V.障害者統計の国際的な動向の把握 V-2

2.主要先進国の動向

 フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダのG7を構成する主要先進国の主要な統計調査において、障害者を捉える設問がどのように導入されているかについての調査を行った。

1)フランス

 フランスでは、欧州委員会規則に基づき欧州統計局のEU-SILCEHISに対応する調査を実施している。フランスで実施されている調査において、健康に関する設問セットであるMEHMについてどのように調査票に導入されているのかを、欧州統計局のEU-SILCEHISに関するガイドラインとの比較で確認した。
 フランスにおけるEU-SILC該当の調査では、欧州統計局のEU-SILCのガイドラインに準拠し、健康に関連する設問としてMEHMが導入されている。また、調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。

図表 184 フランスにおけるEU-SILCの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
EU-SILCのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 なし なし なし
活動における制限 なし なし なし

 出所)EU-SILCの欧州統計局のメソロドジーガイドライン、フランス調査票をもとに作成

 フランスにおけるEHISに該当する調査では、「慢性的な健康問題、慢性疾患」における期間において6か月間という記載がないという点に違いがあるが、概ね欧州統計局のEHISのガイドラインに準拠して健康に関連する設問のMEHMが導入されている。また、調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。

図表 185 フランスにおけるEHISの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
EHISのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 long-standingの期間(6ヶ月)の記載なし なし なし
活動における制限 なし なし なし

 出所)EHISの欧州統計局ガイドライン、フランス調査票をもとに作成

 また、フランスは時間利用調査のHETUSも実施しており、最近実施した2010年の調査においては、「慢性的な健康問題、慢性疾患」における長期の期間の記述がない、「活動における制限」については2問を1問にしている等の違いがみられたが、概ねMEHMを導入している2008年の欧州統計局のHETUSガイドラインに準拠している。なお、これらの設問は、障害者の判定には用いていないようである。また、調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。

図表 186 フランスにおけるHETUSの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
HETUSのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 長期の期間の記述なし なし なし
活動における制限(1問目:日常生活における制限) 2問を1問に統合
制限の期間の記述なし
なし なし
活動における制限)2問目:制限を受ける期間) なし なし

 出所)HETUSの欧州統計局ガイドライン(2008年版)、フランス調査票をもとに作成

 フランスでは、全国障害・健康調査(National Disability-Health Survey)において、障害者を捉える設問を尋ねている。この統計調査では、個別の機能の問題や病状等について質問している。

National Disability-Health Surveyの設問(仮訳)>

DIS_Q01: 以下のいずれかの症状、問題がありますか?
10眼鏡やコンタクトレンズをかけない状態での視力の問題、11聴力の問題、12話すことの問題、13失神、発作や意識喪失、14学習や記憶の障害、15腕や指を使うことの制限、16ものを掴むことの困難さ、17脚部を使うことへの制限、18精神的な活動や仕事に制限をもたらす何らかの症状(例:腰痛、片頭痛)、19何らかの奇形、変形、20助けや見守りを必要とする何らかの精神疾患
DIS_Q02: (ある場合)上記のうち、どれに該当しますか?
DIS_Q03: 以下のいずれかの症状で、6カ月以上にわたって日常の活動に支障をきたす症状として思い当たるものはありますか?
1息切れ、呼吸困難、2慢性または再発性の痛み、3神経または感情の症状、4頭部の外傷、脳卒中またはその他の脳損傷の結果としての長期的な影響、5治療またはリラックスを必要とするその他の長期的な症状、6関節炎、喘息、心臓病、アルツハイマー病、認知症など、その他の長期的な症状
DIS_Q04: (ある場合)上記のうち、どれに該当しますか?
DIS_Q06: お伝えいただいた症状を理由として、これらのことを行うのに手助けや見守りが必要だったことがありますか?
DIS_Q07: これらのことを行うのに常に手助けを必要としますか?
DIS_Q08: お伝えいただいた症状を理由として、これらのことを行うのに困難が生じたことはありますか?
DIS_Q09: これらの身の回りのこと、移動、コミュニケーションを一人でできたとしても、何らかの補助があればそれを使いますか?

