2 国内調査 2.4.6
2.4 取組状況詳細調査結果
2.4.6 職員、地域関係者及び事業者等への啓発・研修及び関連資料整備等に関する取組状況
詳細調査の実施に当たり、各調査対象地方公共団体が取り組んでいる啓発・研修活動や、それに関連するガイドブック等の資料整備について情報提供を求めた。その結果、確認できた各地方公共団体における啓発・研修活動や関連資料の整備の状況は以下のとおりである。
(1) 職員、地域関係者及び事業者等への障害者差別解消に関する啓発・研修の取組について
調査対象地方公共団体へのヒアリング及び書面回答を通じて、地方公共団体ごとに地域の実情に併せた創意、工夫による様々な啓発・研修の取組が行われていることが確認できた。
中でも、秋田県が準備を進めている、小学4年生を対象とした啓発・研修の取組や、立川市における子供と障害者等との交流を狙いとしたコラボアートの取組は、子供の頃から啓発・研修等を行うことにより、早期に障害や障害者に関する理解促進等の効果が期待される。また、秋田県では、一般市民向けの障害者サポーター研修等、様々な啓発・研修活動に注力しており、成果が期待されるところである。
○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
<秋田県>
- 本県の条例では、県民に対しても不当な差別的取扱いを禁止しているが、実効性のあるものにするため、普及啓発と教育の推進に力を入れている。条例制定時の検討会や当事者団体からの意見を集約した際に、障害に対する理解を深めるには幼少期からの教育が重要だという意見が多く挙がったことを受け、新たな事業として、小学4年生向けのハンドブックを作成している。これは、県内小学校の4年生の授業で導入される。教育委員会が策定する学校教育の指針に、障害者差別解消の取組を加えていただき、すべての学校で取り組んでいくことを決定していただいた。
- 障害者サポーター研修は、積極的に障害者に声かけする一般市民を育成することを目的に、今後実施する予定。実施主体は市町村であり、3市でモデル事業を実施し、今後13市町村についても予定している。3年間かけて25の全市町村で実施できるよう取り組んでいる。
- 普及のための広報媒体として、CD、DVD、YouTube番組(20分動画)を制作した。また、ヘルプマーク周知のために昨秋11~12月にCMを流した。
<静岡県>
- 新任管理者研修や新規採用職員の研修プログラムに、障害者差別解消法の研修を設けている。市町向けには、職員研修の実施について助言している。また、県内の多くの関係団体・関係者が集まる障害を理由とする差別の解消の推進に関する県民会議(条例第24条に基づき開催)の資料として、啓発用のパンフレット等を配布している。
<滋賀県>
- 条例施行に合わせて企業、学校、地方公共団体向けに出前講座を開催している。障害当事者の講師が同行する場合と職員だけが訪問する場合があるが、9か月で60回実施している。
<立川市>
- 「コラボアート」という小学生と障害者の交流イベントを実施した。小学校の体育館で最初に宇宙の動画を流し、「宇宙を描こう」というテーマで巨大な紙に障害者と子供たちが一緒に自由に絵を描くもの。今年度2回行い、来年度も実施する予定である。また、小学校4年生を対象としたガイドブック「みんなの笑顔」を作成し、平成31年度より配布し総合的な学習の時間等で活用している。
<茨木市>
- 本市では、障害者に限らず人権を守るのが大きな柱になっている。すべての分野の出前講座を取り扱っている部署があり、そこに障害福祉課として条例について出前講座の案内をしている。昨年は、障害者団体や障害者の親の会等から依頼があり、10件以上の出前講座を実施した。今年度は地域NPO法人、自治会、社会福祉協議会、精神科病院の4件を予定している。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント
<香川県>
- 県職員に対しては、階層別研修やオンライン研修を実施している。また、市町職員向けの初任者研修のほか、関係者や県民、事業者向けのイベントでの講演会や個別の要請に応じた出前講座を開催している。
<新潟市>
- 本市では以下のような取組を実施している。
- 周知啓発用物品(パンフレットやチラシ入り・ポケットティッシュ等)の配布
- 条例研修会の開催(開催希望があった組織や団体等を市職員が講師として訪問)
- 障害者アートを活用した障害者による文化芸術活動の紹介
- 小中学校の福祉教育において障害者を講師として招いた際の謝礼補助
- 共生社会づくりに関心を有する企業や組織のネットワーク構築
<所沢市>
- 庁内研修は課長級の職員、窓口職員、保育士等を対象に実施しており、庁外研修は障害福祉サービス事業者、消防署、病院等を対象に実施している。
(2) 啓発・研修に関連する資料(ガイドブック等)の整備に関する取組について
