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第4章 日々の暮らしの基盤づくり

第1節 生活安定のための施策

1.利用者本位の生活支援体制の整備

(1)障害者総合支援法の改正

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)(以下「障害者総合支援法」という。)施行後3年を目途とする見直しを行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律(平成28年法律第65号)が平成28(2016)年5月に成立した。今回の障害者総合支援法の改正では、「障害者の望む地域生活への支援」、「障害児支援のニーズのきめ細かな対応」、「サービスの質の確保・向上に向けた環境整備」を主な柱としている。

(2)障害者総合支援法の概要

ア 障害福祉サービス

① 障害種別によらない一体的なサービス提供

平成25(2013)年度の障害者総合支援法の施行により、障害福祉サービス等の対象となる障害者の範囲に難病患者等が含まれることとなった。制度の対象となる疾病(難病等)については、難病患者等居宅生活支援事業の対象となっていた130疾病を対象としていたが、平成30(2018)年4月1日より359疾病に拡大している。

平成30年度の障害福祉サービス等報酬改定(以下「報酬改定」という。)においては、障害種別によって訓練の類型が分かれていた自立訓練(機能訓練、生活訓練)を障害の区別なく利用できる仕組みに改め、利用者の障害特性に応じた訓練を身近な事業所で受けられるようにした。

② 市町村による一元的な実施

「支援費制度」では、精神障害に係る一部のサービスなどの実施主体については、都道府県となっていたが、障害者自立支援法(平成17年法律第123号)施行後は、市町村に実施主体を一元化し、都道府県はこれをバックアップする仕組みに改め、障害のある人たちにサービスを提供できるようになっている。

イ 利用者本位のサービス体系

① 地域生活中心のサービス体系

障害者総合支援法により、平成26(2014)年4月1日から、地域生活への移行のために支援を必要とする者を広く地域移行支援の対象とする観点から、障害者支援施設等に入所している障害のある人又は精神科病院に入院している精神障害のある人に加えて、保護施設、矯正施設等に入所している障害のある人を地域移行支援の対象とすることとした。また、障害のある人が身近な地域において生活するための様々なニーズに対応する観点から、重度の肢体不自由者に加え、行動障害を有する知的障害のある人又は精神障害のある人を重度訪問介護の対象とすることとした。

② 「日中活動の場」と「住まいの場」の分離

障害者自立支援法における日中活動支援については、以下のように再編され、現在の障害者総合支援法でも同じ体系をとっている。

  • 療養介護
  • 生活介護
  • 自立訓練
  • 就労移行支援
  • 就労継続支援
  • 地域活動支援センター

③ 障害のある人の望む地域生活の支援

平成28(2016)年の障害者総合支援法の一部改正では、地域生活に移行する際の受け皿となるグループホームを利用する障害者数や就労移行支援事業所又は就労継続支援事業所から一般就労に移行する障害者数の増加に伴い、新たなサービスを創設した(平成30(2018)年4月施行)。

  • 就労定着支援
  • 自立生活援助

④ 地域の限られた社会資源を活かす

通所施設の民間の運営主体については、社会福祉法人に限られていたが、これを特定非営利活動法人、医療法人等、社会福祉法人以外の法人でも運営することができるように規制を緩和した。

ウ 福祉施設で働く障害のある人の一般就労への移行促進等

① 就労支援の強化

一般就労を希望する人には、できる限り一般就労が可能となるように支援を行い、一般就労が困難である人には、就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように支援を行ってきている。就労系障害福祉サービスから一般就労への移行者数は10.5倍に増加(平成15(2003)年度1,288人→平成28(2016)年度13,517人)し、就労系障害福祉サービスの利用者は3.3倍に増加(平成15年度97,026人→平成28年度322,254人)している。

② 工賃向上のための取組

平成24(2012)年度からは「工賃向上計画」を策定することにより、工賃向上に向けた取組を進めている。また、特別な事情がない限り、個々の事業所における「工賃向上計画」を作成し、事業所責任者の意識向上、積極的な取組を促し、都道府県の計画では、官公需による発注促進についても、目標値を掲げて取り組んでいる。

エ 支給決定の透明化・明確化

① 障害程度区分の導入と障害支援区分への見直し

「支援費制度」では、支給決定に際して全国共通の利用ルール(支援の必要度を判定する客観的基準)が定められていなかったことから、障害者自立支援法では、支援の必要度を判定する障害程度区分を導入した。また、障害者総合支援法では障害程度区分を障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改め、平成26(2014)年4月から施行されている。

② 支給決定に係るプロセスの透明化等

障害者総合支援法における介護給付費等の支給決定を行うに当たっては、まず市町村が事前に障害のある人の面接調査を行い、その調査を基に障害支援区分の一次判定が行われ、さらに障害保健福祉の有識者などで構成される審査会での審査(二次判定)を経て、障害支援区分の認定が行われる仕組みとなっており、支給決定に係るプロセスの透明化が図られている。

