している。
静岡県、滋賀県、香川県、立川市、所沢市及び北九州市は、相談対応等に当たって、障害者手帳の有無だけではなく、相談者の日常生活や社会生活の状況を確認し、社会的障壁による制約の有無等を基に該当性の判断を行っているとの説明があった。
障害の定義に関する該当性の判断は、個々の相談事案ごとに検討し判断する形になっているが、判断に大きな困難があるといった意見は特段なかった。
○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
<静岡県>
- 社会モデルということで、障害者の日常生活や社会生活に社会的障壁があるという観点から相談の対応をしている。該当性の判断については、障害者差別に関する相談を受けた時に検討しており、相談の内容によっては、専門的知見を持っている障害者差別解消支援地域協議会の委員にも意見を聞くことがある。
<滋賀県>
- 障害の定義に該当するか判断がつかないという事案はないが、仮にそのような事案があった場合には、相談内容、手帳の有無、日常生活や社会生活上の制限等について聞き取った上で総合的に判断していくことになると思う。
- 定義に「障害の社会モデル」という文言を入れたのは、障害者権利条約の趣旨を踏まえた条例であることを明示的にしたいという思いがあったためである。合理的配慮を進めていくためには、「障害の社会モデル」の考え方を条例で定義し、県民や事業者に理解してもらうことが重要であると考えている。
<立川市>
- 本市条例においては心身機能の問題を前提としたうえで、社会的障壁によって社会生活がどのように制約されているかを検討することにより判断している。その相互作用とは無関係に起きた不満や不平と判断される事案については「障害」あるいは「障害を理由とした差別」には該当しないと判断している。
<茨木市>
- 本市条例の障害の定義にある「難病に起因する障害」と「断続的」という2つの用語に特段の関連性はない。策定段階の検討会で、絶え間なく続いてなくてはダメなのか、断続的、周期的な困りごとを持つ人もカバーされるべきだという意見があり、このようになった。
〇資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント
<香川県>
- どのような場面で社会的障壁によって日常生活や社会生活に相当な制限を受けている状態となっているのか、事案ごとに個別に判断している。
<新潟市>
- 「身体障害」も「難病」も障害のある人として捉えている。
<所沢市>
- 「難病」「身体障害」いずれも日常生活及び社会生活において相当な制限を受ける者であるかどうかが焦点となる。
<北九州市>
- 本市条例では「難病に起因する障害」も例示列挙することで、障害の一類型として明確化している。
(2) 事業者、市民からの障害の定義に関する意見や見解について
障害の定義についての意見は、条例の検討段階ではあったものの、条例制定後は事業者や市民から意見等が寄せられることは特にない、との指摘が複数の地方公共団体であった。滋賀県からは、現時点では条例への市民の関心が高いとはいえず、条例の認知度を上げることが課題だとの指摘もあった。
〇ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
<滋賀県>
- 法律や条例の認知度が低いという県民向けアンケートの調査結果があり、法律や条例を知ってもらうことがまず重要であると考えている。
<立川市>
- 条例の策定段階において市民から意見をいただくことはあったが、普段、障害の定義について聞かれることはほとんどない。
(3) 差別の対象となる障害の定義として「過去の障害」「未来の障害」「推定される障害」等に係る相談事案の有無について
これらの概念については、一般にはよく知られていないこともあり、相談事案としてはほとんどないとの指摘があった。
〇ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
<茨木市>
- 過去の障害等については今のところ、該当する相談事例はない。しかし、例えばご家族に障害者がいた場合に、その兄弟姉妹が遺伝で障害があるかもしれないという、未来または推定される障害を理由として差別的取扱いを受けることはあり得るのではないかと推測される。
(4) その他の調査結果等
障害の定義をより明確にしていることは、県民、市民への周知啓発にもつながること等が複数の地方公共団体から指摘された。立川市においては、障害の定義に「心身の機能と社会的障壁との相互作用」という文言を入れ障害の社会モデルの考え方を明示的に示すことにより、市民の方々の理解促進にもつながるとの回答が得られた。
〇ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
<滋賀県>
- 障害の定義に「難病」や「断続的」にという文言を明示することで、該当する方が対象となっていることを理解しやすくなった。
<立川市>
- 障害の社会モデルを取り入れたことによって、合理的配慮の責任の所在を明らかにできると考えている。また、障害を手帳所持者等に限らない幅広いものであると捉え、将来的には高齢者や妊婦、病気のある人等にも広がっていく条例であることを示すことで、市民全員にとって利益のある条例であることを明確にできると考えている。
<茨木市>
- 本市の条例では障害の定義をあまり狭めないようにしているが、定義が曖昧なことはデメリットになる可能性はある。
〇資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント
<香川県>
- 「障害のある人」の定義に難病を起因とする障害等を明示することにより、より多くの障害のある人が条例の対象となると分かり易くなる。
<所沢市>
- あくまで障害者基本法や障害者差別解消法に規定する「障害者」の定義を踏襲したものとなっている。定義を設けることで、本条例中において対象を明確化できること、また、周知啓発の一面もあるものと考えている。
(5) 調査結果の小括
条例において、障害者差別解消法には記載されていない障害に関する定義・概念を記載している地方公共団体への詳細調査の結果、できるだけ各種の障害を条文上に明記し、県民・市民への理解を促していることが分かった。一方で、事業者や市民には障害の社会モデルの理解があまり進んでいないことや、社会モデルの観点から障害の定義・概念をどこまで広げて相談事案に対応すべきかが曖昧であることが課題として指摘された。
また、いわゆる「過去の障害」、「未来の障害」、「推定される障害」については、一般には知られていないことが分かった。