2)アメリカ

 アメリカでは、家計の個人の属性や住宅環境を質問するアメリカ地域社会調査(American Community Survey, 以下ACS)、個人の属性や労働に関連する項目を質問する人口動態調査(Current Population Survey, 以下CPS)において、障害者を捉える設問が導入されている。
 ACSの設問は、ワシントングループの短い設問セットをベースに作成されている。6つある設問には、ワシントングループの短い設問セットの視覚、聴覚、認知、歩行、セルフケアが含まれているが、コミュニケーションに関しては一人での通院や買い物に置き換わっている。選択肢は、「はい」、「いいえ」の2段階であるが、設問では、「著しい困難である」、「完全にできない」場合に「はい」と回答するように設計されており、ワシントングループの短い設問セットにおいて機能制限がある者を捕捉する方法にも対応できるようになっている。

American Community Surveyの設問(仮訳)>

Q18-a: 完全に耳が聞こえない、もしくは聞き取ることに著しい困難が伴いますか?
Q18-b: 完全に目が見えない、もしくは眼鏡をかけていても見ることに著しい困難が伴いますか?
Q19-a: 身体的、精神的、もしくは感情的な不調を理由として、集中、記憶や意思決定に著しい困難が伴いますか?
Q19-b: 歩行や階段を上ることに著しい困難が伴いますか?
Q19-c: 着替えや入浴に困難が伴いますか?
Q20: 身体的、精神的、もしくは感情的な不調を理由として、通院や買い物等の用事へ一人で行くことに困難が伴いますか?

 CPSの障害に関連する設問は、個人属性に関する設問で構成される人口動態票と労働に関する労働力票が存在する。労働力票においては、今後半年間に就業する際に障害が妨げになるかということを尋ねている。しかしながら、身体機能に関するワシントングループのような設問や健康状態が悪いことが長期的に継続しているかという設問はない。

Current Population Surveyの設問(仮訳)>

あなたの/彼の/彼女の障害は、今後半年間にわたって継続的に、あなたが/彼が/彼女が(仕事の種類や自営業であるか等を問わず)仕事をすることを妨げ続けますか?
はい/いいえ
あなたの/彼の/彼女の障害は、今後半年の間に、あなたが/彼が/彼女が仕事に就くことの妨げになりますか?
はい/いいえ
あなた/彼/彼女は、今後半年の間に、あなたが/彼が/彼女が(仕事の種類を問わず)仕事に就くことを妨げるような障害を持っていますか?
はい/いいえ

3)イギリス

 イギリスでは、欧州委員会規則に基づき欧州統計局のEU-SILCEHISに対応する調査を実施している。イギリスで実施されている調査において、健康に関する設問セットであるMEHMについてどのように調査票に導入されているのかを、欧州統計局のEU-SILCEHISに関するガイドラインとの比較で調査した。
 イギリスにおけるEU-SILCに該当する調査に関しては、欧州統計局のEU-SILCのガイドラインに準拠し、健康に関連する設問としてMEHMが導入されている。一方で「活動における制限」に係る設問が2問に分けられていたり、「慢性的な健康問題、慢性疾患」に関する継続期間が12か月になっている等の違いがある。なお、調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。

図表 187 イギリスにおけるEU-SILCの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
EU-SILCのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 継続期間が12か月 なし なし
活動における制限 日常生活における制限(1問目) なし なし
制限を受ける期間は3段階(2問目) なし なし

 出所)EU-SILCの欧州統計局のメソロドジーガイドライン、イギリス調査票をもとに作成

 イギリスにおけるEHISに該当する調査では、MEHMと同じ概念の設問が存在し、概ね欧州統計局のEHISのガイドラインに準拠したものとなっているが、「慢性的な健康問題、慢性疾患」に関する継続期間の記述がない点に違いがある。なお、調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。

図表 188 イギリスにおけるEHISの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
EHISのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 長期継続の期間(6ヶ月)の記載なし なし なし
活動における制限 なし なし なし

