V.障害者統計の国際的な動向の把握 V-3

3.国際的な動向の把握のまとめ

 本調査研究で把握できた国際機関の動向及びG7を構成する主要先進国の動向については、以下のようにまとめることができる。

1)国際機関の動向

 国連統計委員会は障害の状態によるデータの分解の必要性の観点等からデータ収集及び手段の精査を行うことについて要請し、各国の全国的なデータ収集においてワシントングループの設問を用いること等について留意点として示した。また、国連障害者権利委員会は、ワシントングループの設問の導入も勧告しており、さらに、締約国に対して条約の第31条に基づき情報の収集に加えて障害種別等の細分化されたデータの収集・集計も求めている。
 欧州委員会は、統計を担当する部局である欧州統計局が作成したMEHMのような設問について、個別の統計調査に係るガイドラインを通じて、欧州連合内での比較可能性を高めること等も目的に、加盟国における統計調査における導入を促している。一方で、EU-SILCの設問に2022年からワシントングループの短い設問セットを導入する動きがあるほか、国連の地域組織である国連欧州経済委員会でも一般人口を対象とする人口・住宅調査において障害を捉えるため、ワシントングループの設問に対応する選択肢や6つの機能領域の利用を推奨している。

2)主要先進国の動向

 フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダの統計調査における障害者を捉える設問については、何らかの設問セット、モジュール、ガイドラインを参照している事例が多くみられた。活用されている統計調査の種類では、EU-SILCのような個人の属性、所得、住居等の生活状態を把握しようとする統計調査や生活時間調査等で活用されている例が多くみられた。
 ワシントングループの短い設問セットは、アメリカ、カナダにおいて、ACSやカナダのセンサスのように、修正を加えられて設問を構成している事例が見られた。特に、カナダでは、ワシントングループの設問、欧州統計局の設問を合わせたような設問となっている点が特徴であるDSQという独自の設問セットを構築しており、センサスにおいて当該設問セットで「障害者に該当する可能性のある者」をスクリーニングした上で、その後続調査であるCSDにおいて「障害のある者」と「障害のない者」を捕捉し、比較検討を可能としている。アメリカ、カナダの上記の取組は、ワシントングループの設問をベースにしているため、障害種別等の細分化されたデータの収集・集計への対応を可能とするものである。これにより国連障害者権利委員会が求める要求に対応することができる。
 欧州統計局が作成した設問であるMEHMやそれに含まれる設問は欧州連合の主要先進国で用いられている事例が多い。EU-SILCEHISHETUS等の欧州連合において共通的に実施する統計調査においては欧州統計局のガイドラインでMEHMが用いられていることから、各国におけるこれらの調査においても導入されている。また、MEHMは、イギリスにおける設問の基本セットの中にも含まれており、イギリスが独自に実施しているセンサス等の統計調査においても導入されている。しかしながら、これらの設問を導入しているイギリス、ドイツ、イタリアは国連障害者権利委員会から障害を含む分解されたデータの収集・集計を行うよう勧告を受けている。
 そのほか、公的障害者制度の認定に係る設問はドイツのMicrocensusにおいて直接的に用いられている。このことにより、単に公的障害者制度の利用状況を把握するのみならず、他の設問との組み合わせにより、公的障害者制度利用者についてさらなる状況把握ができている。

前のページへ次のページへ