オ 費用をみんなで負担し合う仕組みの強化

① 国の費用負担の義務づけ

「支援費制度」においては、居宅サービスに関する部分の費用については、国はその費用の一部を予算の範囲内で補助する仕組みとなっていたが、障害者自立支援法の施行以降は、国が義務的にその費用の一部を負担する仕組みとした(具体的には、国は費用の2分の1、都道府県は費用の4分の1を義務的に負担。市町村は費用の4分の1を負担)。

② 利用者負担

障害者自立支援法の施行以降は、サービスの利用者も含めて皆で制度を支え合うため、国の費用負担の義務づけと併せて、利用者については、所得階層ごとに設定された負担上限月額の範囲内で負担することとした。

平成28(2016)年の障害者総合支援法の一部改正では、障害福祉サービスを利用してきた人が、65歳に達することにより介護保険サービスに移行することによって利用者負担が増加してしまうという事態を解消するため、一定の要件を満たした高齢障害者については、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用する場合の利用者負担(原則1割)をゼロにするという措置を講じた(平成30(2018)年4月施行)。

カ 障害福祉計画に基づく計画的なサービス基盤整備の推進

障害者総合支援法及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)では、市町村及び都道府県は、数値目標と必要なサービス量の見込み等を記載した障害福祉計画及び障害児福祉計画を策定することになっている。平成29(2017)年3月には、平成30(2018)年度から平成32(2020)年度までの3年間の計画の策定のため、障害福祉サービス及び相談支援並びに市町村及び都道府県の地域生活支援事業の提供体制の整備並びに自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本的な指針(平成18年厚生労働省告示第395号)の改正を行った。改正の主なポイントは、次のとおり。

① 地域共生社会の実現のための規程の整備

② 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築

③ 障害児支援の提供体制の計画的な整備

(ア)地域支援体制の構築

(イ)保育、保健医療、教育、就労支援等の関係機関と連携した支援

(ウ)地域社会への参加・包容の推進

(エ)特別な支援が必要な障害児に対する支援体制の整備

(オ)障害児相談支援の提供体制の確保

④ 発達障害者支援の一層の充実

⑤ 障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の提供体制の確保に係る目標の設定

(ア)福祉施設の入所者の地域生活への移行

(イ)精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築

(ウ)地域生活支援拠点等の整備

(エ)福祉施設から一般就労への移行等

(オ)障害児支援の提供体制の整備等

(3)身近な相談支援体制整備の推進

ア 障害のある人や障害のある児童の親に対する一般的な相談支援

障害のある人や障害のある児童の親に対する一般的な相談支援については、障害者自立支援法により、障害種別にかかわらず、事業の実施主体を利用者に身近な市町村に一元化して実施している。厚生労働省では、障害のある人の支援体制のさらなる充実を図るため、平成30(2018)年度から、地域における相談支援等の指導的な役割を担う主任相談支援専門員の養成等を行うこととしている。

イ 都道府県による取組及び市町村区域への対応

都道府県においては、市町村に対する専門的な技術支援、情報提供の役割を担っている更生相談所等が設けられており、それぞれの施設が担う相談支援内容に合わせて、身体障害者相談員、知的障害者相談員、児童に関する相談員及び精神保健福祉相談員を配置している。

ウ 法務局その他

全国の法務局・地方法務局及びその支局等において、人権擁護委員や法務局職員が障害のある人に対する差別、虐待等の人権問題について、面談・電話による相談に応じている。また、保健所、医療機関、教育委員会、特別支援学校、ハローワーク、ボランティア団体等においても、相談支援が行われている。

エ 矯正施設入所者

障害等により自立が困難な矯正施設入所者について、出所後直ちに福祉サービスを受けられるよう「地域生活定着支援センター」を全国の各都道府県に整備している。

(4)権利擁護の推進

ア 成年後見制度等

障害福祉サービスを利用し又は利用しようとする重度の知的障害のある人又は精神障害のある人であり、助成を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められる場合に、申立てに要する経費及び後見人等の報酬の全部又は一部について補助を行うため、成年後見制度利用支援事業を実施しており、平成24(2012)年度から市町村地域生活支援事業の必須事業に位置付けている。平成29(2017)年4月1日現在で1,485市町村(85%)が実施しており、今後とも本事業の周知を図ることとしている。

また、障害者総合支援法では、平成25(2013)年度から、後見、保佐及び補助の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るための研修を行う事業について、成年後見制度法人後見支援事業を地域生活支援事業として市町村の必須事業に位置づけたほか、指定障害福祉サービス事業者等の責務として、障害のある人等の意思決定の支援に配慮し、常に障害のある人の立場に立ってサービス等の提供を行うことを義務づけている。