 出所)EHISの欧州統計局のガイドライン、イギリス調査票をもとに作成

 また、イギリスは時間利用調査のHETUSも実施しており、最近実施した2014~2015年の調査においては、MEHMが導入されている。イギリスの設問では、「慢性的な健康問題、慢性疾患」における長期の期間の記述が4週間であったり、「活動における制限」については2問を1問にしている違いがあるが、概ね2008年の欧州統計局のHETUSガイドラインに準拠している。なお、調査票においては、質問文において「障害」に関する文言が用いられていた。しかし、これらの設問を、障害者の判定には用いていないようである。

図表 189 イギリスにおけるHETUSの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
HETUSのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 継続期間が4週間 あり なし

日常生活における制限(1問目)

2問を1問に統合
制限の期間の記述なし

あり なし

活動における制限(2問目:制限を受ける期間)

 出所)HETUSの欧州統計局のガイドライン(2008年版)、イギリス調査票をもとに作成

 イギリスでは、欧州連合の各国において共通的に実施している統計調査以外の家庭資源調査(Family Resources Survey, 以下FRS)、センサスにおいて、障害者を捉える設問が導入されている。
 イギリスの国家統計局は、いくつかの分野・複数の統計において概念や設問を統一化するための基本セット31を用意している。その基本セットの分野には、General Health & Carers, Long-lasting Health Conditions and Illnesses; Impairments and Disabilityという健康・障害に関連するものがあり、この設問セットには欧州統計局で用いられているMEHMに類似した設問が含まれている。基本セットの資料には欧州統計局の統計と整合させることや欧州統計局の設問を参照していることが記載されている。
 FRSの設問は、前述の基本セットの設問をもとに作成されている部分があり、欧州統計局が作成したMEHMに含まれている「自身が認識している健康状態」、「慢性的な健康問題、慢性疾患」、「活動における制限」の設問が含まれている。

<Family Resources Surveyの設問(仮訳)>

全般的な健康状態について教えてください。
非常に良い/良い/ふつう/悪い/非常に悪い
12カ月以上続いている、もしくは続くことが予想される身体、精神上の健康の問題もしくは病気がありますか?
はい/いいえ
何らかの健康上の問題もしくは病気を原因として、日常の活動において十分に能力を発揮できない事態がありますか?
はい、非常にある/はい、多少ある/全くない
以下の領域において、あなたに影響を与えている問題、病気がありますか?
1.視覚?(例えば、失明や部分的な見えること)
2.聴覚?(例えば、難聴や部分聴覚など)
3.移動(例えば、短い距離を歩く、階段を昇る)
4.器用さ?(例えば、キーボードを使用したオブジェクトの持ち上げと持ち運び)
5.覚えること、理解すること、集中すること
6.記憶
7.精神面の健康
8.スタミナ、息切れ、疲労
9.社会面あるいは行動面での問題(例えば、自閉症、注意欠陥障害またはアスペルガー症候群に類するもの)
10.その他
健康問題や病気のいずれかは、以下の影響を及ぼしていますか?
それらの問題や病気の内のいずれかを理由として、日常の活動に支障をきたしていますか?
はい、非常にある/はい、多少ある/全くない
どのくらいの期間にわたって、日常の活動に支障をきたしていますか?
6ヶ月未満/6ヶ月から12か月の間/12ヶ月以上

 センサスの2021年調査のリハーサル(2019年実施)の設問は、前述の基本セットをもとに作成されている部分があり、欧州統計局が作成したMEHMに含まれる「自身が認識している健康状態」、「慢性的な健康問題、慢性疾患」、「活動における制限(一部)」の設問が含まれている。

<2021年センサスのリハーサル(2019年実施)の設問(仮訳)>

Q21: 全般的な健康状態はどうですか?
非常に良い/良い/ふつう/悪い/非常に悪い
Q22: 12カ月以上続いている、もしくは続くことが予想される身体、精神上の健康の問題もしくは病気がありますか?
はい/いいえ
Q23: 何らかの健康上の問題もしくは病気を原因として、日常の活動において十分に能力を発揮できない事態がありますか?
はい、非常にある/はい、多少ある/全くない

