2 国内調査 2.4.5

2.4 取組状況詳細調査結果

2.4.5 地域協議会等を活用している地方公共団体における相談対応、紛争解決の取組状況

 本調査項目については、秋田県、静岡県、滋賀県、立川市及び茨木市でそれぞれの取組状況についてヒアリングを行った。また、香川県、大分県、新潟市、所沢市及び北九州市には取組状況について問い合せを行い、文書で回答を得た。
 本調査項目の対象としたのは、条例で個別相談事案への対応について、合議体によるあっせん等(あっせん案の作成やあっせんの適否の判断及びあっせんを行うことについての審議等を含む)を規定している地方公共団体、または相談対応を障害者団体等外部へ委託が可能と規定している地方公共団体である。調査に当たっては、設置されている地域協議会の役割や個別事案への対応の有無を中心に、各地方公共団体が整備している相談体制等の状況について調査した。

<ヒアリング調査対象地方公共団体> 秋田県、静岡県、滋賀県、立川市、茨木市
<資料調査対象地方公共団体> 香川県、大分県、新潟市、所沢市、北九州市

(1) 地域協議会の役割、個別の相談事案への対応、近隣の地方公共団体との連携等について

 詳細調査対象の地方公共団体においては、それぞれの地域協議会の主な役割としては、相談対応状況の集計・報告(秋田県)、周知啓発に関する検討(香川県、新潟市)、障害者差別の解消の取組を円滑に行うネットワーク体制構築(北九州市)等が挙げられ、個別の相談事案への対応は行っていないという回答が多かった。
 例えば、香川県では地域協議会(親会議)で個別事案への対応は行っていないが、地域協議会の下に事例検討部会を設置して県内の相談事案に関する情報を収集し、その検討・分析を行っている。検討・分析の結果は県内各圏域の地域協議会等にフィードバックし、関係機関の相談対応力の向上を図っている。
 個別事案への対応や専門的支援を地域協議会(親会議・子会議)以外の仕組みが担っている例もあり、滋賀県では、専門的知見のある障害者差別解消アドバイザーを置いて個別の相談に対応している。秋田県では、地域協議会とは別に障害者差別解消調整委員会を設置し、同委員会が個別事案のあっせん等を行うこととされている。静岡県では、県及び市町の相談窓口とは別に、県の社会福祉士会が設置している相談機関が、職能団体の専門窓口という位置付けで相談を受け付けている。
 また、県が設置する広域支援相談員等が、市町村の担当者にとって重要な相談先であり相談支援の仕組みとなっていることが分かった。相談の受付や対応の外部委託については、相談対応や調整を委託機関が担うことは難しいという意見がある一方で、秋田県のように障害者団体に相談窓口を委託しているケースも見受けられた。

○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント
(地域協議会が担う役割、個別相談事案への対応の有無について)

<秋田県>

  • 地域協議会の役割は、従来からある障害者施策推進審議会(障害者基本法による位置付け)が兼ねている。一方、個別のあっせん等の紛争案件については、条例で設置した障害者差別解消調整委員会で対応することとしている。

<静岡県>

  • 地域協議会では相談の受付はしていない。県内の市町が共同で地域協議会を設置しているところはある。
(相談窓口の外部委託について)

<秋田県>

  • 相談業務の委託については、条例の検討会で、障害者団体の委員から「行政だけで対応できる事項ではない、我々も窓口になる」という声があった。そこから、一緒にやっていこうという流れができて障害者団体に委託することとなった。障害者にとっては、相談のしやすさが格段に向上すると考えている。
  • 相談対応の窓口の周知のために案内のチラシを大量に印刷して配布している。今後、特別支援学校高等部の卒業生に配布して、社会に出る前に知っておいてもらうなど、配布先に関しても検討を重ねていきたいと考えている。