また、成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)に基づき策定された「成年後見制度利用促進基本計画」(平成29年3月24日閣議決定)に沿って、成年被後見人の財産管理のみならず意思決定支援・身上保護も重視した適切な支援に繋がるよう、成年後見制度の利用促進に関する施策を総合的・計画的に推進している。併せて、成年後見制度の利用の促進に関する法律に基づく措置として、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等に係る欠格条項その他の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための措置を講ずる「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」を平成30(2018)年3月に閣議決定し、国会に提出した。

イ 消費者としての障害者

地方消費者行政推進交付金等を通じ、被害に遭うリスクの高い消費者(障害者、高齢者、被害経験者等)を効果的・重点的に地域で見守る体制を構築し、消費者トラブルの防止及び早期発見を図る取組等を支援している。加えて、平成28(2016)年4月から施行された平成26年改正消費者安全法では、地方公共団体において消費者安全確保地域協議会を設置できることが盛り込まれている。

(5)障害者虐待防止対策の推進

障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)が平成24(2012)年10月から施行されている。厚生労働省においては、地域生活支援事業において、地域における関係機関等の協力体制の整備・充実を図るとともに、過去に虐待のあった障害のある人の家庭訪問、障害者虐待防止に関する研修、虐待事例の分析を行う都道府県や市町村を支援している。

(6)障害者団体や本人活動の支援

意思決定過程に障害のある人の参画を得て、その視点を施策に反映させる観点から、障害者政策委員会等において障害のある人や障害者団体が、情報保障その他の合理的配慮の提供を受けながら構成員として審議に参画している。また、障害者総合支援法に基づく地域生活支援事業において、障害のある人等やその家族、地域住民等が自発的に行う活動に対する支援を行う「自発的活動支援事業」を実施している。

2.在宅サービス等の充実

(1)在宅サービスの充実

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)(以下「障害者総合支援法」という。)においては、利用者の実態に応じた支援を行う観点から、利用者像やサービスの提供形態に応じ、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護及び重度障害者等包括支援を実施している。

(2)住居の確保

ア 福祉施策における住居の確保支援

平成30(2018)年度の障害福祉サービス等報酬改定(以下「報酬改定」という。)では、常時の支援体制を確保することにより、利用者の重度化・高齢化に対応できるグループホームの新たな類型として「日中サービス支援型指定共同生活援助」を設けた(平成30年4月施行)。

地域生活支援事業における相談支援事業に住宅入居等支援事業(居住サポート事業)を位置づけ、公的賃貸住宅及び民間賃貸住宅への入居を希望する障害のある人に対して、不動産業者に対する物件のあっせん依頼及び家主等との入居契約手続等といった入居支援や、居住後のサポート体制の調整をしている。また、障害のある人が地域の中で生活することができるように、低額な料金で居室などを利用する福祉ホーム事業を実施している。

イ 住宅施策における住宅の確保支援

住生活基本法(平成18年法律第61号)の理念にのっとり賃貸住宅の供給促進に関する基本事項等を定めた住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成19年法律第112号)に基づき、公営住宅やそれを補完する公的賃貸住宅の的確な供給及び民間賃貸住宅への円滑な入居の支援等の各種施策を一体的に推進している。また、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第24号)(平成29年4月26日公布、同年10月25日施行)により、民間賃貸住宅や空き家を活用した住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度等を内容とする新たな住宅セーフティネット制度を創設した。

① 障害のある人に配慮した公的賃貸住宅の供給

② 民間賃貸住宅への円滑な入居の促進

ウ 住宅施策と福祉施策との連携

公営住宅については、障害のある人の共同生活を支援することを目的とするグループホーム事業へ活用することができることとしており、公営住宅等を障害のある人向けのグループホームとして利用するための改良工事費について支援している。また、生活支援サービス付き公営住宅(シルバーハウジング)については、地方公共団体の長が特に必要と認める場合に、障害のある人を含む世帯の入居を可能とし、その居住の安定を図っている。

さらに、平成30(2018)年度から、既存の公営住宅や改良住宅の大規模な改修と併せて、障害者福祉施設等の生活支援施設の導入を図る取組に対しても支援を行う。

民間賃貸住宅については、居住支援協議会や居住支援法人を活用し、障害のある人を含む世帯等の民間賃貸住宅への円滑な入居を支援している。

(3)自立及び社会参加の促進

平成18(2006)年10月から、市町村及び都道府県が創意工夫によって地域の特性や利用者の状況に応じて柔軟に事業を行う地域生活支援事業を実施し、障害のある人の社会参加と自立支援を推進している。なお、身体障害者補助犬法(平成14年法律第49号)により、身体に障害のある人が公共的施設や不特定かつ多数の者が利用する施設等を利用する場合において、身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬及び聴導犬)の同伴が可能となった。さらに、平成19(2007)年度に身体障害者補助犬法の一部を改正する法律(平成19年法律第126号)が成立し、平成20(2008)年4月から、都道府県等が苦情の申し出等に関する対応をすることが明確化され、同年10月から、一定規模以上の事業所や事務所において、勤務する身体に障害のある人が身体障害者補助犬を使用することを拒んではならないこととされている。