啓発・研修に関連する資料の整備に関しては、ターゲットとする学年を決めて子供向けの啓発資料を作成し、その学年の児童生徒全員に配布する取組等が挙げられた。子供の頃から障害や障害者に関する知識・理解の土台を形成する効果等が期待される。
○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
<秋田県>
- 2種類のハンドブック作成に着手した。1つは県民向けのもので、障害種別の特徴と社会的障壁を紹介している。もう1つは小学校4年生を対象としたものであり、小学校4年生の道徳・総合学習の授業(手話教室の開催等)の副読本として県が1年かけて作成した。県内の新4年生と教員に配布できるよう1万部印刷をする。先生のためのテキスト(A4で4.5枚)と併せて各校に送付する。映像資料も作成しているところである。教員の意見を取り入れ、子供用は知的障害や精神障害も扱っていく予定である。
- 相談窓口の案内は3万部刷って配布しているが、相談体制の周知に課題があると考えている。
<茨木市>
- ピンクと緑の2種類の啓発用のパンフレットを作成している。緑色が初年度にできたわかりやすい版で、イラストを入れて見えやすく作った。2年目に、ピンク色の中学生版を作った。子供の時期から分かってもらった方が良いと各方面から声があり、中学2年生をターゲットに、1人1部ずつわたるように配った。
- 今年度5月に条例を制定して1年がたったことから、広報誌で特集を組んだ。合理的配慮の提供を支援する助成金を利用した事業者が、どのように活用したかなどについて掲載した。市民に伝えるには広報誌が有効であり、特集記事を出すことは一定の効果があると期待して実施した。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント
<香川県>
- 分野別や障害種別ごとの留意点や配慮すべきことを示したガイドブックのほか、条例を周知するための啓発パンフレット、相談窓口等を記載した障害者向けのチラシを作成している。
(3) 啓発・研修の効果に関する取組並びに啓発や研修の実施に関する課題について
普及啓発の取組により、条例の認知や理解が徐々に進んでいるという意見は多い一方、効果の定量的な測定は難しいとの意見が多くあった。
そうした中で静岡県、新潟市ではアンケート調査による効果の把握が継続的に行われている。特に、新潟市が行っている、ショッピングモールにおける定点アンケート調査は、市民への周知の効果を把握することが期待できると考えられる。
○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
<秋田県>
- 効果測定については、まだ手をつけられていない課題だと感じている。まだ地域協議会に意見を聞いたりはしていないが、現状で考えられるものとしては、啓発教材等の配布数・相談件数等の定量的な数字がある。定性的な評価としてはアンケートの実施が考えられるかもしれない。
<静岡県>
- インターネットモニターアンケートを毎年実施している。障害者差別解消法について聞いたことがあるという回答は少しずつ上がっている。市町では、障害福祉計画を作る段階でアンケートをとることがある。
<滋賀県>
- 定量的な評価は難しい。果たして取組がどこまで理解促進につながっているのか、数字に表すことは難しいと考えている。
<立川市>
- 具体的な成果を図る指標はないが、徐々に市民・事業者へ条例の趣旨や合理的配慮の理解が浸透してきているのではないかという実感はある。しかし、アンケートで条例の周知度を確認することは難しいと考えている。2回ほどアンケートで設問を設けたが、若干対象が異なっている部分もあり、単純にその時点における対象者の意見として集計することはできるが、効果の見える化までは難しい。
<茨木市>
- 効果の評価は、効果測定の手法も含め難しい課題だと思っている。条例の認知度が徐々に上がっているのは分かるが、細かい内容までどの程度の方が知っているかは不明である。企画部署が政策そのものの評価を行っており、障害者計画とも連動している。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント
<新潟市>
- 多くの市民が来場する会場(大規模ショッピングセンター)において、定期的に条例の認知度調査を行っている。平成30年度の調査では、認知度が28.4%であったのに対し、令和元年度の調査では3ポイント上昇し、31.4%となった。周知啓発の効果がある程度あったものとみているが、未だ認知度は低い状態にあるため、特にこれからの社会を担うことになる若年層を中心に、より一層周知啓発を強化する必要があると考えている。
<所沢市>
