2 国外調査 2.5.3
2.5 参考資料(ヒアリング詳細)
2.5.3 ESGについての投資アドバイザリー事業者
ESGにおける障害者施策の現状
○ 現在EUやイギリスの法律では、障害者の権利を保護し、機会均等が図られている。国や政府レベルでは、2010年の衡平法(Equality Act)、2019年の欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act)等の法律が存在している。
○ また、EUは、ESGの法律と実践において世界を牽引していると言える。合理的配慮の提供には、具体的には職務内容の変更、専用駐車場の提供、仕事場のアクセス性の向上、タスクやトレーニング資料の提示方法の変更、生産工程の調整、柔軟な勤務スケジュールの許可、他のポジションへの配置転換、コミュニケーションや情報提供などが挙げられる。
○ ただし、身体障害者に対する規定は充実しているが、精神障害者への取り組みは改善の余地がある。新型コロナウイルスによってメンタルヘルスが話題になっている中、精神障害者の受け入れはまだ難しい。理由は、精神障害者のインクルージョンを目的とした規制が存在しないのと、理解が不足しているからである。
○ 障害者配慮は様々な観点から議論されている。雇用の面では、面接から解雇までの採用の全過程において、障害者が不利にならないようにするためのポリシーが存在する。その他の面では、施設へのアクセスやウェブサイト、電話、一般的な通信媒体へのアクセスの保証の必要性が議論されている。政府は、市や町、教育機関、商業店舗、病院、公共交通機関が障害者にアクセス可能であることを、法律を通して保証する責任があり、重要な役割を果たしている。障害者にとって問題となるのは移動のみではなく、雇用率が低いことなど、より無形な障壁も存在する。
○ 政府は障害者の雇用率を高めるために法律だけでなく、効果的なコミュニケーションによる環境作りに取り組むべきである。障害者のインテグレーションを促進するために、一般の人々や企業の認識を変える必要がある。障害者は他の人と同等に、あるいは他の人よりもさらに社会や企業に貢献する事が出来るといったポジティブなメッセージを伝えることが重要である。政府の他に、SNSを通してポジティブなメッセージを発信するのも効果的である。例えば、イギリスの政府機関は、若者に人気なSNSを通じて色々な情報を発信している。
○ 雇用だけではなく、自社の製品・サービスの消費者としても障害者を想定しインクルージョンに積極的に取り組んでいる企業もある。社会(S)及びガバナンス(G)領域においては、一部の企業が「差別的取扱いの禁止」に向けて、障害の他に性別や年齢、人種、経歴、性的指向、宗教など、様々なことを対象として積極的に取り組んでいる。
ESGにおける障害者施策について
○ 障害者のインクルージョンの基準が定まっていないため、ESGの文脈で、企業の障害者への配慮に関する評価をすることは困難である。企業によって評価方法が異なり、データの一貫性や比較可能性が問われる。また、データは自発的な自己宣言に基づいているため、「回答しない」という選択肢が常にあることを念頭に置く必要がある。
○ 一般的に、評価は、リーダーシップと社内文化、物理的なアクセス性 、雇用慣行(福利厚生、採用プロセス、雇用、教育、定着、昇進の慣行)、コミュニティ内の関係性、そしてサプライヤーの多様性という5つの分野で行うべきである。
○ ESG評価基準に障害者配慮の観点を導入する場合に具体的に考慮すべき項目は、人的資本の発展、労務管理、コミュニティ内の関係性、コミュニケーションや金融、医療へのアクセス、健康である。これらを規制するには政府が大きな役割を果たす。
○ ESGの文脈において、障害に関する取組が収益性に影響を及ぼすという報告は非常に説得力がある。ダイバーシティとインクルージョンに取り組む企業は、他の企業に比べて収益が高く、純利益や利益率も大幅に向上していると書かれている。投資家がダイバーシティとインクルージョンに注目している理由は、企業環境がより機能的になり、長期的に優れた戦略をとることができ、それが企業業績の向上に繋がるという認識があるからである。しかし、現在のところ、投資家はジェンダーに焦点を当てる傾向がある。
○ 特にBtoCの分野において、障害者への対応を経済性や収益性に繋げるためには、若い障害者へのコミュニケーションがカギとなる。障害者が若いうちに働き始めなければ、その後労働する機会が得られない可能性がある。そのためにはインセンティブや採用プロセスを改善するための取り組みが非常に有効である。この様な政策はまだ十分ではないが、今後発展させるべきである。具体的に政府が雇用主にインセンティブを与えるには、報酬の一部を障害者のキャリアガイダンスに確保したり、助成された見習い制度で若者を雇い、トレーニングするよう雇用主にインセンティブを与えたり、社会保障費を補助する方法などがある。
○ インセンティブ以外の方法としては、政府は一般の人々の障害者に対する認識を変えることが出来る。政府は雇用主として、どのように障害者の受け入れに取り組んでいるかをアピールし、ポジティブなイメージを与えることが出来る。現在の若者は、雇用主の価値観や評判、支持している社会課題を重視する傾向があるため、政府による明確なコミュニケーションが非常に大事だろう。例えば、イギリスの政府機関や規制当局は障害者に対する認識を改善させるために、地方自治体を通して国民にメッセージを伝えている。
○ 障害者のインクルージョンは、イノベーションの促進、株主価値の向上、生産性の向上、サプライヤー・エコシステムへのアクセスの向上、市場シェアの拡大、企業評価の向上という6つの重要な分野で組織を改善するが、企業は非財務的利益も重視し、その中では特に企業評価が重要である。企業評価の悪化は政府やビジネスを破壊するが、逆は信頼性の向上へ繋がる。信頼性を一度失うと、それを回復するのは非常に難しい。現時点では、障害者配慮に関する企業評価は企業のパフォーマンスに関連はしていないが、今後はこの課題が注目されていくだろう。
○ 「合理的配慮」や「不当な差別的取扱いの禁止」などの障害者に対する取組については、リスクと機会、両方として位置付けることができる。理由は、バッドプラクティスにはリスクがあり、グッドプラクティスにはチャンスが存在するからである。
○ ESG評価基準の中で、障害者の雇用を改善させるために何%障害者を雇うべきである、などと具体的な目標値を設定している企業がある。特に、非営利団体や職業団が明確な目標を設定している。しかし、仕事に必要なスキルを持った障害者を採用するのは困難なため、政府機関や企業はそれほど高い基準を設定しない傾向がある。なぜなら、目標を達成できない場合は失敗とみなされてしまうからである。しかし、組織内の進捗状況を示すために指標と評価はモニターされている。
○ 企業や組織内で障害者の受け入れを高めるためにまず取り組むべきことは、従業員への情報発信とコミュニケーションである。障害者が自信を持って社会や会社に貢献するためのカギとなる。
アクションに向けて
○ ESGにおいて障害者施策の主流化を図る際に、巻き込むべきキープレイヤーは大きく分けて5つある。若者育成に影響を与える教育機関、SNS、国民のあらゆる層にリーチする大規模なビジネス、労働を管轄する中央官庁、最後にスポーツ組織。スポーツ組織は、政治に関心がない人々や政権に取り残されていると感じている人々に信頼されている傾向がるため、とても重要である。
○ 障害者施策を推進するために、具体的な取組みが期待できる分野は、順に、
(1)ESGについての投資に係る枠組み(スチュワードシップ・コード等)
(3)ESGについての非財務情報の開示の枠組み
(2)ESGについての投資基準・評価枠組み
(4)ESGについての機関投資家の投資方針である。