(4)発達障害児者施策の充実

ア 発達障害の定義

発達障害者支援法(平成16年法律第167号)において、「発達障害」は、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの等と定義されている。

イ 発達障害者支援の推進

① 発達障害者支援の体制整備

厚生労働省においては、乳幼児期から高齢期までの一貫した発達障害に係る支援体制の整備、困難ケースへの対応や適切な医療の提供を図るため、地域生活支援事業の「発達障害者支援体制整備事業」の中で、都道府県等が地域支援の中核である発達障害者支援センター等に発達障害者地域支援マネジャーを配置し、市町村、事業所等への支援や医療機関との連携を強化することを推進している。また、平成29(2017)年度から発達障害のある人やその家族等をきめ細かく支援するために、都道府県等が「発達障害者支援地域協議会」を設置し、市町村又は障害保健福祉圏域ごとの支援体制の整備の状況や発達障害者支援センターの活動状況を検証することを支援している。

② 発達障害児者及び家族への支援

発達障害者支援法の一部改正により、平成30(2018)年度からは、地域生活支援事業の「発達障害児者及び家族支援等事業」として、発達障害児者の家族同士の支援を推進するため、同じ悩みを持つ本人同士や発達障害児者の家族に対するピアサポート等の支援を新たに盛り込んだ。

③ 発達障害者支援センター運営事業

厚生労働省においては、発達障害のある人及びその家族等に対して相談支援、発達支援、就労支援及び情報提供などを行う「発達障害者支援センター」の整備を図ってきたところであり、現在全ての都道府県・指定都市に設置されている。

④ 支援手法の開発と情報発信

厚生労働省においては、発達障害児者を支援するための支援手法の開発、関係する分野との協働による支援や切れ目のない支援等を整備するための「発達障害児者地域生活支援モデル事業」を実施している。

⑤ 発達障害の早期支援

厚生労働省においては、平成23(2011)年度から、発達障害等に関して知識を有する専門員が保育所や放課後児童クラブ等を巡回し、施設の職員や親に対し、障害の早期発見・早期対応のための助言などの支援を行う「巡回支援専門員」の派遣に対し財政支援を行っている。

⑥ 人材の育成

都道府県等においては、平成28(2016)年度から、発達障害における早期発見・早期支援の重要性に鑑み、小児科医などのかかりつけ医等の医療従事者に対して、発達障害に関する国の研修内容を踏まえ、発達障害に対する対応力を向上させるための研修を実施し、どの地域においても一定水準の発達障害の診療及び対応が可能となるよう医療従事者の育成に取り組んでいる。

さらに厚生労働省では、平成30(2018)年度から「発達障害専門医療機関ネットワーク構築事業」において、都道府県等が、発達障害の診療や支援を行う医師等を養成するための実地研修等を実施することを支援することとした。

(5)盲ろう者等への対応

ア 盲ろう者への対応

盲ろう者とは、「視覚と聴覚に障害がある者」であり、全盲ろう、盲難聴、弱視ろう、弱視難聴の4つのタイプがある。平成25(2013)年度から、障害者総合支援法の地域生活支援事業においては、盲ろう者の自立と社会参加を図るため、コミュニケーションや移動の支援を行う「盲ろう者向け通訳・介助員養成研修事業」及び「盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業」を、都道府県の必須事業として実施している。平成27(2015)年度からは「盲ろう者向けパソコン指導者養成研修事業」等を実施するなど、盲ろう者に対するコミュニケーション支援等の充実を図っている。

イ 強度行動障害への対応

障害児入所施設等の指定施設において適切な支援と環境の提供を行うために「強度行動障害児特別支援加算」等による支援が行われている。平成25(2013)年度から「強度行動障害支援者養成研修」を創設するとともに、平成27(2015)年度の報酬改定において「重度障害者支援加算」の見直しを行い、研修修了者を報酬上評価すること、及び行動援護従業者に対して、研修の受講を必須化すること等により支援の充実を図っている。また、平成30(2018)年度の報酬改定において児童発達支援又は放課後等デイサービスを提供する事業所が、研修を修了した職員を配置し、強度行動障害のある子供を支援する場合の加算を創設している。

ウ 難病患者等への対応

平成25(2013)年4月から施行された障害者総合支援法においては、障害者の定義に難病患者等を追加して障害福祉サービス等の対象とし、新たに対象となる難病患者等は、身体障害者手帳の所持の有無にかかわらず、必要に応じて障害程度区分(平成26(2014)年4月からは障害支援区分)の認定などの手続を経た上で、市区町村において必要と認められた障害福祉サービス等(障害児にあっては、児童福祉法に基づく障害児支援)が利用できることとなった。また、障害者総合支援法における対象疾病(難病等)の範囲については、平成30(2018)年4月1日より359疾病に拡大している。