4)ドイツ

 ドイツでは、欧州委員会委員会規則に基づき欧州統計局のEU-SILCEHISに対応する調査を実施している。ドイツで実施されている調査において、健康に関する設問セットであるMEHMについてどのように調査票に導入されているのかを、欧州統計局のEU-SILCEHISに関するガイドラインとの比較で調査した。
 いずれの統計調査においても、欧州統計局のEU-SILCEHISに係るガイドラインで示されている健康に関する設問セットであるMEHMと同様の設問を導入している。「行動の制限」に関しては、日常生活における制限、制限の強さ、制限を受けた期間の3つに分けられている。なお、いずれの統計調査の調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。

図表 190 ドイツにおけるEU-SILCの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
EU-SILCのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 なし なし なし
活動における制限 日常生活における制限(1問目) なし なし
制限の強さ(2問目) なし なし
制限を受けた期間(3問目)(「6か月未満」と「6か月以上」の2択) なし なし

 出所)EU-SILCの欧州統計局のメソドロジーガイドライン、ドイツ調査票をもとに作成

図表 191 ドイツにおけるEHISの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
EHISのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 なし なし なし
活動における制限 日常生活における制限(1問目) なし なし
制限の強さ(2問目) なし なし
制限を受けた期間(3問目)(「6か月未満」と「6か月以上」の2択) なし なし

 出所)EHISの欧州統計局のガイドライン、ドイツ調査票をもとに作成

 ドイツでは、イギリス、フランス、イタリアのように、時間利用調査において“Harmonised European Time Use Surveys (HETUS) 2018 Guidelines”で示されている障害者を捉える設問(MEHM)を導入していない。
 ドイツは、毎年Microcensusという小規模なセンサス調査を行っているが、障害者を捉える設問では、以下のように直接的に障害者の認定に関して尋ねている。

Microcensusの設問(仮訳)>

190 あなたの障害は公的に認められていますか?
公的に認められたとは、重度障害者パス、重度障害・戦争障害者パス、障害者年金証書、(戦争)年金局により発行された行政・法的書類等により認定された者をさします。
1.はい? 2.いいえ
191 あなたの障害が公的に認められている場合、障害はどの程度と認められていますか。
1.30未満
2.30以上40未満
3.40以上50未満
4.50以上60未満?
5.60以上70未満
6.70以上80未満
7.80以上90未満
8.90以上100未満
9.100

5)イタリア

 イタリアでは、欧州委員会規則に基づき欧州統計局のEU-SILCEHISに対応する調査を実施している。イタリアで実施されている調査において、健康に関する設問セットであるMEHMについてどのように調査票に導入されているのかを、欧州統計局のEU-SILCEHISに関するガイドラインとの比較で調査した。
 イタリアにおけるEU-SILC に該当する調査に関しては、欧州統計局のEU-SILCのガイドラインに準拠し、健康に関連する設問としてMEHMが導入されている。また、調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。

図表 192 イタリアにおけるEU-SILCの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
EU-SILCのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 なし なし なし
活動における制限 なし なし なし

 出所)EU-SILCの欧州統計局のメソドロジーガイドライン、イタリア調査票をもとに作成

 イタリアにおけるEHISに該当する調査では、欧州統計局のEHISガイドラインに準拠し、健康に関連する設問のMEHMが導入されている。また、調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。

図表 193 イタリアにおけるEHISの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
EHISのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 なし なし なし
活動における制限 なし なし なし

 出所)EHISの欧州統計局ガイドライン、イタリア調査票をもとに作成

 また、イタリアは時間利用調査のHETUSも実施しており、最近実施した2013~14年の調査においては、MEHMが導入されている。イタリアの設問では、「活動における制限」については2問を1問にしている違いがあるが、概ね2008年の欧州統計局のHETUSガイドラインに準拠している。なお、調査票においては、質問文、その解説等において「障害」に関する文言はなかった。また、これらの設問は、障害者の判定には用いていないようである。

図表 194 イタリアにおけるHETUSの設問の内容とガイドラインとの違い
MEHMの構成
(設問の内容)
HETUSのガイドラインとの違い 障害に関する表記
質問文 質問の解説 他の部分
自身が認識している健康状態 なし なし なし なし
慢性的な健康問題、慢性疾患 なし なし なし