- 研修実施後の成果の追跡は行っていない。また、効果に対する定量的な評価等は困難と考える。継続的な実施が重要であると考えているが、現在は職員で対応している状況であり、庁内に限らず、庁外に対する研修も実施を継続していくとなると、一定程度以上の研修スキルが求められる点と、これらに対する拘束時間が長く、事務負担が非常に大きい点が課題と考えている。
<北九州市>
- 効果測定等は実施していないが、事業者からの出前講演・研修依頼は増加している。多くの市民、事業者に理解してもらえるよう取組を継続中であり、効果的な周知啓発方法について検討していく必要があると考えている。
(4) 啓発・研修の取組に関する地域関係者、事業者及び市民等からの意見や要望について
啓発・研修の取組に当たっては、地域の関係者の意見や研修等の参加者からの意見・要望をできるだけ取り入れていく姿勢で進められていることがうかがわれた。寄せられる意見には、子供の頃からの障害や障害者に関する理解につながる教育や啓発への要望が多いとの指摘がみられた。秋田県や茨木市が進めている子供への教育・啓発の取組は、こうした意見を反映したものである。
一方で、障害者への関心が低い人たちにどのように理解してもらうかに関しては、今後の課題であることが指摘された。
○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
<秋田県>
- 研修後のアンケートでは、「当事者の生の声を聞きたい」「どんな対応をしたのか、事例を聞きたい」という声が多い。そこで来年度の研修では、障害者の語り部をプログラムに組み込むことができるよう協力を要請している。実際の生活の中でどのような障壁があるのか、どのように活躍されているかをお話ししていただく予定である。
<滋賀県>
- 「条例ができて終わりではない、研修、フォーラムも初年度だけでなく継続的に行ってほしい」という当事者からの要望もある。関心が低い人たちに条例の趣旨を理解してもらうために、どのようにアプローチしていくかが課題である。障害者が地域で生きるためには住民の理解が重要で、自治会等に対して理解促進を働きかけたい。どういう方法が効果的なのか検証して実施していく。
<立川市>
- 主に寄せられた意見には、早い時期からの障害に関する理解教育や交流の必要性、事業者の合理的配慮の提供や建設的対話の促進等があった。これらの意見は、主に条例の策定検討会や地域協議会、パブリックコメント等の場でいただいた。
<茨木市>
- ガイドブックを作る時に、教育委員会の方とも打ち合せをしながら進めたが、目に見えない障害の理解は難しい。現場を見てみると、学校ごとに先生方が自ら教材を作って自らの理解に基づいて教育をしているので、学校ごとに異なる内容になっている。障害に関する理解の共通教材を、福祉の現場と学校とで作ってみてはどうかと提案している。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント
<新潟市>
- 啓発や研修の取組に特化した形で、個別に意見や要望が寄せられることはほぼないが、研修の参加者からは「今までは障害者差別について特に意識することがなかったが、今後は気にしてみようと思う。」というような感想が多く寄せられるため、今後も、障害者差別についてまったく気にしたことがないという層に対して気付きを与えていくような周知啓発が求められると考えている。
<所沢市>
- 子供に対して、障害の理解を深めていくような仕組みや学びの場がより一層必要であるという要望をいただいている。
<北九州市>
- 研修を受けた方々からは、「障害の社会モデルや合理的配慮の考え方を初めて知った」、「研修で得た知識を職場や日常生活で活かし、同僚とも情報共有していきたい」といった感想等をいただく。本市としては、今後、対象者が希望する研修テーマ等を聞き取り、ニーズにあった講演等を実施してまいりたい。
(5) 調査結果の小括
啓発・研修の取組については、各地方公共団体が障害当事者、現場の関係者等の意見・要望を聴きながら、効果的な啓発・研修のあり方を模索し取り組んでいることがうかがわれた。秋田県、茨木市及び立川市が進めている小中学生向けの教育・啓発の取組は、対象の学年を定め、その学年の児童を対象として実施する取組であり、障害や障害者に関する理解のための最初の機会づくりとして工夫がなされている。一方、障害者への関心が低い層へのアプローチについては、効果的な手法が見出せずに課題として挙げる地方公共団体が多かった。また、啓発・研修は、定量的な効果測定が難しいため、実施効果が目に見える形になりにくいといえる。
各地方公共団体が行う啓発・研修の取組をより効果的なものにしていくには、こうした地方公共団体における様々な取組を広く共有し、これらを参考としつつ、各地域の実情に合わせた形で取組を広げていくことが有効だと考えられる。また、啓発・研修の取組は、各地方公共団体が推進する障害者差別解消のための各種施策と連携した形で実施することが重要であり、その企画において、各地域の関係機関等から構成される地域協議会が積極的な役割を果たすことも期待される。