3.経済的自立の支援

(1)年金制度等による所得保障

我が国は、国民皆年金体制が確立され、原則として全ての国民がいずれかの年金制度に加入することとされている。被保険者期間中の障害については障害基礎年金や障害厚生年金が支給されるほか、国民年金に加入する20歳より前に発した障害についても障害基礎年金が支給されることから、原則として全ての障害のある成人が年金を受給できることになり、年金は障害のある人の所得保障において重要な役割を果たしている。

その他、都道府県・指定都市において、保護者が生存中掛金を納付することで、保護者が死亡した場合等に、障害のある人に生涯年金を支給する障害者扶養共済制度(任意加入)が実施されている。

(2)個人財産の適切な管理の支援

認知症の人、知的障害のある人、精神障害のある人など、判断能力の不十分な人々の財産管理の支援等に資する成年後見制度及び成年後見登記制度について周知を図っている。

4.施設サービスの再構築

(1)地域生活を支える拠点としての施設整備

地域での生活を念頭に置いた社会生活の技能を高めることを目指し、施設等から地域生活への移行を促進するとともに、地域生活を支える拠点として、施設の専門的機能を地域に開放する「地域化」を進めることとしている。

(2)施設の地域利用

施設に対しては、施設が蓄えてきた知識や経験を活用し、あるいは施設の持っている様々な機能を地域で生活している障害のある人が利用できるように、各種在宅サービスを提供する在宅支援の拠点として地域の重要な資源として位置づけ、取組の一層の充実を図ることとしている。第5期障害福祉計画において、障害者の地域生活を支援する機能を持った拠点等を各市町村、又は各圏域に少なくとも1つ整備することとなっている。

5.スポーツ・文化芸術活動の推進

(1)スポーツの振興

ア 障害者スポーツの普及促進

平成27(2015)年度から、一部の都道府県・政令指定都市において、スポーツ関係者と障害福祉関係者が連携・協働体制を構築する事業を実施している。平成30(2018)年度からは、地域における障害者スポーツの振興体制の強化、身近な場所でスポーツを実施できる環境の整備を図る取組や、障害者スポーツ団体と民間企業とのマッチング等により障害者スポーツ団体の体制の強化を図る取組を実施することとしている。

イ 障害者スポーツの競技力向上

平成30(2018)年3月、平昌パラリンピック競技大会が開催され、日本選手団は3個の金メダルを獲得し、また、総メダル数では前回大会を上回る10個のメダルを獲得した。

スポーツ庁では、「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」(平成28(2016)年10月)や「スポーツ基本計画」(平成29(2017)年3月)に基づき、オリンピック競技とパラリンピック競技の支援内容に差を設けない一体的な競技力強化支援に取り組んでいる。さらに、平成29年度から「ハイパフォーマンスセンターの基盤整備」において、2020年東京大会等に向けた我が国アスリートのメダル獲得の優位性を確実に向上させるため、競技用具の機能等を向上させる取組を実施している。加えて、オリンピック競技とパラリンピック競技の一体的な拠点としてナショナルトレーニングセンターの拡充整備に取り組んでおり、平成31(2019)年6月末の完成を目指して整備工事を実施している。

(2)文化活動の振興

「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(平成27年11月27日閣議決定)において、日本文化の魅力を発信していくこととしている。平成28(2016)年3月に、関係府省庁、東京都、大会組織委員会を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議」を開催した。その中で2020年以降を見据え、日本の強みである地域性豊かで多様性に富んだ文化を活かし、障害のある人にとってのバリアを取り除く取組等成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシー創出に資する文化プログラムを「beyond2020プログラム」として認証するとともに、日本全国へ展開することを決定した。平成30(2018)年3月末時点で約4,000件の事業を認証した。

6.福祉用具の研究開発・普及促進と利用支援

(1)福祉用具の普及

補装具費の支給は、身体に障害のある人の日常生活や社会生活の向上を図るために、身体機能を補完又は代替するものとして、義肢、装具、車椅子、盲人安全つえ、補聴器等の補装具の購入又は修理に要した費用の一部について公費を支給するものである。平成30(2018)年度より、購入を基本とする原則は維持した上で、障害のある人の利便に照らして「借受け」が適切と考えられる場合に限り、新たに補装具費の支給の対象となった。

日常生活用具の給付(貸与)は、日常生活を営むのに著しく支障のある障害のある人に対して、日常生活の便宜を図るため、特殊寝台、特殊マット、入浴補助用具等を給付又は貸与するものであり、地域生活支援事業の一事業として位置付けられ、実施主体である市町村が地域の障害のある人のニーズを勘案の上、柔軟な運用を行っている。