活動における制限(1問目:日常生活における制限)

2問を1問に統合
制限の期間の記述なし

なし なし

活動における制限(2問目:制限を受ける期間)

なし なし

 出所)HETUSの欧州統計局ガイドライン(2008年版)、イタリア調査票をもとに作成

6)カナダ

 カナダでは、センサス及びカナダ障害調査(Canadian Survey on Disability, 以下CSD)という2つの調査を関連付けて障害者を捕捉しようとしている。具体的には、センサスにおいて障害者の可能性のある者をスクリーニングし、CSDで障害者かどうかの判定と詳細分析を行うという方策が採用されている32
 センサスにおいては、ワシントングループの短い設問セットをベースにカナダ独自で開発した6つの設問からなる設問セットである障害スクリーニング設問(Disability Screening Question, 以下DSQ)が存在しており、その設問はワシントングループとGALIのハイブリッドとなっている33
 DSQは、ワシントングループの短い設問セットと同様に、視覚、聴覚、歩行・セルフケア、認知の設問があるが、情緒・心理・精神の健康問題と6ヶ月以上の長期にわたる、あるいはわたると見込まれるその他の健康問題についての設問を組み込んでいる。欧州統計局の設問のように、健康問題の有無やその継続についても尋ねている点で、ワシントングループと欧州統計局の設問を合わせて活用している事例と言える。
 センサスで用いられるDSQの選択肢は、ワシントングループの選択肢にある困難さの程度ではなく、「全くない」、「時々ある」、「しばしばある」、「常にある」の4段階の発生頻度を尋ねている。

<センサスにおけるDSQの設問(仮訳)>

当該の人が何らかの困難さを抱えていますか?
メガネをかけたり、コンタクトレンズを付けたりしても見ることが難しいことがある。
1.全くない 2.時々ある 3.しばしばある 4.常にある
補聴器を付けても聴くことが難しいことがある。
1.全くない 2.時々ある 3.しばしばある 4.常にある
歩行、昇段、手や指の利用、その他の活動に難しいことがある。
1.全くない 2.時々ある 3.しばしばある 4.常にある
学習したり、思い出したり、集中することに難しいことがある。
1.全くない 2.時々ある 3.しばしばある 4.常にある
情緒的、心理的、または精神的健康状態(例:不安、うつ病、双極性障害、薬物乱用、食欲不振など)が難しいことがある。
1.全くない 2.時々ある 3.しばしばある 4.常にある
他の健康問題、あるいは6ヶ月以上続いている、あるいは続くことが予想される長期の問題がある。
1.全くない 2.時々ある 3.しばしばある 4.常にある

 DSQはセンサスのような一般人口を対象とする統計において、CSDの対象とする「障害者である可能性がある者」をスクリーニングするための役割を果たしている。具体的には、6つの設問において、いずれか1つの設問においてでも「時々ある」、「しばしばある」、「常にある」の3つのいずれかを選択した回答者は、「障害者である可能性がある者」として、CSDの調査対象候補となり、カナダ統計局からCSDの調査への回答を依頼される34
 CSDでは、約50,000名程度を全サンプルとしており、視力、聴力、移動、柔軟性、器用さ、痛み関連、学習、発達、メンタルヘルス、記憶の10類型(Types)の障害類型において、それぞれの類型ごとに障害者に該当するか否かの判定を行っている。
 より具体的には、上記の類型ごとに、困難さに加えて発生頻度をかけ合わせたマトリクスを用いて障害者なのかどうかの特定を行う。困難さについては、ワシントングループの設問と同様に4段階の選択肢で質問しており、発生頻度については前出のセンサスにおける4段階に「まれにある」を2番目に加えた5段階の選択肢で質問しているが、困難さ(4段階)と発生頻度(5段階)のかけ合わせで、それぞれの選択肢のどこに該当するかにより、類型ごとに「障害のある者」と「障害のない者」が特定される仕組みとなっている。
 なお、CSDでは、センサスにおけるDSQを通じて基本的に障害者である可能性のある者をスクリーニングしているが、回答した結果CSDの基準では障害のない者と判定されるサンプルも含まれている。また、障害者の出現率の分析や、障害者と障害のない者との比較分析等の目的でセンサスでのDSQの6問すべてにNoと回答したサンプルも5,000名抽出している35