<立川市>

  • 相談は、市と市内3か所の委託相談事業所等で受け付けて、市が集約した上で地域協議会へ報告している。相談者にとっては、委託相談機関は身近で相談しやすいと感じる一方、立川市の職員ではないため同機関が相手方(事業者等)との調査・調整等を行うことは難しく、相談の受付以降は市が終結まで対応しているケースが多い。調査・調整等は、ケースに応じて一緒に対応することを当初は想定していたが、事業者との込み入った調整までは委託相談機関では難しい。
(相談窓口の支援機能、広域支援相談員等との連携について)

<秋田県>

  • 県庁には広域支援相談員に相当する人員は配置していないが、市町村等の相談窓口での解決が困難な事案については、県庁の相談窓口及び県が障害者団体に委託している「障害者110番」と連携して対応している。それぞれの窓口間でも連携を図っており、相談者の了解があれば、窓口間において案件の引継ぎが行われることはある。

<静岡県>

  • 県及び市町の相談窓口とは別に、県の委託により社会福祉士会が設置している相談機関で相談を受けている。職能団体の専門窓口という位置付けで条例施行後に設置したものである。

<滋賀県>

  • 相談対応についてアドバイスをもらうため、障害者差別解消アドバイザーを3人置いている。通常の相談員だけでは解決が難しい個別事案の対応を検討してもらうことになる。様々な立場のアドバイザーの意見を参考にすることで、相談対応の幅を広げることができると感じている。
  • 障害者差別に関する相談は、市町においては障害福祉担当の職員が対応しており、困ったときには県にアドバイスを求める場合もある。県及び市町の相談対応者間において、不当な差別的取扱い及び合理的配慮の理解があまり進んでいない市町もあり、相談であっても一般的な苦情として受けており、解決に向けた対応がされないケースもある。市町の担当者を交えた研修や事例のフィードバックを定期的にしていくことが大切だと感じる。

<立川市>

  • 事案の内容や対象により、東京都の広域支援相談員と連携を図っている。

<茨木市>

  • 相談を受けたときの対応の流れとして、市だけでは解決に至らない相談案件については、大阪府の広域支援相談員にアドバイスをもらうこととしている。今年は、広域支援相談員と直接意見交換会を行った。このほか、大阪府は、様々なバックアップをはじめ、市との連携を密にしてくれている。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント

<香川県>

  • 地域協議会では、個別の相談事案への対応は行っていないが、障害者差別の解消のための課題や周知啓発の取組に関する検討等を行っている。また、事例検討部会を設置し、事例の収集、分析、検討を行い、市町及び国の関係機関と情報を共有し、連携体制の強化を図っている。なお、同部会での協議・検討結果については、各圏域の協議会等にフィードバックすることで、関係機関の対応力等の向上を図っている。

<新潟市>

  • 当市においては、「新潟市障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例推進会議(条例推進会議)」が地域協議会の役割も兼ねている。条例推進会議では、障害者差別解消のための取組に関することや人材の育成に関すること、周知啓発事業や条例施行状況に関することの調査や審議を行っている。条例推進会議において、代表的な差別事例の共有は行っているが、個別の相談事案への対応は行っていない。

<所沢市>

  • 所沢市自立支援協議会において開催している実務者会議(自立支援協議会部会の進捗管理等を行う会議)が、地域協議会の役割を兼ねている。個別の相談事案への対応は行っていない。
  • あっせん調整委員会(市の附属機関)を設置していることから、あっせんの申出があった場合にあっせん案の作成を行い、それを基に問題解決を図ることとしている。実際にあっせんに至ったケースはない。

<北九州市>

  • 地域協議会においては、代表的な差別事例の共有は行っているが、個別の相談事案についての対応は行っていない。地域協議会の目的は障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うネットワーク体制の構築を図ることである。運営に当たり、各障害者団体との連絡調整や意見集約等を行うため、コーディネーターを1人配置し、市と協働で事務局機能の向上を図っている。