(2)情報・相談体制の充実

福祉用具の情報については、公益財団法人テクノエイド協会において、福祉用具の製造・販売企業の情報や福祉用具の個別情報にかかるデータベース(福祉用具情報システム:TAIS)を構築しており、インターネットを通じてこれらの情報を提供している。

(3)研究開発の推進

平成5(1993)年度より福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(平成5年法律第38号)に基づいて、福祉用具の実用化開発事業を推進している。本事業では、高齢者や障害のある人、介護者の生活の質の向上を目的として優れた技術や創意工夫のある福祉用具の実用化開発を行う民間企業等に対し、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて研究開発費用の助成を行っている。

(4)標準化の推進

より優れた福祉用具の開発・普及を推進するため、平成16(2004)年度から平成29(2017)年度までに日本工業規格(JIS)を活用した福祉用具の標準化を推進した。平成29年度までに、JIS Z8071(規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針)を含めて40規格を制定しアクセシブルデザインに関する横断的な評価基準等の作成に向けた検討を行っている。

7.サービスの質の向上

(1)障害福祉人材の処遇改善

平成24(2012)年度の障害福祉サービス等報酬改定(以下「報酬改定」という。)において、「福祉・介護職員処遇改善加算」を創設したことに加え、平成27(2015)年度の報酬改定においてこの加算を拡充し、職員1人当たり月額平均2.7万円相当の処遇改善を行うなどの取組を行ってきた。また、平成28(2016)年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」等に基づき、平成29(2017)年4月には、競合他産業との賃金差がなくなるよう、職員のキャリアアップの仕組みを構築した事業所について職員1人当たり、月額平均1万円相当の改善を行うための臨時の報酬改定を行った。

(2)第三者評価事業

第三者評価事業については、事業の更なる普及・定着を図るため、平成16(2004)年5月に、福祉サービス共通の第三者評価基準ガイドライン、第三者評価事業推進体制等について示した指針を各都道府県に通知し、平成26(2014)年4月に更なる質の向上のため見直した。平成29(2017)年2月には、障害者・児福祉サービス固有の状況を踏まえた評価が円滑に実施されるよう、障害者・児福祉サービスに係る共通評価基準及び内容評価基準等についても、見直しを行っている。

(3)障害福祉サービス等情報公表制度

平成28(2016)年の障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)の一部改正に伴い、施設や事業者が事業の内容等を都道府県知事へ報告し、報告を受けた都道府県知事がこれを公表する仕組みである「障害福祉サービス等情報公表制度」を創設した(平成30(2018)年4月施行)。

8.専門職種の養成・確保

(1)福祉専門職

社会福祉法(昭和26年法律第45号)に基づき、社会福祉事業等従事者に対する研修や無料職業紹介事業等を実施する都道府県福祉人材センター及び社会福祉関係職員の福利厚生の充実を図る福利厚生センターが設置されるなど、総合的な社会福祉事業等従事者確保の対策が進められている。

ア 社会福祉士、介護福祉士

社会福祉士については、資格登録者数221,251人(平成30(2018)年3月末)、介護福祉士については、資格登録者数1,558,897人(平成30年3月末)を数えている。

イ 精神保健福祉士

精神保健福祉士は、資格登録者数は80,891人(平成30(2018)年3月末)を数えている。

(2)リハビリテーション等従事者

ア 理学療法士、作業療法士

平成29(2017)年12月現在の資格登録者数は、理学療法士は151,588人、作業療法士は85,107人となっている。

イ 視能訓練士、義肢装具士

平成29(2017)年12月現在の資格登録者数は、視能訓練士は14,469人、義肢装具士は5,091人となっている。

ウ 言語聴覚士

平成29(2017)年12月現在の言語聴覚士の資格登録者数は29,198人となっている。

エ 公認心理師

公認心理師法(平成27年法律第68号)が平成27(2015)年9月に成立し、平成29(2017)年9月から施行された。平成30(2018)年9月に第1回国家試験が実施される。

(3)国立専門機関等の活用

国立障害者リハビリテーションセンター学院において、障害のある人のリハビリテーション・福祉に従事する専門職を養成する6学科を設置するとともに、現に従事している各種専門職に対して、知識・技術向上のための研修を実施している。

第2節 保健・医療施策

1.障害の原因となる疾病等の予防・治療

(1)障害の原因となる疾病等の予防・早期発見

ア 健康診査

早期発見・早期治療のため、新生児を対象としたマススクリーニング検査の実施及び聴覚障害の早期発見・早期療育を目的とした新生児聴覚検査の実施を推進している。

また、1歳6か月児及び3歳児の全てに対し、総合的な健康診査を実施しており、その結果に基づいて適切な指導を行っている。

学校においては、就学時や毎学年定期に児童生徒の健康診断を行っている。

職場においては、労働者を雇い入れた時及び定期に健康診断を実施することを事業者に義務づけている。

イ 保健指導

妊産婦や新生児・未熟児等に対して、障害の原因となる疾病等を予防し、健康の保持増進を図るために、家庭訪問等の個別指導による保健指導が行われている。

ウ 生活習慣病の予防

がん、糖尿病等のNCDs(非感染性疾患)の予防等の具体的な目標等を明記した「健康日本21(第二次)」(厚生労働省告示)に基づく国民健康づくり運動を平成25(2013)年度より開始している。