図表 195 G7における障害者を捉える設問を含む主要な統計調査(フランス・アメリカ)
障害者を捉える
設問のある調査名
結果が公表されている最新年度 所掌機関・部局 障害者を捉える設問数 準拠している
ガイドライン・標準等
対象年齢 対象者 手法 周期 サンプル数 調査票あるいは手法に関する資料
フランス 欧州連合・所得と生活状況に関する調査 2018 フランス国立統計経済研究所 3 欧州統計局が作成した「欧州連合・所得と生活状況に関する調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 世帯・個人(16歳以上) 16歳以上(特別調査は除く) 対面インタビュー 1年 家計:横断的7,250 縦断的5,500
個人:横断的13,500 縦断的10,250
【調査票】
https://circabc.europa.eu/sd/a/bb905b7e-691d-4b78-9f10-204448927b33/2018_Questionnaire_FR.pdf
欧州健康インタビュー調査 2014 フランス国立統計経済研究所 3 欧州統計局が作成した「欧州健康インタビュー調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 15歳以上 民間の住居に住む個人(施設は除く) 対面インタビュー、コンピュータ支援電話インタビュー 5年 13,110人 【調査票】
https://www.irdes.fr/recherche/rapports/566-enquete-sante-europeenne-EHIS-enquete-sante-et-protection-sociale-esps-2014.pdf
生活時間及びカップルの意思決定調査 2010 フランス国立統計経済研究所 3 欧州統計局が作成した「欧州統一生活時間調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 11歳以上 世帯/個人 コンピュータ支援電話インタビュー、対面インタビュー 約10年 約1万2,000世帯(フランス首都圏1万1,000世帯、海外1,000世帯) 【調査票】
https://unstats.un.org/unsd/demographic/sconcerns/tuse/Country/france/EDTDDC_quest%20chercheur_EN_MARS2011.pdf
【概要】
https://www.insee.fr/en/metadonnees/source/serie/s1224
全国障害・健康調査 2008-2009 フランス国立統計経済研究所 14 最小欧州健康モジュールに加え、他の問を加え設問を作成。 18歳以上 世帯/個人 対面インタビュー、コンピュータ支援の他記式調査CAPI(Computer-Assisted?Personal?Interviewing)、自記式調査CASI(Computer-Assisted?Self-Interviewing) 不規則 111,592世帯/262,963人 【調査票】
https://drees.solidarites-sante.gouv.fr/IMG/pdf/quest_vqs_eng.pdf
【概要(フランス語)】
https://drees.solidarites-sante.gouv.fr/etudes-et-statistiques/open-data/handicap-et-dependance/article/les-enquetes-handicap-sante
アメリカ アメリカ地域社会統計?(ACS) 2018 アメリカセンサス局 6 ワシントングループの短い質問セットをベースに問を作成。 全年齢 世帯/個人 インタビュー調査 1年 214.3万戸 【質問票】
https://www2.census.gov/programs-surveys/acs/methodology/questionnaires/2020/quest20.pdf?#
※質問票は2020年版のもの。障害者に関する質問は前年までと同内容。
【ガイドライン】
https://www.census.gov/topics/health/disability/guidance/data-collection-acs.html
所得および社会保障受給調査(SIPP) 2014 アメリカセンサス局 12 ワシントングループの短い質問セット(6設問)に加え、子供関連(3設問)、労働関連(3設問)を設定。 15歳以上 世帯/個人 インタビュー調査 不規則 5万世帯 【ガイドライン】
https://www.census.gov/topics/health/disability/guidance/data-collection-sipp.html
アメリカ雇用統計?(CPS) 2020年1月 アメリカセンサス局 3 - 15歳以上 軍所属は除く 訪問インタビュー、電話インタビュー 毎月 約60,000世帯 【質問票】
https://www2.census.gov/programs-surveys/cps/techdocs/questionnaires/Labor%20Force.pdf
【ガイドライン】
https://www.census.gov/topics/health/disability/guidance/data-collection-cps.html