(2) 地域協議会等における個別事案に係る対応等について

 本調査の対象地方公共団体のうち、滋賀県では、個別事案への相談については、市町の障害者福祉担当と県の関係出先機関が対応に直接かかわっている。個別事案の相談対応における当事者間の調整が不調に終わったときに、あっせんの申立てのあった事案については、地域協議会があっせん案の検討を行うとしている。
 また、立川市では、必要に応じて地域協議会の委員が個別事案への助言や調査に協力していることが説明された。この取組は、平成31年度の第1回地域協議会において正式に承認されたもので、地域協議会の委員の専門知識を相談対応に活用することを狙いとしており、事案の内容に応じて、関連する専門知識を持つ地域協議会の委員が助言や調査への同行等を行っている。

○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント

<滋賀県>

  • 条例上、地域協議会の機能を併せ持つ形で「滋賀県障害者差別のない共生社会づくり委員会」を設置している。この委員会は、相談対応においても解決しない事案についてあっせんの申立てがあった場合には、あっせん案の検討等を行う。

<立川市>

  • 個別相談への対応については、必要に応じて関係する地域協議会の委員と共に対応に当たっている。事案の内容等により、東京都の広域支援相談員とも連携を図っている。
  • 地域協議会による相談対応については、市が主体となって対応する中で、地域協議会の専門的知見のある委員に、助言や必要に応じて調査・聴き取りへの同行をお願いしている。例えば、事業者側が医療機関の場合は、その名前は伏せた状態で、専門的知見のある委員から医療関係の法令に関することや実情等について助言をもらい対応している。地域協議会自体は年3回しかないため、その間に受けた相談の報告だけでなく、今年度から、委員が可能な範囲で個別の相談案件にかかわれるようになった。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント
  • 資料調査対象地方公共団体からの回答では、地域協議会が個別事案への対応を行っている例はなかった。

(3) 条例施行後の個別相談事案への対応状況とその集計状況等について

 調査対象地方公共団体へのヒアリング及び書面回答の内容から、各地方公共団体での相談件数は地方公共団体によって大きく異なることが分かった。滋賀県のように条例制定後に相談件数が増加している例も見受けられた。

○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント

<秋田県>

  • 相談件数は月1~2件で推移している。具体的には、盲導犬への入店拒否や、子どもからの不快な言葉、職場での差別(上司交代に伴う配慮の欠如や仕事量の軽減等)等の相談があった。これら事案について障害者個人が特定されないように関係機関等に周知を行った。

<静岡県>

  • 相談内容は、不当な差別的取扱いと合理的配慮の不提供に関するものがほぼ同じ割合となっており、分野別では商品販売・サービス提供が最も多くなっている。

<滋賀県>

  • 条例が制定されてからは相談件数が増えている。

<立川市>

  • 相談のカウント方法については、相談があった時点でカウントすることとしている。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント

<所沢市>

  • 障害者差別に関する相談は、年に数件ではあるが寄せられている。

(4) 調査結果の小括

 条例において、相談対応等の仕組みや地域協議会を効果的に活用している地方公共団体への詳細調査の結果、相談・紛争解決のための体制はそれぞれの地方公共団体が持っている基盤や考え方に基づいて整備されており、地域によって大きな違いがあるが、複数の地方公共団体に共通して挙げられる項目もある。その例としては、相談担当者の障害者差別や合理的配慮に関する知識・理解のレベルを向上させるため、研修や事例のフィードバックが行われていることである。また、県もしくは広域支援相談員が市町の相談対応を支援する体制をとっている地方公共団体もあり、都道府県による市町への広域支援の重要性がうかがえた。また、相談事案への対応では、より踏み込んだ検討が求められる場合もあることから、外部有識者の助言・協力も必要となること等が分かった。その際、個別分野の専門的な知見を有する地域協議会の委員等の協力を得ることも有力な支援策になると考えられる。立川市においては個別事案に対応する場合等、必要に応じて地域協議会の委員が協力する体制をとっており、地域協議会の効果的な活用という点で参考になると考えられる。また、直接の相談対応ではないが、香川県では地域協議会に事例検討部会を設けて事例情報を収集・分析し、その結果を県内市町や圏域レベルの地域協議会にフィードバックしている。この取組も地域協議会の特徴を活用した例といえる。

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