(2)障害の原因となる疾病等の治療

平成27(2015)年1月1日に施行された難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)に基づく医療費助成の対象疾病について、これまでに331疾病を指定している。平成28(2016)年度においては、厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会で「難病の医療提供体制の在り方について(報告書)」が取りまとめられた。この報告書を踏まえ、都道府県において必要な医療提供体制が構築されるよう、平成29(2017)年4月に都道府県に対して、難病の医療提供体制の構築に係る手引きを通知した。

(3)正しい知識の普及

学校安全の充実

学校においては、児童生徒等が自他の生命を尊重し、日常生活全般における安全に必要な事柄を実践的に理解し、安全な生活ができるような態度や能力を養うことが大切であるため、体育科、保健体育科、特別活動など学校の教育活動全体を通じて安全教育を行っている。

2.障害のある人に対する適切な保健・医療サービスの充実

(1)障害のある人に対する医療・医学的リハビリテーション

ア 医療・リハビリテーション医療の提供

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)に基づき、身体障害の状態を軽減するための医療(更生医療及び育成医療)及び精神疾患に対する継続的な治療(精神通院医療)を自立支援医療と位置づけ、その医療費の自己負担の一部又は全部を公費負担している。

また、平成30(2018)年度の診療報酬改定において、入退院支援や退院時の指導等の要件に障害福祉サービスにおける相談支援事業者との連携を追加するとともに、自宅等で暮らす重症精神疾患患者に対する多職種共同の訪問支援等について評価の充実や継続的な支援を可能とする見直しを行った。さらに、医療的ケアが必要な児に対する長時間の訪問看護について評価の充実を行った。

イ 医学的リハビリテーションの確保

国立障害者リハビリテーションセンター病院では、早期退院・社会復帰に向けて、各障害に対応した機能回復訓練を行うとともに、医療相談及び心理支援を行っている。また、障害のある人の健康増進、機能維持についても必要なサービス及び情報の提供を行っている。

都道府県に高次脳機能障害のある人への支援を行うための支援拠点機関を置き、〈1〉相談支援コーディネーターによる高次脳機能障害のある人に対する専門的な相談支援、〈2〉関係機関との地域支援ネットワークの充実、〈3〉高次脳機能障害の支援手法等に関する研修等を行う「高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業」を開始している。

(2)難病患者に対する保健医療サービス

早期に正しい難病の診断ができる体制、診断後はより身近な医療機関で適切な医療を受けることができる体制が整備できるよう、都道府県ごとの難病診療連携拠点病院、分野別拠点病院整備、難病医療協力病院の整備、保健所を中心とした在宅難病患者に対する地域での支援の強化など、地域における保健医療福祉サービスの提供を推進している。

(3)保健・医療サービス等に関する難病患者への情報提供

難病患者への情報提供について、難病情報センターによりインターネットを活用して最新の医学や医療の情報等を提供している。

3.精神保健・医療施策の推進

(1)心の健康づくり

ア うつ対策の推進

厚生労働省では、「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」において、自殺の実態の把握や、より実効性の高い自殺対策について検討を行い、今後重点的に講ずべき対策をとりまとめ、それらに基づく施策を推進している。うつ病に対する効果が明らかとなっている認知行動療法については、実施マニュアルを作成し、厚生労働省のウェブサイトにて公開している。

イ 精神疾患に関する情報提供

こころの不調・病気に関する説明や、各種支援サービスの紹介など、治療や生活に役立つ情報を分かりやすくまとめた「みんなのメンタルヘルス総合サイト(http://www.mhlw.go.jp/kokoro/)」、10代・20代とそれを取り巻く人々(家族・教育職)を対象に、本人や周囲が心の不調に気づいたときにどうするかなど分かりやすく紹介する「こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~(http://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/)」の2つのウェブサイトを、厚生労働省ホームページ内に開設している。

ウ 児童思春期及びPTSDへの対応

思春期精神保健の専門家の養成のために、医師、コメディカルスタッフを対象に思春期精神保健対策専門研修を行い、PTSDの専門家の養成のために、医師、コメディカルスタッフ等を対象にPTSD対策に係る専門家の養成研修会を行っている。

エ 自殺対策の推進

我が国における年間の自殺者数は平成10(1998)年から14年連続して3万人を超えて推移していたが、近年は減少傾向にあり、平成29(2017)年の年間自殺者数は、21,321人(男性14,826人、女性6,495人)となった。政府においては、自殺対策基本法(平成18年法律第85号)及び同法に基づく「自殺総合対策大綱」(平成19年6月閣議決定。5年を目途に見直し。直近は平成24年8月及び平成29年7月に実施)の下、自殺対策を総合的に推進している。同大綱では、「心の健康を支援する環境の整備と心の健康づくりを推進する」「適切な精神保健医療福祉サービスを受けられるようにする」などを含む12項目について87(再掲含む)の施策を当面の重点施策としている。