図表 196 G7における障害者を捉える設問を含む主要な統計調査(イギリス・ドイツ)
障害者を捉える
設問のある調査名
結果が公表されている最新年度 所掌機関・部局 障害者を捉える設問数 準拠している
ガイドライン・標準等
対象年齢 対象者 手法 周期 サンプル数 調査票あるいは手法に関する資料
イギリス 欧州連合・所得と生活状況に関する調査 2018 国家統計局 3 欧州統計局が作成した「欧州連合・所得と生活状況に関する調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 世帯・個人(16歳以上) 16歳以上(特別調査は除く) 対面インタビュー 5年 家計:横断的7,500 縦断的5,750
個人:横断的13,750 縦断的10,500
【調査票】
https://circabc.europa.eu/sd/a/103fe1c0-2633-4424-b13f-0cf3e9b4da7f/2017_Questionnaire_UK.pdf
欧州健康インタビュー調査 2013-2014 国家統計局 3 欧州統計局が作成した「欧州健康インタビュー調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 15歳以上 民間の住居に住む個人(施設は除く) 対面インタビュー、電話インタビュー 5年 13,085人 【調査票】
http://doc.ukdataservice.ac.uk/doc/7881/mrdoc/pdf/7881_EHIS_wave_2_userguide_2013-14.pdf
イギリス生活時間調査 2014-2015 国家統計局 3 欧州統計局が作成した「欧州統一生活時間調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 8歳以上 世帯/個人 インタビュー調査 不定期 4,238世帯/9,388人 【調査票】
http://doc.ukdataservice.ac.uk/doc/8128/mrdoc/pdf/8128_natcen_reports.pdf
※196、197ページに障害者を捉える設問あり
家族リソース調査 2017-2018 労働年金省 16 最小欧州健康モジュールに加え、他の問を加え設問を作成。 16歳以上 16~19歳の従属児を除く 対面インタビュー 1年 37,885?アドレス(英国)
3,840アドレス(北アイルランド)
【調査票】
<グレートブリテン>
http://doc.ukdataservice.ac.uk/doc/8460/mrdoc/pdf/frs_2017_18_gb_question_instructions.pdf
<北アイルランド>
http://doc.ukdataservice.ac.uk/doc/8460/mrdoc/pdf/frs_2017_18_ni_question_instructions.pdf
センサス 2011 英国国家統計局、スコットランド統計局 3 最小欧州健康モジュールに類似した問がある。 全年齢 住所登録のある全世帯 ウェブ回答、郵送、調査員への提出 10年 26,442,096世帯 【調査票】
https://www.ons.gov.uk/census/censustransformationprogramme/testingthecensus/2019rehearsal
※上記URLは2021年調査のリハーサル(2019年実施)の調査票。2011年実施時の調査票は不明。
ドイツ 欧州連合・所得と生活状況に関する調査 2018 ドイツ連邦統計局 3 欧州統計局が作成した「欧州連合・所得と生活状況に関する調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 世帯・個人(16歳以上) 16歳以上(特別調査は除く) 対面インタビュー 概ね5年 家計:横断的8,250 縦断的6,000
個人:横断的14,500 縦断的11,750
【調査票】
https://ec.europa.eu/eurostat/documents/203647/203704/Guidelines+SILC+2018/2a2e6452-a1a9-b167-209b-dbd91eab2c90
欧州健康インタビュー調査 2014-2015 ドイツ連邦統計局 3 欧州統計局が作成した「欧州健康インタビュー調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 15歳以上 民間の住居に住む個人(施設は除く) 対面インタビュー、コンピュータ支援電話インタビュー 5年 15,260人 【調査票】
https://www.rki.de/DE/Content/Gesundheitsmonitoring/Gesundheitsberichterstattung/GBEDownloadsJ/Supplement/JoHM_2017_01_gesundheitliche_lage9.pdf;jsessionid=24FEF93E1D6C2E7CF51708806677BE19.internet062?__blob=publicationFile
マイクロセンサス 2018 ドイツ連邦統計局 2 全年齢 世帯/個人 コンピュータ支援電話インタビュー 1年 約370,000世帯/約810,000人 【調査票】
https://www.it.nrw/sites/default/files/atoms/files/mz-fragebogen_2019_ahm_muster_englisch.pdf