平成30(2018)年度は、インターネットを通じて自殺願望を発信する若者の心のケア対策(ICTを活用した相談窓口への誘導、SNS相談、若者の居場所づくり支援)に取り組む。

地域における自殺対策については、地域自殺対策強化交付金により、地域の実情に応じた実践的な自殺対策の取組を支援している。

また、生きにくさ、暮らしにくさを抱える人からの相談を24時間365日無料で受け、具体的な問題解決につなげるための電話相談事業(よりそいホットライン)を補助事業(厚生労働省から全国的な民間支援団体に補助)として実施している。

オ 依存症対策の強化について

アルコール・薬物・ギャンブル等の依存症の特性(否認や医療機関の不足等)や、依存症に関する正しい知識と理解が進んでいないことにより、依存症者や家族が適切な治療や支援に結びついていないという課題に対応するため、平成29(2017)年度より全国の都道府県・指定都市において依存症の専門医療機関・治療拠点機関・相談拠点の選定・設置等を行っている。

(2)精神疾患の早期発見・治療

平成29(2017)年6月末現在、我が国の精神科病院数は約1,600か所、その病床数は約33万床となっており、全病院の病床数の約2割を占めている。また、平成29年6月末現在精神科病院の入院患者数は約28万4千人であり、このうち、約15万人が任意入院、約13万人が医療保護入院、約1,600人が措置入院となっており、措置入院による入院者については、公費による医療費負担制度を設けている。このほか、夜間や土日曜でも安心して精神科の救急医療が受けられるよう精神科救急医療体制の整備をしている。

(3)精神保健医療福祉施策の取組状況

精神障害者の医療の提供を確保するための指針の策定、保護者に関する規定の削除、医療保護入院の見直し等を盛り込んだ精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)(以下「精神保健福祉法」という。)の一部を改正する法律が平成25(2013)年6月13日に成立し、同月19日に公布された。

同法においては、医療保護入院者の退院を促進するため、精神科病院の管理者に対し、①医療保護入院者の退院後の生活環境に関する相談及び指導を行う者(精神保健福祉士等)の設置、②地域援助事業者(入院者本人や家族からの相談に応じ必要な情報提供等を行う相談支援事業者等)との連携、③退院促進のための体制整備(医療保護入院者退院支援委員会の設置)を義務付けることとした(②については努力義務)。

平成30(2018)年3月には、精神障害のある人が退院後に円滑に地域生活に移行できるよう「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」を作成するとともに、全国の地方公共団体で、措置入院の運用が適切に行われるよう、「措置入院の運用に関するガイドライン」を作成し都道府県知事等宛に通知した。

(4)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者への対応について

平成30(2018)年3月に策定した障害者基本計画(第4次)において、新たに「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の対象者の社会復帰の促進を図るため、同法対象者に対する差別の解消を進めること」を盛り込み、同法に基づく関係機関から障害福祉サービス事業者等に対し、セミナー・研修等を通じた普及啓発活動を行い、同法対象者への理解と社会復帰の促進に取り組むこととしている。

4.研究開発の推進

平成29(2017)年度は、診療体制の構築や普及啓発、難病の治療法の確立のため、診療ガイドラインの作成等、診療の質の向上に政策に直結する研究を行う「難治性疾患政策研究事業」と、病態解明や創薬に関する研究を行う「難治性疾患実用化研究事業」を実施しており、互いに連携しながら、治療方法の開発に向けた難病研究の推進に取り組んでいる。

経済産業省においては、優れた基礎研究の成果による革新的な医薬品・医療機器の開発を促進するため、「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業」を実施し、日本発の革新的な医薬品・医療機器の開発を推進している。

5.専門職種の養成・確保

(1)医師

医師については、卒前教育として、リハビリテーションに関する講座の設置や授業科目を開設する等の教育を行っている。卒後教育においては、医師臨床研修制度において、研修医が達成すべき「臨床研修の到達目標」として、診療計画を作成し、評価するために、QOLを考慮にいれた総合的な管理計画へ参画することを掲げ、また、一般的な診療において、頻繁にかかわる負傷又は疾病(認知症疾患・関節リウマチなど)を定めるなど、資質の向上のための方策を講じている。

(2)看護職員

看護職員の卒前教育においては、求められる実践能力と卒業時の到達目標において、様々な場面や対象者に対応できる質の高い看護職員の養成に努めている。また、卒後教育においては、都道府県が行う看護職員の実務研修などに対し、地域医療介護総合確保基金を通じ、財政支援を行っている。

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