図表 197 G7における障害者を捉える設問を含む主要な統計調査(イタリア、カナダ)
障害者を捉える
設問のある調査名
結果が公表されている最新年度 所掌機関・部局 障害者を捉える設問数 準拠している
ガイドライン・標準等
対象年齢 対象者 手法 周期 サンプル数 調査票あるいは手法に関する資料
イタリア 欧州連合・所得と生活状況に関する調査 2018 イタリア統計局 3 欧州統計局が作成した「欧州連合・所得と生活状況に関する調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 世帯・個人(16歳以上) 16歳以上(特別調査は除く) 対面インタビュー 1年 家計:横断的7,250 縦断的5,500
個人:横断的15,500 縦断的11,750
【調査票】
https://circabc.europa.eu/sd/a/d44911a2-40da-425b-bdac-da64381b70c7/2018_Questionnaire_IT.pdf
欧州健康インタビュー調査 2014 イタリア統計局 3 欧州統計局が作成した「欧州健康インタビュー調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 15歳以上 民間の住居に住む個人(施設は除く) 対面インタビュー、コンピュータ支援電話インタビュー 5年 13,810人 【調査票】
https://www.istat.it/it/files//2015/11/Fac-simile-Questionario-A-forma-ridotta.pdf
https://www.istat.it/it/files//2015/11/Fac-simile-Questionario-B.pdf
https://www.istat.it/it/files//2015/11/Fac-simile-Questionario-C.pdf
時間利用調査 2013-2014 イタリア統計局 3 欧州統計局が作成した「欧州統一生活時間調査」のガイドラインに基づき、設問を設定。? 3歳以上 世帯/個人 訪問インタビュー 約5年 約18,000家族/約45,000人 3つの調査モデル(1つのアンケートと日誌・週誌)で実施
https://www.istat.it/it/archivio/5723
https://www.istat.it/it/files//2011/01/IMF13ABis.pdf
【調査票】
https://www.istat.it/it/files//2011/01/IMF13ABis.pdf
https://www.istat.it/it/files//2011/01/IMF13A1.pdf
https://www.istat.it/it/files//2011/01/IMF13B1.pdf
https://www.istat.it/it/files//2011/01/IMF13C1.pdf
カナダ センサス 2016 カナダ統計局 6 ワシントングループの短い質問セットをベースに、スクリーニング用の設問を作成。 カナダ国民(出生・帰化別)、上陸移民、非永住者、一緒に暮らす家族から構成されるカナダの全人口を対象 カナダ在住の全個人 インターネット、紙、センサスヘルプライン、キャンバスサーによる回答 5年 全個人 【調査票】
https://www12.statcan.gc.ca/nhs-enm/2016/ref/questionnaires/questions-eng.cfm
カナダ障害統計 2017 カナダ統計局 60 ワシントングループの短い質問セットをベースに、スクリーニング用の設問を作成。 15歳以上 在宅の15歳以上 ウェブ調査、対面インタビュー 5年 45,443人 【調査票】?
https://www23.statcan.gc.ca/imdb/p3Instr.pl?Function=assembleInstr&lang=en&Item_Id=348023

31 国家統計局が整理する質問の基本セットは、以下に示されている。https://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20160106185646/http://www.ons.gov.uk/ons/guide-method/harmonisation/primary-set-of-harmonised-concepts-and- questions/index.html
32 “Disability Statistics : Canadian Experience” Statistics Canada, 2017
33 DSQは、センサスの調査票の長編版(long-form)に含まれている。(長編版は約25%の世帯において用いられる。)
34 センサスにおいて電話番号や電子メールアドレスを回答しているため、これらの情報を用いて、CSDへの協力依頼がなされると考えられる。
35 “Canadian Survey on Disability, 2017:Concepts and Methods Guide”, Statistics Canada, 3.1 Target population and coverage

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